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睡蓮の我儘
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あれから、睡蓮も琥珀も青藍の言葉の通りを信じて、経験もしたこともない兆しのひとつすらも見逃さぬようにと、気をつけて日常を過ごしていた。
琥珀の意向で、相変わらずに睡蓮には不自由をさせる生活を強いることとなったが、その件については琥珀から直接水喰のところへと事情を説明しに向かったりと、陰ながら根回しを行っていたので、まあ特にごたつきが起きるようなことはなかった。
むしろ、睡蓮と番ったことを両親と水喰夫婦に告げた時には、やれ祝い酒だ米だ鯛だと露骨に盛り上がられ、更に実家にも報告をすれば、隣に睡蓮がいないことも含めて、良い良い全てわかっておるよ、とやけにしたり顔で父親でもある蘇芳にも茶化されるハメになった。
雌を除いて祝うのが普通か、と睡蓮を気にかけた天嘉が口を挟んだが、お前の時もそうだろう?と蘇芳から言われた天嘉が妙な納得をして話がまとまった。人間の祝い事は家族を絡めて祝うらしいが、天狗は雌を連れ去って囲い、孕ませるまで己の縄張りからは出さないのだ。
改めて、そう言われてみればそうかも。と納得した天嘉に、我が母は人でありながら、実に柔軟なものの考え方をすると改めて感心してしまったのは言わないでおこう。
「妊娠の兆し?」
「そう。」
そんな柔軟で、視野の広い母である天嘉に、琥珀は膝を突き合わせて、先日青藍に言われたことを相談しに来たのだ。
「俺がわかるって言われたんだけどよ、雌側の兆候とかねえのかなって。」
「あー、兆候…もう随分昔の話だからなあ…。」
雌、と呼ばれ初めの頃は、馬鹿にするなと憤慨することも多かった天嘉であったが、蘇芳と夫婦になってからは、人で言う男と女の呼び方と変わりなく、特に侮蔑の意味もないのだと理解した。故に、息子から雌と言われても気にすることもない。閑話休題、愛息子の真剣な未来を見据えての話に、まあ親心は多少なりともくすぐられた。
「蘇芳に聞いてみねえとな。あいつのことなら俺だけど、俺のことならあいつだもん。」
などと宣うと、天嘉は待っていろと琥珀に言い残して蘇芳を呼びに行った。全く、羨ましいくらいの夫婦仲である。さらりといった言葉には、長年の愛情の深さが窺えて、息子ながらにそういった夫婦の関係性に憧れを抱いてしまう。
「うむ、あるぞ。」
「うわびっくりした!」
天嘉が呼びに行った方向とは、反対方向から顔を出した蘇芳が、にこにことした顔つきで現れた。どうやら天嘉が己の姿を探すのが嬉しいらしい。わざわざ探している気配を察知するたびに、こうして先回りをしてくる蘇芳は、息子から少し面倒臭い父親認定をされている。
「孕むとな、雌の体には印が出るぞ。」
「印?」
衣擦れの音とともに、蘇芳が机を挟んであぐらをかく。理解が及ばぬらしい、琥珀の疑問符に応えるように、蘇芳は言葉を続ける。
「うちならば、蘇芳の花だな。その印が、天嘉の腰の位置に刻まれておるよ。お前もみたことがあるだろう。家族の証だ。」
「…ああ、あの赤い…刺青みたいなのか。」
「うむ。まあお前は半分人の血が入っておるからなあ。」
なるほど、それは確かに手っ取り早いかもしれない。琥珀は、そんなことを思った。
琥珀にも、一応そう言った痣はある。蘇芳のように鈴鳴りに咲く程立派な花ではないが、琥珀も同じものが項のあたりに咲いている。
己の経験に応じ、妖力の増加とともに刻まれる花は増えていくらしい。故に、もし睡蓮が孕めば、琥珀とおなじ花が体のどこかに咲くという。とはいってもである。
「俺、自分の印すら見たことねえけど。」
「案ずるな、皆そうさ。己の印に気がつくようになるのは、皆己が一人前になった時に限るのだ。」
俺も気がついたのはお前くらいの年齢からだった。蘇芳はそう言って不安そうな琥珀を安心させるように宣う。大体は背中に咲くので、褥をともにした相手が目敏くなければ気が付かぬらしい。
そして蘇芳は、己の印が一番わかりやすくなるのは、そう言った本能的な欲求が高まっているときくらいだ。と言葉を続けると、琥珀は納得したように頷いた。なるほど、目につかぬのも無理はない。ならば、琥珀は睡蓮の体のどこかに見慣れぬ花の模様が浮かび上がるのを待てばいい。そう思い至ると、それが一番正解なような気がして、感心するように鷹揚に頷いた。
琥珀のひそやかなる相談が、青藍と松風の言葉とうまい具合に重なって、ある程度の目安というものが出来上がった。
そう言った軸となる部分が分かれば、後は琥珀が日々の兆しを見落とさぬよういるだけである。
とはいっても、そんな具合に琥珀が聞き及んでいたのはもう一週間もまえのことだった。青藍と松風が宣っていた、じきにわかるという言葉の意味は、琥珀が忘れかけていた頃にやってきたのであった。
その日は、いつもと少し違っていた。
「ふひゅんっ」
「おわ、なんだそれ。」
情けない睡蓮のくしゃみの声に、くすりと笑った琥珀は、家の内風呂に肩を並べて浸か白い頭に手を添えて、わしりと人撫でをする。
「うー…わかんない、誰か僕のこと噂してんのかなあ…」
ずびりと鼻を啜り、細い肩を琥珀の肩にくっつける。琥珀が掌をそっと額に添わせると、そっと髪を撫で付け。睡蓮はその手を取ると、指を絡めてきゅうっと握った。何だかいつもよりくっつきたがりというか、やけに甘えたなその仕草に、珍しいなと思う。
「なんかのぼせそうだから、もう上がりたい…」
「ん、気分悪いのか?」
「うーん…」
なんだか少しだけ目が潤んでいる。琥珀が睡蓮を抱えあげるようにして湯から上がる。その身に手ぬぐいを掛けてやると、いつもなら自分で拭い始めるはずなのに、睡蓮はまるでその気がないらしい。そのまま水気を拭おうとした琥珀の腰にぎゅむりと抱きついて、背中にピトリと頬をくっつける。
「睡蓮、体早く拭かねえと、」
「こはが拭いて」
「んだよ、構わねえけど…珍しいじゃねえの。」
「ううーー…」
珍しく、肌を触れさせていないと不安だという気持ちにかられている。いつもなら我慢できるのに、なんだか今日はちがうのだ。誂うように、甘えただなあと意地悪な声色で琥珀が宣う。
そんなことを言われても、睡蓮自身なんでこんなに離れがたいのかわからないのだ。日中、琥珀が仕事に行っている間も不安定であった。
「今日なんか変だぞ、どした。」
「わかんない、」
濡れた睡蓮の体を拭ってやると、ぱさりと頭に布を被せて髪も拭う。なんだか、不貞腐れているような、落ち込んでいるようなそんな顔である。発情期の前後は不安定になるというのも聞き及んでいたので、それかもしれない。琥珀はむにりと尖らせた睡蓮の唇に、吸い付くような口付けを一つ送る。いつもならそれで少しだけご機嫌になるのだ。
「…もいっかい」
「ほしがるなあ。」
ちょこりと背伸びをして、顎を上げる睡蓮に笑う。どうやら余程甘えたいのかと、拭い終わった体をひょいと抱き上げると、首に腕を回して抱きつく睡蓮の頬に口付けをした。
「そこじゃないもの…」
「着替えたらたんとしてやる。」
「うー…」
愚図るようにひっついてくる睡蓮の背を撫でて宥めながら座敷に戻ると、その体を敷き布団に座らせ、琥珀は寝間着を取りに箪笥に向かう。青藍から言われたのだ。裸で囲うのは奴隷と同じだぞと。流石にそれを聞いてからは琥珀も心を入れ替えた。睡蓮は少しだけ不服そうではあったが。
結局、及第点として子供の頃の琥珀の着物が採用された。寝間着代わりのそれを適当に選んで持ってくれば、睡蓮は敷き布団をぐしぐしと端においやって、なにやらかまくらのような形にしようとしていた。
「こら、なにやってんだ。寝るんだから広げねえと。」
「あう、そ、そうだった。あれえ…」
自分でも理解が及ばなかったらしい。間抜けな睡蓮のことだ、きっと特に意味はないだろうと考えて、琥珀がその身に寝間着をかけてやる。
さて自分も着込むかと、琥珀が袖を通そうとしたときだった。
「…睡蓮。」
「う、やだ」
「いや、風邪引くだろう。」
「やだ、こはの着る…」
自分の寝間着に袖を通さずに、琥珀の裾をギュムリと握りしめて邪魔をする。珍しく聞き分けが悪い。
「着るったってよ、でけえだろうが。」
「こはと着る。」
「いや、二人羽織は寝れねえだろう…」
なにを無茶な…と言わんばかりに、琥珀が渋い顔をする。睡蓮はというと、むん、と唇を尖らせながら、そろそろと立ち上がる。そのまま下履きに寝間着を羽織っただけの琥珀の背に腕を回すと、むくれたまま顔をあげる。
「口吸いもしてほしい」
「…おう、」
なんだか我儘の方向が迷走していると思いつつ、琥珀が睡蓮の機嫌が治るならと再び口付ける。背伸びをした睡蓮が、むにりと押し付けるように口付けを返すと、ふんふんと鼻を鳴らしてぎゅむぎゅむと抱きつく。なんだこれ。琥珀はわけがわからないといった顔で睡蓮を見る。
「誘ってんのか?」
「違うもの」
「こんなにくっついといてか?」
「うん…そういうんじゃない…」
ただくっついていたいだけだもの。そう言って、悪戯に尻に這わしてきた琥珀の掌を遮る。
そりゃあないぜとは思いはしたが、まあ連日抱き潰してしまってもいる。琥珀は諦めたように浴衣を脱ぐと、下履きのまま敷き布団に胡座をかいた。
琥珀の意向で、相変わらずに睡蓮には不自由をさせる生活を強いることとなったが、その件については琥珀から直接水喰のところへと事情を説明しに向かったりと、陰ながら根回しを行っていたので、まあ特にごたつきが起きるようなことはなかった。
むしろ、睡蓮と番ったことを両親と水喰夫婦に告げた時には、やれ祝い酒だ米だ鯛だと露骨に盛り上がられ、更に実家にも報告をすれば、隣に睡蓮がいないことも含めて、良い良い全てわかっておるよ、とやけにしたり顔で父親でもある蘇芳にも茶化されるハメになった。
雌を除いて祝うのが普通か、と睡蓮を気にかけた天嘉が口を挟んだが、お前の時もそうだろう?と蘇芳から言われた天嘉が妙な納得をして話がまとまった。人間の祝い事は家族を絡めて祝うらしいが、天狗は雌を連れ去って囲い、孕ませるまで己の縄張りからは出さないのだ。
改めて、そう言われてみればそうかも。と納得した天嘉に、我が母は人でありながら、実に柔軟なものの考え方をすると改めて感心してしまったのは言わないでおこう。
「妊娠の兆し?」
「そう。」
そんな柔軟で、視野の広い母である天嘉に、琥珀は膝を突き合わせて、先日青藍に言われたことを相談しに来たのだ。
「俺がわかるって言われたんだけどよ、雌側の兆候とかねえのかなって。」
「あー、兆候…もう随分昔の話だからなあ…。」
雌、と呼ばれ初めの頃は、馬鹿にするなと憤慨することも多かった天嘉であったが、蘇芳と夫婦になってからは、人で言う男と女の呼び方と変わりなく、特に侮蔑の意味もないのだと理解した。故に、息子から雌と言われても気にすることもない。閑話休題、愛息子の真剣な未来を見据えての話に、まあ親心は多少なりともくすぐられた。
「蘇芳に聞いてみねえとな。あいつのことなら俺だけど、俺のことならあいつだもん。」
などと宣うと、天嘉は待っていろと琥珀に言い残して蘇芳を呼びに行った。全く、羨ましいくらいの夫婦仲である。さらりといった言葉には、長年の愛情の深さが窺えて、息子ながらにそういった夫婦の関係性に憧れを抱いてしまう。
「うむ、あるぞ。」
「うわびっくりした!」
天嘉が呼びに行った方向とは、反対方向から顔を出した蘇芳が、にこにことした顔つきで現れた。どうやら天嘉が己の姿を探すのが嬉しいらしい。わざわざ探している気配を察知するたびに、こうして先回りをしてくる蘇芳は、息子から少し面倒臭い父親認定をされている。
「孕むとな、雌の体には印が出るぞ。」
「印?」
衣擦れの音とともに、蘇芳が机を挟んであぐらをかく。理解が及ばぬらしい、琥珀の疑問符に応えるように、蘇芳は言葉を続ける。
「うちならば、蘇芳の花だな。その印が、天嘉の腰の位置に刻まれておるよ。お前もみたことがあるだろう。家族の証だ。」
「…ああ、あの赤い…刺青みたいなのか。」
「うむ。まあお前は半分人の血が入っておるからなあ。」
なるほど、それは確かに手っ取り早いかもしれない。琥珀は、そんなことを思った。
琥珀にも、一応そう言った痣はある。蘇芳のように鈴鳴りに咲く程立派な花ではないが、琥珀も同じものが項のあたりに咲いている。
己の経験に応じ、妖力の増加とともに刻まれる花は増えていくらしい。故に、もし睡蓮が孕めば、琥珀とおなじ花が体のどこかに咲くという。とはいってもである。
「俺、自分の印すら見たことねえけど。」
「案ずるな、皆そうさ。己の印に気がつくようになるのは、皆己が一人前になった時に限るのだ。」
俺も気がついたのはお前くらいの年齢からだった。蘇芳はそう言って不安そうな琥珀を安心させるように宣う。大体は背中に咲くので、褥をともにした相手が目敏くなければ気が付かぬらしい。
そして蘇芳は、己の印が一番わかりやすくなるのは、そう言った本能的な欲求が高まっているときくらいだ。と言葉を続けると、琥珀は納得したように頷いた。なるほど、目につかぬのも無理はない。ならば、琥珀は睡蓮の体のどこかに見慣れぬ花の模様が浮かび上がるのを待てばいい。そう思い至ると、それが一番正解なような気がして、感心するように鷹揚に頷いた。
琥珀のひそやかなる相談が、青藍と松風の言葉とうまい具合に重なって、ある程度の目安というものが出来上がった。
そう言った軸となる部分が分かれば、後は琥珀が日々の兆しを見落とさぬよういるだけである。
とはいっても、そんな具合に琥珀が聞き及んでいたのはもう一週間もまえのことだった。青藍と松風が宣っていた、じきにわかるという言葉の意味は、琥珀が忘れかけていた頃にやってきたのであった。
その日は、いつもと少し違っていた。
「ふひゅんっ」
「おわ、なんだそれ。」
情けない睡蓮のくしゃみの声に、くすりと笑った琥珀は、家の内風呂に肩を並べて浸か白い頭に手を添えて、わしりと人撫でをする。
「うー…わかんない、誰か僕のこと噂してんのかなあ…」
ずびりと鼻を啜り、細い肩を琥珀の肩にくっつける。琥珀が掌をそっと額に添わせると、そっと髪を撫で付け。睡蓮はその手を取ると、指を絡めてきゅうっと握った。何だかいつもよりくっつきたがりというか、やけに甘えたなその仕草に、珍しいなと思う。
「なんかのぼせそうだから、もう上がりたい…」
「ん、気分悪いのか?」
「うーん…」
なんだか少しだけ目が潤んでいる。琥珀が睡蓮を抱えあげるようにして湯から上がる。その身に手ぬぐいを掛けてやると、いつもなら自分で拭い始めるはずなのに、睡蓮はまるでその気がないらしい。そのまま水気を拭おうとした琥珀の腰にぎゅむりと抱きついて、背中にピトリと頬をくっつける。
「睡蓮、体早く拭かねえと、」
「こはが拭いて」
「んだよ、構わねえけど…珍しいじゃねえの。」
「ううーー…」
珍しく、肌を触れさせていないと不安だという気持ちにかられている。いつもなら我慢できるのに、なんだか今日はちがうのだ。誂うように、甘えただなあと意地悪な声色で琥珀が宣う。
そんなことを言われても、睡蓮自身なんでこんなに離れがたいのかわからないのだ。日中、琥珀が仕事に行っている間も不安定であった。
「今日なんか変だぞ、どした。」
「わかんない、」
濡れた睡蓮の体を拭ってやると、ぱさりと頭に布を被せて髪も拭う。なんだか、不貞腐れているような、落ち込んでいるようなそんな顔である。発情期の前後は不安定になるというのも聞き及んでいたので、それかもしれない。琥珀はむにりと尖らせた睡蓮の唇に、吸い付くような口付けを一つ送る。いつもならそれで少しだけご機嫌になるのだ。
「…もいっかい」
「ほしがるなあ。」
ちょこりと背伸びをして、顎を上げる睡蓮に笑う。どうやら余程甘えたいのかと、拭い終わった体をひょいと抱き上げると、首に腕を回して抱きつく睡蓮の頬に口付けをした。
「そこじゃないもの…」
「着替えたらたんとしてやる。」
「うー…」
愚図るようにひっついてくる睡蓮の背を撫でて宥めながら座敷に戻ると、その体を敷き布団に座らせ、琥珀は寝間着を取りに箪笥に向かう。青藍から言われたのだ。裸で囲うのは奴隷と同じだぞと。流石にそれを聞いてからは琥珀も心を入れ替えた。睡蓮は少しだけ不服そうではあったが。
結局、及第点として子供の頃の琥珀の着物が採用された。寝間着代わりのそれを適当に選んで持ってくれば、睡蓮は敷き布団をぐしぐしと端においやって、なにやらかまくらのような形にしようとしていた。
「こら、なにやってんだ。寝るんだから広げねえと。」
「あう、そ、そうだった。あれえ…」
自分でも理解が及ばなかったらしい。間抜けな睡蓮のことだ、きっと特に意味はないだろうと考えて、琥珀がその身に寝間着をかけてやる。
さて自分も着込むかと、琥珀が袖を通そうとしたときだった。
「…睡蓮。」
「う、やだ」
「いや、風邪引くだろう。」
「やだ、こはの着る…」
自分の寝間着に袖を通さずに、琥珀の裾をギュムリと握りしめて邪魔をする。珍しく聞き分けが悪い。
「着るったってよ、でけえだろうが。」
「こはと着る。」
「いや、二人羽織は寝れねえだろう…」
なにを無茶な…と言わんばかりに、琥珀が渋い顔をする。睡蓮はというと、むん、と唇を尖らせながら、そろそろと立ち上がる。そのまま下履きに寝間着を羽織っただけの琥珀の背に腕を回すと、むくれたまま顔をあげる。
「口吸いもしてほしい」
「…おう、」
なんだか我儘の方向が迷走していると思いつつ、琥珀が睡蓮の機嫌が治るならと再び口付ける。背伸びをした睡蓮が、むにりと押し付けるように口付けを返すと、ふんふんと鼻を鳴らしてぎゅむぎゅむと抱きつく。なんだこれ。琥珀はわけがわからないといった顔で睡蓮を見る。
「誘ってんのか?」
「違うもの」
「こんなにくっついといてか?」
「うん…そういうんじゃない…」
ただくっついていたいだけだもの。そう言って、悪戯に尻に這わしてきた琥珀の掌を遮る。
そりゃあないぜとは思いはしたが、まあ連日抱き潰してしまってもいる。琥珀は諦めたように浴衣を脱ぐと、下履きのまま敷き布団に胡座をかいた。
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