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再びのドリアズ編

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薄い羽を震わせるような羽音を、アロンダートの耳が拾った。

「サジ」
「ん?」
「戻ってきた。」

異常を知らせる蜂の羽音だ。
青年が走っていって、まだ間もない。
一帯の怪我人は、治癒を終えたものからギルドへと向かうように指示を出している。
サジは見慣れた蜂が飛んでくる姿を確認すると、険しい顔で立ち上がった。
日は徐々に落ち始め、間も無く夜だ。魔物たちが活発になる時間帯は、刻一刻と迫っている。

「サジ!」
「今度はなんだ。」

レイガンの緊張感の滲む声が飛んできた。その様子から、いい知らせではないことだけは確かだろう。
無骨な手が、頬に伝った汗をうざったそうに拭う。呼吸を整えると、レイガンは口を開いた。

「ギルドのシェルターには、ほとんどの生き残りが身を寄せていた。だけど、鍛冶屋の親父とギルドの解体屋、あとジョシュという青年がいないらしい。」
「まて、そのものにはポーションを渡して……」

サジの頭によぎったのは、先程の青年だ。人手が足りない状況で、動けるならとポーションを渡した。
地元なら、勝手がわかるだろうと思ったのだ。蜂をつけて、何かあったらすぐに呼べといいつけた。
緑色の蜂が、三人の頭上の上をグルンと回った。そして、羽音を震わせながら、再び元来た方向へと真っ直ぐに飛んでいく。まるで、道案内をするかのように。

「まだ、魔物はいる……。向かわせたのか、ジョシュに……」
「まずい……!」
「サジ!!」

レイガンの言葉に弾かれるように、サジは駆け出した。
なんで、気が付かなかったのだろう。じんわりとした嫌な汗が、サジの予感を肯定するかのようだった。
魔物の気配は、先程まではなかったはずだ。だからジョシュを見回りに行かせた。これは、サジの落ち度だ。

「もしいたなら、僕の耳が拾っている。」
「なら俺が見たものは幻覚か?悪いが言い合う暇も惜しい。そんなもの、サジを見ればわかるだろう!!」
「……湧いて出たとでもいうのか!」

湧いて出た、というアロンダートの言葉が引っかかった。サジのラブラドライトの瞳が、キュウと細くなる。
いるのだ。一人だけ、虫を操る異質な魔女が。
喉が渇く。蓋で遮っていたかのように、近づくにつれて魔物の気配が膨れ上がるのだ。
何が起こっている。無事でいて欲しい。頭の中を締める忙しない感情が、サジの注意を散漫にさせる。背後で制止の声が飛んできたが、構ってはいられなかった。
己の平和ボケ具合に嫌気がさす。サジは小さく舌打ちをすると、蜂を追いかけ家屋の角から飛び出した瞬間だった。

「あ、」

サジは気づけば宙に浮いていた。

腹に何かがぶつかった迄は覚えている。それが、ぶつかったのではなく、通り抜けたのだと理解するまでに、少しばかしの時間がかかった。
何かは、下に向かって徐々に太くなっていた。サジの腹からこぼれた血が、その輪郭をなぞるように地面へと垂れる。
震える指先が、産毛を纏った黒い外殻に触れた瞬間、かっと腹の中が燃え上がった。



「おやあ、まさかこんな大物が釣れるとは。」

その場にそぐわない、嬉しそうな声色がサジの耳に届いた。

「っ……っ、……ぁは……、」

ひゅう、と喉がなる。思考がままならない。ごぽ、と口からこぼれた血が、サジの唇を赤く染める。
ラブラドライトの瞳が、存在を確かめるように声のする方向へと向けられる。
サジは針に支えられるようにして、真っ黒な蠍型の魔物に腹を貫かれていた。

「せ、る……けと……っ、……」

掠れた声が、喘ぐように名前を紡ぐ。眼下の青年は、にっこりと微笑んだ。
枯葉色の長い髪の隙間から、痛みに霞む瞳に映した魔女。セルケトと呼ばれた青年は、己が腰掛けている蠍の背を優しく撫でると、その黒い瞳で見つめ返した。

「サジ、元気してたか。まだ虫は嫌い?この子はいい子だから、好きになってほしいなあ。」

耳心地の良い優しい声色だ。その猟奇性を隠すかのような柔らかな雰囲気が、好きになれない理由の一つだった。

サジはセルケトを無視するかのように、先程送り出したジョシュの死体へと視線を向けていた。
ああ、自分が殺してしまったようなものだと、その虚ろな瞳に焼き付ける。
腹から血が溢れて止まらない。内臓を持っていかれたのかもしれない。血でぬるつく手で針を押さえているが、もう力が入らない。
優しい顔をした、黒い悪魔が柔らかく微笑んだ。薄い唇がゆっくりと開かれる。己を見ろというように、セルケトが口を開いた時だった。

「サジ、お前の魂はなにい、」

セルケトの言葉が途絶えた瞬間、サジの体は重力に従って落下した。
地べたにぶつかると覚悟した痛みは来ず、その体はしっかりとした両腕に受け止められた。
体が重い。視界が霞む。慣れ親しんだ獣の匂いを確かめるかのように、サジは虚な瞳に姿を映す。

「サジ!!!!」
「くそ、っ……!!」

己の名を叫んだのは、アロンダートであった。
力強い腕が、薄いサジの肩を抱き寄せる。腹に生えた針を目にするや否や、その整った表情を歪ませた。
レイガンが投げて寄越したポーションを片手に受け取ると、アロンダートは針を握り締める。手に集まった魔力が炎へと姿を変えると、外殻をのこして内側を燃やし尽くした。

「ぁあ、っ、く、……ン……っ!」
「レイガン、任せてもいいか。悪いが手が離せない。」
「そんなもの、見ていればわかる。」

頭上から、レイガンの声が降ってくる。どうやら時間稼ぎをしてくれるらしい、アロンダートの前に立つ。
なんで、こんなことになってしまったのだ。サジは肺を酷使するように呼吸を繰り返し、痛みを逃す。
負担をかけぬように、アロンダートがゆっくりと針を握り直す。外殻のみを残したそれが、産毛で内臓をくすぐるように引き抜かれる。
嫌悪感から震える体は、いつの間にか生やしていたアロンダートの二本目の腕が抑えてくれていた。

「う、う、あ、……っ……」
「サジ、サジ頑張れ。大丈夫だ、僕がいる。」

ポカリと空いた腹の穴を隠すように、手が添えられる。ゆっくりとかけられたポーションが、アロンダートの手によって勢いを緩め、伝うように赤い肉へと染み渡る。
重ねがけされた治癒魔法が、修復を早めるせいだろう。サジの傷口からは湯気がでていた。
冷や汗が吹き出す。信じられない程の痛みが、サジの理性を容易く奪ったのだ。

「ぁ、あ、ああ、あーーーーーーーーー!!」
「耐えろサジ!!」

びくんとサジの四肢が跳ねる。肺を震わせるような絶叫が辺りに響き渡った。
アロンダートの腕が、しっかりと体を押さえつけているにもかかわらず、サジは暴れて、泣き叫ぶ。
アロンダートの体が微かに揺れるほどの力の強さであった。
血肉の生臭い香りが鼻腔をくすぐる。みしり、と押さえつけた腕から嫌な音がした。それでも、アロンダートはやめはしなかった。サジが死ぬよりマシだと思ったからだ。

「ぅ、……、っ…………、」
「っ、は……」

サジの瞼が、微かに動いている。気雑したらしい、顔を上気させたまろい頬に、アロンダートの汗がぽたりと落ちた。
体の痙攣が、ようやく止まった。痛みから嘔吐したサジの汚れた口元を、無骨な指がそっと拭う。緊張だけではない震える手のひらを、確かめるようにサジの胸の上に置く。
心臓は、きちんと動いている。
アロンダートが、サジの体を引き寄せる。濡れた感触に視線を向ければ、サジは失禁をしていた。

「アロンダート、手をかせ!!!くぁ、っ……!!」

レイガンが鋭い声を上げた。その体はアロンダートの黒髪を揺らすようにして飛ばされる。
土煙が、ゆっくりと地べたを撫でた。瓦礫にもたれかかるように脱力するレイガンの体へ、細かな礫が落ちる。

それでも、アロンダートはサジを抱きしめたまま動かなかった。

「驚いたな。白蛇といい、その腕といい、君たちは一体何者なんだい。」

砂利を踏み締めるかのような音を立てて、セルケトが近づく。真っ黒で光の移さない瞳は、同じ黒髪をもつアロンダートへと向けられていた。
蠍が蠢く。消えてしまった針を惜しむようにゆらゆらと揺らすと、そっとセルケトに寄り添った。

「何も尻尾を切ることないじゃない、彼のアイデンティティだ。ああ、可哀想に……」
「よく喋るな貴様。」

労わるように蠍に触れた。セルケトへと向けられた声はひどく冷たい。
アロンダートは、己の体から滲む魔力を隠そうともしなかった。
豊かな黒髪に羽根が交じる。肩甲骨が盛り上がり、肉を突き破るように逞しい猛禽の翼を形成する。
アロンダートの見た目は魔物じみたものへと変わっていた。己の理性を制御できなくなるほど、体は怒りに染まっていたのだ。

「なんだ、君はやっぱり混ざりものか。」

サジに己の着ていた外套をかけてやると、華奢な体を抱き上げ立ち上がる。
足音に反応するように、意識を戻したレイガンの前まで歩み寄ると、そっとサジを隣に寝かせた。

「預ける。」
「っ、……アロンダート、か……?」

レイガンは、アロンダートを前に小さく息を呑んだ。その姿が、人型の獣のようにも見えたからだ。
猛禽の頭から続く分厚い胸板は、完全に鳥のものだ。しかし、四本の人間の腕と背中から生えた雄々しい翼は、まるで宗教画に出てくる悪魔のようでもあった。
レイガンの知らない、アロンダートの魔物の姿。
身震いした。恐ろしいほどの威圧感と魔力が、その体から滲み出てきたのだ。

ニアが場違いに間抜けな声を漏らさなければ、気圧されたままだったかもしれない。

「箍がはずれている。あーあ、なんの為のトリガーワードなのか。まあ、番いがあれじゃあ、縛れないかぁ。」
「……何が起きてる、不味いのか?」
「不味いもなにも、自分の意志で魔力を制御できなくなっているよ。」
「な、っ……」

ニアの言葉に、レイガンは言葉を失った。
ズシンという地響きがして、慌ててアロンダートへと目を向ける。土煙が煙幕のように辺りに漂っていた。
不明瞭な視界の中、紫の瞳を凝らす。レイガンの目に映ったのは、壁にめり込む様にして埋まる蠍の姿だった。







「くぁ、っ……」
「える、……!!」

エルマーの体が、地べたの上を滑る。
蹲る女に声をかけたらこれである。自分の引きの悪さに辟易すると、エルマーはむくりと体を起こした。

「チ、」

一体何だこいつは。エルマーの金色の二つ目は、己を容易く投げ飛ばした女を映す。

「いやだ、こわい、なんでこんなことしなくてはいけないの、むり、ほんとうにむりなの。」

手入れのされていない真っ赤な髪を抑え、侍女服姿の女は頭を抱えるように蹲る。ぶつぶつと暗い声で陰気な事ばかりを言い、自分の世界に浸っている。

最初は、生存者かと思った。しかし、それはエルマーの勘違いであった。
目前の女は、唐突に巨大な蟷螂を召喚したのだ。
己の反射神経に、これ程までに感謝したことはない。まあ、慌てて防ごうとして投げ飛ばされたのは少しだけダサかったかもしれないが。

「てめえ、魔女か……」
「お、お、おとこ……おとこ、こわい……いや、いやよこっちにこないで……」
「あ!?投げ飛ばしておいてなにいって、」
「いやだっていってるのに、なんでよ、くちをひらかないで、あたしをにんしきしないで。」

女は、理不尽な言葉を宣った。視界を遮るかのように抑えた手指の隙間から、真っ赤な瞳がエルマーを見つめている。
大蟷螂が、その鎌を振り下ろした。エルマーへと向けられたそれを前に、ナナシが素早く結界を展開した。

「マンティス、あたしいじめられているの。めのまえのおとこに、いじめられているのよ。ええ、きっといまにころされる、ころされるにちがいないわ。だって、めがまじだもの。」
「先に手ぇ出してきたのはそっちだろう。頭いかれてんのかテメェは。」
「なんてそやなの。おとこって、ほんとうにどうしようもないのしかいないのね。」

顔を覆っていた手をゆっくりと下げる。長い睫毛に囲われた女の赤い瞳は、瞳孔が開いていた。その視線が、大蟷螂の一打を防いだナナシへと向けられると、ほう、とあえかな吐息を漏らした。

「すてき、なんてうつくしいの。せいじゅうにまたがったしんしさまのよう。メアリーは、きれいなものがすきよ。」
「クソアマ、ナナシに手ェ出したら確実に殺す。」

エルマーが、女の視界を遮るようにナナシの前に出る。
メアリーは丸く大きな目でその姿を見つめると、小さく吐き捨てた。

「どくせんよくのつよいおとこはいやだわ。それに、あたしはきれいなものにめがないの。きれいなものは、きれいなままでいなくっちゃ」
「あ?」
「にどはいわないわ、あなたとおなじくうきをすうのもいやなのに。」

初対面の女にここまで罵られることなんて、そうそうないだろう。エルマーは引きつり笑みを浮かべると、こめかみに青筋を浮かばせる。
随分と失礼な奴だが、女の後ろの大蟷螂が大人しいのも気にかかる。敵か味方かだと、おそらく前者だろうことは明確なのに、ずっとしゃがんだままの姿だ。なんともマイペースな刺客である。

「ナナシちゃんっていうのね、あたしメアリー。ここはあぶないから、そうね……あそこのたてものまでさがっていて。」
「やだ、えるといる……」
「かわいい、えるといるだって、なんてかわいいの。こんなかわいいこにすかれているなんて、ずるい。」

メアリーの顔つきが変わった。スッ、と立ちあがると、その手にはどこから出したのか、大きな鉈を握りしめていた。
ぶつぶつと何かを呟きながら、二度その場で飛び跳ねる。
メアリーは短剣を構えるエルマーを見据えると、細い体を大ぶりに回転させるようにして、エルマーの首を目掛けて鉈を振り抜いた。

「っ、すげ、ピルエットだなあ……!!」
「すてきなひょうげん、それはすきよ、」
「力、強……っ……!!」

短剣で鉈を受け止める。金属同士の摩擦に火花が散った。
メアリーの一打は、細腕から繰り出されたとは思えない程強烈だった。
エルマーは腰を落として腕に力を込める。震える刃同士がカタカタと嘲笑うように鳴いている。
短剣の刀身に、ピシリと罅が走った。エルマーは目を見開くと、勢いに身を任せるかのようにして上半身を下げる。

「くっ、……」

メアリーと同じ、赤い髪が頭上を掠めた鉈に散らされた。
受け流された一打の勢いのまま、体が傾く。そのまま、メアリーは、まるでおじぎをするように体勢を整える。

「あらごめんなさい、まさかこんなにひりきだなんておもわなくて」
「おいおいやめてくれよ、短剣だけじゃなくて、俺の矜持まで折る気かメアリー。」

くるくると飛んだ短剣の先が、壁に当たって地べたへ落ちる。鋼を叩き割るほどの腕力に、エルマーの背に冷たい汗が流れた。

ー洒落になんねえ。女と思って油断してれば、こっちが詰みだ。

エルマーは体に身体強化の術をかけると、もう一本の短剣を腰から引き抜いた。
顔の前で構える。細く長く息を吸い、集中力を高める。金色の瞳に、鋭い光が宿った。

「あなた、ぶきのつかいかたがへたね。こんなやすいなたでたんけんがおれるんだもの、もちぬしがいけないわ。」
「……クソ腹立つ。」
「あら、じじつなのよ。どくがくはいけないわ。あらがめだってしかたないもの。」
「あー、そうかい。」

メアリーは、己の唇に指先を添える。厚みのある下唇をモニモニと遊ぶ姿は、挑発しているようにも見てとれた。
赤い瞳が、ナナシに向けられる。そのまま、不可視の線を辿るようにしてエルマーへと視線を向けた。

「きめた。あなたがまけたら、あたしはナナシちゃんのこをうむわ。」
「あ?」
「きめたの、そうよ、あたしはあかちゃんをうむ。すてき、すてきねえ」

スカートをふわりと風に遊ばせ、くるりと回る。メアリーはうっとりとした様子であった。
エルマーは、とんでもないことを宣う目の前の女に、嫌悪感を滲ませた。本格的に頭が可笑しいのかもしれない。
戸惑ったような表情でこちらを見つめるナナシを前に、エルマーは辟易とした表情で見つめ返す。

「やだよう、こわい……」
「俺も怖えよ…何だこの女。」
ーあのう、精神を病まれているでしょうから、無視してよろしいかと。
「うわびっくりした。だよなあ」

ナナシのポシェットから、ルキーノが声をかけてきた。
もちろんエルマーもそう思う。あいつはちょっとやばい、だって瞬きしてねえし。
エルマーは、己の世界へと入り込んでしまった女へと視線を向ける。その背後には、微動だにしない大蟷螂の魔物。
油断できない相手は、メアリーだけではないのだ。

ーエルマー、おそらくあの大蟷螂はきっかけがないと攻撃してきません。彼女も厄介ですが、頭上にもなるべく注意を払ってください。
「える、ナナシがまもるよ。がんばって」
「嫁の期待には答えねえとな。」

己とお揃いの金の瞳に、見つめ返される。ナナシの貞操も含めて、メアリーには決して負けるわけには行かない。
大蟷螂の気配を察知しながらというのが大いに面倒くさいが、肩の力を抜かねば躱せるものも躱せない。
攻めが厳しいなら、守りに徹して体力を削る。
未だ夢現のメアリーに、今攻撃を仕掛けるのは恐らくマズイ。大振りで動きの読みやすい攻撃は、仕掛けさせて己が体で覚えるほうが生存率は上がる。

エルマーは空魔石の簡易爆弾を数個手に取ると、握りしめるようにして魔力を宿す。
それをメアリーの足元へ向けて放り投げると、それらは閃光を放って爆発した。
これはただのこけおどしだ。こちらの世界に戻ってきてもらう意味もあるが。

「きゃ、っ……いやだ、メアリーとてもびっくりした。まてないおとこってほんとうにきょうりょう。」
「待たせる女も大概だぁな。メアリー、おまえモテねえだろう。」
「むかつく、あんたにおしえるきはないわ」
「それが答えってやつかい。」

メアリーを煽るように、エルマーが嫌味な笑みを浮かべた。気分は完全にいじめっ子だ。
メアリーはまあるい目でエルマーを見つめると、ムスッとした顔で頬を膨らませる。目に感情が乗っていない分、その行動がちぐはぐで少し怖い。

「わかった。メアリーのとってもおんなのこらしいぶぶん、とくべつにみせてあげる。」

形のいい唇が、ゆっくりと釣り上がる。己の唇を舌で舐めるその姿が、捕食者のようにも見える。
放たれた殺気にエルマーが飛び退ると、間髪入れずにメアリーが地べたを鉈で抉り取る。
身体強化した様子はない。エルマーは小さく息を呑むと、砂利を散らすかのようにして着地した。

「いきおくれたおんなほど、つよいものはないわ」

礫を散らすようにして、地べたに埋まった鉈を引き抜く。とうてい女の細腕で出せる力とは思えない。
エルマーはメアリーと視線を絡ませる。己の体の内側から沸き立つ高揚感に小さく身を震わせると、くつりと笑った。



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