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番外編
露出狂の回想(ヒーロー視点)
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「……だって私もちょっと、興味あるし!」
その言葉を聞いた瞬間、彼――五十嵐圭吾は全力で頭をブン殴られたかのような衝撃を覚えた。
暖色系のほの暗い照明が落とされた店内。
突然目の前に現れた彼女が、信じられないことに真面目な顔でそう言ったのだ。
その人の名前は浅川葉月。
同じ会社の同期で、今日は彼女に不毛な片想いを始めて5年目の記念日だった。
◇◇◇
彼女に恋に落ちたのは、本当に一瞬の出来事だった。
それなりに緊張して迎えた入社式の日、これからの新人研修用のグループに分けられた時のことだ。
「浅川葉月です。よろしくお願いします」
少し硬い声で自己紹介したあと、彼女は優しく微笑んだ。
その笑顔が可愛くて、胸を掻き毟りたくなるくらい苦しくて、もう理屈ではどうにもできないくらい好きになってしまったのだ。
どうしても仲良くなりたくて、その日はグループメンバーで飲みに行こうという流れを作った。
移動中に葉月の隣をゲットし、
「あ、でも男と飲みに行ったら彼氏に怒られるんじゃない?」
とさりげなく探りを入れたところ、
「ううん、そういうこと気にする人じゃないから大丈夫」
とあっさり彼氏持ちだと告げられて撃沈した。
しかも懐の深い彼氏なんだと無意識にのろけられ、ものすごい大ダメージまで受けた。
それ以来圭吾は、絶対に葉月の彼氏の話題は出さないと心に決めたのだ。
それから5年も経って、相変わらず圭吾は葉月に片想いをしていた。
葉月の趣味嗜好について研究を重ねた末の地道なアプローチの賜物か、とりあえず彼女とはものすごく仲良くなれたと思う。
友達としてだが。
葉月は可愛らしい外見なのにさっぱりした性格のため、男女ともに友人は多いらしい。
こんなに可愛いのに男友達とか絶対嘘だ、相手は下心2000%で狙ってるんだぞ、男は狼だって知らないのか、と忠告したいところだが、じゃあお前も下心アリなのかと突っ込まれたら爆死するので言えないままになっている。
新しくオープンしたアフガニスタン料理の店だとか、コアな人気がある単館上映の映画だとか、そういうちょっと珍しいものの情報を片っ端から仕入れては教えているのは、全て下心のせいなのだ。
そして迎えた片想い記念日当日。
明日も仕事だが、酒でも飲まないとやっていられない。
そう思って度数の高い酒をハイペースで煽り、スマホに保存している彼女の写真を眺め、マスターに愚痴をこぼしていた。
我ながらなんて女々しい男だと思うが、彼氏持ちの女の子を好きになってしまった哀れな男なのだから大目に見て欲しい。
なのに。
ずっとずっと好きだった彼女が目の前に突然現れ、とっくの昔に元彼とは切れている上に露出癖にまで興味があると言ったのだ。
これは夢なんじゃないのか。
もしくはタヌキかキツネに化かされてるんじゃないのか。
そんな非現実的な考えすら浮かんでくる。
あまりにもこの現実が信じられなくて、硬直したまま彼女を見つめ返すしかできなかった。表情筋さえ動かない。
圭吾はいわゆるポーカーフェイスが得意なタイプだ。
商談中に想定外な事態が起こっても、滅多なことでは顔に出ない。余裕ありげな態度でその場を乗り切り、そういう豪胆なところがお前の強みだと褒められたこともある。
だが今回は、驚きすぎて本当に言葉が出なかった。
「ま、まさか圭吾も同じだとは思ってなかったな」
そんな言葉を呆然と聞いていた圭吾だったが、葉月がさきほどからしきりに髪の毛を触っていることに気が付いた。
目が泳ぎ、白くてほっそりした手が無意識のように何度も髪を耳にかける。
肩より少し長いストレートヘアがサラサラと揺れて、その毛先はクルクルと指に巻きつける。
緊張したり動揺したりした時の彼女の癖である。
露出プレイに興味があるというのは、彼女なりの優しい嘘だったのだ。
「もしかしたら他にもそういう人いっぱいいるのかもしれないね」
そのことに落胆すると同時に、これはチャンスなのかもしれない、と心の中の悪魔が囁いた。
別に嘘でもいいじゃないか。
“葉月は露出プレイに興味があると言った”この事実さえあればいい。
嘘だって、何度も繰り返せば真実になるのだから。
「だから圭吾も元気を出」
「好きだ」
「……………………え?」
だから圭吾は葉月に“騙される”ことにした。
葉月は露出プレイに興味がある。自分はそれに乗っかっただけだ。
入社式だったからかいつもよりフォーマルな装いをした彼女は、目を丸くして驚いていた。
やっぱり男として見られていなかったのかとショックを受けるが、今は彼女をどうやって食い尽くしてやろうかと考えるのに忙しい。
個人的には、こういうお堅い雰囲気の洋服ほどエロくてムラムラする。
禁欲的な白いシャツとネイビーのタイトスカートの下にこそ、ノーパン&リモコン操作型ローターといった卑猥な装具が似合うと思うのだ。
その格好のまま夜の散歩をし、コンビニで避妊具でも買うよう命令すれば、きっと可愛く悶えてくれるだろう。
「すみません、チェックお願いします!」
すっかり信じ込んだ体のまま会計をして、自宅に連れ込んで、葉月の否定にも気付かないフリをして。
圭吾はこの日、長い長い片想いを終わらせたのだった。
その言葉を聞いた瞬間、彼――五十嵐圭吾は全力で頭をブン殴られたかのような衝撃を覚えた。
暖色系のほの暗い照明が落とされた店内。
突然目の前に現れた彼女が、信じられないことに真面目な顔でそう言ったのだ。
その人の名前は浅川葉月。
同じ会社の同期で、今日は彼女に不毛な片想いを始めて5年目の記念日だった。
◇◇◇
彼女に恋に落ちたのは、本当に一瞬の出来事だった。
それなりに緊張して迎えた入社式の日、これからの新人研修用のグループに分けられた時のことだ。
「浅川葉月です。よろしくお願いします」
少し硬い声で自己紹介したあと、彼女は優しく微笑んだ。
その笑顔が可愛くて、胸を掻き毟りたくなるくらい苦しくて、もう理屈ではどうにもできないくらい好きになってしまったのだ。
どうしても仲良くなりたくて、その日はグループメンバーで飲みに行こうという流れを作った。
移動中に葉月の隣をゲットし、
「あ、でも男と飲みに行ったら彼氏に怒られるんじゃない?」
とさりげなく探りを入れたところ、
「ううん、そういうこと気にする人じゃないから大丈夫」
とあっさり彼氏持ちだと告げられて撃沈した。
しかも懐の深い彼氏なんだと無意識にのろけられ、ものすごい大ダメージまで受けた。
それ以来圭吾は、絶対に葉月の彼氏の話題は出さないと心に決めたのだ。
それから5年も経って、相変わらず圭吾は葉月に片想いをしていた。
葉月の趣味嗜好について研究を重ねた末の地道なアプローチの賜物か、とりあえず彼女とはものすごく仲良くなれたと思う。
友達としてだが。
葉月は可愛らしい外見なのにさっぱりした性格のため、男女ともに友人は多いらしい。
こんなに可愛いのに男友達とか絶対嘘だ、相手は下心2000%で狙ってるんだぞ、男は狼だって知らないのか、と忠告したいところだが、じゃあお前も下心アリなのかと突っ込まれたら爆死するので言えないままになっている。
新しくオープンしたアフガニスタン料理の店だとか、コアな人気がある単館上映の映画だとか、そういうちょっと珍しいものの情報を片っ端から仕入れては教えているのは、全て下心のせいなのだ。
そして迎えた片想い記念日当日。
明日も仕事だが、酒でも飲まないとやっていられない。
そう思って度数の高い酒をハイペースで煽り、スマホに保存している彼女の写真を眺め、マスターに愚痴をこぼしていた。
我ながらなんて女々しい男だと思うが、彼氏持ちの女の子を好きになってしまった哀れな男なのだから大目に見て欲しい。
なのに。
ずっとずっと好きだった彼女が目の前に突然現れ、とっくの昔に元彼とは切れている上に露出癖にまで興味があると言ったのだ。
これは夢なんじゃないのか。
もしくはタヌキかキツネに化かされてるんじゃないのか。
そんな非現実的な考えすら浮かんでくる。
あまりにもこの現実が信じられなくて、硬直したまま彼女を見つめ返すしかできなかった。表情筋さえ動かない。
圭吾はいわゆるポーカーフェイスが得意なタイプだ。
商談中に想定外な事態が起こっても、滅多なことでは顔に出ない。余裕ありげな態度でその場を乗り切り、そういう豪胆なところがお前の強みだと褒められたこともある。
だが今回は、驚きすぎて本当に言葉が出なかった。
「ま、まさか圭吾も同じだとは思ってなかったな」
そんな言葉を呆然と聞いていた圭吾だったが、葉月がさきほどからしきりに髪の毛を触っていることに気が付いた。
目が泳ぎ、白くてほっそりした手が無意識のように何度も髪を耳にかける。
肩より少し長いストレートヘアがサラサラと揺れて、その毛先はクルクルと指に巻きつける。
緊張したり動揺したりした時の彼女の癖である。
露出プレイに興味があるというのは、彼女なりの優しい嘘だったのだ。
「もしかしたら他にもそういう人いっぱいいるのかもしれないね」
そのことに落胆すると同時に、これはチャンスなのかもしれない、と心の中の悪魔が囁いた。
別に嘘でもいいじゃないか。
“葉月は露出プレイに興味があると言った”この事実さえあればいい。
嘘だって、何度も繰り返せば真実になるのだから。
「だから圭吾も元気を出」
「好きだ」
「……………………え?」
だから圭吾は葉月に“騙される”ことにした。
葉月は露出プレイに興味がある。自分はそれに乗っかっただけだ。
入社式だったからかいつもよりフォーマルな装いをした彼女は、目を丸くして驚いていた。
やっぱり男として見られていなかったのかとショックを受けるが、今は彼女をどうやって食い尽くしてやろうかと考えるのに忙しい。
個人的には、こういうお堅い雰囲気の洋服ほどエロくてムラムラする。
禁欲的な白いシャツとネイビーのタイトスカートの下にこそ、ノーパン&リモコン操作型ローターといった卑猥な装具が似合うと思うのだ。
その格好のまま夜の散歩をし、コンビニで避妊具でも買うよう命令すれば、きっと可愛く悶えてくれるだろう。
「すみません、チェックお願いします!」
すっかり信じ込んだ体のまま会計をして、自宅に連れ込んで、葉月の否定にも気付かないフリをして。
圭吾はこの日、長い長い片想いを終わらせたのだった。
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面白かったです。笑いながら読みました!もう少し露出狂な変態具合が見たかったです。2人はこの先の露出プレイするのか気になります。続編に期待してもいいですか?笑
笑っていただいてありがとうございました!
もっと露出狂でもOKでしたか?!なんて懐の深いお方…!
私自身は露出癖もないし、露出プレイの何が面白いのかもよく分からないので、続編を書くならもっと露出狂の心理や生態について調べてからになりそうです。
その時はまた読んでいただけると嬉しいです☆
完結、お疲れ様でした。
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