嘘つきは露出狂のはじまり

柳月ほたる

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運命の人は案外近くに

10 羞恥と快楽の間

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「んぁ、な、に……?」
 またしても絶頂に昇り詰めた後、ベッドに投げ出されていた上半身をぐっと抱き起こされた。
 快感に飲まれて力の入らない身体はそれなりに重さがあるというのに、片腕だけで軽々と持ち上げる彼は相当鍛えているのだろう。
 対面座位の形で圭吾の上に座ったことで、繋がったままの男性器が膣内で別の部分を掠める。
「はぅ、ん……っ」
 未だ硬度を失わない肉棒が、自重によってより深く埋まった。

「やばい……葉月のナカが良すぎて、あのまま続けてたら俺もイくとこだった」
「…………ん、ぁ……だめ、なの?」
「……まぁ、駄目ではないけどな。せっかくだから、俺はもっと愉しみたい」
 柔らかい曲線を描く小さな尻を鷲掴みにされ、ゆっくりと上下に揺すられる。
 先ほどとは違って、葉月の反応を確かめながらの抽送。
 暴力的なまでに激しく突き上げられるのもよかったけれど、こうして焦れったいくらいに優しく繰り返されるのも悪くなかった。
 結合部から聞こえる淫らな水音は留まるところを知らない。
 うっとりするような快感が積み重なって、今にもコップの縁から溢れそうだ。

「ふ、あ……っ」
「葉月、座ってやるのも好き? すげぇ蕩けた顔してる」
「あぁっ……ん、もっとして、ほし……」
「ん、りょーかい」
 気付けば葉月も彼の手に合わせて腰を揺らめかせていた。
 安定感のある肉体に縋り、興奮から発熱して汗ばんだ皮膚を擦り付ける。腰を動かす度に淡い茂みの奥に隠された肉芽にも刺激が伝わり、それが無性に気持ちよくて。

「んあ、あっ、はぁ……っ」
 葉月の白い胸に顔を埋める圭吾が、舌を出して先端をれる、と舐める。
 そのままちゅうっと吸いつかれると、繋がり合った泉からはまた新たな蜜が溢れた。
 いやらしく垂れた蜜は太ももを濡らし、汗と混ざって皮膚が滑る。
 ぐちゅ、ぐちゅと卑猥な音がして、終わりのない快楽の波に囚われるようだ。

 ほんの目と鼻の先で見下ろした圭吾の顔も、快感を耐えるようにわずかに歪んでいた。
 こめかみに垂れた一筋の汗と、眉間の皺。
 男の色気が尋常ではない。
「…………圭吾……」
 蜜に惹かれる蝶のように唇を寄せると、待ち構えていたように受け入れてくれた。

「ん……あ、んふ……っ」
 彼を奥深くに受け入れたまま、舌先で舐め合い、荒い吐息交じりの唾液を交換する。
 心と連動するように膣壁が蠕動し、彼自身を奥へ奥へと誘うようだ。
 満たされすぎて苦しい。
 ずっと近くにいたのに、どうして今までこの存在に気付けなかったのだろう。

「圭吾……、……すき」
 本能の赴くままに口づけを交わすうちに、そんな言葉が口から零れた。
 下半身は淫らに繋がり、上半身もぴったりと寄り添い合って。一度言葉にしてしまうと、それは驚くくらいしっくりとくる気がした。
 頭で考えたのではない、全身を満たす温かくて幸せな感情が、自然に言葉になって零れ落ちたのだと思う。
 それを聞いた圭吾は、ハッとしたように動きを止めた。
 肌に触れる手のひらが熱い。

「……葉月、……本当か……?」
 見下ろした彼に、穴が開きそうなほど強く見つめ返される。
 その表情はひどく真剣だ。突然告げられた言葉に驚いていると同時に、どこか葉月に縋るような色が見て取れる。
「……っ、あ、あの……」
 無意識のうちに口走ってしまった言葉の意味をじわじわと実感して、葉月は急に恥ずかしくなってきた。
 ついさっきまで好きな人はいないと言っていたはずなのに。こんなに短時間で翻意するなんて、軽い女だと思われたらどうしよう。
 ちゃんと信じてくれるかな。
 俺もだよって、言ってくれるだろうか。

 そんな焦りを誤魔化すように、葉月は圭吾にぎゅっと抱きついた。
 汗の匂いがする髪に頬を寄せ、彼の形の良い頭を抱き締める。
 とにかくまずは、この赤くなっているであろう顔を隠したい。暗くても、こんなに近くにいたらバレてしまうはず。
「……っ、チョロい女だと思ってるでしょ」
 不安と、焦りと、混乱と。
 もう一度、好きです、と言うのがどうにも気恥ずかしくて、ついつい天邪鬼なセリフを吐いてしまった。
 本当はこんなこと言いたい訳じゃなかったのに。
 今まで恋愛にあまり縁がなかったのは、こういう素直じゃない性格も原因だったのだろうか。

 あまりにも可愛げのない自分に少し落ち込んでいると、葉月の腕の中にいる圭吾が小さく笑う気配がした。
 緊張した背中をぽんぽんと叩かれる。
「んな訳ないだろ。葉月がチョロかったら俺は5年も片想いしてない」
「……それは」
 そうかもしれないけど。
 でもそれはチョロくなかったからじゃなく、ただ単に鈍かったからのような気もするのだが。

「……あっ」
 肯定も否定もしづらい指摘に悩み始めたところで、きつく彼の首に巻きつけていた腕を解かれた。
 まっすぐに目を合わせられ、今度こそ本当に逃げ場がない。
 動揺しすぎて何度も瞬きをする葉月の頬を、彼は愛おしげに撫でてくれた。
「葉月……ありがとう。俺、本当に今は身体だけの関係でもいいと思ってたんだ。最初から心も身体も求めるのは贅沢だって。葉月の気持ちが変わるのをゆっくり待とうって。でも、葉月が俺をほんの少しでも意識してくれたならすごく嬉しい」
「…………う。……ほ、んと?」
「あぁ。俺を絶対に好きにさせてみせるって言っただろ? こんなに早く叶うとは思ってなかったけど。……そうだな、じゃあ次は俺なしじゃ生きていけないって言わせてやろうかな」
「……やだ、なにそれ」
 大胆不敵に笑った彼に、もやもやしていた気持ちが晴れていくようだった。
 恋愛初心者の自分はまだまだ恋に不器用で、素直に好きだと口に出すことすら難しい。
 けれどこの人なら、そんなところも全部ひっくるめて受け入れてくれる気がする。

 そんな間にも、じっと動かないでいる分だけ胎内に受け入れたペニスの動きは鋭敏に感じ取れた。
 ビクビクと脈打って、未だに硬度を失わない欲望の塊。
 みっちりと隙間を満たすそれに、「はっ……」と小さく喘いでしまう。

「……葉月、続きしていい?」
「うん……あぅっ!」
 彼は葉月の腰を軽々と持ち上げ、ばちゅんと叩き落とした。
 細い背中を仰け反らせて喘ぐ葉月の唇に、圭吾のそれが優しく重なる。
 はしたない音を立てて舌を絡め、まつ毛さえ触れ合いそうな距離で彼が目を細めた。
「それに、やっぱり体の相性もいいよな。誰かに見られてるかもしれないと思うと、葉月も興奮するんだろ?」
「……??」
 どういうこと、と問おうとして、彼の視線を追う。
 ぼんやりとした薄暗闇の中、緩慢な動作で横を向いた葉月は全開になっているカーテンに凍りついた。
 そういえばさっき彼がこれを開けたのだった。
 大きなガラス戸の向こうに見えているのは、広いベランダとビル群の明かり。無数の窓の中にはかすかに人影が見えるものもある。
 もしかして今まで、全て見えてしまっていたのでは……?
 そんな可能性に体が震えた。

「やっ、やだ! だめっ、閉めて……!」
「っ! ……は、今すげぇ締め付けてきた……やっぱ興奮するよな?」
「ちがっ……だめなっ……あぁんっ!」
 抗議の声は完全無視で突き上げられ、葉月は思わず甘い啼き声を上げた。
 子宮の入り口にまで楔の先端がめり込み、体がガクガクと震える。
 恥ずかしい、誰かに見られちゃう、どうしよう。そんな恐怖を抱いてもすっかり彼に手懐けられてしまった身体は正直で、どろどろに蕩けた蜜壺が強制的に快感を送ってくる。
 赤々としたビルの明かりがまぶたの裏にちらつくようだ。
 誰のものか分からない視線が肌を突き刺すようで、葉月は長い髪をふるふると振る。
 薄く笑みを浮かべた圭吾が、「ま、逆光だから本当は外からは見えないんだけどな」と言ったことにも気付く余裕がなかった。

 それからはもう、完全に彼のペースだった。
 再びベッドに押し倒され、好きなように貪られる。
 大きく開かされた足の間からは、いやらしい蜜でてらてらと光る剛直が何度も出入りしていた。
 それが恥ずかしくて目を逸らすと、優しくも有無を言わせない口調で「見て」と命令され、何度か淫語も言わされた気がする。

「……っ、ふっ、ぁ、……っっ!」
「葉月、声は抑えたら駄目って言っただろ。ちゃんと聞かせて?」
「んっ、あ、あぁっ……っ」
 目を逸らさない、どこを突いて欲しいのか言って、繋がってるとこを広げてみせて。
 恥辱を煽る命令には何度も逃げ出したくなったけれど、結局葉月はその通りにするしかなかった。なぜならちゃんと言うことを聞くと、いつも信じらないくらいの快感に襲われたから。
 支配される度、そして羞恥を感じる度に深い悦楽を感じる。
 自分にこんな願望があったなんて知らなかった。こんな世界を知ってしまったら、もう後戻りできない。

 圭吾が一際強く腰を打ち付けて、ずるりと葉月の中から出て行った。
 荒い呼吸のまま2、3度男根を扱き、葉月の薄い腹に白濁をぶちまける。
 びゅく、びゅく、と肌を汚すそれをぼんやりと眺めながら、この人からは離れられない、という確信めいたものを感じた。
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