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3本目「タバコミュニケーション」
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12時45分。会社の昼休み。
昼食を済ませてから、私はいつものように喫煙所へと向かう。
煙草なんてやめなと周りからは言われる。お金もかかるし健康に悪い、それは間違いのない正論だ。「依存症なの?」と聞かれることもあるが、多分そうじゃない。実際、会社の喫煙所以外では滅多に吸わない。しかも決まってこの時間。
喫煙所に入るとあの人はやっぱりそこにいた。
「お疲れ様。」
私を見つけて、軽く微笑みながらあの人は話しかけてきた。
初めて見たのは去年の冬頃だった。
年末の経理部は地獄だ。寝ても覚めても数字に侵される毎日。そんな慌ただしい時期の昼休み。
吐き出しようのないストレスを抱えた私は、コンビニで昼食と一緒に煙草を買った。
ストレス解消になる、落ち着くという以前付き合っていた男の言葉を思い出したからだ。
昼食を済ませ、迷いながら初めて喫煙所に向かう。
喫煙所に入ると1人の男の人がいた。
少し着崩したスーツに長めの髪。前髪は上げられていて、まつ毛が長く羨ましい程にハッキリとした二重の目をした男。長い脚を組んで煙草を吸っていた。いかにもイケてるって感じだ。
遊んでそうだなーと月並みな評価を彼に下し、買ったばかりの煙草を開ける。
何回か吸ったことはあるから、別に変なことには…あ、ライターがない。
いかにもなミスをして、私のちょっとした挑戦は頓挫したのであった。
仕方ない、戻ろう。
そう思ってバツの悪そうに銜えた煙草をしまおうとすると男が声をかけてきた。
「火ないの?」
「はい。」
そう言うと男はおもむろに近づいてくる。
そして私に煙草をもう一度咥えるように言った。
おもむろに煙草を咥えたままの顔を近づけられ、私の煙草と男の煙草が触れた。
「吸って。」
ジジッという音と共に私の煙草の先に火がついた。
「ありがとうございます。」
私は赤らめた頬を見られないように、そっぽを向いて礼を述べた。
それから私は昼休みの終わり、喫煙所に通った。
彼は営業の中堅社員であり、その仕事ぶりは社内では高く評価されている。
将来を期待される、所謂出世コースの社員だ。
私生活も順風満帆のようであり、携帯の待受は小さな子供と奥さんが楽しそうに笑っている写真だ。
私と彼が顔を合わせるのはこの昼休み終わりだけ。
「お疲れ様です。」
スーツのポケットから自分の煙草を取り出す。
そして、彼の方を見ながらライターを探す。
正確には探すフリをする。
すると彼は近づいてくる。全てを見透かしたような顔で、こちらを見ながら。
彼との未来を描いている訳では無い。
叶わぬ恋をする程私は暇じゃない。
ただこの瞬間だけは…『煙草2本の距離』でのキスを私だけに。
昼食を済ませてから、私はいつものように喫煙所へと向かう。
煙草なんてやめなと周りからは言われる。お金もかかるし健康に悪い、それは間違いのない正論だ。「依存症なの?」と聞かれることもあるが、多分そうじゃない。実際、会社の喫煙所以外では滅多に吸わない。しかも決まってこの時間。
喫煙所に入るとあの人はやっぱりそこにいた。
「お疲れ様。」
私を見つけて、軽く微笑みながらあの人は話しかけてきた。
初めて見たのは去年の冬頃だった。
年末の経理部は地獄だ。寝ても覚めても数字に侵される毎日。そんな慌ただしい時期の昼休み。
吐き出しようのないストレスを抱えた私は、コンビニで昼食と一緒に煙草を買った。
ストレス解消になる、落ち着くという以前付き合っていた男の言葉を思い出したからだ。
昼食を済ませ、迷いながら初めて喫煙所に向かう。
喫煙所に入ると1人の男の人がいた。
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遊んでそうだなーと月並みな評価を彼に下し、買ったばかりの煙草を開ける。
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いかにもなミスをして、私のちょっとした挑戦は頓挫したのであった。
仕方ない、戻ろう。
そう思ってバツの悪そうに銜えた煙草をしまおうとすると男が声をかけてきた。
「火ないの?」
「はい。」
そう言うと男はおもむろに近づいてくる。
そして私に煙草をもう一度咥えるように言った。
おもむろに煙草を咥えたままの顔を近づけられ、私の煙草と男の煙草が触れた。
「吸って。」
ジジッという音と共に私の煙草の先に火がついた。
「ありがとうございます。」
私は赤らめた頬を見られないように、そっぽを向いて礼を述べた。
それから私は昼休みの終わり、喫煙所に通った。
彼は営業の中堅社員であり、その仕事ぶりは社内では高く評価されている。
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私と彼が顔を合わせるのはこの昼休み終わりだけ。
「お疲れ様です。」
スーツのポケットから自分の煙草を取り出す。
そして、彼の方を見ながらライターを探す。
正確には探すフリをする。
すると彼は近づいてくる。全てを見透かしたような顔で、こちらを見ながら。
彼との未来を描いている訳では無い。
叶わぬ恋をする程私は暇じゃない。
ただこの瞬間だけは…『煙草2本の距離』でのキスを私だけに。
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