44 / 47
第四章
11 初夜
しおりを挟む
「く、口で……?」
「あぁ。このままでグラスを使うと水が溢れてしまうだろう?」
酔っ払っているとは思えないほどはっきりとした口調でアルベルトが言う。
確かに彼の言う通りだが、自分からくちづけをしたことのないミアは大弱りだ。
うろうろと視線を彷徨わせて、だが寝台をびしょ濡れにする訳にもいかず、意を決して透明なグラスに口をつけた。早く飲ませてあげないと彼がかわいそうだ。
冷たい水を口に含んだままグラスをサイドテーブルに置き、ミアは寝台に横たわったままのアルベルトに顔を近付ける。
こちらを射竦めるように見ている彼の目には強い光が宿っており、やはり酔っ払って倒れているようには見えない。
「……ん」
そうっと唇を重ねると、彼はわずかに口を開いた。
そんな気配を感じてとろりと水を流し込めば、彼の喉がそれを飲み下す音がやけに大きく聞こえる。よかった、うまくいった。
しかしもう一口欲しいだろうかと思って顔を上げようとした途端、ぬるりと熱い舌が潜り込んできた。
「やっ?! ……ぁ、ぅ……っ」
とっさに逃げようとしたのに、後頭部をがっしりと掴まれてそれは叶わなかった。
細い腰をきつく抱き寄せられ、舌を吸われ、いつの間にか目の前の景色が一転する。そこで見えたのは苦しそうに眉を寄せる彼の姿と、彼の瞳の色に重なるような淡い空色の天井だ。
「待って……っ、具合が悪いのではないの?! 今晩は、安静にしておいた方が……っ!」
アルベルトの体調を気遣ってぶんぶんと首を振ると、今にもまつ毛が触れそうな至近距離で射竦められた。
「本気で言ってる? 私はこんなに今日の日を待ち望んでいたというのに」
「え……?」
ミアはぱちぱちと目を瞬かせる。
彼が自嘲するように息を吐いた。
「……いや、なんでもない。そんなつれない事を言う口は塞いでしまおうか。私はもう一時も待てない」
言うや否や、再び唇が重なった。
指と指とを絡ませ、寝台に押し付けるようにして与えられた2度目のキスで感じたのは、ほのかな葡萄酒の香り。彼自身という檻に拘束されているミアには抗う術もない。
強引で性急なくちづけは、息を吸う間もない。
だが、彼に強く求められていることだけは分かった。うるさいほどに心臓の鼓動が高鳴り、触れ合っている部分から迸るような情熱が流れ込んでくる。
「ミア……、愛してる。早く君と繋がりたい……」
強引な行動とは裏腹な、切なげに響く声だった。
うっすらと目を開き、涙で滲む視界で見た彼はまるで捨てられることを恐れている幼子のようで。その視線に囚われたミアは、くったりと体の力を抜く。
「私も……早くあなたのものになりたい」
再び唇が合わさって、ミアは一生懸命それに応えた。
上手だねと褒めてもらえた時のように舌を吸って、唇を舐めて。優しく髪を撫でてもらうのが気持ち良い。
そうするうちに彼の手が柔らかい体を這い回り、首元の小さなくるみボタンを探り当てた。ぴっちりとナイトドレスの前を閉じているボタンが上から順番に外されて、少しずつ肌が露わになる。
ひとつめ、ふたつめ、みっつめ、よっつめ、いつつめ、むっつ……
「…………ミア、少しボタンが多すぎないか?」
唐突にボタンを外す手を止めたアルベルトが怪訝な声を上げた。
何しろナイトドレスの前面には、おびただしい量のボタンがずらりと整列しているのだ。これではボタンを外しているうちに夜が明けてしまう。
ところがミアは、あまりにも当然のことを聞かれてにっこりと頷いた。
「そうなの。私ボタン付けをとってもがんばったのよ。素肌を隠すためのボタンは貞節の象徴だと教えていただいたから、全部で58個つけたの」
教えてくれたのはもちろん母だ。
新妻の処女性を示すために初夜のナイトドレスにはたくさんのボタンをつけるものだと教えてもらったので、ミアは隙間がないくらいにびっしりとボタンを縫いつけたのだ。
非常に骨の折れる作業だったし、さすがの母も驚いていたが、出来上がった時の達成感は大きかった。着用する時はとても大変だったが。
得意げに説明すると、ふいに彼が黙り込んだ。
新婚衣装の慣例とはいえ、ボタンが多いのはあまり好きではなかっただろうか。
不安を抱えながら彼を見ると、そっと上半身を抱き起こされた。そして。
「仕方ないな、ではこのまま脱がすか」
「きゃあっ!」
なんと小さな子が親の助けを借りて衣服を脱ぐように、ミアのナイトドレスが頭からすぽっと抜かれたのだ。滑らかな絹の生地は白い肌を滑り、アルベルトによって寝台の下へと投げ捨てられる。
ボタンをひとつずつ外されていくうちに心の準備をしようと思っていたミアは大慌てだ。
「ひ、ひどいわっ」
「何がひどいものか。こんな時間稼ぎで夫を遠ざける君の方がひどいだろう?」
驚いて体を隠す間もなく下着の紐も引っ張られる。
一瞬のうちに裸に剥かれてしまったミアは、何の抵抗も出来ないままあっさりと組み敷かれた。
「ほら、もう観念して。初めてだから優しくしてやりたいのに、これ以上拒絶されると我慢がきかなくなる」
「……ぁ、んっ」
剣呑なことを言ったアルベルトの顔がミアの胸に埋まった。
1年前よりも少しだけ増した膨らみはそれをふんわりと受け止め、大きな手によって好き勝手に形を変えられる。薄紅色に尖った先端はぬるつく粘膜に包まれて、その熱さに火傷してしまいそうだ。
いやらしい水音を立てて吸われるのは、耳からも侵されているようだと思った。
抑えようと思うのに、恥ずかしい声があふれ出して止まらない。
絶対に叶わない抵抗を試みた足先が真っ白なシーツを滑り、ミアはつま先をきゅうと丸める。何度も嬲られた胸はじんじんと熱を持っていて、そこだけ自分の体ではないようだった。
「あぁ。このままでグラスを使うと水が溢れてしまうだろう?」
酔っ払っているとは思えないほどはっきりとした口調でアルベルトが言う。
確かに彼の言う通りだが、自分からくちづけをしたことのないミアは大弱りだ。
うろうろと視線を彷徨わせて、だが寝台をびしょ濡れにする訳にもいかず、意を決して透明なグラスに口をつけた。早く飲ませてあげないと彼がかわいそうだ。
冷たい水を口に含んだままグラスをサイドテーブルに置き、ミアは寝台に横たわったままのアルベルトに顔を近付ける。
こちらを射竦めるように見ている彼の目には強い光が宿っており、やはり酔っ払って倒れているようには見えない。
「……ん」
そうっと唇を重ねると、彼はわずかに口を開いた。
そんな気配を感じてとろりと水を流し込めば、彼の喉がそれを飲み下す音がやけに大きく聞こえる。よかった、うまくいった。
しかしもう一口欲しいだろうかと思って顔を上げようとした途端、ぬるりと熱い舌が潜り込んできた。
「やっ?! ……ぁ、ぅ……っ」
とっさに逃げようとしたのに、後頭部をがっしりと掴まれてそれは叶わなかった。
細い腰をきつく抱き寄せられ、舌を吸われ、いつの間にか目の前の景色が一転する。そこで見えたのは苦しそうに眉を寄せる彼の姿と、彼の瞳の色に重なるような淡い空色の天井だ。
「待って……っ、具合が悪いのではないの?! 今晩は、安静にしておいた方が……っ!」
アルベルトの体調を気遣ってぶんぶんと首を振ると、今にもまつ毛が触れそうな至近距離で射竦められた。
「本気で言ってる? 私はこんなに今日の日を待ち望んでいたというのに」
「え……?」
ミアはぱちぱちと目を瞬かせる。
彼が自嘲するように息を吐いた。
「……いや、なんでもない。そんなつれない事を言う口は塞いでしまおうか。私はもう一時も待てない」
言うや否や、再び唇が重なった。
指と指とを絡ませ、寝台に押し付けるようにして与えられた2度目のキスで感じたのは、ほのかな葡萄酒の香り。彼自身という檻に拘束されているミアには抗う術もない。
強引で性急なくちづけは、息を吸う間もない。
だが、彼に強く求められていることだけは分かった。うるさいほどに心臓の鼓動が高鳴り、触れ合っている部分から迸るような情熱が流れ込んでくる。
「ミア……、愛してる。早く君と繋がりたい……」
強引な行動とは裏腹な、切なげに響く声だった。
うっすらと目を開き、涙で滲む視界で見た彼はまるで捨てられることを恐れている幼子のようで。その視線に囚われたミアは、くったりと体の力を抜く。
「私も……早くあなたのものになりたい」
再び唇が合わさって、ミアは一生懸命それに応えた。
上手だねと褒めてもらえた時のように舌を吸って、唇を舐めて。優しく髪を撫でてもらうのが気持ち良い。
そうするうちに彼の手が柔らかい体を這い回り、首元の小さなくるみボタンを探り当てた。ぴっちりとナイトドレスの前を閉じているボタンが上から順番に外されて、少しずつ肌が露わになる。
ひとつめ、ふたつめ、みっつめ、よっつめ、いつつめ、むっつ……
「…………ミア、少しボタンが多すぎないか?」
唐突にボタンを外す手を止めたアルベルトが怪訝な声を上げた。
何しろナイトドレスの前面には、おびただしい量のボタンがずらりと整列しているのだ。これではボタンを外しているうちに夜が明けてしまう。
ところがミアは、あまりにも当然のことを聞かれてにっこりと頷いた。
「そうなの。私ボタン付けをとってもがんばったのよ。素肌を隠すためのボタンは貞節の象徴だと教えていただいたから、全部で58個つけたの」
教えてくれたのはもちろん母だ。
新妻の処女性を示すために初夜のナイトドレスにはたくさんのボタンをつけるものだと教えてもらったので、ミアは隙間がないくらいにびっしりとボタンを縫いつけたのだ。
非常に骨の折れる作業だったし、さすがの母も驚いていたが、出来上がった時の達成感は大きかった。着用する時はとても大変だったが。
得意げに説明すると、ふいに彼が黙り込んだ。
新婚衣装の慣例とはいえ、ボタンが多いのはあまり好きではなかっただろうか。
不安を抱えながら彼を見ると、そっと上半身を抱き起こされた。そして。
「仕方ないな、ではこのまま脱がすか」
「きゃあっ!」
なんと小さな子が親の助けを借りて衣服を脱ぐように、ミアのナイトドレスが頭からすぽっと抜かれたのだ。滑らかな絹の生地は白い肌を滑り、アルベルトによって寝台の下へと投げ捨てられる。
ボタンをひとつずつ外されていくうちに心の準備をしようと思っていたミアは大慌てだ。
「ひ、ひどいわっ」
「何がひどいものか。こんな時間稼ぎで夫を遠ざける君の方がひどいだろう?」
驚いて体を隠す間もなく下着の紐も引っ張られる。
一瞬のうちに裸に剥かれてしまったミアは、何の抵抗も出来ないままあっさりと組み敷かれた。
「ほら、もう観念して。初めてだから優しくしてやりたいのに、これ以上拒絶されると我慢がきかなくなる」
「……ぁ、んっ」
剣呑なことを言ったアルベルトの顔がミアの胸に埋まった。
1年前よりも少しだけ増した膨らみはそれをふんわりと受け止め、大きな手によって好き勝手に形を変えられる。薄紅色に尖った先端はぬるつく粘膜に包まれて、その熱さに火傷してしまいそうだ。
いやらしい水音を立てて吸われるのは、耳からも侵されているようだと思った。
抑えようと思うのに、恥ずかしい声があふれ出して止まらない。
絶対に叶わない抵抗を試みた足先が真っ白なシーツを滑り、ミアはつま先をきゅうと丸める。何度も嬲られた胸はじんじんと熱を持っていて、そこだけ自分の体ではないようだった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる