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シュマギナール皇国陰謀編
79 *
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エルマーの大きくて熱いものが、内壁を押し広げるようにして侵入してくる。
ナナシはその甘やかな感覚が好きだった。エルマーが、薄い体の自分に興奮してくれている、それがわかるのが、嬉しい。
お腹は何の抵抗もなくエルマーの性器を受け入れて、ナナシの体を雌にしてしまう。内壁にずりずりと擦り付けながら、奥に仕込まれるたびにその硬さが増していく。熱くて、硬いそれは、優しくナナシの中を虐めるのだ。
きゅう、と締め付けると、耳元でエルマーが息を詰める。
ああ、ナナシの中で気持ちくなってくれるのだなあと思うと、腰に力が入らないくせに、もっと締め付けたくなってしまう。
自分の雄が感じいる姿を見るのは、楽しい。ナナシのなけなしの雄のプライドは、いつもそこで満たされる。
「はぅ…、…」
いつの間にか滲んでしまった涙を、エルマーが唇で受け止める。いつもは暴言ばかり吐いているその唇も、ナナシの前では繊細な愛情を届けてくれるものになる。
エルマーが、ナナシを見下ろしたまま、熱い吐息を漏らした。熱っぽい視線は、素直な欲を表している。獣のようにぐるりと喉を鳴らし、己の下でうまそうに仕上がった体を、涎を堪えるように見つめている。
「はあ……、くそ、可愛い……」
「ぇ、る、」
「ん、ここ気持ちいいか……?」
小さく名前を呼ぶナナシを、愛おしげに見つめる。ナナシにしか見せない、エルマーの微笑み。
細い体を押し潰さないように、優しく抱きしめる。大きな掌がゆっくりとナナシの尻に回って、尾の付け根をやわやわと揉む。
そこは、だめだ。気持ちよくて、腰が浮いてしまう。大きなお耳をピクピクと動かしては、涎を垂らしてエルマーの肩口を甘噛みする。
「ん…ここ、きもちいか…」
「あ、ぁー‥」
掠れた声が、耳朶を擽る。濡れた舌が毛繕いするようにナナシの耳を舐めるから、それも嬉しくて無意識に尾が揺れてしまう。
甘やかされて解れる体の一番奥に、コツンとエルマーの性器が入り込む。ここは、ナナシの大切なお部屋だ。
お腹の中に赤ちゃんがいるからだろうか、エルマーはいつも以上に労わるように、そこに先端を擦り付けるのだ。
ナナシの薄い腹がひくんと痙攣して、もっとを急かすように、エルマーの先端を内壁が舐めしゃぶる。先から滲む先走りから得られる魔力を、逃してなるものかとちゅうちゅうと吸いつくのだ。
「…ここも、いいこだなあ。」
「ぁふ…っ、…んあ、すき…」
「ふ、…」
気持ちがいい。湯気が充満した他人の浴室で、背徳的な行為に耽る。
蕩けたナナシが、ぺしょりとエルマーの唇を舐める。腹の内側、ナナシの気持ちがいいところを、こすこすと刺激してくれるエルマーの性器が、ナナシをどんどん欲張りにさせるのだ。
きゅぅ、と入り口が収縮すれば、柔肉が性器を絞る感覚にエルマーが息を詰める。己の上等な雄が、その瞳に欲の火を灯して感じ入るのが嬉しくて、ナナシははしたなくも腰を揺らめかせてしまう。
「ン…、積極的ぃ…ほら、自分でいいトコあててみな。」
「は、ぁ…あぅ…っ、んぅ、あ、あ、あー‥」
「あ…すげ…っ…」
にゅく、と内壁が蠕動する。ぞわぞわと背筋を甘く痺れさせるかのようなその動きに、エルマーは敏感に反応を示す。
何かを堪えるように拳を握り込み、その手の甲には男らしい血管を浮かばせる。ゆっくりとした腰使いで、ナナシのお部屋の狭いところを探るように擦りつけるから、ナナシのこなれた蕾の縁からは、ちゅぷんと体液が滲み出る。
麻薬のような快感だ。ナナシはだらし無く唾液を零して、小さな手のひらで縋るようにエルマーに抱きつきながら、ゆさゆさと体を揺さぶられる。
細い足は、されるがままにエルマーの腰の横で揺れている。力の抜けた上手な体が、エルマーを気持ち良くしてくれるのだ。
ああ、限界だ。これに抗えというのが無理なのだ。エルマーはゆっくりと呼吸を整えると、ガシリと細い腰を鷲掴む。
「ひぁ、ァあっあ、や、やぅ、っ!える、ぁ…っ、やぁ、あー‥!」
「はァ…あ、な、なし…ん、もっと…鳴いて…」
「う、…あァ、あっい、いぐ…え、るま…あ、あ、あっいく、ぅ、ううっ…でひゃぅ、うっ!」
「出せ、全部…っ、あ、…く…みせ、ろ…」
ガクン、と身を引き摺り下ろされるかのようにして、敏感なところに性器が入り込む。跳ね上がった足は、すぐにヘナへナと力が抜け、なすがままにがくがくと腰を打ちつけられる。
ナナシの内股が震える。強い熱源を押し込まれるかのような鋭い感覚に、ナナシは胸の突起をピンと立たせて喜んだ。
気持ちがいい、気持ちがいいのだ。
エルマーに求められる喜びが、ナナシをどんどん欲張りにさせる。制御を失った下半身は、まるで己のものだとマーキングをするかのように、エルマーの割れた腹筋に潮を浴びせてしまう。
「ひぁ、あん、や、ゃら…あ、ぁあ、んっふぇ、えっイ、たぁ…!も、イっ、たぁ、あっでな、いぃ…っ、」
「ん、っ…俺、も…イく…」
「ひぃ、ぁ、あっ!あ、ああっあや、やあ、あっ!は、ゃぃ、や、やあ、ぁっ!」
強い快感に逃げるかのように、ナナシの背筋が弓形に仰け反る。その華奢な体を抱きしめながら、エルマーは何度も己の快感を追いかけるような一方的な腰使いで、ナナシを追い詰める。
上手に力が抜けていることを褒めるかのように、エルマーは奥の狭いところを何度も蹂躙する。華奢な体を、男らしい体で隠すように覆い被さりながら、何度も腰を打ち付ける。
性器の先端が、ナナシの腹の中で甘やかされているのがわかるのだ。だから、我慢ができない。もっと、もっと奥までという欲が出て、せっかく労ったお部屋の入り口に、何度も先走りを塗り込んでしまう。
「アァ……っ、」
エルマーが、小さく声を漏らした瞬間、その先端がついにお部屋の中に入り込んだ。小さくて、狭いそこを、エルマーの熱が暖める。
ナナシの薄いお腹は、一部分だけがポコんと歪に膨らんだ。細い足が衝撃で跳ね上がり、つま先を伸ばすようにして快感をやり過ごそうとする。
「ぁ、う…っ…あ、ああ、あ…」
「はあ、く…っ…」
熱く、粘度の高いエルマーの精液が、ごぽごぽとナナシの腹の内側を満たしていく。腰を震わせ、全てを出し切ろうと、エルマーが強く腰を押し付けるたびに細い足はゆさゆさと揺れる。
一滴も漏らさずに、腹の収縮だけで精液を全て受け止めたナナシは、与えられ快感に身を震わせた。
頭の中に、もったりとしたクリームを詰め込まれてしまったかのような、そんな心地だ。
気持ちが良くて、涙が出る。情けない顔をしているかもしれない。ナナシは、覚束ない思考の中、ゆっくりとエルマーの顔を目に映す。
汗が、ナナシの頬に垂れた。目の前には、上等な雄の顔を性感に歪ませたエルマーが、荒い呼吸を整えながら見下ろしていた。
「ん……、ナナシ、……っ」
甘えるような、そんな可愛らしい声色で、エルマーが名前を紡ぐ。赤い髪に閉じ込められるかのように、ゆっくりと抱きしめられると、その薄い肩口に印をつけるかのように噛みつかれた。
エルマーの犬歯が、控えめに肩口の肉に埋め込まれる。その鈍い痛みすら疼痛に変わってしまうくらい、ナナシの体は雌にされてしまっている。
「ぁ……う、っ……んン……」
エルマーの腰が、ナナシのそこに塗りつけるような動きに変わる。激しい律動とは違う、緩やかなそれを、ナナシは背中に腕を回すことで受け止めた。
「ん…ナナシ…」
「ぅ……、ン…」
「ナナシ…」
エルマーが、ナナシの華奢な体をキツく抱きしめる。その姿は、子供が宝物を取られまいとするような、それにも似ていた。
ナナシに匂い付けするように、ぺろりと頬を舐めると、指通りの良い髪を撫でる。
誰にも渡さない、ナナシは、エルマーのものだ。
微睡むナナシに口付けて、揺さぶって、何度も腹の奥に射精をした。まるで、体に教え込むかのようなそれは、わかりやすい独占欲だ。
結局、途中で意識を飛ばしてしまったせいで、ナナシが目を輝かせたオアシスのような風呂に入ることはなっかった。
エルマーはシャワーだけで簡単に体の汚れを取り除くと、泣き疲れて眠るナナシの腹から、ゆっくりと性器を引き抜いた。
頬に張り付いた銀髪をそっと撫で付ける。薄紅色に染まったまろい頬に口付けを送ると、小さく呟く。
「…愛してる、ぞ」
恥ずかしいから、寝てるときにしか言ってやらん。ずるいかもしれないけれど、純粋な愛の言葉をかっこつけて言える程、エルマーはその言葉を使い慣れてはいなかった。
さりさりとした衣擦れの音がする。ナナシは喃語のような声を漏らしながら、人肌に縋るようにいい香りのする方へと顔を埋める。
大きな手のひらに、ぐい、と引き寄せられると、そのまま頭を抱き込まれた。少し苦しいけど、これは幸せの心地良さだった。
もぞ、と顔を動かして、呼吸がしやすいように顔を出す。頭を撫でられるのが気持ちいい。柔らかな唇でお耳を喰まれるのが擽ったくて、ついピクピクと動かした。
そのせいだろうか、耳元で、ぶしょっと妙な音がしたので、ナナシの微睡の時間は終わりを告げた。
「へっ……くしょっ!ぶしっ!」
「んんむ、ふわぁ……」
「あ、わり。」
ずびっとエルマーが鼻を啜る。エルマーがくしゃみをしたのはナナシのせいらしい。エルマーはずびりと鼻を啜ると、ナナシのお耳を避けるように顔の位置をずらした。
「んん、える……?」
「おう、……あ?」
甘えるように擦り寄ってきたナナシを、エルマーが抱き寄せる。額に口付けをしようと顔を寄せた瞬間、二人の間からは妙な声が聞こえた。
「ンゎぁ」
二人の間に挟まるように、ふさふさとした何かが丸くなっている。もしかしたら、己の尻尾だろうか。ナナシはそんなことを思うと、確認するように寝具から尾だけを出した。尾は、床を撫でるようにゆさゆさと揺れている。ご機嫌なそれを前に、キョトンとする。どうやら自分の尾が犯人ではないらしい。
そんなナナシの隣で、エルマーが布団の中に手を突っ込んだ。渋い顔のままそれを鷲掴かんで引き寄せると、布団から現れたのは銀色の毛玉であった。
「フニャ……ンンン……クワァ…」
がぱりとギザ齒を晒しながら、大口を開けて欠伸をする。二人の間で暖を取っていたらしく、もにゃ……と口を動かしたかと思うと、べろんとエルマーの顔を舐め上げた。
「くっせぇ!!」
「ンン……オエーー!!エルマーナメタ!!オエェ!!」
「おま、こっちのセリフだコラァ!!」
まあるい目をパチリとあけたギンイロは、己が舐めた相手がエルマーだと確認するや否や、おげっと顔を歪めて舌を震わせた。
ギンイロの涎で顔を汚したエルマーによって、その体をペイッと放り投げられる。しかし腐っても精霊であった。ギンイロはちいさな羽をパタつかせると、何事もなかったかのように両手を広げるナナシの腕の中に収まった。
「ンン。ナナシ……メスノニオイスル。」
「う?」
「エルマートハンショクシタ?オナカノタマゴソダッテル。」
「はわ……はずかしい……」
どうやら昨日のことがバレたらしい。ギンイロに指摘されたナナシはというと、気恥ずかしそうにぽっと顔を赤らめながら照れている。
さっさと寝具から出て、顔を洗ってきたらしいエルマーが、ナナシを茶化すギンイロを摘み上げた。ナナシの恥じらう顔を見られたと言うのも文句の一つらしい。
大人気ないエルマーはムスッとした顔でギンイロを同じ目線まで持ち上げると、ヘッヘッヘと笑うかのような息遣いの精霊にしっかりと睨みをきかせる。
「ハンショク。エルマーノスケべ。」
「やかましい。嫁抱いてなにがわりいんだっての。」
「タンイセイショクカトオモッテタ。」
「あ?」
「ヒトリデオスクサイトキアッ」
「おおおおおまえそういうこというなっての!!!」
いつぞやか、耐えかねてナナシの寝顔で抜いた時のことも、ギンイロにはバレていたらしい。別に恥ずかしいことではないのだが、そんなことはナナシの前で言うことではない。
「……?」
ナナシの大きなお耳が、騒がしい足音を察知した。ピンとお耳を立てたままむくりと起き上がると、キョトンとした顔で扉へと振り向く。
扉の前で足音が止まったかと思うと、破裂音かと言わんばかりの勢いで、扉が開いた。
「エルマー!!」
「うわあ!!!」
「ウヒャアアア!!」
鬼気迫る表情で現れたのは、レイガンであった。せめて服を着るまで待ってほしい、いや、ノックをしろ。思うところは沢山あった。なぜなら、エルマーは見事に裸のままであったのだ。慌てて掴んでいたギンイロで股間を隠す。
モザイク代わりに使われたギンイロはというと、その毛並みを逆立てるようにして、なんとも情けない悲鳴を上げた。
「っ、とすまない…君は寝るときは裸……っ、」
「レイガン、おはよぉ……」
「す、すまない……」
どうやら無粋な訪問だと悟ったらしい。レイガンの目の前では、寝起きのナナシが事後の体を晒していた。
裸のエルマーは見慣れていたとしても、ナナシはだめだ。レイガンは呆気にとられた一瞬の後、慌てて顔を逸らす。
腰にシーツを巻き付けて、なんとか体裁を整えたエルマーが、レイガンの背を押すようにして通路に出る。余程急いでいたのはわかる、文句はあったが、今回ばかりは目を瞑ることにしたらしい。
「悪い、配慮にかけていた……」
「まあ、次からノックしてくれや。んで、なに?」
エルマーが、凭れ掛かるようにして扉を閉める。ナナシにインべントリを渡したので、着替えはするだろう。目の前のレイガンへと視線を移す。冷静なレイガンが慌てた理由に、なんとなく予想はついていたのだ。
「国王が崩御した。皇后も、もう瀬戸際らしい。」
「出どころは?」
「ジクボルトが城に呼ばれた。国葬の為にな。」
「ああ、成程……そりゃ確かな筋だぁな。」
エルマーの言葉に、レイガンが難しい顔をする。整った表情を歪めたまま俯く姿は、見方によっては何かを悔いているようにも見える。
「ジルガスタントに来てほしい。だけど、国葬を執り行う中移動となると違和感しかないな……。」
「あー……、てか国葬するのか?奴さんにつけこまれたりしねえ?」
「しめやかに行う。他国への通知は国王の意向で行わないそうだ。唯一のメリットとしては、ジルガスタントへの進行はしばらくは抑えられるということか。」
「……ジルバか。」
兄弟が仕事をした。と、言っていたことを思い出す。ぬかるんだ国政を立て直すためには、早く次代を据える方が違和感はない。しかし、崩御をした国王に続くように皇后までもが倒れたとなると、陰謀説が浮かび上がるのではないか。エルマーは、腑に落ちぬという顔だ。
「一度ジルバにあいてえ。あいつもジルガスタントに行けと言ってたからな。なんか知ってっかも。」
「影の魔女か、そういえば皇国に巣を張り巡らしていたな……」
「今は城にいる。まあ、アロンダートの家から道は繋がってっから、そっから中にはいるのは容易いけどよ。」
「まて、国葬をするんだ。そうもほいほいと侵入は出来まい。警備は硬いぞ。」
難しい顔をするレイガンに、エルマーはにやりと笑う。まるで悪巧みをするような悪役じみたその笑みに、レイガンは少しだけ物怖じした。
「変装するなら、頼りになるやつが市井にいる。そこらへんは任せとけ。」
余裕を見せるエルマーの言葉に、レイガンは怪訝そうな顔をする。そんな相手まで懐に取り込んでいるとは、全くもって底のしれない男だと、改めて思ったのである。
なんだかよくは分からないが、そんな味方がいるなら、これ以上心強いことはないだろう。
レイガンは小さく頷くと、まかせる。とエルマーを真っ直ぐに見つめた。
「あら!!!あらあらあらあああ!!」
任せると言ったことを後悔してもいいだろうか。レイガンは、その表情を青褪めさせたまま、それを見つめていた。
「トッドぉ……わああん!あいたかったよう!」
勇ましい声の方が似合いそうな、大柄な女性、もとい女装をしている男性へと、ナナシが勢いよく抱きつきに行った。頼り甲斐しかなさそうな胸筋に顔を埋めて、わんわんと泣くナナシを前に、レイガンは改めて言いたいことを飲み込んだ。
まさかオカマが協力者だなんて誰が思うのか。感動的な再会も、そのまさかが邪魔をして浸ることすらできない。
「あらぁ……いやだわ、ちょっと……そんなに泣かれたらアタシだって泣いちゃうわよお……」
「ふえぇ……」
猫を撫でるように甘ったるい声色で、よしよしとナナシの頭を撫でる。人外の姿になってから、ナナシがトッドに会うのは初めてだ。
ナナシはこの姿が受け入れられるかを心配していたが、実際に顔を出してみれば驚かれはしたものの、トッドは変わらず接してくれたのだ。
仕事で城に向かったジクボルトを除き、四人で向かったのは市井に店を構えたトッドのところだ。サジはというと、五人目は流石に多いといって消えていた。
トッドへレイガンのことを簡単に説明をすると、話の途中であの時の刺客の男だと言うことに気がついたらしい、ものすごい眼力で見つめられてしまった。
トッドが営むブティックの中、居心地が悪そうなレイガンの様子など気にもせず、エルマーは人目がないことを確認するや否や、サジを呼んだ。
「サジィ!もう出てきていいぞ!」
召喚の呪文などない。相変わらずの気軽さでエルマーが名前を呼べば、ひょこりとエルマーの後ろから現れたサジに、トッドとレイガンは腰を抜かして驚いた。
ふらっと出ていったのは見たことはあるが、エルマーと重なるようにして出てくるところは初めて見たのだ。
「なんだ。サジをお化けみたいに見やがって。当たり前だろう、使役されているのだから。」
「ああ、登録名が元気なゴーストだからじゃね?」
「今更だが、それ変えられぬか。なんかダサい気がししてきた。」
アロンダートはにこにこしながらサジの腰を抱く。想い人が他の男に使役されているという複雑な状況に、未だ納得できかねているらしい。エルマーからしてみたら、騙し討ちのような方法だったので不本意なのだが。
「っと、まあお前に頼みてえんだわ。」
「ああ、城内へ入る話かしら。それなら安心して、ジルバ様から承っているから。」
「あ?」
ニッコリと笑うと、トッドは色とりどりの生地の束をひと抱え持ってきた。
どうやら既にジルバによって根回しはされていたらしい。大量の生地をドサリとテーブルの上に置くと、それはもう満面の笑みで宣った。
「葬式の後は戴冠式よ。そうすれば必要になるのはお召し物。潜入するなら、お針子として中に入るのが一番。ということで今回の犠牲者は二人。」
にんまり。と言う擬音がつきそうなほど、トッドはいやらしい笑みを浮かべた。
その瞬間、エルマーとレイガンはぞわわっと身を震わせた。
嫌な予感がする。己の悪寒に気がつかないふりを決め込もうかと心で決めた矢先のことであった。
トッドは、キョトンとするナナシの頭を良々と撫でると、指輪で飾った太ましい指で二人を指を指し、目を輝かせながら宣言した。
「今回の犠牲者は、エルマーとレイガンね!!」
「はああああああ!?!?!?」
けたたましいエルマーの絶叫に、レイガンは、己の身に恐ろしいことが降りかかるのであろうということだけは、理解したのであった。
ナナシはその甘やかな感覚が好きだった。エルマーが、薄い体の自分に興奮してくれている、それがわかるのが、嬉しい。
お腹は何の抵抗もなくエルマーの性器を受け入れて、ナナシの体を雌にしてしまう。内壁にずりずりと擦り付けながら、奥に仕込まれるたびにその硬さが増していく。熱くて、硬いそれは、優しくナナシの中を虐めるのだ。
きゅう、と締め付けると、耳元でエルマーが息を詰める。
ああ、ナナシの中で気持ちくなってくれるのだなあと思うと、腰に力が入らないくせに、もっと締め付けたくなってしまう。
自分の雄が感じいる姿を見るのは、楽しい。ナナシのなけなしの雄のプライドは、いつもそこで満たされる。
「はぅ…、…」
いつの間にか滲んでしまった涙を、エルマーが唇で受け止める。いつもは暴言ばかり吐いているその唇も、ナナシの前では繊細な愛情を届けてくれるものになる。
エルマーが、ナナシを見下ろしたまま、熱い吐息を漏らした。熱っぽい視線は、素直な欲を表している。獣のようにぐるりと喉を鳴らし、己の下でうまそうに仕上がった体を、涎を堪えるように見つめている。
「はあ……、くそ、可愛い……」
「ぇ、る、」
「ん、ここ気持ちいいか……?」
小さく名前を呼ぶナナシを、愛おしげに見つめる。ナナシにしか見せない、エルマーの微笑み。
細い体を押し潰さないように、優しく抱きしめる。大きな掌がゆっくりとナナシの尻に回って、尾の付け根をやわやわと揉む。
そこは、だめだ。気持ちよくて、腰が浮いてしまう。大きなお耳をピクピクと動かしては、涎を垂らしてエルマーの肩口を甘噛みする。
「ん…ここ、きもちいか…」
「あ、ぁー‥」
掠れた声が、耳朶を擽る。濡れた舌が毛繕いするようにナナシの耳を舐めるから、それも嬉しくて無意識に尾が揺れてしまう。
甘やかされて解れる体の一番奥に、コツンとエルマーの性器が入り込む。ここは、ナナシの大切なお部屋だ。
お腹の中に赤ちゃんがいるからだろうか、エルマーはいつも以上に労わるように、そこに先端を擦り付けるのだ。
ナナシの薄い腹がひくんと痙攣して、もっとを急かすように、エルマーの先端を内壁が舐めしゃぶる。先から滲む先走りから得られる魔力を、逃してなるものかとちゅうちゅうと吸いつくのだ。
「…ここも、いいこだなあ。」
「ぁふ…っ、…んあ、すき…」
「ふ、…」
気持ちがいい。湯気が充満した他人の浴室で、背徳的な行為に耽る。
蕩けたナナシが、ぺしょりとエルマーの唇を舐める。腹の内側、ナナシの気持ちがいいところを、こすこすと刺激してくれるエルマーの性器が、ナナシをどんどん欲張りにさせるのだ。
きゅぅ、と入り口が収縮すれば、柔肉が性器を絞る感覚にエルマーが息を詰める。己の上等な雄が、その瞳に欲の火を灯して感じ入るのが嬉しくて、ナナシははしたなくも腰を揺らめかせてしまう。
「ン…、積極的ぃ…ほら、自分でいいトコあててみな。」
「は、ぁ…あぅ…っ、んぅ、あ、あ、あー‥」
「あ…すげ…っ…」
にゅく、と内壁が蠕動する。ぞわぞわと背筋を甘く痺れさせるかのようなその動きに、エルマーは敏感に反応を示す。
何かを堪えるように拳を握り込み、その手の甲には男らしい血管を浮かばせる。ゆっくりとした腰使いで、ナナシのお部屋の狭いところを探るように擦りつけるから、ナナシのこなれた蕾の縁からは、ちゅぷんと体液が滲み出る。
麻薬のような快感だ。ナナシはだらし無く唾液を零して、小さな手のひらで縋るようにエルマーに抱きつきながら、ゆさゆさと体を揺さぶられる。
細い足は、されるがままにエルマーの腰の横で揺れている。力の抜けた上手な体が、エルマーを気持ち良くしてくれるのだ。
ああ、限界だ。これに抗えというのが無理なのだ。エルマーはゆっくりと呼吸を整えると、ガシリと細い腰を鷲掴む。
「ひぁ、ァあっあ、や、やぅ、っ!える、ぁ…っ、やぁ、あー‥!」
「はァ…あ、な、なし…ん、もっと…鳴いて…」
「う、…あァ、あっい、いぐ…え、るま…あ、あ、あっいく、ぅ、ううっ…でひゃぅ、うっ!」
「出せ、全部…っ、あ、…く…みせ、ろ…」
ガクン、と身を引き摺り下ろされるかのようにして、敏感なところに性器が入り込む。跳ね上がった足は、すぐにヘナへナと力が抜け、なすがままにがくがくと腰を打ちつけられる。
ナナシの内股が震える。強い熱源を押し込まれるかのような鋭い感覚に、ナナシは胸の突起をピンと立たせて喜んだ。
気持ちがいい、気持ちがいいのだ。
エルマーに求められる喜びが、ナナシをどんどん欲張りにさせる。制御を失った下半身は、まるで己のものだとマーキングをするかのように、エルマーの割れた腹筋に潮を浴びせてしまう。
「ひぁ、あん、や、ゃら…あ、ぁあ、んっふぇ、えっイ、たぁ…!も、イっ、たぁ、あっでな、いぃ…っ、」
「ん、っ…俺、も…イく…」
「ひぃ、ぁ、あっ!あ、ああっあや、やあ、あっ!は、ゃぃ、や、やあ、ぁっ!」
強い快感に逃げるかのように、ナナシの背筋が弓形に仰け反る。その華奢な体を抱きしめながら、エルマーは何度も己の快感を追いかけるような一方的な腰使いで、ナナシを追い詰める。
上手に力が抜けていることを褒めるかのように、エルマーは奥の狭いところを何度も蹂躙する。華奢な体を、男らしい体で隠すように覆い被さりながら、何度も腰を打ち付ける。
性器の先端が、ナナシの腹の中で甘やかされているのがわかるのだ。だから、我慢ができない。もっと、もっと奥までという欲が出て、せっかく労ったお部屋の入り口に、何度も先走りを塗り込んでしまう。
「アァ……っ、」
エルマーが、小さく声を漏らした瞬間、その先端がついにお部屋の中に入り込んだ。小さくて、狭いそこを、エルマーの熱が暖める。
ナナシの薄いお腹は、一部分だけがポコんと歪に膨らんだ。細い足が衝撃で跳ね上がり、つま先を伸ばすようにして快感をやり過ごそうとする。
「ぁ、う…っ…あ、ああ、あ…」
「はあ、く…っ…」
熱く、粘度の高いエルマーの精液が、ごぽごぽとナナシの腹の内側を満たしていく。腰を震わせ、全てを出し切ろうと、エルマーが強く腰を押し付けるたびに細い足はゆさゆさと揺れる。
一滴も漏らさずに、腹の収縮だけで精液を全て受け止めたナナシは、与えられ快感に身を震わせた。
頭の中に、もったりとしたクリームを詰め込まれてしまったかのような、そんな心地だ。
気持ちが良くて、涙が出る。情けない顔をしているかもしれない。ナナシは、覚束ない思考の中、ゆっくりとエルマーの顔を目に映す。
汗が、ナナシの頬に垂れた。目の前には、上等な雄の顔を性感に歪ませたエルマーが、荒い呼吸を整えながら見下ろしていた。
「ん……、ナナシ、……っ」
甘えるような、そんな可愛らしい声色で、エルマーが名前を紡ぐ。赤い髪に閉じ込められるかのように、ゆっくりと抱きしめられると、その薄い肩口に印をつけるかのように噛みつかれた。
エルマーの犬歯が、控えめに肩口の肉に埋め込まれる。その鈍い痛みすら疼痛に変わってしまうくらい、ナナシの体は雌にされてしまっている。
「ぁ……う、っ……んン……」
エルマーの腰が、ナナシのそこに塗りつけるような動きに変わる。激しい律動とは違う、緩やかなそれを、ナナシは背中に腕を回すことで受け止めた。
「ん…ナナシ…」
「ぅ……、ン…」
「ナナシ…」
エルマーが、ナナシの華奢な体をキツく抱きしめる。その姿は、子供が宝物を取られまいとするような、それにも似ていた。
ナナシに匂い付けするように、ぺろりと頬を舐めると、指通りの良い髪を撫でる。
誰にも渡さない、ナナシは、エルマーのものだ。
微睡むナナシに口付けて、揺さぶって、何度も腹の奥に射精をした。まるで、体に教え込むかのようなそれは、わかりやすい独占欲だ。
結局、途中で意識を飛ばしてしまったせいで、ナナシが目を輝かせたオアシスのような風呂に入ることはなっかった。
エルマーはシャワーだけで簡単に体の汚れを取り除くと、泣き疲れて眠るナナシの腹から、ゆっくりと性器を引き抜いた。
頬に張り付いた銀髪をそっと撫で付ける。薄紅色に染まったまろい頬に口付けを送ると、小さく呟く。
「…愛してる、ぞ」
恥ずかしいから、寝てるときにしか言ってやらん。ずるいかもしれないけれど、純粋な愛の言葉をかっこつけて言える程、エルマーはその言葉を使い慣れてはいなかった。
さりさりとした衣擦れの音がする。ナナシは喃語のような声を漏らしながら、人肌に縋るようにいい香りのする方へと顔を埋める。
大きな手のひらに、ぐい、と引き寄せられると、そのまま頭を抱き込まれた。少し苦しいけど、これは幸せの心地良さだった。
もぞ、と顔を動かして、呼吸がしやすいように顔を出す。頭を撫でられるのが気持ちいい。柔らかな唇でお耳を喰まれるのが擽ったくて、ついピクピクと動かした。
そのせいだろうか、耳元で、ぶしょっと妙な音がしたので、ナナシの微睡の時間は終わりを告げた。
「へっ……くしょっ!ぶしっ!」
「んんむ、ふわぁ……」
「あ、わり。」
ずびっとエルマーが鼻を啜る。エルマーがくしゃみをしたのはナナシのせいらしい。エルマーはずびりと鼻を啜ると、ナナシのお耳を避けるように顔の位置をずらした。
「んん、える……?」
「おう、……あ?」
甘えるように擦り寄ってきたナナシを、エルマーが抱き寄せる。額に口付けをしようと顔を寄せた瞬間、二人の間からは妙な声が聞こえた。
「ンゎぁ」
二人の間に挟まるように、ふさふさとした何かが丸くなっている。もしかしたら、己の尻尾だろうか。ナナシはそんなことを思うと、確認するように寝具から尾だけを出した。尾は、床を撫でるようにゆさゆさと揺れている。ご機嫌なそれを前に、キョトンとする。どうやら自分の尾が犯人ではないらしい。
そんなナナシの隣で、エルマーが布団の中に手を突っ込んだ。渋い顔のままそれを鷲掴かんで引き寄せると、布団から現れたのは銀色の毛玉であった。
「フニャ……ンンン……クワァ…」
がぱりとギザ齒を晒しながら、大口を開けて欠伸をする。二人の間で暖を取っていたらしく、もにゃ……と口を動かしたかと思うと、べろんとエルマーの顔を舐め上げた。
「くっせぇ!!」
「ンン……オエーー!!エルマーナメタ!!オエェ!!」
「おま、こっちのセリフだコラァ!!」
まあるい目をパチリとあけたギンイロは、己が舐めた相手がエルマーだと確認するや否や、おげっと顔を歪めて舌を震わせた。
ギンイロの涎で顔を汚したエルマーによって、その体をペイッと放り投げられる。しかし腐っても精霊であった。ギンイロはちいさな羽をパタつかせると、何事もなかったかのように両手を広げるナナシの腕の中に収まった。
「ンン。ナナシ……メスノニオイスル。」
「う?」
「エルマートハンショクシタ?オナカノタマゴソダッテル。」
「はわ……はずかしい……」
どうやら昨日のことがバレたらしい。ギンイロに指摘されたナナシはというと、気恥ずかしそうにぽっと顔を赤らめながら照れている。
さっさと寝具から出て、顔を洗ってきたらしいエルマーが、ナナシを茶化すギンイロを摘み上げた。ナナシの恥じらう顔を見られたと言うのも文句の一つらしい。
大人気ないエルマーはムスッとした顔でギンイロを同じ目線まで持ち上げると、ヘッヘッヘと笑うかのような息遣いの精霊にしっかりと睨みをきかせる。
「ハンショク。エルマーノスケべ。」
「やかましい。嫁抱いてなにがわりいんだっての。」
「タンイセイショクカトオモッテタ。」
「あ?」
「ヒトリデオスクサイトキアッ」
「おおおおおまえそういうこというなっての!!!」
いつぞやか、耐えかねてナナシの寝顔で抜いた時のことも、ギンイロにはバレていたらしい。別に恥ずかしいことではないのだが、そんなことはナナシの前で言うことではない。
「……?」
ナナシの大きなお耳が、騒がしい足音を察知した。ピンとお耳を立てたままむくりと起き上がると、キョトンとした顔で扉へと振り向く。
扉の前で足音が止まったかと思うと、破裂音かと言わんばかりの勢いで、扉が開いた。
「エルマー!!」
「うわあ!!!」
「ウヒャアアア!!」
鬼気迫る表情で現れたのは、レイガンであった。せめて服を着るまで待ってほしい、いや、ノックをしろ。思うところは沢山あった。なぜなら、エルマーは見事に裸のままであったのだ。慌てて掴んでいたギンイロで股間を隠す。
モザイク代わりに使われたギンイロはというと、その毛並みを逆立てるようにして、なんとも情けない悲鳴を上げた。
「っ、とすまない…君は寝るときは裸……っ、」
「レイガン、おはよぉ……」
「す、すまない……」
どうやら無粋な訪問だと悟ったらしい。レイガンの目の前では、寝起きのナナシが事後の体を晒していた。
裸のエルマーは見慣れていたとしても、ナナシはだめだ。レイガンは呆気にとられた一瞬の後、慌てて顔を逸らす。
腰にシーツを巻き付けて、なんとか体裁を整えたエルマーが、レイガンの背を押すようにして通路に出る。余程急いでいたのはわかる、文句はあったが、今回ばかりは目を瞑ることにしたらしい。
「悪い、配慮にかけていた……」
「まあ、次からノックしてくれや。んで、なに?」
エルマーが、凭れ掛かるようにして扉を閉める。ナナシにインべントリを渡したので、着替えはするだろう。目の前のレイガンへと視線を移す。冷静なレイガンが慌てた理由に、なんとなく予想はついていたのだ。
「国王が崩御した。皇后も、もう瀬戸際らしい。」
「出どころは?」
「ジクボルトが城に呼ばれた。国葬の為にな。」
「ああ、成程……そりゃ確かな筋だぁな。」
エルマーの言葉に、レイガンが難しい顔をする。整った表情を歪めたまま俯く姿は、見方によっては何かを悔いているようにも見える。
「ジルガスタントに来てほしい。だけど、国葬を執り行う中移動となると違和感しかないな……。」
「あー……、てか国葬するのか?奴さんにつけこまれたりしねえ?」
「しめやかに行う。他国への通知は国王の意向で行わないそうだ。唯一のメリットとしては、ジルガスタントへの進行はしばらくは抑えられるということか。」
「……ジルバか。」
兄弟が仕事をした。と、言っていたことを思い出す。ぬかるんだ国政を立て直すためには、早く次代を据える方が違和感はない。しかし、崩御をした国王に続くように皇后までもが倒れたとなると、陰謀説が浮かび上がるのではないか。エルマーは、腑に落ちぬという顔だ。
「一度ジルバにあいてえ。あいつもジルガスタントに行けと言ってたからな。なんか知ってっかも。」
「影の魔女か、そういえば皇国に巣を張り巡らしていたな……」
「今は城にいる。まあ、アロンダートの家から道は繋がってっから、そっから中にはいるのは容易いけどよ。」
「まて、国葬をするんだ。そうもほいほいと侵入は出来まい。警備は硬いぞ。」
難しい顔をするレイガンに、エルマーはにやりと笑う。まるで悪巧みをするような悪役じみたその笑みに、レイガンは少しだけ物怖じした。
「変装するなら、頼りになるやつが市井にいる。そこらへんは任せとけ。」
余裕を見せるエルマーの言葉に、レイガンは怪訝そうな顔をする。そんな相手まで懐に取り込んでいるとは、全くもって底のしれない男だと、改めて思ったのである。
なんだかよくは分からないが、そんな味方がいるなら、これ以上心強いことはないだろう。
レイガンは小さく頷くと、まかせる。とエルマーを真っ直ぐに見つめた。
「あら!!!あらあらあらあああ!!」
任せると言ったことを後悔してもいいだろうか。レイガンは、その表情を青褪めさせたまま、それを見つめていた。
「トッドぉ……わああん!あいたかったよう!」
勇ましい声の方が似合いそうな、大柄な女性、もとい女装をしている男性へと、ナナシが勢いよく抱きつきに行った。頼り甲斐しかなさそうな胸筋に顔を埋めて、わんわんと泣くナナシを前に、レイガンは改めて言いたいことを飲み込んだ。
まさかオカマが協力者だなんて誰が思うのか。感動的な再会も、そのまさかが邪魔をして浸ることすらできない。
「あらぁ……いやだわ、ちょっと……そんなに泣かれたらアタシだって泣いちゃうわよお……」
「ふえぇ……」
猫を撫でるように甘ったるい声色で、よしよしとナナシの頭を撫でる。人外の姿になってから、ナナシがトッドに会うのは初めてだ。
ナナシはこの姿が受け入れられるかを心配していたが、実際に顔を出してみれば驚かれはしたものの、トッドは変わらず接してくれたのだ。
仕事で城に向かったジクボルトを除き、四人で向かったのは市井に店を構えたトッドのところだ。サジはというと、五人目は流石に多いといって消えていた。
トッドへレイガンのことを簡単に説明をすると、話の途中であの時の刺客の男だと言うことに気がついたらしい、ものすごい眼力で見つめられてしまった。
トッドが営むブティックの中、居心地が悪そうなレイガンの様子など気にもせず、エルマーは人目がないことを確認するや否や、サジを呼んだ。
「サジィ!もう出てきていいぞ!」
召喚の呪文などない。相変わらずの気軽さでエルマーが名前を呼べば、ひょこりとエルマーの後ろから現れたサジに、トッドとレイガンは腰を抜かして驚いた。
ふらっと出ていったのは見たことはあるが、エルマーと重なるようにして出てくるところは初めて見たのだ。
「なんだ。サジをお化けみたいに見やがって。当たり前だろう、使役されているのだから。」
「ああ、登録名が元気なゴーストだからじゃね?」
「今更だが、それ変えられぬか。なんかダサい気がししてきた。」
アロンダートはにこにこしながらサジの腰を抱く。想い人が他の男に使役されているという複雑な状況に、未だ納得できかねているらしい。エルマーからしてみたら、騙し討ちのような方法だったので不本意なのだが。
「っと、まあお前に頼みてえんだわ。」
「ああ、城内へ入る話かしら。それなら安心して、ジルバ様から承っているから。」
「あ?」
ニッコリと笑うと、トッドは色とりどりの生地の束をひと抱え持ってきた。
どうやら既にジルバによって根回しはされていたらしい。大量の生地をドサリとテーブルの上に置くと、それはもう満面の笑みで宣った。
「葬式の後は戴冠式よ。そうすれば必要になるのはお召し物。潜入するなら、お針子として中に入るのが一番。ということで今回の犠牲者は二人。」
にんまり。と言う擬音がつきそうなほど、トッドはいやらしい笑みを浮かべた。
その瞬間、エルマーとレイガンはぞわわっと身を震わせた。
嫌な予感がする。己の悪寒に気がつかないふりを決め込もうかと心で決めた矢先のことであった。
トッドは、キョトンとするナナシの頭を良々と撫でると、指輪で飾った太ましい指で二人を指を指し、目を輝かせながら宣言した。
「今回の犠牲者は、エルマーとレイガンね!!」
「はああああああ!?!?!?」
けたたましいエルマーの絶叫に、レイガンは、己の身に恐ろしいことが降りかかるのであろうということだけは、理解したのであった。
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