名無しの龍は愛されたい。

だいきち

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ジルガスタント編

エピローグ

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昔はこの国は皇国と呼ばれ、4つの国があるうちの一つだったらしい。
今は、賢王グレイシスによって一つに束ねられ、大国として一つの地続きになっている。元々は一つの土地を隔てて別れていた国々も、長い年月をかけて和解し、そして首都をシュマギナールとしている。
まあ、大きな理由は神が降臨されたからというから驚きだ。

ジルガスタントとカストール、そして皇国へと渡った神が、心を砕いて襲いくるスタンピードから国民を守り、そして争いの原因となったとある男を御心で許し、荒れた国民の心を一つにした。

らしい。

らしいというのは、これがもう随分と昔の話だからだ。
いまから、100年以上は昔の今日、まあ、正確な年数はわかっていない。だいたいそれくらいだろうという歴史学者の話だ。

昔は大変だったんだよと先生が言っていた。
今はグレイシス王によって市民権を得た半魔の物は虐げられ、そして空も力のあるものしか飛べなかったらしい。今は魔導という魔力を動力にした機械で空も跳べるし、転移しなくても荷物を預ければ簡単に目的地まで届けられる。

魔力適性検査だって昔よりもずっと精緻だから、自分の伸ばしたい部分を伸ばせるし、なによりも戦争が無い。あったとしても、それは大人たちの口論という名の外交戦争くらいで、国民の血が流れるなんてことはない。

なんでこんなことを言ってるかって?だって今日はシュマギナールの降臨の日であり、国としてのあり方が大きく変わった日だ。
死んだひいじいちゃん。アランってなまえらしい。アランじいちゃんが、僕のじいちゃんにずっと自慢してたんだって。俺は御使いに祝福されたことがあるって。
もしそれが本当なら、それってすごいことだ。歴史に伝説として残っている御使いに祝福された一族ってことでしょう?
学校での自由課題の発表もあるし、何にしようかなあって悩んでたけど、これはやるっきゃない。

「調べるのは構わんが、図書館では静かにな。」
「ねー、おにいさんもエルフなら長生きなんでしょ?昔のこととか知らないの?」
「なんだ。お前の目当てはこの私か。別に話してやるのは構わんが、私の時間は高いぞ。」

ニヤリと意地悪く笑う。この、王立図書館に務めるハーフエルフのおにいさんは、とっても頭が良くてものしりだ。この膨大な量の本の全てを頭に叩き込んでいるようで、お金を払うと対価に見合った話をしてくれる。ちょっと意地悪でとっても綺麗だから、この人目当てに来る人も多い。

たまにくる褐色のおにいさんと恋仲らしくて、噂によるとその人も王家の血筋らしい。
賢王グレイシスの弟も半魔だったって記録が残っているけど、その王弟もおにいさんと同じ黒髪に褐色の肌なんだって。

「サジ、あまり金を取るなと言っているだろう。君の知識は確かに価値のあるものだけど、この子は少年だぞ?」
「こいつ、アラン坊のとこの曽孫。」
「おや。それはそれは」

わしりと大きな手で頭を撫でられる。曾祖父ちゃんをアラン坊と呼ぶのは意味がわからないが、揃いと揃って顔がいい。
結局サジさんはおにいさんが来ちゃったから気が変わったとか言って教えてくれなかった。

「坊や、夕方頃に広場に行くと良い。」
「なんで?」
「あそこからの景色はなにかヒントになるかもしれないよ。」
「ヒント?」

それ以上は教えてくれなくて、いつもの笑顔で流されてしまった。
なんだかよくわかんないけど、広場ってカエルの噴水のとこだろうか。
お母さんには17時までには帰れって言われてるからちょっとくらいなら行けそうだ。

願いの蛙広場もずっとここにあるらしい。真っ直ぐ行くと王城で、ここよりもずっと広い城前で神が降臨されたらしい。

「んー、と」

お兄さんが行ったのが城前の方だったら、ちょっと遠いなあ。
まあ、いいかと噴水前のベンチにポテリと腰掛ける。この通り沿いにはデートスポットが多くて、僕はまだそういう人はいないけど、いつか素敵な彼女ができたときの為に、この街を紹介できたらなあっておもってる。

ちろりと目線を巡らせた。偶にここに、すごくきれいなお姉さんが通るのだ。今日はいないみたいで、それからちょっとだけ粘ったけどタイムリミットが来てしまった。

「やばい、うちに帰るバス無くなっちゃう!」
「おー、のせてこうか。」
「え?」

慌てて公園から出ようとしたら、聞き慣れた声が降ってきた。なんだと思って振り向くと、通り沿いに車を止めた赤毛のお兄さんが楽しそうに笑ってた。

「エルマー!なんで!?いつかえってきたの!?」
「今しがた。墓参りにかえってただけさ。ちょっとまってな。ナナシ、サイラス。乗せていいか?」
「え、他に誰かいるの!」
「嫁。」
「エルマー結婚してたの!?」

ぎょっとした。エルマーが結婚してたのなんて知らなかったからだ。この人はうちの古い知り合いらしい。お父さんが言ってたけど、エルマーさんはずっと若いままでいる。歳は教えてくれないけど、多分エルフだと思うって言ってた。

「こんにちは、サイラスくん?」
「ひ、ひろばのおねえさん!」

エルマーによって開かれた後部座席の扉。座っていたのは僕が密かに憧れていたお姉さんで、腕には赤ちゃんを抱いていた。衝撃で絶句する僕を押し込むようにしてエルマーが後部座席に乗せると、エルマーの助手席を陣取るように銀色の猫が丸くなって寝ていた。

「な、え、エルマーの、こ、こどっ」
「3人目産まれたんだ。まあ、俺の故郷で産みてえって言うから帰ってた。」
「墓参りしてたんじゃないの!?」
「だから、産んでから見せに行ったんだよ。」
「態々家ごと引っ越して!?」
「引っ越してねえ。別宅があるんだあ。」

どんだけ金持ってんだよ!!と思わず突っ込んでしまった。エルマーがドリアズに家を持ってるのは知ってたけど、カストールにまであるとは知らなかった。生まれ故郷はそっちって言ってたけど、ドリアズはナナシさんの故郷なんだろうか。
隣からめちゃくちゃいい匂いがする、どきどきしてきた。

「アランによく似てるね。えーと、サイラスくん?」
「あ、は、はい…よ、よくいわれます…赤ちゃん、かわいいですね…」
「ありがとう、エルマーに似て赤毛なんだ。」

ナナシさんはふくふくとした赤ちゃんを見せてくれて、ミルクの甘い匂いがした。小さい手がかわいい。上の子って僕と同じぐらいかな。引っ越したりしてるから、もしかしたらドリアズに帰ってきたりするのかな。

「上のサディンは城で近衛やってんだ。んでその弟のウィルはカストールで医者。」
「僕より年上じゃん!!ええ!?エルマーもナナシさんもいくつよ!?」
「ひみつー、」
「ひみつ。」

ナナシさんは笑うととっても可愛くて、無邪気にしーってやってるのがもう、え?なんでエルマーこんな人と結婚できたのだろうか。仕事してるイメージないけどなあ。
思わずエルマーを見ていると、ナナシさんの手が僕の頭を撫でた。

「えるはとってもかっこいいの。僕の旦那さんが、お仕事なんだよ。」
「なにそれ羨ましい…」
「いいでしょう。あげないよ?」

そんなやり取りをしてるうちにお家についてしまって、僕を家の前まで送ってくれたエルマーとナナシさんはまたねっていって行ってしまった。
結局広場の事はわかんなかったけど、ナナシさんに聞いてみたら語られてる英傑の御使いと人間が初めてデートした場所なんだって。
そんなのはどこの文献にも書いてないから確かかはわからないけど、ずっとあるデートスポットだからそうなのかなあって納得するしかなかった。

エルマーも年齢不詳だけど、3人の子供がいる親なんだなあ。お姉ちゃんが知ったら悲鳴をあげそうだ。
なんでって、ドストライクらしい。それでも隣に立ってるのがナナシさんなら勝ち目は無いだろう。

あんな素敵な人と結婚できたらとは思うけど、まあ無理な気がする。

今では男の人も産める時代になったし、もしかしたら僕が産むこともあるかも知れない。
拗らせた大魔道士ダラス様が弟を孕ますために編み出したらしいその魔法は、グレイシス王の配偶者である半魔の男の手によって薬品化され、市場に出回ったらしい。なんでも、この地の力のある者の魔力を集めて作られたらしいけど、そんなのどうやって集めたっていうんだ。一番魔力を抽出しやすいのは髪の毛らしいけど、そんなのちまちま集めるのなんて出来っこないし。
まあ、死人に口なし。そのことに関してはシュマギナール最大の謎となっており、文字通り神のみぞ知るだ。

ちなみにエルマーはその話にやけに詳しかったけど、わかりやすく言うとみんな拗らせてる。とか言ってた。
今やその血筋は国の中枢を担う機関の主要人物が纏めていて、各国にその知能を貸し出すということで他国の発展に貢献してるらしい。全く魔女みたいなやり口をよく考えたもので、しかもそれがまかり通っているのだからすごい。大魔道士ダラスと配偶者ルキーノの子供たちが、王の配偶者である半魔の魔女と王の子供たちとタッグを組んでしまったのだ。

そりゃあもう、おなじDNAが続くだけでもすごいのに、かけ合わさっちゃったら怖いものなしだろう。

え、よく考えたら僕の住んでるシュマギナールって凄いのかもしれない。
こんなに書くことがたくさんあるのに、僕の文章力が無いせいで未だページが真っ白なのは否めない。

明日は学校で発表があるのに、まっさらすぎて逆に清々しい。もともと台本通りに行かないのが人生だからとじいちゃんも言っていた。これは潔く諦めるしかないだろう。

僕は諦めてペンを置くことにした。帰ったあとに直ぐ纏めようと思ったけど、お母さんが下でごはんだよって叫ぶから集中が切れてしまったのだ。

「いまいくー!!」

腹が空いては戦はできぬ、英傑の一人がモットーにしてたらしい東の国の言葉。
まったくもってそのとおりである。僕の憧れの人に習って、僕は元気よく返事をした。



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