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名無しの龍は愛されたい番外編(これ以後は拙作ごった煮集です~)

シュマギナール城にて(結婚編)ダラス×ルキーノ

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あの騒動から、15年。マダムヘレナから転生したという一報を受けて、ジルバが二人を孤児院に引き取りに行ったのが5年前。騒動から一年後、冥界では10年の償い期間を終えて生まれ直しをした兄弟は、現在14歳の双子として生きている。
互いに記憶を取り戻したのは、10歳になってからだという。ダラスもルキーノも、大熱に苦しみ喘ぐさなかの事だった。12歳でジルバに引き取られた二人は城に召し上げられ、その過去の記憶を駆使し、類稀なる神童として城の運営に携わっていたのだが、ダラスのルキーノに対する拗らせた愛と、ジルバの歪な愛情がタッグを組んでしまい、グレイシスは頭の痛い思いをしていた。

「しかしそれが国の発展を担っているのだから、あまり強くは出られぬな。」
「心中お察しいたします、王。まさか転生してまで我が兄の行いに振り回されることになるとは、さすがの僕も予測はしておりませんでした。」

苦笑いをもらしたルキーノが、若い儘の王、グレイシスに侍りながら恐縮する。
グレイシスは、ジルバと番った後、老いが緩やかになっていった。
現在は齢38歳であるが、見た目は20代前半ほどである。ジルバ自身も50は超えているが、半魔はもともと余り老いることがなく、グレイシスもジルバも胎内の魔力が練れなくなってからが老いていくらしい。ルキーノはその仕組みはわからないが、恐らく保有魔力が関係しているのだろうなということは理解していた。

「それよりも、貴様だルキーノ。兄の実験台に成り下がって、自身の意志は持たぬのか。幾ら今後の産業の一つに加えるための前段階確認とはいえ、貴様、物好きがすぎるぞ。」
「はい、でもぼくだけではありませんから。」

そういうと、ルキーノは膨らんだ腹を撫でた。
記憶を取り戻してからのダラスは、それはもう狂ったように研究に没頭していた。幼いながら小難しい本を借りてきては部屋に引きこもる。周りから見たら少し変わった男の子扱いを受けてきたものが、まさか過去の歴史に関わるような大罪を犯した元祭祀だとは誰も思わない。
ジルバによって召し上げられ、研究内容を把握したジルバが、これは使えると珍しく高笑いを下かと思えば、数日後には資材の揃った研究室が出来上がっていた。

突然の宰相の暴挙と、10代の身寄りのない少年に与える環境では無いと財務大臣ほか各所からは非難の声が上がったが、それはグレイシスが黙らせた。
この城で二人の正体を知っているものは王と宰相のみ。愚行だとあちこちから不満が膨れ上がったが、ダラスとジルバは何も気にせずといった様子でとんでもない術を生み出した。

「腹に直接陣を書いて妊娠させるとはな、なんとも突拍子のないことを考える。」
「若人と大人で成長の度合いを測ってはおりますが、今の所代わりはないようですよ。」

ルキーノの腹には、魔力を宿したインクで描かれた複雑な陣が施されている。これは消えぬインクで描かれており、透明で目立たなくなるのだが、妊娠をすると赤く浮かび上がるようになっているのだ。

腹の内側に直接魔力で子宮をつくるのだ。形成を終えるまでは拒絶反応がでないように見張っておかねばならないが、それ以降は通常の妊婦と制限は何ら変わらない。

そして、現在年齢に応じた成長スピードの確認をするために、ルキーノとユミルの腹に同じ陣が刻まれていた。

「ユミルさんのところは、高齢出産になるとのことでしたが成長は何ら問題はないそうです。むしろ腹に宿した魔力のおかげで、若返った気分と喜んでおりましたよ。」
「ユミル…レイガンのところの嫁か。あそこには水神の加護があるからな、そういう所も鑑みると普通の歳のとり方はしていないだろう。」
「ええ、まあ先日経過観察で登城してもらいましたが、40代にはみえませんでしたね。」

ルキーノは思い出すように言う。ユミルも同じ腹に刻むと、レイガンの種は見事に着床したらしい。妊娠がわかった瞬間に腹の紋が光ったのは恥ずかしかったと言っていたので、この意見は大切にしたほうがいいだろうとダラスには報告済みだ。
まあ、検討すると言っていただけだったので、もしかしたら直さない可能性もあるが。

兄は変なこだわりがありすぎるきらいがある。ルキーノはなんとなく、その光らせるのも趣味かもなあと思い至ると、それが正解なような気がして引きつり笑みを浮かべた。

「ルキーノ、腹の具合はどうなのだ。間もなくだろう。」
「普通に魔力が潤沢に供給できていれば、8ヶ月ほどで産まれるとはきいています。」
「そうか…しかし、少々物怖じするな。」
「王よ、ジルバ様はあなたとの間にお子をお望みです。そればっかりは逃れられないでしょうか、番なのですから。」
「……口にはするな、どういう顔をしていいかわからぬ。」

グレイシスは難しい顔を装ってはいるが、耳元はじんわりと赤く染めている。表情は取り繕えても耳は素直だとジルバが言っていたことを思い出し、可愛い人だなと思った。

「さて、僕もそろそろ帰り支度をしなくては。」
「若くして侍医であるお前が妬まれていることはわかっているだろう。その腹を抱えてひとりで帰ろうとするな。」
「…兄が来るとそれはそれで面倒なのですが、」
「俺はダラスに小言を言われたくはないからな。」

そういうと、グレイシスはダラスの研究室につながる陣にルキーノ帰宅の合図を送った。
この陣も実に画期的で、指先に魔力を込めて触れれば声が届けられるものだった。城の中でしか今のところは使えないが、範囲を広げて使えるようにするとダラスはそちらの方も重ねて研究をしていた。

「はい。」
「早く来い。ルキーノが一人で帰るつもりだそうだ。」
「すぐに。」

フッ、と発光していた陣の光が収まる。ダラスのあまりに早い反応に小さく背後からため息が聞こえてきた。

「父は慌てやですねえ。」

ルキーノは苦笑いを浮かべながらゆっくりと腹を撫でた。
研究もあるが、15歳という若さで術を使って孕んだルキーノは、周りからは異端扱いをされている。男性が孕ませる側というのが常識のこの世界で、それを根底から覆したのは他でもないナナシの存在だ。
御使いは魔力量が多い。だとしたら魔力が多い男性も孕めるのではないかと思ったのがきっかけだった。
ダラスは無属性魔術の身体に与える変化や向上性に着目し、それはもう地道に研究をしていった結果、男性自身、胎児の段階で雌と同じ子宮が性別の振り分けで退化することを発見した。ならば兆しはある。その部分を魔力で補って、活性化させてやれば妊娠ができるのではないか。
ダラスの読みは見事に当たった。莫大な魔力を使ったが、ジルバがたまたまコレクションをしていた名のある術師の身体の一部を媒体にして生み出した。

まあ、なぜ妊娠に研究が集中したかというと、単純に行き過ぎた独占欲である。

「ルキーノ、あれほどひとりで出歩くなと言っただろう…!」

バタン!とノックもなしに駆け込んできたのは、噂のダラスである。生まれ変わったとはいえ、双子だ。見た目はそこまで変わらないだろうと思っていたが、今世のダラスはしっかりとした男らしい身体付きであった。

薄茶色の髪を短く整え、緑の瞳でルキーノを見る。顔立ちはルキーノのほうが女顔であった。
体格は違う美しい兄弟だ。近親愛ではあるが、本人たちが愛し合っているので気にするものは外野の古狸共だけであった。

「この間も連れ込まれそうになったのを忘れたか。俺がたまたま気がついたから良かったが、もしあのまま押し倒されていたら、腹の子共々危険な目にあっていたのだぞ。」
「兄さん…」

なにがたまたまだ。ルキーノの長い髪を纏めている紐を、転移の標にしているくせに。そしてダラスが登録してあるもの以外が一定以上近づくと、ダラスの持つルキーノと揃いのミサンガが反応してダラスに知らせる仕組みになっているのだ。
なぜそんなことができるか。それはルキーノが侍医であるからして、健康診断でと言う名目で採血した様々な血をダラスは管理している。
もちろん、怪しまれないように証書はだすが、その血を使って選別をしているのは、ルキーノは知らない。知っているのはジルバとグレイシスのみである。

「とにかく、はやくその妊夫を連れて帰れ。ダラス、貴様も働き過ぎだ。余が貴様になにか怪しげな実験をさせていると疑われているのだぞ。帰れ。」
「はあ、またそれですか。俺は俺のやりたいことをしているだけだというのに、なぜ外野は後も騒がしいのか。会議のときに一気に黙らせられるようにしてやりましょうか。」
「お前のそれは洒落にならぬ。無駄口をたたくな。
明日から3日は城に来るのもなしだ。これは王の命令ぞ。」
「お気遣い痛み入りますよまったく、あ、ジルバ殿が今夜、あなたにも妊娠してもらうとおっしゃっていましたからね、おきばりください。」
「な、」

ダラスのなにか企んでいる様な笑みは昔と変わらず、グレイシスはその爆弾発言に大いに狼狽えた。ジルバが常々言っていた、ダラスの血を受け継ぐ子と王族の血を受け継ぐ子。二人の才能のある者のハイブリッドが城を支えてくれたら、さぞ楽だろうと。
互いが好きにならぬならそれでもいいが、今世のダラスの才能は引く手数多だ。ジルバはずる賢い。二人後を受け継ぐ子ですら、国を動かすためのものにしようとしているのだから。

「城中親戚まみれとは…まあ、ありえなくはないな。」 
「僕は自分の本能に従って生きてもらいたいけどなあ。」

グレイシスが頭が痛そうに呟いたのを、ルキーノが笑って肩をすくめる。たしかにそうである。

「俺はありだと思うがな。ジルバの考えは俺に似ている。」
「それは二人してサイコパスだからじゃない?」

ダラスとルキーノのやりとりには、ルキーノに軍配が上がった。やはりダラス自信も自分がサイコパスだということはなんとなく自覚はしていたらしい。
渋い顔をする様子が面白くて、グレイシスは少しだけ笑いそうになった。

ダラスは何も返せなかったらしい、誤魔化すようにルキーノの手を取ると、優しく引き寄せ腰を抱いて部屋を出た。
さり際にルキーノに、悪阻はきついですから頑張って。と謎の応援をされたのだが、孕む前からビビらせないでほしかった。

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