名無しの龍は愛されたい。

だいきち

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ドリアズ編

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「ずるい!依怙贔屓だぞ!サジにもなんかよこせ!」
「ぜってぇ言うとおもったぁ。」

エルマー達がチベットに別れを告げて工房を後にすると、所用を済ませたらしいサジが、仁王立ちで工房前に立ちはだかっていた。

「サジ、こぇ。」
「んあ?あれ、サジにもやんの?」
「わけっこ。」

ムスッとした顔で仁王立ちするサジを前に、ナナシはエルマーに先程のパンを出してもらった。
サジのことはあんまり好きではないが、仲間はずれが寂しいのはナナシが一番わかっている。
手に持ったやわらかなパンを半分に千切ると、それをサジの口元に運んだ。

「ふむ。パン。」
「わけっこ。ナナシの、あげぅ。」
「サジにくれるのか!実に面白い!頂こう!」

昨日まであんなにサジ嫌い!と言いまくっていたくせになあ。エルマーは、落とし所でも見つけたのだろうかと、そんなことを思う。
パンを差し出されたサジはというと、ナナシの細い手首を掴み、己の口元に運ばれたそれに遠慮なしに齧りつく。
ナナシは、まさかサジが自分の手を持って食べるとは思っていなかったらしい、ポカンとした顔でその様子を見上げている。
サジの突拍子もない行動は、慣れるよりほかはない。こうやって直ぐに距離を詰めてくるのは美徳でもあるが、それは顔がいいという前提がなければただの不審者だ。
そのままべろんと食べかすごと小さな手を舐められる。

「はわ、っ」
「おーおー、びっくりしたなあ。」

ついには、ぎょっとしたナナシがエルマーの後ろに走って隠れてしまった。己を立てにするように服を掴んでしがみ付くと、注意深くサジを伺う。
また誂われると思ったのだろう、目が合うと直ぐにまたエルマーの後ろに隠れてしまったが。

「普通だ。サジの好きなパンは、もっと穀物の甘みが強い。」
「食っといて文句言うなっつの。」

エルマーは溜め息を吐くと、ナナシにちょっかいをかけるサジを横目に、ガサゴソとンベントリを漁る。
あまりにもサジが喧しかったので、以前エルマーが護衛のお礼にと言われて受け取った、加護が付与されたミサンガをやろうと思ったのだ。
属性付与のそのアクセサリーは、エルマーのように無属性の者にとっては宝の持ち腐れである。それを取り出すと、サジの手首をむんずと掴んで結びつけた。

「なんだこの紐。呪いを感じる。」
「商隊護衛んときのお礼に貰ったんだよ。俺は属性持ってねえから使わねえしな。」
「きらきら!」
「悪くない。見たところ風魔法の強化。うふふ、サジは木だが風も使えるぞ。」

ナナシはひょこひょことサジに近づくと、背伸びをしてそのミサンガを見たがった。
手につけられたそれを見やすい位置に持ってきてやるあたり、サジもナナシを気に入っているようだ。
ナナシはサジの手を握るようにして、その細い手首に飾られたミサンガを見つめる。金と緑のちいさな魔石を編み込んだそれは、サジによく似合っていた。

「ふぉ…」
「おい、そんなに手を握るな。」

サジは、そんなことを言いながらもまんざらではないらしい。ナナシは、ミサンガの魔石をちょんと指で触れる。光が反射して、サジの白い肌に金と緑の色が写るのが気になるようだ。
色のついた光を追いかけるように指で触れては、ご機嫌にふにゃふにゃ笑いながらサジを見上げるので、なんだかむず痒くなったらしい。
サジはナナシの小さな手を取ると、しゅぽん、と軽い音を立て、薄紫色の背の高い花を一輪召喚した。

「童、パンの礼だ。サジは気分がいいからお前にこれをやる。」
「おはな!かぁいい!」
「おうおう、その調子で仲良くしてくれ。」

ナナシは嬉しそうにサジの手を握ると、貰った花を片手にご機嫌でエルマーの側に行く。
ギルドに向かってから皇国に入ると言っていた。だから、サジが迷子にならないように、ナナシが手を繋いであげようと思ったのだ。

「えるぅ!おはな!」
「ナナシは花が好きだなあ。」
「む…????」

サジはというと、握りしめられた手を見ては頭に疑問符をいくつも浮かべている。エルマーはそんな珍しいサジの様子に、吹き出しそうになる笑いを堪えた。
今まで長い付き合いの中、サジの理解しきれていませんといった妙な顔を見るのは初めてである。ナナシは嫌いと言っていた癖に、花を貰ってからは「サジ、すき。」と言っていた。ちょろい。
結局ギルドに着いてからもずっとこんな具合で、ナナシは道中見つけて積んだ花をニコニコしながらサジのローブのポケットに差し込んでは、かぁいい。と言っていた。



「あー!!昨日の人!!!」
「おー、元気いいなおい。」

皇国に向かう前に、まずはギルドに立ち寄らねばならなかった。一応地図でも見て、行き先の確認くらいはしておこうと思ったのだ。
そんなエルマーの思いつきで立ち寄ったギルド、『魅惑の風車』。ついた瞬間、ガタンと椅子を倒して立ち上がったのは、昨日の受付嬢であった。そして、エルマーの背後からひょこりと顔を出したサジを見て、最初の一声目よりも大きな声を出したかと思えば、今度は倒した椅子に躓くようにして腰を抜かした。

「種子の魔女!!!」
「サジのことを知っているのか。まあもう魔女では無いがな。」
「こいつ、昨日使役した。」

叫び声を上げて、腰を抜かした受付嬢の声に顰めっ面はしたものの、エルマーはあっけらかんと言い放った。その、特に驚くことではないと言わんばかりのその態度に、受付嬢は益々顔を青褪めさせる。だって、それほどエルマーはあり得ないことを言ったのだ。

簡単に使役と言ったが、使役にも種類があるのだ。
例えば、一番オーソドックスなのは魔物との契約だ。通常の対価を払って、召喚やテイムした魔物との利害が一致した上で初めて契約をする。この場合、対価は再生可能な髪や血、皮膚など契約者が自分の好きなものを選んで与えることが出来る。
契約も使役のうちの一つには過ぎないのだが、一番互いが損傷することなく結べる関係だ。

一方使役は、人型の魔物や妖精などに使用する言葉だ。呼び出しに応じれば力を貸してくれるが、人型魔物は上位種だ。答えないものも多い。そして、人型の魔物や妖精などは、一様に力が強いため、求められる対価が非常に危険なものになってくる。この場合使役者は向こうが求めるものを払わなければならない。腕や右目、腎臓など。一つしかない再生不可能なものを要求されることも多く、リスクを伴う。

故に、昨日使役したというなら、しばらくは対価を支払った体が悲鳴を上げていてもおかしくはないのだ。
それなのに、目の前のエルマーに影響はなさそうだ。まさに規格外、魔女も使役出来るだなんて知らなかった。

「ふむ。女、勘違いしているようだからサジの登録を見てみればいい。」
「おい、くっつくなって。」
「と、登録…?」

サジはエルマーの肩に顎を乗せながらにやにやと指示をすると、早速受付嬢はサジの登録証を確認したようである。そこには確かに所有者死亡と明記されていた。
じゃあ目の前のこの男はなんだというのか。真っ青な顔で見上げると、サジは面白がるようにしてゆっくりと姿を消した。

「ひぇ、っきき、ききききえた!?!?」
「俺もよくわかってねぇんだわ。あれなに?」
「ししし、知りません!!過去に魔女が死んで、使役されたとか聞いてませんもの!!」
「あ、やっぱそんなかんじ?まあわかんねーから取りあえず元気なゴーストで登録しといてくれ。」

エルマーはギルドカードを渡すと、受付嬢もわけがわからないまま使役、または契約をおこなっている魔物や妖精の欄に、不明。元気なゴーストと登録した。こんなんでいいのだろうか。たまに名称が不明の魔物も生まれることもあるので採用されたシステムだが、まさか登録も名前でなく元気なゴーストでされるとは思わなかっただろう。

エルマーは登録を終えたギルドカードを睨みながら、恨めしそうにSのカードを獲得規定を見せつけてきた受付嬢に苦笑いすると、そういえばと言わなきゃいけないことがあると、話題をそらした。

「お嬢ちゃんよぉ、ちょっと面貸せる?」
「なな、なんのお誘いですか!」
「いや、最近山鯨の子供が取れたって話聞いてよ。」
「山鯨!?子供!?どこのどいつですかそれぇ!」
「いや、だからそれを聞きてぇんだけど…」

山鯨の子供と聞いて大いに慌てたのか、やけに重々しい台帳を開くと、山鯨というワードを陣に書き込んだ。これはギルド職員のみが使える検索機のようなものらしく、登録してある魔力にしか反応しないらしい。

「直近の買い取りがあるとしたら皮と肉ですが、本体ではなさそうですね。この部位だけじゃ判断できないなぁ…」
「まあ切ってから持ってくるよなぁ、そんなでけぇの。」
「でも滋養の果実は納品されてませんでした。大人を狩って肉や皮膚よりも高額な果実を売らないとか、ちょっとおかしいですよね。」
「ギルドは通したらしい。てこたぁ、自分で食ったのかね?」
「瀕死の身体を一口で回復する果実を!?売りませんか普通!!」

むしろお目にかかりたいくらいなんですけど!と熱烈に語る受付嬢は、メガネを曇らすほどの興奮だ。山が一つ崩れているという事実も確認できたらしく、この感じで行くと直近で納品されたであろう皮と肉が、おそらくその山の主として住み着いている山鯨の子供だろうというということになった。

討伐したのはやはり若い男だったらしく、従者をパーティー登録して連れていたことから貴族だろう。
ギルドの規定を読み込まない若い冒険者に対し、憤りを隠さない様子は職員としては真っ当だが、鼻息が荒いのは女子としてどうなのか。
エルマーはその勢いに若干引きながら、まあとにかく周知をよろしくと一言告げると、また来ると言って背を向けた。今聞いたことを素早くメモにとっては早速仕事に取り掛かる彼女の様子を見て、もう逃げてもいいだろうと判断したのだ。

ナナシは受付嬢にばいばいと手をふると、それに気づいた受付嬢も、にっこりと微笑み返して手を振った。見た目はあんなに粗野なのに、随分と可愛らしい子を連れている。と、去っていくエルマーたちの背中を見送った。
しかし、しばらくしてから気がついたのは、またしてもエルマーに逃げられたという事実であった。

ランクカードの話からうまく逃げることができたエルマーはというと、すんでのところで気がついたらしい。先程の受付嬢がギルドから飛び出し、随分と大きな声で叫ぶ。そこの二人組待ちなさい!という声を合図にし、ナナシを小脇に抱えあげると、皇国に繋がる街道に向け逃げるように慌ただしく走り出したのであった。

また来る。は嘘ではない。言葉の前に、いつかの三文字がつくだけで。







「ほしい!何だあのキノコ!苗床にしてサジの子供を育てたい!」
「んなこと言ってる場合かァー!!!」

ドリアズを逃げるように飛び出して、やっと落ち着いて歩けるようになったはずの街道沿い。現在エルマーは半ばキレ気味になりながら、道中突如として湧き出した謎のキノコの魔物を前に、手こずっていた。
なんでこんなことになったのか、それは、遡ること一時間前ほどの話である。

最初、謎のキノコは人間のようにちょこんと切り株に座っていた。そして、そのキノコに一番最初に気がついたのは、ナナシだった。

「…ふぉ。」

なんだあれは。ナナシの金色の目に映った、妙な物体が気になって、小さなお手てで目を擦ると、もう一度確かめるように道半ばの切り株を見る。
ドリアズを逃げるように出てきてからしばらく経つ。背の高いサジもエルマーも、その謎の物体に気づいていないのか、地図を片手に道の確認をしていた。

ナナシが気づいたのは本当に偶然で、道端の黄色い花に止まっていた蝶々をしゃがみこんでじっと見つめていたのだが、飛んでいくそれを目で追った先にそれはいたのだ。

「ううん、道はこのまままっすぐいきゃいいんだろうけど、しくった。ドリアズで飯食ってからにすりゃあ良かったなぁ。」
「途中で狩ればいいだろう。香辛料ならサジが持ってるぞ。」
「まじ?なら腹減ったらボアの肉それで焼きゃあいいか。」

頭上では、エルマーが飯屋がないことを嘆いていたが、どうやら解決したらしい。ナナシは、未だ気が付かぬ大人達の足元で、瞳を輝かせてキノコを見つめていた。
その魔物は、切り株に腰掛けてリラックスをしているようにも見えた。
ちんまい足をゆらゆらと揺らす、何とも太めかしい豊満な体つきのオレンジ色のキノコが可愛くて、ナナシはあれが何なのかが気になった。

「えるぅ…」

ナナシは、ちいさく名前を読んだが、エルマーは聞こえなかったらしい。サジとくだらないやり取りをしていて、こちらを振り向かない。好奇心を抑えきれず、仕方なくナナシは、恐る恐るキノコから目を逸らさずに、じりじりとほんの少しの距離を詰める。

「…つおい…。」

ナナシの気配を察知したのか、そのズングリとした笠を震わせて振り向くと、ピタリと動きを止めた。
距離はまだ離れているが、ナナシの好奇心に満ち溢れた輝く瞳に気圧されたのか、キノコはぴょんと切り株から飛び降りると、キョロキョロとあたりを見回すような素振りを見せる。
体をひねるたびにふわふわと胞子が舞い、辺りの地面にそれが触れては消える。
ふわふわできらきらだ。ナナシはそれがとても素敵に見えて、エルマーたちにも見てもらおうと、半ば走るようにして二人のもとに戻った。

「サジ!えるぅ!あぇ、つおい!」
「あ?なにがすごいんだ?」
「きのこ!つおい!」
「ほう、」

何かを見つけて高揚したらしい。飛びつくようにエルマーの腰にしがみついてきたナナシが、ぴょんぴょんと跳ねながら何かを訴える。エルマーはきのこも焼くと美味いよなと言いながら、ちいさな手が指差す方向を見つめた。
サジは、菌類は木に寄生するのであまり得意ではないから興味はなかった。しかし、何故かナナシの指差す先を見つめたエルマーが、不自然に言葉を途切れさせたのだ。サジはなんとなくそれが気になり、エルマーに続いてナナシの指差す先を見上げた。

「見間違いじゃなけりゃ、立ってるよな。」
「うむ。二本足で立っている。」
「かぁいい。」

え、全然可愛くないんですけど。
そんなことを思いながら、エルマーとサジの大人二人は、眼の前の魔物を見つめる。むちむちに太ったオレンジ色のキノコは、ピルピルと笠を振っては胞子を撒き散らしている。その様子を、エルマーは引きつり笑みを浮かべて見つめた。

「サジ。お前って火魔法使えたっけ。」
「サジは木と風だ。」
「だよなぁ。」

胞子が触れた地面から、不穏な振動を感じる。キノコの魔物は大概たちの悪いものが多く、対処法は火で一掃するのが望ましい。
撒き散らされた胞子はどうなるかというと、こうなる。




「おわぁぁぁあああきめえええええ!!!!」
「ふはははは!!!凄いなキノコ!!サジも引くほどの繁殖力である!!」
「きのこつおい!!わあー!!」

そして先程の状況にもどる。
ボコボコと突如として生まれた夥しい数の子株が地面を突き破り笠を出す。エルマーは津波のような勢いで吹き上げる大量のキノコから逃れるために、サジとナナシを抱えあげると、慌ててその場から跳躍した。

「うははは!!たかいたかい!!もっと翔べエルマー!!」
「エルマーつおい!!」
「あああむりだああおちるうううう!!!」

何も考えずに跳躍したせいか、先程の足場は既に埋め尽くされている。あとはもう自由落下しかない。落ちたらあの気持ち悪いキノコの群れに突っ込む他ないのだ。せめてなにか足場になるような木があれば、と思った瞬間サジと目があった。

「サジ足場ァ!!!」
「む、エルマー!」

意図を察したサジが、指先を下に向けて名前を叫んだ瞬間、地面を突き破りながらフオルンが出現した。下からその身を捻るかのようにして現れた木の魔物は、すぐにその蔦を絡ませて足場を作ると、エルマーはその上に降り立った。

「だから名前かえろってぇ!!」
「なにをいう。お前がパパだよエルマー!!」
「はわぁ…つおい…かこいい…」

パキパキと音を立てて姿を表したフオルンが、地面からズルリと己の巨体を持ち上げる。ミノタウロスを苗床にしたせいか、牛のような形をした木の魔物は、勢いよく迫ってくるキノコを一瞥すると、その身を震わせて土の養分を一気に吸い上げた。

「ふはははは!!!吸え!!吸い尽くしてしまえ!!性も根も全てその身の糧にするが良い!!」
「助かったけどセリフが悪役ゥ!!」

エルマーと名付けられたフオルンが、ジュルジュルとその蔦で土壌の栄養を吸収するにつれて、地面はピシピシとひび割れる。糧がなくなったキノコは面白い位に乾燥していき、ボタボタとその地面を乾燥したそれが埋め尽くしていく。親株であるキノコは、もう振りまく胞子が尽きたらしい。ぴょんと体を跳ねさせると勢いよく逃げ出した。

短い足をちょこちょこと動かしながら移動するその様子が、やけに愛嬌があって腹が立つ。
エルマーはフオルンから飛び降りると、その腿につけておいた暗器を勢いよく投げつけた。的に向かって真っ直ぐに放たれた刃は、ストンと傘に突き刺さる。急所だったのだろうか、キノコの魔物はぽてりと軽い音を立てて地べたに転がった。

「くそ、しばらくキノコは食いたくねえ…」

フオルンによって優しく地面におろしてもらったサジとナナシは、足元を埋め尽くす大量のキノコを見て手を叩いて大はしゃぎだ。仕留めた親株の体をインべントリにしまおうとした瞬間、目を煌めかせたサジがエルマーと魔物の間に滑り込んできた。

「そいつをサジにくれ!!やりたいことがある!!」
「おわっ、ま、まあいいけどよ…また苗床か?」
「実験だと言ってくれ。うふふ、増殖の特性持ち。ならばこの種にしようじゃないか。」

サジは手のひらを合わせると、ポロリと細かい種を出現させた。下から産む以外もあるのかと呆れていると、にやりと笑う。

「魔物とセックスしたら下から産むぞ。腹に仕込んでいるからなぁ!」
「マジモンの種付けじゃねえか…」

大きいものは腹から出すのがモットーだと言うサジの性癖に渋い顔をすると、まるで豆のような黒い粒をみたナナシが、背伸びをしてサジの手のひらを覗き込んだ。

「サジ、こぇなに?」
「吸血花だ。毒で麻痺させてその根を踏んだものへ食らいつく。とても綺麗なお花の種だ!!」
「ああ、また悪趣味なもん育てんだなってことはわかった…」

あまりにも治安の悪い説明に顔を青褪めさせているナナシを宥めると、サジはその種を軽く噛み唾液を染み込ませた。こうすることで親を誰かわからせるらしい。それを切ったキノコの腹部分へと埋め込むと、サジはニコニコしながらキノコの躯を抱き上げた。
絵面だけなら、どこぞの気の強そうな美人がぬいぐるみを抱きしめている様子にも見えなくはない。まあ、口を開くと台無しなのは今に始まったことではないが。

「うふふ、サジがママだぞ。大きくなるが良い。」
「これ食えんのかな?」
「えぅまー!きのこいっぱい!」

サジが母性を滲ませている間、ナナシとエルマーはフオルンに手伝ってもらい、乾燥キノコを一箇所に集めていた。布袋いっぱいに詰めたそれをインべントリに入れると、エルマーは先行きの不安を拭えぬままにうなだれた。
皇国につく前に、すでに疲れた。まだ村を立って三十分しかたっていないのに。

    
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