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再びのドリアズ編
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「だめだめ!うちの船に魔獣は乗せらんないんだよ!騎乗獣は貨物扱いになるからね、悪いんだけど下で手続きして、乗船は人だけ!貨物は下にあるコンテナにいれてきて!」
「ああ!?アロンダートが貨物だと!?どこをどう見ても貨物なんかではない!!立派な雄だろうが!!それにサジは今普通にできないんだ!おまえがサジの椅子にでもなるのかー!!」
カストールに向かうための船着き場、ドリアズから一日程でついた小さな町で、エルマー達はまさかの足止めを喰らっていた。
サジの真横で魔獣に徹するアロンダートが、その姿では乗船できないと言われたのだ。
「雄雌関係なく、魔獣は貨物だから!!お兄さんの椅子にはならないけど車椅子ならかせるよ!!ほら乗らないなら下がってくれ、次の客がつかえてる!」
「ああ!?貴様、人が下手にっ」
「おうおう、おまえは下手には出てねえしちょっとヒートアップしすぎだからこっちなあ!」
憤慨するサジのおかげで、随分と注目を集めてしまった。エルマーは慌ててサジの体をアロンダートに跨らせると、そそくさと列から連れ出した。
乗船するらしい人々の視線が背中に突き刺さる。どうやらサジが喚いたせいで注目を集めたようだ。出だしからこれでは先が思いやられる。エルマーの表情はわかりやすく疲労していた。
「おまえは!!なんでそんな元気ハツラツなんだああ!!だいたいアロンダートに転化解いてもらえばいいだろうが!朝っぱらから悪目立ちすんじゃねえってんだ!!」
「む、なるほど道理である。」
「道理である。じゃねええええ」
ああ、朝から一段と疲れた。いらぬ疲労感は深い溜め息となって現れる。こんな具合じゃ再び並び直すのも面倒くさい。一便逃して次を待ったほうが目立たないだろう。
そう考えるエルマーをよそに、アロンダートはバサリと飛び立った。その数分後に元の姿で戻ってきたので、もう魔獣の姿でいることは諦めたらしい。
「僕が最初からこうしていればよかったな。」
「つーかサジが消えときゃよかったんじゃねえか。」
「あ。」
「あ。じゃねえ!!」
神使であると言うことすら忘れていそうである。サジは思い出したかのように自らの姿を消す。やはり元気なゴーストは伊達ではない。エルマーが確認をするように手のひらを開くと、確かに刻まれた刻印の中にサジはいた。
ーああ、なるほどサジは神使様なのですか。
ーそうだ。こうみえても名前持ちの魔女だったんだぞ。ふむ、なるほどこれは確かに歩かなくていいから楽だな。
「やめろ頭ん中で談義してんじゃねえ!」
仲間が増えたと言わんばかりに、ルキーノが少しだけはしゃいでいる。頭の中で二つの呑気な声が重なるのだ。エルマーはまたしても顔に疲労を貼り付けるとしっかりと抗議する。
「ふぉ、」
「なんだ朝から騒々しい。」
辟易としたレイガンの声が降ってきた。どうやら買い物はもう終わったらしい。ナナシの手に持っているのは、椰子の実に吸い口を差し込んだ飲み物だ。船に向かう途中で、ナナシが興味を示したので、エルマーがレイガンといってこいと財布を渡していたのだ。
緑色のまあるい木の実を満足そうに両手で持ちながら、ちう、と一口吸ってはぱたぱたと尾を振る。今日もナナシはごきげんだった。
「俺はいい、ナナシが全部のめ。」
「はわ……」
おずおずと差し出された椰子の実を、レイガンが断る。どうやら黒蜥蜴の一件から、ナナシの味覚をあまり信用していないようだ。
エルマーはというと、再びサジを呼び出すやいなや、船に乗る時はしっかりと姿を消しておけよと念を押していた。これ以上脳内で会話が盛り上がるくらいなら、姿を出してもらた方がまだマシだ。
「なんだそれ!サジも飲む!よこせ!」
「いいよう、どーぞ。」
「んなカツアゲみてえなノリでいうなや……」
アロンダートによって、ベンチへと座らされた。サジが動き回るくらいなら、そばに置いておこうと思ったらしい。誠にいい判断である。
不遜な態度でナナシに椰子の実を強請るあたり、サジのせいで船を見送る羽目になったことは反省していなさそうだ。
頭の痛そうな顔で項垂れるエルマーの斜め後ろでは、海鳥に食らいついたギンイロがレイガンによって頭を叩かれていた。
「それにしても、空気がピリピリしてないか。観光ってわけじゃなさそうだ。」
「ああ、まあ身なりを見る限り商人だろう。追い返されているものもいるな……」
ー盗み聞きする限りでは、カストール側の情勢が少し荒れている……ようですね。
「まじでか」
ルキーノが会話を拾ってくれたらしい、レイガンの言葉に応えるように言葉を返す。どうやら先程の船乗りもそれで余計に苛立っていたのだろう。
ーなんでも、皇国に対してあまり良い印象は……あ、ないですね。今シュマギナールの商人の一人が船員と口論になっています。
「大地ぬけてカストール寄らねえって手立てはあるけどよ、」
「それはいやだ。サジの腹の具合が悪いからな、できれば安全なルートで向かいたい。」
「だよなあ。」
椰子の実を、ごくごくと飲んでいるサジの隣で、アロンダートがしっかりと言い切る。
ナナシはというと、己の分まで飲まれてしまいそうな勢いに半泣きであった。
「んぐ、なあ。ニアはだめなのか。水の神だろう、海は渡れぬのか。」
「ひん……っ」
飲みほされた椰子の実だけがナナシに返される。大きなお耳をションモリとさせて情けない顔を晒す姿が、なんとも哀感を誘う。
いじめられたナナシの代わりに、レイガンがサジの頭を叩く。サジの大人気ない振る舞いを見かねたらしい。
「いじめっ子め。無理だ。前にニアに聞いたが、だめだと言っていた。」
「みんな勘違いをしているなー。ニアは水の神、海には海の神がいる。不躾にその領域を侵害してしまえば、ニアは海の神に怒られる。そうすると、多分乾燥する。塩だし。知らんけど。」
「おい、あまり這い回るな。」
「うーん、でもなあー……」
それでも手立てはないこともないらしい。ニアは何かを悩むように忙しなくレイガンの体の上を這い回ると、ようやく首元で落ち着いた。細長い舌を、チロチロとちらつかせる。無表情であるはずの蛇の顔が、心なしかげんなりしているようにも見える。
「すごく嫌だけど、すごくすごく嫌だけど、海の神にお願いすることはできる。」
「海の神に?」
「まあ、同じ水回り関連のよしみで。」
「水回り関連……」
エルマーがなんとも言えない顔でニアを見る。神様の括りをそんな所帯じみた言葉でまとめていいのかと思ったのだ。
そんなエルマーの呆れた目も、ニアにとってはご褒美だったらしい。熱視線スキ。と言いながらチロチロと舌を出している。
「海の神には、まず酒だろー。それと、美しいものの贄がいるなー。」
「却下。人死が出るならやらなくていい。」
「でないぞ。ただ、海を渡っている最中は侍っていればいいだけだ。」
「侍り専門ならサジだなあ。」
「エルマー、ちょっと僕と話そうか。」
なら、贄はサジかといった瞬間に、笑顔のアロンダートに肩を掴まれた。解せぬ。
しかしまだ話は終わっていなかったようだ。ニアがにょろりと体を伸ばしてエルマーの前まで顔を寄せると、揶揄うように舌をちらつかせながら宣った。
「海の神と酒の飲み比べをして、勝ったら願いを叶えてくれるってのも、あるぞー。」
「のった。」
ニアの言葉にわかりやすく態度を変えたエルマーに、白い目が降り注ぐ。酒の飲み比べならエルマーの出番だろう。海の神とやらがどれほどの酒豪なのかはしらないが、身体強化をつかえるエルマーにとって、酒精などないも同然。
実にいい顔で受けて立つと応えるエルマーに、ニアはその身を揺らして楽しそうに笑った。
「なら、よびだすかー。ここじゃ狭いから、広いところだなー。」
「狭い?」
ここは港でだ。船着き場ということもあり、ある程度の広さはある。エルマーは怪訝そうな顔で聞き返すと、ニアはキョトンとした顔で言った。
「そりゃあ、せまいよ。船よりもでかいからなー。」
仕方なく人気のいないところまで、随分と港から離れて移動した。近くには小型の魔物が住処にしているらしい洞穴があり、少しだけ臭う。
ゴロゴロとした石が転がる足元では、潮の満ち引きで置いてけぼりにされた物達がいた。小さな海の水溜りには、カニやら小魚やらが停泊するように泳いでいる。
カストールまでは、このまま真っ直ぐに突き進むだけなのにとんだ手間である。
エルマーがどかりと酒樽を下ろす。乗船を断られた商人から買い取ったものだ。無駄になるよりはいいと快く売ってくれたそれは、なかなかに上等な酒だった。
「呼ぶぞエルマー。まあ、どっちを選ぶかは海の神しだいだからなー。」
「俺はもう何が来ても驚かねえぜ。」
「おー、じゃあがんばれー。いくぞー」
エルマーとニアを残し、ナナシ達は言われるがままに後ろへと下がる。ニアいわく、海の神とやらは陽気な奴らしいが、なにせ登場が派手だから水飛沫には気をつけろとのことだった。
そしたらこれである。見事に距離が空いた。構わないのだが、符には落ちない。
ニアが紫の瞳を輝かせる。鎌首をもたげ、波間に向かってシュー、シュー、と空気の抜けるような声を数度出したときだった。
「どわ、っ!」
エルマーの足元が、大きく揺れた。がろがろと石同士が摩擦する硬質な音がする。地震でも起きたのかと勘違いするほどの揺れがしばらく続いたかと思うと、エルマーの目の前で海が爆発する。白い水飛沫が大きく上がり、押されるようにして、エルマーの体は転がった。
「いつつつつつ……ったく、な……」
なんだっていうんだ。抗議じみたエルマーの声は、音にならなかった。
あっけにとられたように、上を見上げる。背後のレイガン達も揃いも揃って口を開けた間抜け面を晒すのだ。
呆けて見上げるエルマーの体を、大きな影が飲み込むようにして見下ろしていた。
横長の、大きな目玉が二つ。ぎょろりとエルマーを視界に収めては、丸い頭をぷよぷよと揺らしている。
肘を付くように岩場に乗せる吸盤のついた触手や、しゅこりと動く注ぎ口のような口。体表に不思議な模様を浮かばせるその姿は、正しく巨大な蛸だった。
「我が名はガニメデ!!酒をよこせ!麗人を捧げろ!さもなくばルルイエに連れていくぞ!!ぐわはははは!!」
「ルルイエ……?」
「ガニメデの海底神殿だなー。実家のようなものだ。」
「え、これクラーケンじゃねえの?」
「種族違いだ!!イカのクソ野郎と俺様を一緒にするな!!」
「うわうるせえ。」
わかりやすく顔色を真っ赤に染めてガニメデが吠える。
不思議な響きの名を持つ海の神は、にゅるにゅると触手を滑らせ酒樽を掴むと、そのまま体の内側にしまい込む。それから数秒程度だろうか。どうやら飲み終えたらしいそれを、投げ捨てるようにペイッと吐き出した。
ニュルンと伸ばした触手の一本を、樽の中にしまい込む。そのまま陸に乗り上げるようにして中に収まろうとするガニメデの姿を前に、エルマーが声を荒げた。
「バカ、でけえんだから全部乗りきんねえだろう!」
「人間、デケえという言葉は美しくない。申すなら偉大である。」
エルマーの予想とは裏腹に、ガニメデは驚きの収納力で吸い込まれるように体を納めた。異空間魔法でもかかっているのかと言わんばかりの現象に、エルマーは驚きすぎて言葉を失った。
「ば…、お、おわあ…」
一体どんな現象だ。あっけにとられる面々の目前で、樽の四隅にばこりと穴が空いた。触手が姿を表すと、樽を地べたから持ち上げる。
見た目は、手足の生えた樽に見えなくもない。なんとも不格好だが、ガニメデが陸に上がるときはだいたいこうらしい。いわく、郷に入っては郷に従え。なるほど素肌を見せないための配慮である。
魔物のような見た目で随分な気遣いができる。エルマーはますます訳がわからないと言った具合に動揺すると、つい思ったことを口走る。
「威厳はあ!?」
「ガニメデは陽気だからなー。」
「はわ……すごい……かこいい……」
興味津々な様子のナナシが、目を輝かせて近づいてくる。尾がブンブンと揺れているのを見る限り、どうやら蛸は初めて見たらしい。
そんなナナシの姿に、めざとくガニメデが瞳を輝かせる。どうやらその容姿がお眼鏡にかなったらしい。穴の一つから目玉を出すと、しゅこりと口を動かして宣った。
「そこの麗人、貴様の足はいくつだ。」
「あし?あんよはにほんで、おててもにほんだよう」
「四本か。フン、話にならんな!顔が良くても足が足りぬ!足だ!!多足の麗人を連れてこい!!」
「え、なんだこれ。」
「ガニメデのおねだりだなー。叶えてくれれば乗せてくれるとおもうぞー。」
チェンジで、と言われたナナシはキョトンとしたまま自分の腕を見る。なんてことない普通の腕だ。よくわかっていないナナシの頭を撫でると、エルマーはくるりと振り向いた。
「アロンダート。」
「なんだ。」
「腕だけ増やせるよな?」
「増やせるというか、まあ出すだけだからな。」
アロンダートはやはり来たかといった顔で笑った。この仲間で多腕なんてアロンダートしかいない。麗人扱いするのなら魔獣の姿はダメである。
着ていた外套を脱いだアロンダートがサジへとそれを手渡した。わかりやすく顔に驚愕を貼り付けるサジはしかし、引き留めるようなことはしなかった。
「ガニメデ殿。僕はどうだろう。」
「む?」
アロンダートは、ガニメデの目の前でシャツの前を開けた。両手を広げると、腹に刻まれた刺青のような模様が剥がれるようにして腕へとかわる。均整の取れた体を晒すようにして生地を持ち上げた四本目の腕は、しっかりとガニメデの目の前へと晒された。
「なんと!!!!六つ!!!!!」
「うわっ」
高揚を隠さない声色とともに、アロンダートへと触手が伸ばされる。引き締まった腰を引き寄せるようにして絡めとると、ガニメデはアロンダートを引き摺り込むようにして海の中へと姿を隠した。
唐突な行動に、身構えるエルマー達をよそに、陸へと残された割れた樽の破片が揺れる。
アロンダートはというと、水飛沫は浴びたものの、己に絡まった触手一本のみが海上に残されていたので無事だった。
「よい!!これだ!!これぞ俺の求めていた至高の雌!!このガニメデのつが、」
「誰が糞タコの番にさせるかあああ!!」
「あーあーあー……」
言わずもがな、サジである。
やると思ったと言わんばかりの顔をする仲間達の目の前で、相変わらずの美しい術捌きで鎌鼬を繰り出した。スパンと音を立ててとガニメデの触手を切り落とせば、アロンダートは触手を巻きつけたままガニメデの頭の上位落下した。
「貴様ァ!!このガニメデの偉大なる六本目の腕を切断するなど言語道断だぞ!!母なる海の神、ガニメデがそのような不敬を許すとでも思っているのかァ!!」
「笑わせるでないわ!!サジは生命の大樹の神使であるぞ!!その神使の番いを寝取ろうなどと、お館様が許してもサジが許さぬ!!」
「寝取ろうとはされていないな。」
アロンダートの冷静な一言だけが虚しく響いた。
サジの言葉にその目を大きく開いたガニメデは、ぬちゃぬちゃとした粘着質な分泌液を滴らせながら唸りだした。
ニアいわく汗らしいそれは、わかりやすくガニメデの動揺の表れだ。捻くれ方が尋常ではないらしい生命の大樹様は、神の間でも面倒臭いと思われているようだ。
「生命の大樹……貴様、セフィラストスの秘蔵っ子か!!!」
「誰だそれ。」
「サジが傅く神様だなー。まあ、ニアたちの間では特段変わりもので、扱いづらい神様だー。」
相変わらずの間延びした声でニアは言う。変わりもので扱いづらいとは、まんまサジだ。当事者以外は満場一致の納得である。
ガニメデの狼狽えかたがわかりやすい答えであった。神様に嫌がられる神様ってなんだと、エルマーは引き攣り笑みを浮かべる。
「馬鹿なタコめ!!それにここには御使いもいるのだぞ!!このすっとぼけがお前らなんかよりもずーーーっとえらいのだ!!一介の神ごときが御使いに叶うかァ!!」
「あ?御使いってそんなやべえの?」
ーエルマー、ええとですね。御使いというのは始祖に傅くもので、その始祖の一部がニア様やガニメデ様になったのです。まあ、えらいです。
「偉いのか。」
サジが指し示したナナシはというと、相変わらずのマイペースを決め込んでいた。
ルキーノいわく、始祖が最初に己の魂を分け与えたとされる御使いは、ガニメデ達からすれば頭の上がらない存在だ。そんなナナシがパタパタと尾っぽを振りながら、レイガンの指につままれている蟹を前に手を叩いて喜んでいる。
気の抜けるような光景に癒されたのは、おそらくエルマーだけだろう。
「まあなんだっていいやな。おいナナシ!ガニメデにカストールまで乗せろってお願いしてくんねえ?」
「うん、いいよう。」
蟹の代わりにちいさなヤドカリを摘んだナナシが、エルマーの声にいい子のお返事をする。
己の元へと歩みを進めるナナシを前に、ガニメデはわかりやすく居住まいを正した。どうやら魔力を見たらしい。最初から検分しろとも思わなくもないが、まさかこんなところで御使いに出会うとも思うまい。
「あのね、かすとーるまでつれてってほしいのう。えるがね、がにめでにおねがいっていってるよう。」
「御意に。」
「わはは、目上だと思った途端にかー。ガニメデはあいかわらずだなー。」
即答するや否や、ガニメデはいそいそとその身を海の底深くまで潜らせた。
数十分程だろうか。なかなか戻ってこない様子から痺れを切らしたエルマーが、海を覗き込もうとしたその瞬間。海面が先程よりも、グワリと大きく盛り上がった。
「な……」
エルマーの目の前で、海面を突き破るようにして朽ちた帆船が現れた。巨大な船の影が、大量の水飛沫とともにエルマー達に降り注ぐ。
歴史を感じさせる巨大な帆船はおどろおどろしさも纏っていた。深海から引き摺り出してきたのだろうそれに、本日数度目の驚愕を顔に貼り付けていれば、帆船を頭に乗せたガニメデが大袈裟に言ってのけた。
「通称ガニメデの寝床!!沈没船に乗せてやろう!!」
「ああ!?アロンダートが貨物だと!?どこをどう見ても貨物なんかではない!!立派な雄だろうが!!それにサジは今普通にできないんだ!おまえがサジの椅子にでもなるのかー!!」
カストールに向かうための船着き場、ドリアズから一日程でついた小さな町で、エルマー達はまさかの足止めを喰らっていた。
サジの真横で魔獣に徹するアロンダートが、その姿では乗船できないと言われたのだ。
「雄雌関係なく、魔獣は貨物だから!!お兄さんの椅子にはならないけど車椅子ならかせるよ!!ほら乗らないなら下がってくれ、次の客がつかえてる!」
「ああ!?貴様、人が下手にっ」
「おうおう、おまえは下手には出てねえしちょっとヒートアップしすぎだからこっちなあ!」
憤慨するサジのおかげで、随分と注目を集めてしまった。エルマーは慌ててサジの体をアロンダートに跨らせると、そそくさと列から連れ出した。
乗船するらしい人々の視線が背中に突き刺さる。どうやらサジが喚いたせいで注目を集めたようだ。出だしからこれでは先が思いやられる。エルマーの表情はわかりやすく疲労していた。
「おまえは!!なんでそんな元気ハツラツなんだああ!!だいたいアロンダートに転化解いてもらえばいいだろうが!朝っぱらから悪目立ちすんじゃねえってんだ!!」
「む、なるほど道理である。」
「道理である。じゃねええええ」
ああ、朝から一段と疲れた。いらぬ疲労感は深い溜め息となって現れる。こんな具合じゃ再び並び直すのも面倒くさい。一便逃して次を待ったほうが目立たないだろう。
そう考えるエルマーをよそに、アロンダートはバサリと飛び立った。その数分後に元の姿で戻ってきたので、もう魔獣の姿でいることは諦めたらしい。
「僕が最初からこうしていればよかったな。」
「つーかサジが消えときゃよかったんじゃねえか。」
「あ。」
「あ。じゃねえ!!」
神使であると言うことすら忘れていそうである。サジは思い出したかのように自らの姿を消す。やはり元気なゴーストは伊達ではない。エルマーが確認をするように手のひらを開くと、確かに刻まれた刻印の中にサジはいた。
ーああ、なるほどサジは神使様なのですか。
ーそうだ。こうみえても名前持ちの魔女だったんだぞ。ふむ、なるほどこれは確かに歩かなくていいから楽だな。
「やめろ頭ん中で談義してんじゃねえ!」
仲間が増えたと言わんばかりに、ルキーノが少しだけはしゃいでいる。頭の中で二つの呑気な声が重なるのだ。エルマーはまたしても顔に疲労を貼り付けるとしっかりと抗議する。
「ふぉ、」
「なんだ朝から騒々しい。」
辟易としたレイガンの声が降ってきた。どうやら買い物はもう終わったらしい。ナナシの手に持っているのは、椰子の実に吸い口を差し込んだ飲み物だ。船に向かう途中で、ナナシが興味を示したので、エルマーがレイガンといってこいと財布を渡していたのだ。
緑色のまあるい木の実を満足そうに両手で持ちながら、ちう、と一口吸ってはぱたぱたと尾を振る。今日もナナシはごきげんだった。
「俺はいい、ナナシが全部のめ。」
「はわ……」
おずおずと差し出された椰子の実を、レイガンが断る。どうやら黒蜥蜴の一件から、ナナシの味覚をあまり信用していないようだ。
エルマーはというと、再びサジを呼び出すやいなや、船に乗る時はしっかりと姿を消しておけよと念を押していた。これ以上脳内で会話が盛り上がるくらいなら、姿を出してもらた方がまだマシだ。
「なんだそれ!サジも飲む!よこせ!」
「いいよう、どーぞ。」
「んなカツアゲみてえなノリでいうなや……」
アロンダートによって、ベンチへと座らされた。サジが動き回るくらいなら、そばに置いておこうと思ったらしい。誠にいい判断である。
不遜な態度でナナシに椰子の実を強請るあたり、サジのせいで船を見送る羽目になったことは反省していなさそうだ。
頭の痛そうな顔で項垂れるエルマーの斜め後ろでは、海鳥に食らいついたギンイロがレイガンによって頭を叩かれていた。
「それにしても、空気がピリピリしてないか。観光ってわけじゃなさそうだ。」
「ああ、まあ身なりを見る限り商人だろう。追い返されているものもいるな……」
ー盗み聞きする限りでは、カストール側の情勢が少し荒れている……ようですね。
「まじでか」
ルキーノが会話を拾ってくれたらしい、レイガンの言葉に応えるように言葉を返す。どうやら先程の船乗りもそれで余計に苛立っていたのだろう。
ーなんでも、皇国に対してあまり良い印象は……あ、ないですね。今シュマギナールの商人の一人が船員と口論になっています。
「大地ぬけてカストール寄らねえって手立てはあるけどよ、」
「それはいやだ。サジの腹の具合が悪いからな、できれば安全なルートで向かいたい。」
「だよなあ。」
椰子の実を、ごくごくと飲んでいるサジの隣で、アロンダートがしっかりと言い切る。
ナナシはというと、己の分まで飲まれてしまいそうな勢いに半泣きであった。
「んぐ、なあ。ニアはだめなのか。水の神だろう、海は渡れぬのか。」
「ひん……っ」
飲みほされた椰子の実だけがナナシに返される。大きなお耳をションモリとさせて情けない顔を晒す姿が、なんとも哀感を誘う。
いじめられたナナシの代わりに、レイガンがサジの頭を叩く。サジの大人気ない振る舞いを見かねたらしい。
「いじめっ子め。無理だ。前にニアに聞いたが、だめだと言っていた。」
「みんな勘違いをしているなー。ニアは水の神、海には海の神がいる。不躾にその領域を侵害してしまえば、ニアは海の神に怒られる。そうすると、多分乾燥する。塩だし。知らんけど。」
「おい、あまり這い回るな。」
「うーん、でもなあー……」
それでも手立てはないこともないらしい。ニアは何かを悩むように忙しなくレイガンの体の上を這い回ると、ようやく首元で落ち着いた。細長い舌を、チロチロとちらつかせる。無表情であるはずの蛇の顔が、心なしかげんなりしているようにも見える。
「すごく嫌だけど、すごくすごく嫌だけど、海の神にお願いすることはできる。」
「海の神に?」
「まあ、同じ水回り関連のよしみで。」
「水回り関連……」
エルマーがなんとも言えない顔でニアを見る。神様の括りをそんな所帯じみた言葉でまとめていいのかと思ったのだ。
そんなエルマーの呆れた目も、ニアにとってはご褒美だったらしい。熱視線スキ。と言いながらチロチロと舌を出している。
「海の神には、まず酒だろー。それと、美しいものの贄がいるなー。」
「却下。人死が出るならやらなくていい。」
「でないぞ。ただ、海を渡っている最中は侍っていればいいだけだ。」
「侍り専門ならサジだなあ。」
「エルマー、ちょっと僕と話そうか。」
なら、贄はサジかといった瞬間に、笑顔のアロンダートに肩を掴まれた。解せぬ。
しかしまだ話は終わっていなかったようだ。ニアがにょろりと体を伸ばしてエルマーの前まで顔を寄せると、揶揄うように舌をちらつかせながら宣った。
「海の神と酒の飲み比べをして、勝ったら願いを叶えてくれるってのも、あるぞー。」
「のった。」
ニアの言葉にわかりやすく態度を変えたエルマーに、白い目が降り注ぐ。酒の飲み比べならエルマーの出番だろう。海の神とやらがどれほどの酒豪なのかはしらないが、身体強化をつかえるエルマーにとって、酒精などないも同然。
実にいい顔で受けて立つと応えるエルマーに、ニアはその身を揺らして楽しそうに笑った。
「なら、よびだすかー。ここじゃ狭いから、広いところだなー。」
「狭い?」
ここは港でだ。船着き場ということもあり、ある程度の広さはある。エルマーは怪訝そうな顔で聞き返すと、ニアはキョトンとした顔で言った。
「そりゃあ、せまいよ。船よりもでかいからなー。」
仕方なく人気のいないところまで、随分と港から離れて移動した。近くには小型の魔物が住処にしているらしい洞穴があり、少しだけ臭う。
ゴロゴロとした石が転がる足元では、潮の満ち引きで置いてけぼりにされた物達がいた。小さな海の水溜りには、カニやら小魚やらが停泊するように泳いでいる。
カストールまでは、このまま真っ直ぐに突き進むだけなのにとんだ手間である。
エルマーがどかりと酒樽を下ろす。乗船を断られた商人から買い取ったものだ。無駄になるよりはいいと快く売ってくれたそれは、なかなかに上等な酒だった。
「呼ぶぞエルマー。まあ、どっちを選ぶかは海の神しだいだからなー。」
「俺はもう何が来ても驚かねえぜ。」
「おー、じゃあがんばれー。いくぞー」
エルマーとニアを残し、ナナシ達は言われるがままに後ろへと下がる。ニアいわく、海の神とやらは陽気な奴らしいが、なにせ登場が派手だから水飛沫には気をつけろとのことだった。
そしたらこれである。見事に距離が空いた。構わないのだが、符には落ちない。
ニアが紫の瞳を輝かせる。鎌首をもたげ、波間に向かってシュー、シュー、と空気の抜けるような声を数度出したときだった。
「どわ、っ!」
エルマーの足元が、大きく揺れた。がろがろと石同士が摩擦する硬質な音がする。地震でも起きたのかと勘違いするほどの揺れがしばらく続いたかと思うと、エルマーの目の前で海が爆発する。白い水飛沫が大きく上がり、押されるようにして、エルマーの体は転がった。
「いつつつつつ……ったく、な……」
なんだっていうんだ。抗議じみたエルマーの声は、音にならなかった。
あっけにとられたように、上を見上げる。背後のレイガン達も揃いも揃って口を開けた間抜け面を晒すのだ。
呆けて見上げるエルマーの体を、大きな影が飲み込むようにして見下ろしていた。
横長の、大きな目玉が二つ。ぎょろりとエルマーを視界に収めては、丸い頭をぷよぷよと揺らしている。
肘を付くように岩場に乗せる吸盤のついた触手や、しゅこりと動く注ぎ口のような口。体表に不思議な模様を浮かばせるその姿は、正しく巨大な蛸だった。
「我が名はガニメデ!!酒をよこせ!麗人を捧げろ!さもなくばルルイエに連れていくぞ!!ぐわはははは!!」
「ルルイエ……?」
「ガニメデの海底神殿だなー。実家のようなものだ。」
「え、これクラーケンじゃねえの?」
「種族違いだ!!イカのクソ野郎と俺様を一緒にするな!!」
「うわうるせえ。」
わかりやすく顔色を真っ赤に染めてガニメデが吠える。
不思議な響きの名を持つ海の神は、にゅるにゅると触手を滑らせ酒樽を掴むと、そのまま体の内側にしまい込む。それから数秒程度だろうか。どうやら飲み終えたらしいそれを、投げ捨てるようにペイッと吐き出した。
ニュルンと伸ばした触手の一本を、樽の中にしまい込む。そのまま陸に乗り上げるようにして中に収まろうとするガニメデの姿を前に、エルマーが声を荒げた。
「バカ、でけえんだから全部乗りきんねえだろう!」
「人間、デケえという言葉は美しくない。申すなら偉大である。」
エルマーの予想とは裏腹に、ガニメデは驚きの収納力で吸い込まれるように体を納めた。異空間魔法でもかかっているのかと言わんばかりの現象に、エルマーは驚きすぎて言葉を失った。
「ば…、お、おわあ…」
一体どんな現象だ。あっけにとられる面々の目前で、樽の四隅にばこりと穴が空いた。触手が姿を表すと、樽を地べたから持ち上げる。
見た目は、手足の生えた樽に見えなくもない。なんとも不格好だが、ガニメデが陸に上がるときはだいたいこうらしい。いわく、郷に入っては郷に従え。なるほど素肌を見せないための配慮である。
魔物のような見た目で随分な気遣いができる。エルマーはますます訳がわからないと言った具合に動揺すると、つい思ったことを口走る。
「威厳はあ!?」
「ガニメデは陽気だからなー。」
「はわ……すごい……かこいい……」
興味津々な様子のナナシが、目を輝かせて近づいてくる。尾がブンブンと揺れているのを見る限り、どうやら蛸は初めて見たらしい。
そんなナナシの姿に、めざとくガニメデが瞳を輝かせる。どうやらその容姿がお眼鏡にかなったらしい。穴の一つから目玉を出すと、しゅこりと口を動かして宣った。
「そこの麗人、貴様の足はいくつだ。」
「あし?あんよはにほんで、おててもにほんだよう」
「四本か。フン、話にならんな!顔が良くても足が足りぬ!足だ!!多足の麗人を連れてこい!!」
「え、なんだこれ。」
「ガニメデのおねだりだなー。叶えてくれれば乗せてくれるとおもうぞー。」
チェンジで、と言われたナナシはキョトンとしたまま自分の腕を見る。なんてことない普通の腕だ。よくわかっていないナナシの頭を撫でると、エルマーはくるりと振り向いた。
「アロンダート。」
「なんだ。」
「腕だけ増やせるよな?」
「増やせるというか、まあ出すだけだからな。」
アロンダートはやはり来たかといった顔で笑った。この仲間で多腕なんてアロンダートしかいない。麗人扱いするのなら魔獣の姿はダメである。
着ていた外套を脱いだアロンダートがサジへとそれを手渡した。わかりやすく顔に驚愕を貼り付けるサジはしかし、引き留めるようなことはしなかった。
「ガニメデ殿。僕はどうだろう。」
「む?」
アロンダートは、ガニメデの目の前でシャツの前を開けた。両手を広げると、腹に刻まれた刺青のような模様が剥がれるようにして腕へとかわる。均整の取れた体を晒すようにして生地を持ち上げた四本目の腕は、しっかりとガニメデの目の前へと晒された。
「なんと!!!!六つ!!!!!」
「うわっ」
高揚を隠さない声色とともに、アロンダートへと触手が伸ばされる。引き締まった腰を引き寄せるようにして絡めとると、ガニメデはアロンダートを引き摺り込むようにして海の中へと姿を隠した。
唐突な行動に、身構えるエルマー達をよそに、陸へと残された割れた樽の破片が揺れる。
アロンダートはというと、水飛沫は浴びたものの、己に絡まった触手一本のみが海上に残されていたので無事だった。
「よい!!これだ!!これぞ俺の求めていた至高の雌!!このガニメデのつが、」
「誰が糞タコの番にさせるかあああ!!」
「あーあーあー……」
言わずもがな、サジである。
やると思ったと言わんばかりの顔をする仲間達の目の前で、相変わらずの美しい術捌きで鎌鼬を繰り出した。スパンと音を立ててとガニメデの触手を切り落とせば、アロンダートは触手を巻きつけたままガニメデの頭の上位落下した。
「貴様ァ!!このガニメデの偉大なる六本目の腕を切断するなど言語道断だぞ!!母なる海の神、ガニメデがそのような不敬を許すとでも思っているのかァ!!」
「笑わせるでないわ!!サジは生命の大樹の神使であるぞ!!その神使の番いを寝取ろうなどと、お館様が許してもサジが許さぬ!!」
「寝取ろうとはされていないな。」
アロンダートの冷静な一言だけが虚しく響いた。
サジの言葉にその目を大きく開いたガニメデは、ぬちゃぬちゃとした粘着質な分泌液を滴らせながら唸りだした。
ニアいわく汗らしいそれは、わかりやすくガニメデの動揺の表れだ。捻くれ方が尋常ではないらしい生命の大樹様は、神の間でも面倒臭いと思われているようだ。
「生命の大樹……貴様、セフィラストスの秘蔵っ子か!!!」
「誰だそれ。」
「サジが傅く神様だなー。まあ、ニアたちの間では特段変わりもので、扱いづらい神様だー。」
相変わらずの間延びした声でニアは言う。変わりもので扱いづらいとは、まんまサジだ。当事者以外は満場一致の納得である。
ガニメデの狼狽えかたがわかりやすい答えであった。神様に嫌がられる神様ってなんだと、エルマーは引き攣り笑みを浮かべる。
「馬鹿なタコめ!!それにここには御使いもいるのだぞ!!このすっとぼけがお前らなんかよりもずーーーっとえらいのだ!!一介の神ごときが御使いに叶うかァ!!」
「あ?御使いってそんなやべえの?」
ーエルマー、ええとですね。御使いというのは始祖に傅くもので、その始祖の一部がニア様やガニメデ様になったのです。まあ、えらいです。
「偉いのか。」
サジが指し示したナナシはというと、相変わらずのマイペースを決め込んでいた。
ルキーノいわく、始祖が最初に己の魂を分け与えたとされる御使いは、ガニメデ達からすれば頭の上がらない存在だ。そんなナナシがパタパタと尾っぽを振りながら、レイガンの指につままれている蟹を前に手を叩いて喜んでいる。
気の抜けるような光景に癒されたのは、おそらくエルマーだけだろう。
「まあなんだっていいやな。おいナナシ!ガニメデにカストールまで乗せろってお願いしてくんねえ?」
「うん、いいよう。」
蟹の代わりにちいさなヤドカリを摘んだナナシが、エルマーの声にいい子のお返事をする。
己の元へと歩みを進めるナナシを前に、ガニメデはわかりやすく居住まいを正した。どうやら魔力を見たらしい。最初から検分しろとも思わなくもないが、まさかこんなところで御使いに出会うとも思うまい。
「あのね、かすとーるまでつれてってほしいのう。えるがね、がにめでにおねがいっていってるよう。」
「御意に。」
「わはは、目上だと思った途端にかー。ガニメデはあいかわらずだなー。」
即答するや否や、ガニメデはいそいそとその身を海の底深くまで潜らせた。
数十分程だろうか。なかなか戻ってこない様子から痺れを切らしたエルマーが、海を覗き込もうとしたその瞬間。海面が先程よりも、グワリと大きく盛り上がった。
「な……」
エルマーの目の前で、海面を突き破るようにして朽ちた帆船が現れた。巨大な船の影が、大量の水飛沫とともにエルマー達に降り注ぐ。
歴史を感じさせる巨大な帆船はおどろおどろしさも纏っていた。深海から引き摺り出してきたのだろうそれに、本日数度目の驚愕を顔に貼り付けていれば、帆船を頭に乗せたガニメデが大袈裟に言ってのけた。
「通称ガニメデの寝床!!沈没船に乗せてやろう!!」
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