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番外編
リナちゃんは見た!
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彼女の名前は今井リナ。
某大手総合商社の新人研修を終え、紙・パルプ部門に営業事務として配属されたばかりの新入社員だ。
栗色の長い髪を丁寧に巻き、研究し尽くしたお嬢様メイクと地顔の良さにより、誰もが振り返る美人である。
「おはようございまーす!」
今日も明るく挨拶をしつつ出勤すると、オフィスのあちこちから返事が返ってきた。
オフィスに入る時の挨拶はする人もいればしない人もいるが、リナは誰よりも大きな声で声を掛ける派だ。
その場で目が合った人にはにっこり笑って、個人的に「おはようございます!」とぺこり。
朝からたくさんの人に挨拶すると、気分良く1日が始められるのだ。
営業事務の仕事は大変だが、職場はとても楽しい。
周囲からこっそり王子と呼ばれているチームリーダーはイケメンで目の保養になるし、先輩社員たちもみんなフレンドリー。
違う課の人たちからもよく声を掛けてもらえる。
特に仲がいいのが、いつも仕事を教えてもらっている先輩・高野寿々だった。
「先輩すみませんっ! なぜかパソコンがエラーばっかりなんですけどっ! どうしたらいいですか?!」
「えっ、ちょっと待って…………あ、ここ。顧客コードが間違ってる。エラーが出たら、まず入力を見直してね?」
「きゃーっ、ごめんなさい!」
営業部に配属されて1週間。
また些細なミスをして大騒ぎし、寿々に迷惑を掛けてしまった。
元からおっちょこちょいな自分は、恐ろしいことに毎日ミスを連発している。
その度に、今度こそ怒られるかも、と身構えるのだが、寿々は嫌なそぶりさえ見せず丁寧に教えてくれる。とっても優しくて、思わず拝みたくなるような先輩だ。
ダメダメなリナにとっては、もはや女神のような存在だった。
そんな彼女について、リナはたった1週間で気付いたことがあった。
仕事の合間、チームリーダーの席にちらりと目をやった女神を目敏く見つけ、リナはうきうきとすり寄る。
「先輩って、芹沢主任のこと好きなんですよね?」
「ええっ!! えっ、え……、なななないよ! そんなこと全然ないから!!」
「あれ、違うんですか?」
「うん! 尊敬はしてるけど、そんな、主任に恋愛感情なんて、恐れ多いっていうか……っ、全然だから!」
女神は照れているらしく、顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
ものすごい勢いで否定され、そんなはずはないんだけど、とリナは首をかしげる。
王子ことイケメンチームリーダー芹沢主任は、リナと寿々の直属の上司だ。
色素が薄めの美形で、ちょっと長めの前髪を横に流しているさわやか系。
戦隊ヒーローで言ったら、絶対に赤ではなく青になるタイプだろう。もしくは途中参加のシルバーとか。
ちょっと冷たそうなところがリナのタイプではなかったので純粋な観賞用にしているが、女神は本気で恋をしているらしい。
しょっちゅう目にハートを浮かべて芹沢を見ているし、普段は落ち着いたお姉さんという雰囲気なのに、彼に話しかけられると真っ赤になって恋する乙女に変わる。
ものすごく分かりやすい。
さらに言えば、どうやら芹沢の方も女神を憎からず思っているらしかった。
女神に話し掛ける時だけは声のトーンが糖度200%増しだし、キャンディーやらジュースやら、なぜか毎日のように貢ぎ物をしている。
しかも何かを手渡す時には、敢えて手をぎゅっと包み込むようにして渡すのだ。
「よかったら今井さんも食べて」
と、ついでのようにリナに分けてくれる時には、デスクの上にぽんと投げていくだけなのに!
女神以外への扱いが雑すぎる。
他にも、ふとした瞬間に彼らの目が合い、芹沢がふわりと微笑み、寿々がびくっと驚いて目を伏せる、といういちゃつきシーンを見せつけられたこともある。
誰がどう見ても両想いなのに、なぜか恋人同士ではない不思議な2人なのだ。
「ねぇねぇ、茜さん。どうして主任と寿々先輩は付き合ってないんですか?」
ある日の昼休み、同じ課の先輩に思い切って聞いてみた。
彼女は芹沢の同期で、詳しい事情に通じていると思ったのだ。
「あ、早速リナちゃんも気付いちゃった?」
「普通分かりますよー!」
バレバレである。
多分気付いていない人なんていないと思う。
本人たちは他人のフリをしているが、周りは完全にカップル扱いなのだ。
「そうねー、もはやあれはプレイの一環、みたいな? 高野さんがびっくりするくらい鈍いから、全然芹沢くんのアプローチに気付かないのよね」
「えっ! 気付いてないんですか?!」
「うん、信じらんないよね」
あれだけされて気付かないものなんだろうか。
仕事は完璧な女神にも、こんな抜けている部分があったとは意外だった。
「そ、それじゃ、私が恋のキューピッドになってもいいでしょうか?!」
とっても素敵なアイディアを思いついて、リナは思わず叫んでいた。
実は最近、いつもお世話になっている女神に恩返しをしたいと思っていたのだ。
どうやら気持ちが一方通行だと思い込んでいるらしい女神の恋を成就させれば、これは立派な恩返しになるに違いない。
想い合っているのにすれ違う2人を結ぶ架け橋になる私。なんて素晴らしいんだろう。
「別にいいけど、大変だと思うよ?」
腕を組んで渋い顔をする茜に対し、リナは満面の笑みでガッツポーズをした。
「私、がんばります!!」
仕事よりもキューピッド業に力を入れる決意をしたリナは、その日早めに昼食を終えた。
2人をくっつける計画書を作成するためだ。
芹沢の気持ちをそのまま女神に伝えるのが一番手っ取り早いとは思うが、頼まれてもいない代理告白は無神経だ。それにロマンチックじゃない。
ちゃんと本人同士で想いを伝え合ってもらわなければ。
そんな時だった。
アレを目撃してしまったのは。
「……え、主任?」
ああでもない、こうでもないと頭をひねりながらリナはオフィスに戻った。
ちょうど全員出払っているらしく、オフィスは電灯のスイッチも切られて閑散としている。
誰もいないなんて珍しいなと思って歩いていると、なんと自席の隣、女神のデスクの下にうずくまっている人影があったのだ。
まさか女神の具合が悪いのか、と考えたのも一瞬、それは件のチームリーダー芹沢主任だった。
「……なにしてるんだろ?」
もしかして職場の重要機密を盗んでいるとか?
さすがにそれはないと思うが、なんだか探偵みたいでワクワクしてきた。
幸い、何かに集中しているらしい彼はこちらの気配に気付いていない。
何をしているのか突き止めるべく、リナはそっと身を乗り出す。
息を詰めて覗き込むと…………彼は、女神のデスクの下にあるミニゴミ箱からカルガモ珈琲のカップを取り出し、うっとりと微笑みながらストローを咥えた。
「主任っ?! 何してるんですか?!」
「わっ……今井さん?」
芹沢の突飛な行動に、思わず叫ばずにはいられなかった。
「主任! そ、それ……!」
「……うん。まぁ、そういうことなんだ」
「?!」
何が『まぁ、そういうこと』なのか。
ちょっと意味が分からないのだが、とりあえず目の前の上司は丁寧にストローを抜き取り、ハンカチに包んでポケットに入れた。
常習犯っぽい素早い作業だ。
まさか王子とまで呼ばれている頭脳派のイケメン上司が、なかなか恋が実らない辛さを紛らわせるため、恋する女性のストローをこっそり舐めて耐えていたとは。
まさかの事実に愕然とし、リナは彼を見つめてプルプルと震える。
そして。
「主任……っ、私、感動しました!!」
「え」
リナは感動に打ち震えていた。
なんという純愛、切なすぎる片恋、麗しい献身愛。
女神を想う芹沢の純粋な心根に触れ、今にも涙があふれそうだった。
「私、おふたりの恋のキューピッドになりたいんです!」
この熱い気持ちを伝えるため、だだだっと駆け寄って芹沢の手を取る。
が、その手はペッと振り払われた。
「悪いけど。僕は寿々ちゃんとしか手は繋がないって決めてるから」
「きゃーっ、素敵!」
一途なところも最高だった。
彼こそ女神にふさわしい男性だ。
「私、どうしてもおふたりのの恋を実らせたいんです! そのためならなんでもします!」
芹沢に触れないように気をつけて、再度自分を売り込む。
このチャンスを逃したら次がいつ巡ってくるか分からない。
「今寿々先輩の一番近くにいるのは私じゃないですか。だからすごく役に立てると思うんです!」
しばらく考えていた彼は、こちらの本気を分かってくれたのか、やがて静かに頷いた。
「そう。じゃあ、寿々ちゃんの使ったストローが欲しいんだけど。僕は所用で外出することも多いから、代わりに回収してもらえるかな?」
「はい! もちろんです!!」
やった! キューピッドとして認めてもらえた!
こんなに嬉しくてワクワクするのは生まれて初めてだった。
それ以来、リナはせっせとストローを集めては芹沢に献上していった。
ストローでは飽き足らず、インクの切れたボールペンや書類につけてもらった付箋(なんと女神の手書きメモ付きである!)、お菓子の包み紙なども集めるようになると、芹沢にものすごく褒めてもらえた。
嬉しい。
今はまだ成果が目に見えないが、これが少しでも2人の恋愛成就に繋がればいいなと思う。
そんなある日。
「ううん、大丈夫。駿ちゃんによろしくね。今度感想聞かせて? ……うん、じゃまたね」
隣席の電話に耳を澄ませていたリナは、今日の女神の夕食の予定がドタキャンになったらしいと知った。
人気のイタリアンにかなり前から予約をしていて、同期の友人と行くのだと嬉しそうに話してくれていたのに。
「先輩、もしかして今日人気のイタリアンに行くって話、なくなったんですか?」
「うん、一緒に行く予定だった子の都合が急に悪くなっちゃってね。……ところで何度も言うようだけど、会社は学校じゃないから先輩は無しね?」
「あっ、すみません! いつも忘れちゃうんです」
シュンとしている女神は気の毒だが、これはいいチャンスなんじゃないだろうか。
もともと外食するつもりだったなら自宅に夕食の準備はないだろうし、スケジュールも空いている。
今日は確実に女神の予定を抑えられる日だ。
ここはキューピッドである自分が一肌脱いで食事会をセッティングし、じれじれする2人を急接近させ、最後は主任に女神をお持ち帰りしてもらうというのはどうだろう。
そうすれば、今夜には晴れて恋人同士になる。
なんて素晴らしい計画!!
「あーっ、主任! おかえりなさい!」
そうなればすぐに実行あるのみだ。
リナは喜び勇んで、帰社したばかりの芹沢に駆け寄った。
こんな完璧計画だったのに自分の仕事ミスで綻びが生じ、最終的には2人とも食事会には参加しないという結果になる。
落ち込んだまま迎えた翌日、突然の結婚報告をされることになるとは、この時のリナは知る由もなかった。
某大手総合商社の新人研修を終え、紙・パルプ部門に営業事務として配属されたばかりの新入社員だ。
栗色の長い髪を丁寧に巻き、研究し尽くしたお嬢様メイクと地顔の良さにより、誰もが振り返る美人である。
「おはようございまーす!」
今日も明るく挨拶をしつつ出勤すると、オフィスのあちこちから返事が返ってきた。
オフィスに入る時の挨拶はする人もいればしない人もいるが、リナは誰よりも大きな声で声を掛ける派だ。
その場で目が合った人にはにっこり笑って、個人的に「おはようございます!」とぺこり。
朝からたくさんの人に挨拶すると、気分良く1日が始められるのだ。
営業事務の仕事は大変だが、職場はとても楽しい。
周囲からこっそり王子と呼ばれているチームリーダーはイケメンで目の保養になるし、先輩社員たちもみんなフレンドリー。
違う課の人たちからもよく声を掛けてもらえる。
特に仲がいいのが、いつも仕事を教えてもらっている先輩・高野寿々だった。
「先輩すみませんっ! なぜかパソコンがエラーばっかりなんですけどっ! どうしたらいいですか?!」
「えっ、ちょっと待って…………あ、ここ。顧客コードが間違ってる。エラーが出たら、まず入力を見直してね?」
「きゃーっ、ごめんなさい!」
営業部に配属されて1週間。
また些細なミスをして大騒ぎし、寿々に迷惑を掛けてしまった。
元からおっちょこちょいな自分は、恐ろしいことに毎日ミスを連発している。
その度に、今度こそ怒られるかも、と身構えるのだが、寿々は嫌なそぶりさえ見せず丁寧に教えてくれる。とっても優しくて、思わず拝みたくなるような先輩だ。
ダメダメなリナにとっては、もはや女神のような存在だった。
そんな彼女について、リナはたった1週間で気付いたことがあった。
仕事の合間、チームリーダーの席にちらりと目をやった女神を目敏く見つけ、リナはうきうきとすり寄る。
「先輩って、芹沢主任のこと好きなんですよね?」
「ええっ!! えっ、え……、なななないよ! そんなこと全然ないから!!」
「あれ、違うんですか?」
「うん! 尊敬はしてるけど、そんな、主任に恋愛感情なんて、恐れ多いっていうか……っ、全然だから!」
女神は照れているらしく、顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
ものすごい勢いで否定され、そんなはずはないんだけど、とリナは首をかしげる。
王子ことイケメンチームリーダー芹沢主任は、リナと寿々の直属の上司だ。
色素が薄めの美形で、ちょっと長めの前髪を横に流しているさわやか系。
戦隊ヒーローで言ったら、絶対に赤ではなく青になるタイプだろう。もしくは途中参加のシルバーとか。
ちょっと冷たそうなところがリナのタイプではなかったので純粋な観賞用にしているが、女神は本気で恋をしているらしい。
しょっちゅう目にハートを浮かべて芹沢を見ているし、普段は落ち着いたお姉さんという雰囲気なのに、彼に話しかけられると真っ赤になって恋する乙女に変わる。
ものすごく分かりやすい。
さらに言えば、どうやら芹沢の方も女神を憎からず思っているらしかった。
女神に話し掛ける時だけは声のトーンが糖度200%増しだし、キャンディーやらジュースやら、なぜか毎日のように貢ぎ物をしている。
しかも何かを手渡す時には、敢えて手をぎゅっと包み込むようにして渡すのだ。
「よかったら今井さんも食べて」
と、ついでのようにリナに分けてくれる時には、デスクの上にぽんと投げていくだけなのに!
女神以外への扱いが雑すぎる。
他にも、ふとした瞬間に彼らの目が合い、芹沢がふわりと微笑み、寿々がびくっと驚いて目を伏せる、といういちゃつきシーンを見せつけられたこともある。
誰がどう見ても両想いなのに、なぜか恋人同士ではない不思議な2人なのだ。
「ねぇねぇ、茜さん。どうして主任と寿々先輩は付き合ってないんですか?」
ある日の昼休み、同じ課の先輩に思い切って聞いてみた。
彼女は芹沢の同期で、詳しい事情に通じていると思ったのだ。
「あ、早速リナちゃんも気付いちゃった?」
「普通分かりますよー!」
バレバレである。
多分気付いていない人なんていないと思う。
本人たちは他人のフリをしているが、周りは完全にカップル扱いなのだ。
「そうねー、もはやあれはプレイの一環、みたいな? 高野さんがびっくりするくらい鈍いから、全然芹沢くんのアプローチに気付かないのよね」
「えっ! 気付いてないんですか?!」
「うん、信じらんないよね」
あれだけされて気付かないものなんだろうか。
仕事は完璧な女神にも、こんな抜けている部分があったとは意外だった。
「そ、それじゃ、私が恋のキューピッドになってもいいでしょうか?!」
とっても素敵なアイディアを思いついて、リナは思わず叫んでいた。
実は最近、いつもお世話になっている女神に恩返しをしたいと思っていたのだ。
どうやら気持ちが一方通行だと思い込んでいるらしい女神の恋を成就させれば、これは立派な恩返しになるに違いない。
想い合っているのにすれ違う2人を結ぶ架け橋になる私。なんて素晴らしいんだろう。
「別にいいけど、大変だと思うよ?」
腕を組んで渋い顔をする茜に対し、リナは満面の笑みでガッツポーズをした。
「私、がんばります!!」
仕事よりもキューピッド業に力を入れる決意をしたリナは、その日早めに昼食を終えた。
2人をくっつける計画書を作成するためだ。
芹沢の気持ちをそのまま女神に伝えるのが一番手っ取り早いとは思うが、頼まれてもいない代理告白は無神経だ。それにロマンチックじゃない。
ちゃんと本人同士で想いを伝え合ってもらわなければ。
そんな時だった。
アレを目撃してしまったのは。
「……え、主任?」
ああでもない、こうでもないと頭をひねりながらリナはオフィスに戻った。
ちょうど全員出払っているらしく、オフィスは電灯のスイッチも切られて閑散としている。
誰もいないなんて珍しいなと思って歩いていると、なんと自席の隣、女神のデスクの下にうずくまっている人影があったのだ。
まさか女神の具合が悪いのか、と考えたのも一瞬、それは件のチームリーダー芹沢主任だった。
「……なにしてるんだろ?」
もしかして職場の重要機密を盗んでいるとか?
さすがにそれはないと思うが、なんだか探偵みたいでワクワクしてきた。
幸い、何かに集中しているらしい彼はこちらの気配に気付いていない。
何をしているのか突き止めるべく、リナはそっと身を乗り出す。
息を詰めて覗き込むと…………彼は、女神のデスクの下にあるミニゴミ箱からカルガモ珈琲のカップを取り出し、うっとりと微笑みながらストローを咥えた。
「主任っ?! 何してるんですか?!」
「わっ……今井さん?」
芹沢の突飛な行動に、思わず叫ばずにはいられなかった。
「主任! そ、それ……!」
「……うん。まぁ、そういうことなんだ」
「?!」
何が『まぁ、そういうこと』なのか。
ちょっと意味が分からないのだが、とりあえず目の前の上司は丁寧にストローを抜き取り、ハンカチに包んでポケットに入れた。
常習犯っぽい素早い作業だ。
まさか王子とまで呼ばれている頭脳派のイケメン上司が、なかなか恋が実らない辛さを紛らわせるため、恋する女性のストローをこっそり舐めて耐えていたとは。
まさかの事実に愕然とし、リナは彼を見つめてプルプルと震える。
そして。
「主任……っ、私、感動しました!!」
「え」
リナは感動に打ち震えていた。
なんという純愛、切なすぎる片恋、麗しい献身愛。
女神を想う芹沢の純粋な心根に触れ、今にも涙があふれそうだった。
「私、おふたりの恋のキューピッドになりたいんです!」
この熱い気持ちを伝えるため、だだだっと駆け寄って芹沢の手を取る。
が、その手はペッと振り払われた。
「悪いけど。僕は寿々ちゃんとしか手は繋がないって決めてるから」
「きゃーっ、素敵!」
一途なところも最高だった。
彼こそ女神にふさわしい男性だ。
「私、どうしてもおふたりのの恋を実らせたいんです! そのためならなんでもします!」
芹沢に触れないように気をつけて、再度自分を売り込む。
このチャンスを逃したら次がいつ巡ってくるか分からない。
「今寿々先輩の一番近くにいるのは私じゃないですか。だからすごく役に立てると思うんです!」
しばらく考えていた彼は、こちらの本気を分かってくれたのか、やがて静かに頷いた。
「そう。じゃあ、寿々ちゃんの使ったストローが欲しいんだけど。僕は所用で外出することも多いから、代わりに回収してもらえるかな?」
「はい! もちろんです!!」
やった! キューピッドとして認めてもらえた!
こんなに嬉しくてワクワクするのは生まれて初めてだった。
それ以来、リナはせっせとストローを集めては芹沢に献上していった。
ストローでは飽き足らず、インクの切れたボールペンや書類につけてもらった付箋(なんと女神の手書きメモ付きである!)、お菓子の包み紙なども集めるようになると、芹沢にものすごく褒めてもらえた。
嬉しい。
今はまだ成果が目に見えないが、これが少しでも2人の恋愛成就に繋がればいいなと思う。
そんなある日。
「ううん、大丈夫。駿ちゃんによろしくね。今度感想聞かせて? ……うん、じゃまたね」
隣席の電話に耳を澄ませていたリナは、今日の女神の夕食の予定がドタキャンになったらしいと知った。
人気のイタリアンにかなり前から予約をしていて、同期の友人と行くのだと嬉しそうに話してくれていたのに。
「先輩、もしかして今日人気のイタリアンに行くって話、なくなったんですか?」
「うん、一緒に行く予定だった子の都合が急に悪くなっちゃってね。……ところで何度も言うようだけど、会社は学校じゃないから先輩は無しね?」
「あっ、すみません! いつも忘れちゃうんです」
シュンとしている女神は気の毒だが、これはいいチャンスなんじゃないだろうか。
もともと外食するつもりだったなら自宅に夕食の準備はないだろうし、スケジュールも空いている。
今日は確実に女神の予定を抑えられる日だ。
ここはキューピッドである自分が一肌脱いで食事会をセッティングし、じれじれする2人を急接近させ、最後は主任に女神をお持ち帰りしてもらうというのはどうだろう。
そうすれば、今夜には晴れて恋人同士になる。
なんて素晴らしい計画!!
「あーっ、主任! おかえりなさい!」
そうなればすぐに実行あるのみだ。
リナは喜び勇んで、帰社したばかりの芹沢に駆け寄った。
こんな完璧計画だったのに自分の仕事ミスで綻びが生じ、最終的には2人とも食事会には参加しないという結果になる。
落ち込んだまま迎えた翌日、突然の結婚報告をされることになるとは、この時のリナは知る由もなかった。
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