名無しの龍は愛されたい。

シュマギナール皇国陰謀編

90 ＊

エルマーたちは無事城壁の外に出たようだ。

市井に蔓延るジルバの兄弟たちの情報は実に早く、そして的確である。
国葬の後、グレイシスは体調を崩した。無理もない、ずっと菫の花に閉じ込められていたのだ。
久しぶりの外界に戻ってきたかと思えば、息つく暇無く国葬である。ダラスの祈りの言葉を聞きながら、グレイシスは倒れそうになる体を意地だけで奮い立たせていた。

「まったく、こんな調子で戴冠式などにでれるのか。」
「でるさ、しかし……衣装などもないからな。仕立て屋に頼もうにも間に合うかどうか……。」

柔らかな寝具の上、熱で赤らんだ顔だとはいえ不遜な態度は変わらない。難しい顔をしながら、次のことを考える忙しい男は、ジルバ以上に働きものである。

「安心しろ。手配なら済んでいる。」
「なぜ……」
「中身がルキーノなだけで、体格までは変わらんだろう。だからそれで寸法を取った。デザインを選んだのは俺だがな。」
「……。」

お前が選んだのか。と、口に出かけて飲み込んだ。デザインを選んだのは俺だがな。グレイシス耳の奥に、ジルバの言葉が残る。まるで、瑣末ごとかのようされた事後報告に、頷くだけで返事を返すのがやっとだった。
しかし、ジルバという男はなかなかどうして察しがいい。己の目線から逃れるように背を向けるグレイシスに、ジルバはくつりと喉奥で笑う。

「グレイシス。」
「なんだ。」

きしりとベッドの軋む音がした。ジルバがベットに手をついたのだ。沈み込んだマットレスから、覗き込まれているのだと言うことがわかる。

「グレイシス、こっちを向け。」
「向かぬ、いやだ。」
「耳が赤いな。嬉しかったのか。」
「……黙れ。」

口にしなくていいことを、意地悪にも宣うのだ。この男には、そういうところがある。
グレイシスは、図星を突かれたことに歯噛みする。己の気持ちをこんなにも揺らがせる存在は、いつだって腹が立つ程余裕に満ちている。
ルキーノと入れ替わっていたとき、グレイシスは気が気ではなかった。これがどういう感情なのかは口にもしたくはないが、とにかくその状況が嫌だったのだ。
この半魔の男は、非常に読めない。人のことを出会い頭に犯してきたと思えば、いまや側近の立ち位置にいる。普通なら打首だ。グレイシスのレイピアが、四肢を綺麗にバラしていてもおかしくはない。

おかしくは、ないのだが。

「グレイシス、つれぬ事を言うな。夫が妻の衣服を選んでも、何もおかしくはないだろう。」
「だから、俺は貴様の妻などでは……！」

浮ついた発言をするジルバに、グレイシスの語気が強まった。
妻を当てはめられたことが、気恥ずかしかったのだ。国王になる己に、そんなか弱い名称は当てはまらない。そんな、己の矜持を逆撫でするような発言に、思わず抗議するつもりで声を荒らげた時だった。

「ふ、口調が移ったな。それだけ慣れたということだろう。」

俺、と言っているぞ。

ジルバの言葉に、グレイシスの瞳がかすかに揺らぐ。その細い肩は、ジルバの手によって寝具の上に縫い付けられた。
面白そうに灰の瞳を煌めかせるジルバに、見下されている。それがなぜだか擽ったくて、グレイシスは視線から逃げるように顔を背けた。
そして、はっとする。何も、顔を背けなくても良かったというのに。
寝具で見下される形になったグレイシスは、文字通り蜘蛛の糸で絡め取られた哀れな餌のようであった。
愉悦を滲ませるジルバの瞳が、その体を縫い止める。

「グレイシス。お前の夫は誰だ。」
「夫など、できたことはない。」
「散々、この薄い腹に分からせただろう。不器用なグレイシス……」
「っ、おもい……！」

その耳朶に、ジルバの甘やかな声が侵入する。この男の声はいけない。背骨を溶かすような、そんな毒に侵された気分になるのだ。
グレイシスは、声に反応して身が震えてしまいそうになるのを、なんとか堪える。
寝具越しだというのに、ジルバの熱は重みを伴ってグレイシスに浸透してくる。跨がられれば、身の奥の抗いがたい熱が、全てを曝け出せと叫ぶのだ。

「お前は俺の雌だ、グレイシス。蜘蛛の本能だ。雄は自身の根城を持たぬ、雌の巣の中で暮らすのさ。」
「市井に、隠れ家があるだろう……！」
「そこでは抱かなかっただろう。やはり抱くのなら、雌の巣の中でなくては。」
「まて、熱が……！」

気がつけば、グレイシスの下肢は熱くなっていた。
身に被さる寝具は、ジルバの手によって剥ぎ取られてしまった。慌てて足を閉じたはいいが、閉じた両足ごとジルバの腕に抱えられ、尻を上げる形になってしまう。

「熱がでても、お前は仕事をしようとしていたのに、俺との繁殖はできぬというのか。」
「繁殖とかいうな！子は成せぬことを、貴様がよく知っているだろう！」
「知っている。だが俺はお前を抱く。抱きたいから抱く。番いたいから番う。」

ジルバが身を屈ませるだけで、グレイシスの尻は簡単に持ち上がってしまった。その整った顔に熱が集まる。これは、赤子が世話を焼かれるような体勢によく似ていた。

「わ、かった……わかったから！足を……！」
「何がわかったのだ、俺の愛情か？それなら重畳。」
「貴様は、愛と欲を履き違えている……！ただ、遊んでいるだけだろう！？」
「ほう、」

グレイシスが叫んだ。己の心の中に燻っていた思いを、ジルバへと吐き出したのだ。目の前の男の瞳が細まった。
漏らされたジルバの声色は、先程よりも低い。何も間違えてはいないはずなのに、グレイシスはその反応を前に、尻の座りが悪くなった。
うろ…と目線を泳がせる。もしかして、怒ったのだろうか。そんな不安が小さく顔を出す。

「……くそ、」

悔しかった。グレイシスは、なんで己ばかりがこんな気持ちにならねばならんのだと、ずっと思っていた。
この男から、一度も愛していると言われたことがない。
だからこそ、身体は解かれても、心までは差し出したくはない。これが精一杯のグレイシスの矜持だった。

「雄は、雌にいつも手土産をもっていく。それが餌でも、価値のあるものでも、魔物の残骸でも、まあなんでもだ。」
「なに、いって……」
「俺は父王の首を差し出したぞ、グレイシス。」

ジルバの言葉に、美しい緑の瞳が見開いた。
何を言われたのか、わからなかった。グレイシスは、真偽を確かめるように、真っ直ぐジルバを見つめる。
灰色の瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。
ギシリとベットの軋む音がした。気がつけば、グレイシスの足はジルバによって大きく開かされ、その足の間にジルバを挟んでいた。
下腹部がゆっくりと重なる。確かな重みを伴って、目の前の男は自身の体でグレイシスを抑え込む。
ふるりと、グレイシスの我慢していた身が震えた。

「俺は、お前が憎んでいた父王の首を差し出したぞ。」

蜘蛛の手土産は求愛行動なのだと、以前ジルバが言っていた。
不意に思い出したあの時の言葉に、グレイシスの細い喉はゆっくりと上下した。
まさか、こいつは、本当にそういう意味で言っているのだろうか。そう思うと、唇が戦慄いた。

「皇后も、もうじきだ。グレイシス、まだ足りぬか。なら次は、国盗りでもするか。」

ジルバの呼気が、グレイシスの耳朶を擽る。近い距離感で紡がれる、睦言には程遠い言葉は、容易くその体に火を灯す。

「お前、ほんとうに…」
「さあな。お前の好きなように解釈すればいい。俺の気持ちは、俺が知っていればいい。」

相変わらずの嫌味な笑い方だ。グレイシスは、ジルバのこの笑い方が大嫌いだった。何かを含むような、そんな愉悦じみた笑み。
全く、本心を隠して口にしないとは、一体どちらが連れないことを言っているのか。
じわりと染み込む毒のような甘さが、グレイシスの体をじわじわと侵す。

「グレイシス、」
「……かまわぬ」
「そうか。ふふ……」

口数は多くない。グレイシスは、己の矜持で固められた殻から、本音を曝け出せないままでいる。
ヤドカリみたいなやつだなあ。以前ジルバからは、そんなことを言われた。
グレイシスは、あんな愚鈍なものと同じにするなと吐き捨てたのだ。なによりも、あの引き籠もりのような姿が嫌いだったので、あの時は一方的にジルバに怒った。しかし、その例えはあながち誤りではないのかもしれない。

グレイシスの瞳が、ジルバを見つめ返す。

「余は、まだ外殻をかぶっているのか。」

体が熱い。熱だけではないのかもしれない。

「余などと、取り繕っているようだしなあ。俺の前では、その殻を脱ぎ捨てろ。」
「っ、それで……どうなる……」

ジルバの男らしい掌が、細い首筋に這わされる。カサついた親指が愛でるようにその唇に触れると、そっと耳朶を挟むように触れられる。
この手で首を絞めることもできるのに、ジルバはそれをしないのだ。

「俺が喜ぶ。」

互いの鼻先が触れ合う距離で、小さく口元に笑みを浮かばせて宣った。ジルバの瞳の奥の熱に気がつくと、グレイシスは込み上げる優越感に引きずられるように、思わず喜色じみた吐息を漏らした。

「ふは、……それは……っ、あ、あ……」

それは、いいかもしれない。

いつも作り物めいた顔で、厭味ったらしい顔しかしないのだ。その男が、俺の前で笑うのは、いい、かもしれない。

熱い舌が、べろりと首筋を舐めあげる。なんの膨らみもない胸の頂きを、褒めるようにして指の腹で撫でられた。
啄むような口付けが、グレイシスの細い首筋に降らされる。
ちゅ、ちゅ、という可愛らしいリップ音を、この半魔の男が出しているのかと思うと、余計に面白い。

グレイシスは、ジルバの腰を挟むように足を閉じた。それが正解だったらしい。無骨な男の手のひらが、褒めるようにその頭を撫でる。
灰色の瞳に、蜂蜜の様な甘さが滲んだ。この表情を、己以外に向けられるのは嫌だなと思った。
細腕を首に絡ませる。グレイシスは、そっと互いの頬を重ねるようにして擦り寄ると、グッとその体を引き寄せた。
ジルバの熱い下肢が股座に押し付けられる。布越しでもわかる硬さに、グレイシスの性器もじくりと疼いた。

「お前が人で良かった。アラクネなら、俺の首は今頃食いちぎられていた。」
「く、お前は……、雰囲気を壊すな。」
「ふふ、すまない」

頭を撫でながらいう話か。抗議じみたグレイシスの目線に、ジルバが小さく笑う。
読めぬ表情で宣われる冗談には、もう慣れた。至近距離で見つめられることにはまだ慣れないが、これも時期に慣れてくるのだろう。
グレイシスは、互いの鼻先をくっつけるようにしてジルバを見つめた。まさか己がそんな行為をしてくるとは思わなかったらしい。少しだけ驚いた顔をしたジルバが面白くて、つい笑ってしまった。
二人して、なにが面白いのかクツクツと笑う。ああ、いいな。こうして笑っているときが、一番…と口に仕掛けたが、それはできなかった。

「あ、ああっ……！」

ごり、と硬くなった性器を押し付けられるようにして、腰を浮かされる。己の性器を寝巻き越しに押し上げるような腰の動きに、グレイシスはその背筋を震わせた。
腹筋が収縮する。ひくんと反応した腹の奥。まるで圧力がかかるように、じゅわりと性器から先走りが滲む。
下着が張り付く。濡れた性器はきっと、隠し切れてはいないだろう。
性器を押し付けられただけで、グレイシスは容易くジルバの雌になってしまった。

「ああ、いいな。うむ、やはりお前が一番いい。」
「いちば、ん……っ、んあ、っ……」

誰と比べていると苛立ちは覚えたが、大きな手のひらで股座を押し込むようにして揉み込まれて仕舞えば、抗議の言葉は続かなかった。
悔しくて、少しだけ睨む。それなのに、ジルバは嬉しそうに微笑むのだ。
戯れなのだろうか、グレイシスの高い鼻をパクリと甘噛みされる。情けないことに、たったそれだけで性器が震えた。

「人の嫉妬とは、甘美なものだなあ。」
「ひぁ、っ！おま、え……性格が、わるい……！！」

漏れ出た先走りが、グレイシスの尻のあわいを濡らす。己の知らない腹の奥が、もう既に準備を始めていた。
雌にされるという期待と、小さな矜持。心も体も揺さぶられて、前後不覚になってしまうのはわかっているのに、こうも主導権を握りたいと思うのは、自分が王になるという自覚があるからだと信じたい。

「くそ、……んぁ、っ……」
「熱のせいか、体が熱いな、……きっと腹の中も、さぞ気持ちが良いのだろう。」
「ジル、あ、あっそ、そこ……っ……！」

ジルバの少しだけ体温の低い掌が、そっと下着の中に侵入してくる。下肢の布地を全て取り払われると、ふるんと期待に揺れた性器が外気に晒された。
浅ましく、勃ち上がっている。まだ女を知らないグレイシスの薄桃色の性器は、ジルバの掌と先走りで繋がっていた。
薄い腹筋が、ひくんと震える。ぷつりと溢れた玉状の雫が、グレイシスの性器をなぞるかのように伝い、その腹を汚した。

「期待しているのか、」
「ち、が、っん、んン……っ」

ジルバの黒い左手が、優しくグレイシスの腹を撫でる。性器の根元に近い部分をグッと押されると、ジルバは見下ろすように前傾した。
枕の横に肘をつく。そのこめかみに鼻先を近づけると、少しだけ汗の匂いがした。至近距離で様子を見つめるように覆い被さるだけで、グレイシスは期待するように身を硬くする。
この、見栄の塊のような美しい男が、己の手で解かれていくのを見るのが好きだった。
ああ、かわいい。エメラルドにも似た美しい瞳が、欲を孕んでとてもうまそうに見える。

そっと甘やかすかのように唇を重ねた。頭を撫で、何度も唇に吸い付いては、時折舌を絡ませる。
くふんとあえかな吐息を漏らしたグレイシスの背筋に手を回し、そっと胸を反らせるようにして持ち上げる。
指を滑らせた先にあったのは、ふくりと主張する胸の突起だ。薄い色味のそこが、期待するように主張している。
ここをいじると、グレイシスは可愛くなるのだ。ジルバはそのことをよく知っている。

「グレイシス、」
「ん……、んン……」
「そうだ、偉いぞ。」

ジルバの唇が、胸の先端に触れる。その突起に寝取りと舌を這わせると、ちぅ、と吸い付いた。
グレイシスの足は、ゆっくりと開いていく。己の濡れた中心部を晒すように躾けたのは、紛れもないジルバである。

素直に足を開いた可愛い雌。ジルバは、褥でグレイシスをどろどろに甘やかし、幼子を褒めるようにして愛すのである。
瞼に口づけ、鼻先をくっつけ、エメラルドの瞳に己が映るのを好む。
先走りを纏った指が、にゅく、とグレイシスの中に侵入する。そっと探るようにして内壁をいじるだけで、耐えられないと言った具合にグレイシスの性器はひくんと跳ねる。
真一文字に結ばれた唇を舌で舐めあげると、甘えたな声が漏れた。

「じ、る……っ、ぁ、あっ……ぉ、おく……も、っと……」
「焦るな、きちんと与えてやる。ああ、可愛い、お前は、本当に愛らしい。」
「ん、んんっ……」

ジルバの指の動きを助けるかのように、先走りがとろとろと指を濡らす。粘膜が甘やかされる音を耳で拾うたび、グレイシスは腰をひくんと浮かせて喜ぶのだ。
男らしい指を揉み込むような胎内の動きを、グレイシスが知ったら悲鳴を上げるに違いない。ジルバはそんなことを思って、小さく息をつめた。

「っ、はーー……、」

体温が高まるたびに色づく体が、ジルバを安易に煽ってくる。
ぬぽ、と間抜けな音を立てて引き抜かれた指を惜しむように、こなれたグレイシスの穴は、媚肉をのぞかせるように収縮した。

「い、いれる……？やだ……よ、こわい……っ、……」

膝裏に手を添えて持ち上げる。前をくつろげて取り出した熱い性器が、ひくつく蕾にあてがわれる。言葉とは裏腹に、期待するようにひくつくそこは、すでにジルバの先端を飲み込もうとしている。

「怖くない。お前の腹の奥まで、とびきりあまやかしてやる。」
「ふぁ、あっ……あ、ぁう、うそ……ゃだ、や、やあ……あ、っ……」

ジルバは、グレイシスの静止も聞かずに挿入した。先端が、熱い肉を開く。その感覚に酔いしれるように、グレイシスは背を逸らして受け入れた。

「ひぅ、あ、あっぁあーー……！！」
「っあ、あ……、」

ジルバの血流が、性器に集まった。膨らんだそれが隙間を埋めるように、ぐぷぐぷと腹の奥へと飲み込まれていく。
挿入を伴う行為は、これで二回目だった。

一度目は、硬直した父王の目の前で激しく犯した。誰の雌かをわからせる為にだ。あの時は少々激しく抱きすぎたせいで、グレイシスはベッドを使い物にならなくさせ、そして赤子のようにわんわんと泣いた。
美しく、そしてあまりにも無様なその様子に、ジルバの心はひどく満たされた。抜けていたパズルのピースをはめ込むかのように、その存在はかちりと心の隙間に嵌まったのだ。

「ん……、」
「は、ぃ……っちゃ、……った……、あ、あ……」

グレイシスの内側へと不躾に収まった男性器に、腹が満たされる。苦しい、苦しくて、疼痛が存在感を示してくる。
入り口は痺れたように感覚はないのに、媚肉は蠕動によってジルバの性器をもてなすかの様に甘く刺激する。

「は、……」

その感覚に耐えるように、眉を寄せたジルバが呼気を漏らした。灰色の瞳が、窘めるようにグレイシスを見据える。性器を揉み込むかのような蠢きに耐えかねて、ゆっくりと性器を先端まで引き抜いた。そして、グレイシスの様子などおかまいなしに、バツンと腰を強く打ち付けた。

「ひぎ、っ……！ァ、あ、や、やああっあ、だめ、ぇ……だめ、ジルバ！！あ、ア！！イぐがら……っ……！！」
「許さぬ、まだ耐えろグレイシス。」
「イぐ、ぁ、あっ、だぇ、っえ、ぁあっむ、むり、でちゃ、う、ぁあ、あーー！！」

ジルバによって鷲掴まれた腰に動きを縛られ、グレイシスはその目に大粒の涙を溢れさせる。
ろくな抵抗もできず、余りの快楽にのたうち回るように、唯一自由な上半身を捩らせ鳴き叫ぶ。
白い喉元を晒し、胸を突き出すように仰け反った。下腹部に急激に溜まった何かが、性器の内側を駆け抜けたのだ。
グレイシスの先端から、噴き上げるように粘度の高い精液が溢れ出す。

「あ、あ、あ……ぁー……、」

その争い難い快感に、無意識のうちにかくん、と腰が跳ねた。射精に引きずられるかのように、情けなく腰が揺れる。
腹の上でぽろんと揺れた性器からは、なんの役目を果たさない精液が、グレイシスの袋を伝い結合部を濡らした。

「待てといったろう、躾が必要かグレイシス」
「あ、ぁっや、やだ……きもちいの、やだ、あ、ま、まっ、まってぇ、えっい、いやぁ、あっア！！」
「まだ俺がイっていない。つれないことをいうな、最後まで付き合え。」
「いやぁ、あだめ、えっ！！は、げし、の、ぁ、あっあー！！」

情けない射精を前に、ジルバの喉奥がぐるりと鳴った。細い腰を、力強く引き寄せる。同じ雄としての矜持をへし折られるかのような激しい腰使いに、グレイシスは雌のように泣き喚くしかなかった。
結合部が泡立つ。腹を叩くように揺れる性器から、精液をぴゅくぴゅくと飛ばしながら、グレイシスは何度も腹を引き絞るようにしてジルバを締め付けた。
雌のように喘ぐことしかできない己を、認めたくないと駄々をこねるように首を振る。直に神経を焼かれるような鋭い刺激に耐えきれず、わけがわからないままシーツを握り締めては、その快楽を追いかけるのに必死だった。

「可愛らしい、漏れているぞグレイシス……粗相はいつまでで立っても治らぬなあ……。」
「でひゃ、た……ぁ、あは、っ……んひ、っ、……も、もうゃ、やぇ、やぇて……ぁ、あイぐ、も、でないからぁ、あっ……お、っ……！」

ジルバの性器が、刺激で鞠のように膨らんだグレイシスの膀胱を押し込んだ。尿道をかけぬけ、焼け付くような熱を伴いながら、弧を描くように噴出する。

「ぁは、あ、あ……っ、……っ、」

薄黄色のそれは、堕ちた体をあざ笑うかのようにビシャビシャと降り注ぐ。
腰を震わせ失禁をしたグレイシスは、快楽に浸され馬鹿になった脳で、すでに考えることを放棄していた。
ああ、きもちいい。この男の腕の中で、全てを晒し出すことの心地良さよ。
取り繕わなくて良いのだ。ありのまま、本能に従っていいのだ。

片手間に慰められる性器への刺激は、グレイシスへ雄としての自覚を持たせる。それなのに、ジルバの性器を腹に納めてしまえば、自分は簡単に雌になってしまう。

ジルバの背に必死で縋り付きながら、揺さぶられて奥を開かれることが、こんなにも嬉しいのだ。それを自覚してしまったからこそ、グレイシスは悔しくて仕方なかった。

ああ、塗り替えられていく。死んだ弟に抱いていた未練たらしい思慕が、この男の甘やかな毒によって、じわじわと色を変えていくのだ。

ジルバの黒い左手が、愛おしむようにグレイシスの頬に添えられた。その濡れた表情は誰にも見せぬと言わんばかりに、熱のこもった眼で見つめられる。

「中に、出す……、……っ、」
「ひぁ、っあぁ、あじ、じるば、っ、じぅ、あ、あっあー……！」
「ぁ、く……っ、」

じわりと広がった腹の奥の熱。目の前の半魔の男の種を、グレイシスは一滴も逃したくはないなと思った。
熱い男の体が、汗の臭いを伴って己を抱え込むように抱きしめた。
蜘蛛が好物を抱え込んで貪るように、そして見えない糸で動けぬようにと縛り上げるかのごとく強く抱きしめながら、己の精液を塗り込むように再び腰を揺らすのだ。

グレイシスは知らない。この給餌こそがアラクネの求愛であることを。
そしてジルバも語らない。薄い愛の言葉など。
それでも、露骨な愛情を求めるグレイシスの、面倒臭い性格を愛しく思ってしまうから、こうしてジルバはやり過ぎる。

結局、熱が治らずに戴冠式を一日ずらす羽目になるのだが、さんざんグレイシスから怒られたジルバだけは、謎に誇らしげだったとか。