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1本目 「大人」
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久しぶりに煙草を吸った。
あの日大人になりたかった僕は煙草を吸った。
あの人に追いつきたかった。早く大人になりたかった。
最初は噎せて直ぐに火を消した。
喉は痛いし、気持ちが悪い。煙が目にしみて涙も出る。
でもいつの間にか吸えるようになっていた。心地よくさえ感じていた。
ベランダの窓に映る自分の喫煙姿をみて、なんだか大人になれた気がした。
ほろ苦い煙を吸い、胸に溜めて吐く。吐いた煙は暫くその姿を留めてふっ と消える。
夜の帳の中でぽつんと光る煙草の火は、よく見るとなんだか必死に燃えているようで、其の小さな火に自分を重ねた。
これなら様になってる。大人っぽく見える。そう思い僕は計画を実行した。
あの人に見えるように、できるだけ様になるように、少し上を見上げて慣れた手つきで火をつける。
「あ、煙草吸ってたんだ。」
あの人はそう言った。
ほら、計画通り。緩みそうな表情筋を必死に取り繕い僕は煙を吐きながらこう言った。
「はい。意外だった?」
「背伸びするんじゃないよ少年。」
悲しいかな。あと人にとって僕はまだ大人になれてなかったみたいだ。
続けてあの人はこう言った。
「私煙草は嫌いだよ…。」
それから僕は煙草を辞めた。
時折襲ってくる喫煙欲に必死に耐えながら、あの人のことを考えた。
ちょっとでも好かれたい。隣に居たい。その一心で。
ベランダに置かれたライターは季節を巡り、錆びて行った。
ある日街であの人を見つけた。綺麗な服に身を包み、髪を巻き、幸せそうに笑っていた。
込み上げてくる思いを必死に押えた。
周りの目を気にして急いで帰路へ着いた。
一番大事なものが無くなったはずなのに、涙もでない。
ただ歩いた。
ほら、どう足掻いても無理だったんだ。どんなに想っても届かなかったんだ。
そうだ、煙草を吸おう。ずっと吸えなかったんだ。
今なら吸える。
コンビニに入り、レジの人に番号を伝える。妙に緊張して声が裏がえる。
ベランダに出て久々に買った箱を開ける。銀紙をちぎり捨てて錆びたライターでタバコに火をつける。
煙を吸い込み、想いと共に吐き出す。
涙は出なかった。泣きたいのに泣けなかった。
なんだかすんなりと諦めがついた。
どうせ無理だったんだ。あの人が僕を見ることは無い。
年の差があることは少々のことで覆る事実でもないし、あの人にいつから恋人がいたのかも分からない。
もし、長年恋い慕った相手ならばきっと僕に付け入る隙なんてなかったんだ。
久々の喫煙で少々ふらついた僕が窓に映る。
そこには最初に彼女に恋した僕はいなかった。
僕はどうやら念願の大人になることに成功したようだ。
僕は煙草の火を消した。
あの日大人になりたかった僕は煙草を吸った。
あの人に追いつきたかった。早く大人になりたかった。
最初は噎せて直ぐに火を消した。
喉は痛いし、気持ちが悪い。煙が目にしみて涙も出る。
でもいつの間にか吸えるようになっていた。心地よくさえ感じていた。
ベランダの窓に映る自分の喫煙姿をみて、なんだか大人になれた気がした。
ほろ苦い煙を吸い、胸に溜めて吐く。吐いた煙は暫くその姿を留めてふっ と消える。
夜の帳の中でぽつんと光る煙草の火は、よく見るとなんだか必死に燃えているようで、其の小さな火に自分を重ねた。
これなら様になってる。大人っぽく見える。そう思い僕は計画を実行した。
あの人に見えるように、できるだけ様になるように、少し上を見上げて慣れた手つきで火をつける。
「あ、煙草吸ってたんだ。」
あの人はそう言った。
ほら、計画通り。緩みそうな表情筋を必死に取り繕い僕は煙を吐きながらこう言った。
「はい。意外だった?」
「背伸びするんじゃないよ少年。」
悲しいかな。あと人にとって僕はまだ大人になれてなかったみたいだ。
続けてあの人はこう言った。
「私煙草は嫌いだよ…。」
それから僕は煙草を辞めた。
時折襲ってくる喫煙欲に必死に耐えながら、あの人のことを考えた。
ちょっとでも好かれたい。隣に居たい。その一心で。
ベランダに置かれたライターは季節を巡り、錆びて行った。
ある日街であの人を見つけた。綺麗な服に身を包み、髪を巻き、幸せそうに笑っていた。
込み上げてくる思いを必死に押えた。
周りの目を気にして急いで帰路へ着いた。
一番大事なものが無くなったはずなのに、涙もでない。
ただ歩いた。
ほら、どう足掻いても無理だったんだ。どんなに想っても届かなかったんだ。
そうだ、煙草を吸おう。ずっと吸えなかったんだ。
今なら吸える。
コンビニに入り、レジの人に番号を伝える。妙に緊張して声が裏がえる。
ベランダに出て久々に買った箱を開ける。銀紙をちぎり捨てて錆びたライターでタバコに火をつける。
煙を吸い込み、想いと共に吐き出す。
涙は出なかった。泣きたいのに泣けなかった。
なんだかすんなりと諦めがついた。
どうせ無理だったんだ。あの人が僕を見ることは無い。
年の差があることは少々のことで覆る事実でもないし、あの人にいつから恋人がいたのかも分からない。
もし、長年恋い慕った相手ならばきっと僕に付け入る隙なんてなかったんだ。
久々の喫煙で少々ふらついた僕が窓に映る。
そこには最初に彼女に恋した僕はいなかった。
僕はどうやら念願の大人になることに成功したようだ。
僕は煙草の火を消した。
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