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予感があった、なんて非科学的なことは言わない。だってわたしはリアリストだから。前触れとか悪い予感とか、そういったものを感じたことはこれまで皆無だ。
その日はいつも通りの時間に家を出て、いつもと同じ電車に乗った。いつもの場所、いつもの駅、いつもの道を通って会社に向かう。
けれど、唯一いつもと違ったのは、見るからに怪しい人物が目の前にいたこと。
深く帽子をかぶっているから顔は見えない。その上、もう春も盛りなのに、厚手のロングコートを着ている。
まわりには通勤中の人たちがたくさんいて、そのほとんどがすぐ前にある巨大なビル――芳野総合警備保障の本社ビルを目指している。もちろん、わたしもその中の一人だ。
そんな中、その怪しい人物は、わたしの少し前にいて、人の流れに逆らいまっすぐに目の前の女の人に向かっていた。
わたしは歩くスピードを少しずつ落とし、男を見つめる。
帽子の隙間から見える目は、一見なにも見ていないようでいて、その実、強い悪意を感じさせた。
不審者決定でしょ。
わたしは、肩にかけていた大きめのトートバッグに右手を入れ、目当てのものを探して握る。男が女性との距離を詰め、その間は五メートルを切った。
三、二……
心の中でカウントダウンを始めた時、目の端に人影を捉えた。同じような風貌の男がもう一人、こちらに向かってくるのが見える。
二人なんて聞いてないってば!
目の前の男と女性の距離はもう目と鼻の先だ。どうしようかと焦っていると、また新たに黒いスーツの男が一人駆け寄ってくる。
いや、三人はまじで無理だって。
なんて思ったその時、黒いスーツの男が目の前の男に飛びかかって、一瞬で地面に引き倒した。
大きな音が響きわたり、まわりから悲鳴が上がる。
ホッとしたのも束の間。もう一人の男がそのままのスピードで、わたしに向かってきた。とっさに振り向き、トートバッグから取り出したものの照準を合わせる。
男がわたしのほうへ手を伸ばした瞬間、右手から「ボンッ!」という音とともに、細い網が飛び出す。それは投網みたいに男の体を包み、驚いたその男はそのまま後ろにひっくり返った。
まわりからまた悲鳴が聞こえ、それと同時に、おおーという声とまばらな拍手の音がする。
わたしは右手に握ったピストル型の装置から出ている白い煙をふっと息で払い、まだ網の中でもがいている男を見下ろした。
「このわたしに襲いかかってくるなんて、勉強不足もいいところよ」
男が苦々しい表情でこちらを見上げた。網が体中に絡まって取れないようだ。
それもそのはず、この網は特殊な糸で編まれている。
蜘蛛の糸をヒントに作られたその素材は、粘着性があり一度くっつくと特殊な洗浄液をかけない限り取れないようになっていた。
開発したのは、芳野総合警備保障、企画開発室商品開発部、課長である、わたし――桃井志乃、三十歳だ。
まだ試作段階のこの網、汎用性はないが、この危機を回避できたのだから実用性はまあまあありそうだ。これでデータも取れるかもしれない。
もう一人の男のほうを見ると、黒いスーツ姿の男に取り押さえられていた。
どうやら味方だったスーツの彼は、がっちりとした体格で、かなり鍛えていることが服の上からでもよくわかる。
その正義のヒーローにお礼を言おうと、わたしは声をかけた。
「あの……」
彼が振り返る。
「……あら」
その顔を見て、わたしは口をぽかんと開けてしまった。
芸能人張りのやたらと整った顔は、目つきが鋭く、口は不機嫌そうに閉じられている。その顔に見覚えがあった。
彼は――
「大丈夫か?」
彼の口から出た声はやけに低くて、やっぱり不機嫌そうだ。
わたしが黙ったまま頷いたその時、ビルの中から騒ぎを聞きつけた大勢の警備員が走り出てきた。あっという間にまわりを囲まれる。
網に絡まった男を取り押さえようとした警備員に、わたしは慌てて声をかけた。
「待って。そのまま触らないで。あなたもくっついちゃいます。なにか、シーツみたいなもので包んでください。あとで洗浄液を持っていきます」
警備員は頷き、誰かに無線で連絡した。
「桃井さん!」
突然、声をかけられ顔を上げる。騒然としている群衆をかき分けてやってきたのは、社長の側近の一人だ。
彼はまだ倒れている男を一瞥し、わたしに顔を向けた。
「桃井さん、お怪我は?」
「いいえ、なにも。大丈夫です」
「良かった。社長からお話があります。ご同行ください」
「今? でもすぐに洗浄液を届けなければ、あの網の扱いに困るし、それに警察にも……」
「それはこちらで対応します」
彼がそう言うと、大きなビニールシートを抱えた屈強な男性らが走ってくる。そして、そのまま男を包んで運んでいった。
まだその場で騒然としている他の社員たちも、警備員に誘導されて少しずつ移動を始める。
「桃井さん」
「あ、はい」
社長の側近に促されたわたしも、歩き出す。急いであたりを見回したけど、さっきの黒いスーツの彼は、どこにも見えない。お礼を言いそびれてしまった……
後悔しているうちに、どこからか現れた別の黒いスーツ姿の男たちに囲まれる。どうやらこの会社の警護課の人のようだ。
なんだか大仰な様子に胸がざわつく。
なにがあったの? いや、通り魔にはさっき遭ったけど。
わたしを中心に異様な集団が出来上がった。人がわたしたちを避け、道が開かれる。なんだか、ものすごいVIPになった気分だ。
確かに、防犯グッズの開発でかなりの利益を会社にもたらしている自覚はある。
わたしは、昔から発明に興味があったし、物を作るのが得意だ。防犯装置全般を特に勉強して、業界最大手のこの会社に入れたことも運が良いのだろう。
その運の良さのまま、商品開発部に配属され、以来、防犯装置やグッズの開発に勤しみ、才能をしっかり開花させた。大きな企画開発にも携わり、特許をいくつか持っている。
今では「芳野のマッドサイエンティスト」なんて、嬉しくもない異名もついているのだ。
けれど、開発以外のことに関しては、褒められるものはあまりない。
容姿は普通。さらには、開発に夢中になりすぎて世の中のことにちょっと疎い。
ため息をついたわたしは、社長専用のエレベーターに乗せられた。塀みたいな男たちに囲まれ、なんだか息苦しい。
最上階で扉が開くと、そこにはまた別のボディガードが控えていた。
その先に進むのは社長の側近とわたしだけで、大勢のボディガードはその場にとどまる。
わたしは広い廊下を歩き、大きな扉の前で立ち止まった。手をかける前に、扉は内側から開く。
その扉の真正面の大きな机に、社長が座っていた。
ラスボス感がするな。
そんな心の声を隠しながら、側近と一緒に中に入る。
スイス人の血を引く芳野社長は、日本人離れした容姿で、威圧感がすごい。その経営手腕は誰もが認めるところで、彼が社長に就任して以来、会社の業績はうなぎのぼりだ。
「大丈夫か?」
社長が低い声でわたしに聞いた。
「なにが?」と一瞬思ったけれど、すぐにさっきのことだと気がつく。
「はい。通り魔なんてびっくりしましたけど、おかげで新しい防犯グッズの実践データが取れそうです」
そう笑顔で答えたのに、社長の表情は厳しい。そしてよく見ると、そばに控えている四人の側近も、みんな神妙な顔をしていた。
なんだか、わたし一人だけテンションが緩いようだ。
確かに会社の前で通り魔に襲われるなんて、新聞沙汰だ。会社としてはありがたくないのかもしれない。
そう頭の中で考えていると、社長がじっとこちらを見つめてきた。わたしは、慌てて居住まいを正す。
「最近はどうかな? 開発は進んでいるか?」
ん? 急に仕事の話になった?
「はい。今は女性用の携帯防犯グッズをあれこれ試作中ですが、順調です」
「そうか。では、待遇についてはどうだろう? 例えば報酬に不満は?」
「……別に、なにもありませんけど。仕事は好き勝手にやらせてもらえて大満足ですし、お給料も過分にいただいていると思っています」
給料制だけど、開発の成功報酬はボーナスとしてきっちりともらっている。
「他の会社に移ろうと思ったことは?」
「いえ、考えたこともありません」
社長はさっきからいったいなんの話をしているのか? 頭の中は疑問符だらけだ。
困惑気味のわたしに対し、社長はようやくホッとした顔になった。それでも厳しい表情を崩さず、わたしをジッと見据える。
「率直に言おう。きみは狙われている。いや、きみ自身というか、恐らくきみが持っている特許権だろうがな」
「……は? え? 誰に?」
あまりにも突飛な発言に、わたしは思わず敬語を忘れた。
「誰というより、企業にというほうが正しい。きみはある企業から狙われている」
「は?」
「自分がどれほど利益を生む開発をしてきたか、自覚はないのか? 去年きみが作った顔認証システムは、今や市場のほとんどを占めている」
「いや、知っていますけど……」
「きみの開発に関わる特許権は、うちの会社が保有しているものもあるが、いくつかはきみ個人が所有している。その特許権をきみが他の企業に譲渡した場合、その企業は多額の使用料を受け取ることができる」
「……はあ」
「その利益を欲しがる企業があってもおかしくはないだろう。きみがもし、我が社に不満を持っていて、それが少しでも外部に洩れれば、あっという間に他社から引き抜きがかかるはずだ。だが、我々としては、きみの才能を手放すつもりはない。きみにとってより良い環境を維持できるよう努めるつもりだ」
「はあ……」
「だが、今我々が掴んでいるその企業は、正攻法を取らないらしい」
「とおっしゃいますと?」
「過去の事例から考えられる最悪のパターンは、拉致監禁の末の強制労働」
「ひいっ」
思いもよらない恐怖ワードに身がすくむ。
「一番よく使われる手は脅迫だ」
「きょ、脅迫!?」
社長が難しい顔をしたまま頷いた。
「ターゲットの弱みを握る。相手にその隙がない場合は、あえて罠をしかけて弱みを作る。それを元に脅迫をして……。まあその先はわかるだろう」
いやいや、わかりたくないですけどっ。
「つまり、きみは現在そういう組織に狙われている」
社長はわたしにビシッと言い放った。まわりに控えている側近の皆さんも、真剣な顔だ。
「じゃ、じゃあ、もしかして今朝の人も?」
あんなのが次から次に現れるのは怖すぎる。わたしが尋ねると、社長はちらりと側近の一人を見た。
「可能性はありますが、やつらは公衆の面前で警察沙汰になる可能性があることを滅多にやりません。実情はどうあれ、本人が自主的に転職したことになっています。これまでは」
なるほど、脅迫の末の自主退職ってことか。
「じゃあ今朝の人は?」
「まだわかりませんが、おそらく別件でしょうね。彼らは武器らしいものはなにも持っていなかったそうですし、こちらの過剰防衛で終わりそうです」
社長に代わって側近が答える。
「――ということで、きみにボディガードをつけることにした」
「はい?」
社長の言葉がうまく呑み込めなくて、またまぬけな声を出してしまった。
「ボディガードだ」
「……ボディガードって。直接的な攻撃がないなら、要らないんじゃないですか? たとえ今日みたいなことがあっても、自分の身は自分で守れますし」
ただし相手が一人だけなら……だけど。
「相手の動きを正確に掴めるまでは、念には念を入れたい」
社長はわたしの言葉を一蹴して、どこかに向かって手を振る。すると、後ろのドアが開く音がして、黒いスーツ姿の男女が部屋に入ってきた。
でかい。
女性のほうも背が高いけど、男性のほうがとにかく高身長だ。
彼の顔を見たわたしは、一瞬時間が止まった気がした。
「紹介しよう。警備部警護課所属の――」
「あっ!」
社長の言葉に重ねて、わたしは声を上げる。
「知り合いか?」
「いえ。さっきもお会いしたので……」
そこにいたのは、さっき助けに入ってくれた黒スーツの男だ。
おもむろに彼は口を開く。
「同期です。新人の頃から、この人には酷い目に遭わされています」
そう言って、わたしのほうを見た。
なんか腹が立つ視線だわ。
「ちょっと。人聞きの悪いこと言わないでよ。あれらは事故でしょ」
「俺は毎回、死にかけたがな」
「防犯用の武器を当てたのは悪かったわよ。でも、あの時にもちゃんと謝ったでしょう。いつまでも昔のことをうるさいんだから……」
「なんだと」
彼が一歩近づいてきた。
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でも、そんな見下ろされるように睨まれたって、怖くないもんね。
負けじとじっと睨み返していると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。慌てて振り返ると、社長が面白そうな顔でこちらを見ている。
「随分と仲が良さそうだな」
「まさか!」
「違います」
思わず声が揃ってしまい、彼がまた苦い顔をした。
この男は、同期の柚木駿だ。
芳野総合警備保障の警備部警護課所属で、芸能人張りのイケメン。少しぶっきらぼうなところがわたしはどうかと思うが、女性人気は高いそうだ。
初めて柚木を見た時は、わたしも素敵な人だなーと思った。若気の至りというやつだけど。
ただ彼とは、なにかと間が悪い。
彼がいると、なぜかわたしは失敗する。
そもそものきっかけは、新入社員歓迎会だ。
新入社員が一堂に会し親交を深めるその会では、自己紹介としてそれぞれが得意なことを披露することになっていた。
念願の警備会社の企画開発室に所属が決まったわたしは、意気揚々と、学生時代に開発した防犯グッズの試作品を発表したのだ。
そして、小型のカラーボールを発射できるハンドガン型のそれを的に向かって発射した瞬間、離れたところで見ていた柚木の顔を掠めた。カラーボールは破裂せず、彼の後ろの壁にめり込む。
会場は一瞬シーンとなり、それから様々な悲鳴や叫び声が溢れ、阿鼻叫喚の嵐になった。
「お前! 危ないだろうっ!!」
わたしは頬にうっすらと血を滲ませた柚木に詰め寄られた。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか? おかしいな。練習ではうまくいったのに。わたし、射撃には自信があるんです」
「そういう問題か!?」
「本当にごめんなさい」
何度も謝ったけど柚木の怒りは収まらず、会も急遽中止になった。彼は治療のために病院へ連れていかれ、この事故がきっかけかどうかはわからないものの、翌年以降、この新入社員歓迎会はなくなった。
そして、彼との因縁はその後も続く。
たとえば、社内で警報器の実験中、偶然居合わせた彼に防犯ブザーの大音量を聞かせてしまったとか、たまたま彼が通りかかる前にまきびしをばらまいてしまうとか、そんなこと。
そのたびに彼からはすごい剣幕で怒られ、こっちだってうんざりしている。
普段、こんな失敗はしないのに、柚木がそばにいる時に限って迷惑をかけてしまうのはなぜなのか、わたしにだって謎だ。
だが、開発に失敗はつきもの。失敗なくして成功はない。
「――ならば、自己紹介の必要もないかと思うが、一応言っておく。警護課の柚木と安藤だ。当分の間、この二人にきみの身を守ってもらうことにした」
わたしの長い回想をぶった切るように社長が言った。柚木の隣にいる女性が一歩前に出る。
「安藤楓です。初めまして」
すらりと背が高く美人な彼女は、まるで見下すみたいにわたしを見た。なんだか、ものすごく嫌そう。
柚木も彼女もこの配置に不満があるようだ。もちろんわたしも。
「社長、他の人にしてくれませんか?」
「悪いが、彼ら以上の人材がいなくてね。特に柚木は凄腕だと評判だ」
わたしの願いはあっさりと却下された。
「じゃあ、絶対に研究の邪魔をしない、協力すると約束してください」
そう言うと、社長は一瞬、柚木たちを見て頷く。
「約束させよう。では、頼んだぞ」
社長が改めて二人を見た。まるで反論は認めないとばかりの怖い目だ。その瞬間、二人の表情が変わった。
ああ、プロなのね。
びしっと背筋を伸ばして社長からの指令を聞く彼らを見ながら、わたしはこっそりとため息をついた。
ただ毎日楽しく開発をしていたいだけなのに、こんなことになるとは……
誰とも知らない相手から狙われるのと、自分を嫌っている人間と四六時中一緒にいること。果たしてどちらがましなのか、今はまだ答えが出なかった。
2
怒濤の展開についていけないまま、不審者の体に貼りついた特殊な網を外すことで一日が終わった。
その間も柚木はわたしと一緒にいて、呆れた顔をしていただけだ。
結局、彼らがわたしのボディガードとして正式に動き出したのは、翌日からだった。
翌朝。わたしは出社し、まず商品開発部に顔を出す。
「桃井さん、おはようございます。昨日は大活躍でしたね。大丈夫でしたか?」
「おはようございます。ええ、大丈夫よ」
「通り魔を撃退したって、すごいじゃないですか!」
「あのまさかの投網型銃の実用性が証明されましたね!」
「ええ、そうね」
まさかってなによ、と思いつつ、奥へ進み、自分のデスクに向かう。
「桃井くん、おはよう」
隣の席に座っていた、年配の男性が顔を上げた。
「部長、おはようございます」
彼はわたしの上司だ。
「昨日は大変だったね。社長からボディガードの件も聞いたよ。こちらも用心するが、きみも十分注意するように」
「はい」
「彼は、もうきみのラボにいるよ」
「あー。はい……」
なんだか気が重い。
わたしはデスクの上にある書類を一通りチェックして、ファイルにまとめた。商品開発部のフロアには週に一、二度しか立ち寄らない。ほとんどの日は自分の研究室に直行している。
「ではしばらく籠りますので、なにかあったら内線お願いします」
そう部長に伝え、わたしは荷物を持って入り口とは反対側のドアを出た。
その先は、長い廊下が続いている。片側に洗面所と給湯室があり、さらにその奥を曲がるとエレベーターと非常階段がある。
エレベーターで地下二階まで下り、目の前のドアに手をかけた。
「――うへーっ、どえらいイケメンですね!」
中からすっとんきょうな声が聞こえる。
十五畳ほどの広さのその部屋は、〝商品開発部、課長室〟――通称ラボと呼ばれていた。開発用のコンピューターと作業机で、そのほとんどが埋まっている。
そんな部屋の真ん中で、わたしの助手の河合さくらが柚木の顔を見上げていた。そして、やおら自分のスマホを取り出し、写真を撮ろうとしたところで彼に遮られる。
「申し訳ないが、写真は厳禁だ」
「ええー、SNSにあげたりしませんよ。個人で楽しむだけなのにー」
さくらが残念そうな声を出す。
「写真くらい撮らせてあげたら?」
わたしがそう言いながら近づくと、柚木が振り返って苦い表情を浮かべた。
「あ、カチョー! おはようございます。カチョーのボディガード、超イケメンじゃないですかっ!」
さくらの楽しそうな表情を見て、わたしは彼と同じような苦い顔になる。
わたしより五つ年下の彼女は、優秀な助手だが若干ミーハーなところがあるのだ。
「おはよう、さくらちゃん。事情はもう聞いてる?」
作業台の上に荷物を置き、あえて柚木を見ないようにしてさくらに声をかけた。
「あ、はい。先ほど社長秘書の乃木さんが来て、一通り説明してくれました」
「そう。まあ、そういうことになったから、しばらくよろしくね」
「はい。それにしてもカチョーも大変ですねえ。変な組織に狙われるなんて」
「まったく困ったものよね。でもこんな時こそ通常営業。前回の続きをやりましょ」
「了解! では準備してきますね」
さくらが頷いて別室に消えた。それを見送って、今日初めて柚木に向き合う。
「その怖い顔はなんとかならないの? 朝から気分がだだ下がりよ」
「悪いが、これが地顔だ」
彼は面白くなさそうな顔、というより真面目な顔のままだ。
笑えばもっと素敵なのに……なんて、絶対口にしない。
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