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飾りたいのはお前だから
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ふにふにと頬を突かれる感触がして、睡蓮はゆっくりと微睡みから浮上する。琥珀の白檀の香りがし、その匂いを辿るように目を開けようとしたとき、一際強くぶにりと押されて目を見開いた。
「いひゃい!」
「あ、わり。」
「お、おかえり…」
どうやら睡蓮の頬の柔らかさを堪能しすぎたらしい。琥珀はその指先を離すと、もにりと小鼻を挟んでちょんとひっぱる。
「ぅっ、なにぃ、やだようっ」
「くっ、」
「…?」
まだ足りぬと言わんばかりにちょっかいをかけてくるので、睡蓮がちまこい手のひらで琥珀の手を掴んで離させる。ずび、と鼻を啜って琥珀を見上げると、目元を大きな手のひらで覆って俯いていた。
「なあに?」
「いや、おかえりが身に沁みてきた。」
「今更あ!」
本当は、睡蓮のやだようが琥珀のツボに突き刺さったのだが、なんだか悔しいのでそれは言わない。妙な琥珀の情緒が可笑しくて、くふんと笑う睡蓮を、ひょいと抱き上げて膝に乗せる。
「わっ」
「たでぇま。」
ぎゅむりと正面から抱き込まれ、睡蓮は顔を綻ばせて微笑む。ぴとりと頬をくっつけるように甘えると、抱き込む力が僅かに強まった。
片腕を広い背中に回す。すりすりと頬擦りをするように甘えてくる睡蓮が可愛くて、琥珀の仏頂面の口元は、もにょもにょと動く。
腕の中に睡蓮を抱き込みながら、深呼吸をする。小さくて暖かな雌を腕に閉じ込めて、琥珀は今、自分の巣の中にいる。実家ではなく、正真正銘の琥珀だけの塒に、気に入りの雌を連れ込んでいるのだ。
「やべえな。ここが浄土か。」
「ここは黄泉じゃないよう?」
「頭の足りてねえお前が可愛くてしゃあねえ。」
「こは、会話が成りたってないよう!」
ふぅ。と満腹のときのような吐息を漏らした琥珀が、きょとんとしている睡蓮を金色の眼で見おろす。こてりと首を傾げると、長いお耳もへろりと流れる。まんまる赤眼がきらきらと輝き、その視線だけで琥珀を満足させる魅惑の妖かしを前に、ふつふつと飢えのようなものが湧き上がってくる。
抗えぬ欲求のようなものが、独占欲というものだと知ったのは最近だ。
「飾りてえ。」
「かざ…、なにを?」
花は飾ったよう、お庭の!とにかりと笑った睡蓮の服を、琥珀が唐突にびりりと引き裂いた。
「へぁ…」
「………。」
睡蓮のにこにこ顔がびしりと固まる。無言で睡蓮の服を剥いた琥珀はというと、徐ろに立ち上がり、襖を開けて睡蓮の片したばかりの長持を引きずり出す。その蓋を開けて、ここ数日で睡蓮に持って帰ってきたままの、日の目を浴びぬ華やかな着物を取り出した。
「こ、こは、」
「待て。」
「はひ、」
手で制止をされてしまった。睡蓮は、ぽかんとしたまま、腰紐で引っかかっているだけの着物だったものを見下ろすと、再び琥珀を見やる。己には似合わぬだろうなあと思っていた、黒に近い濃紺に、豊かな稲穂が揺蕩う様子が描かれている着物を取り出す琥珀は、やけに真剣な顔つきである。
よくよく見ると、背中には浮雲がかかる満月があしらわれており、所々銀色の糸で刺繍がされている。振り袖の袂には、大きな鳥の絵柄が刺繍されており、その満月を追い駆けるかのように、猛禽が翼を広げている様子であった。
「俺らは鳥目だが、月が照らしてくれりゃあある程度見えるんだ。」
「え、うん。」
その見事な着物を広げて、琥珀がそんなことを宣う。帯に選んだのは、華美過ぎぬ白い帯だ。光沢が美しいそれに、中に合わせる着物は薄灰の上品なものである。それらをごそりと取り出した琥珀は、呆気にとられたままの睡蓮の前にそれらを置くと、あれよあれよと言う間に着せ付けていく。琥珀がそんなことをできるだなんてと感心しているうちに着せ付けられた睡蓮は、最後に琥珀が取りだした櫛で髪の毛を整えられ、牡丹を模した白い造花の飾りをつけられた。
「よし。」
「いや、よしじゃなくて、」
ほしいのは説明である。睡蓮は、満足そうに頷く琥珀に思わず突っ込むと、戸惑いながら己が身に纏う着物を見やる。着たことない、上等な着物だ。己に似合っているか不安にさえなる。そんな睡蓮の小さな顔を引き寄せるように顎を捉えると、琥珀は着物の合わせ目から紅の入った二枚貝を取り出した。
「よし、これでいい。」
「んむ、」
睡蓮の形のいい唇に滑らせるように、紅を塗る。肌が白いので、その赤が映えて色っぽい。満足そうに笑った琥珀とは正反対に、睡蓮は眉を下げて困ったような顔をする。
「…こは、僕が雌だったらよかったのかな…」
「ああ!?」
「だ、だって…これ、女物でしょ…」
弱々しい声で、そんなことを宣う睡蓮に、琥珀は仰天した。似合うと思って、我慢ならずに着せ付けた。だって、睡蓮は琥珀の雌だから飾りたいと思ったのだ。でも、睡蓮は違ったらしい。じんわりと目元を潤ませて落ち込む姿に、琥珀ははたと気がついた。
これ、もしかして察しろという男になっちまってたのでは。と、
「あー…」
「ごめん、でも…着物すごい綺麗だね、」
睡蓮が、必死で落ち込みかけた心を誤魔化そうと弁解する。琥珀は早速恐れていた己の悪癖に気が付くと、頭が痛そうに額を抑える。そんな様子に、睡蓮は長いお耳をへたらせて、しょんもりとした顔で俯いた。ちろりとその顔を見る。化粧を施した睡蓮は、そこらじゃ見ないほどの美人になった。紅を指しただけでこれなのだ、琥珀は、やはり己の見立てたもので着飾った雌ほど男心を擽るものはないなと噛みしめる。
「睡蓮。」
「ん、なに…」
きょと、と睡蓮が顔を上げる。幼い印象の睡蓮が、召し物の色味と対となって危うげな色気を放つ。ああ、目元にも紅を指したらたいそう美人になるだろう。そう思って、琥珀は優しく睡蓮を抱き寄せた。
「…琥珀?」
「別に、女の格好をさせてえわけじゃねえ。」
「うん?」
大きな手のひらが優しく睡蓮の頭を撫でる。とくとくと鼓動が響く。腕の中の小さき体温が愛しくて、抱きしめる腕の力を強めた。
「飾りてえじゃん、やっぱ。好きなやつに俺がやった服とかさ。」
睡蓮の長いお耳が、ボソリと呟かれた琥珀の言葉にピクリと反応した。じんわりと頬が熱くなる。そろそろと顔をあげると、不遜な顔のまま顔に紅葉を散らす琥珀がいた。
「ぅ、うん…」
「やっぱ、見せびらかしてえけど見せたくねえやな。」
「わ、」
複雑な顔で、琥珀がそんなことを宣う。胸元から己の羽根を一片取り出すと、それを睡蓮の花飾りと共に差した。大きなそれは、睡蓮が大切に取っている琥珀の抜け落ちた羽根と同じものである。大きな手のひらが睡蓮の頬を包んで、そっと額が重なる。ふるりと睫毛を震わした睡蓮は、とろりとした光を滲ませる赤い瞳で琥珀を見つめ返した。
「察しろなんて言わねえよ、ちゃんと俺は、言葉で言う。」
鼻先が触れ合って、琥珀のかすかな吐息が唇に触れる。睡蓮の、唯一体温を感じる右手がそっと大きな手のひらに重なる。
「契ってくれ、」
「こは、」
喉の奥が熱くなって、一呼吸がこんなにも苦しい。琥珀は天狗装束のまま、睡蓮だけを己の為に着飾らせたのだ。睡蓮は、感情がこみ上げてくると、こんなにも胸が火傷しそうになるのだと思った。吐息が震えて、言葉よりも嗚咽が先にでて、目に溜まった涙は琥珀の親指がそっと受け止めた。
「ぼ、」
「ぼ?」
「ぼくに、お、おくりもの…し、してたのって、っ」
習性、あのときの琥珀はそういったのだ。睡蓮は、たくさんの贈り物に戸惑いながらも、それに見合うようになりたいと思っていた。琥珀の習性という言葉を、わからぬままに己なりに自分を磨いだ。花は束にして乾燥させて香り袋をつくったり、簪や髪飾りを贈られれば、髪を切らずに伸ばすようにしたし、香油も使って身だしなみも調えた。琥珀がくれるもので、己が染まるのが嬉しかったのだ。衣服は、いま始めて琥珀に着せてもらったけれど。
「天狗が、気に入りの雌にものを贈るのは、自分のもんだって主張する意味がある。雌がそれを受け取っても、意にそぐわなきゃ振られることだってあるんだ。」
琥珀の大きな手のひらは、睡蓮の項を覆うように触れる。情けない顔を写した夜に輝く金色の瞳。睡蓮にはそれが、どんな夜をも照らす月よりも綺麗に見えた。
「それを、お前は付けもしねえで、自分磨きから始めたろう。」
「だ、だって、」
琥珀の贈り物に、見合うようになりたかった。そんな睡蓮の気持ちがわかっているかのように、琥珀はその目元を緩めると、小さくつぶやいた。
「ああ、だから。俺はお前を好きになったのかも知れねえ。」
白檀の香りがして、少しだけかさついた唇が柔らかく睡蓮の唇を啄む。貪るような口付けではない、気持ちのこもった柔らかなそれがもっと欲しくて、右腕で琥珀の頭を引き寄せて、押し付けるように口付けた。
「いひゃい!」
「あ、わり。」
「お、おかえり…」
どうやら睡蓮の頬の柔らかさを堪能しすぎたらしい。琥珀はその指先を離すと、もにりと小鼻を挟んでちょんとひっぱる。
「ぅっ、なにぃ、やだようっ」
「くっ、」
「…?」
まだ足りぬと言わんばかりにちょっかいをかけてくるので、睡蓮がちまこい手のひらで琥珀の手を掴んで離させる。ずび、と鼻を啜って琥珀を見上げると、目元を大きな手のひらで覆って俯いていた。
「なあに?」
「いや、おかえりが身に沁みてきた。」
「今更あ!」
本当は、睡蓮のやだようが琥珀のツボに突き刺さったのだが、なんだか悔しいのでそれは言わない。妙な琥珀の情緒が可笑しくて、くふんと笑う睡蓮を、ひょいと抱き上げて膝に乗せる。
「わっ」
「たでぇま。」
ぎゅむりと正面から抱き込まれ、睡蓮は顔を綻ばせて微笑む。ぴとりと頬をくっつけるように甘えると、抱き込む力が僅かに強まった。
片腕を広い背中に回す。すりすりと頬擦りをするように甘えてくる睡蓮が可愛くて、琥珀の仏頂面の口元は、もにょもにょと動く。
腕の中に睡蓮を抱き込みながら、深呼吸をする。小さくて暖かな雌を腕に閉じ込めて、琥珀は今、自分の巣の中にいる。実家ではなく、正真正銘の琥珀だけの塒に、気に入りの雌を連れ込んでいるのだ。
「やべえな。ここが浄土か。」
「ここは黄泉じゃないよう?」
「頭の足りてねえお前が可愛くてしゃあねえ。」
「こは、会話が成りたってないよう!」
ふぅ。と満腹のときのような吐息を漏らした琥珀が、きょとんとしている睡蓮を金色の眼で見おろす。こてりと首を傾げると、長いお耳もへろりと流れる。まんまる赤眼がきらきらと輝き、その視線だけで琥珀を満足させる魅惑の妖かしを前に、ふつふつと飢えのようなものが湧き上がってくる。
抗えぬ欲求のようなものが、独占欲というものだと知ったのは最近だ。
「飾りてえ。」
「かざ…、なにを?」
花は飾ったよう、お庭の!とにかりと笑った睡蓮の服を、琥珀が唐突にびりりと引き裂いた。
「へぁ…」
「………。」
睡蓮のにこにこ顔がびしりと固まる。無言で睡蓮の服を剥いた琥珀はというと、徐ろに立ち上がり、襖を開けて睡蓮の片したばかりの長持を引きずり出す。その蓋を開けて、ここ数日で睡蓮に持って帰ってきたままの、日の目を浴びぬ華やかな着物を取り出した。
「こ、こは、」
「待て。」
「はひ、」
手で制止をされてしまった。睡蓮は、ぽかんとしたまま、腰紐で引っかかっているだけの着物だったものを見下ろすと、再び琥珀を見やる。己には似合わぬだろうなあと思っていた、黒に近い濃紺に、豊かな稲穂が揺蕩う様子が描かれている着物を取り出す琥珀は、やけに真剣な顔つきである。
よくよく見ると、背中には浮雲がかかる満月があしらわれており、所々銀色の糸で刺繍がされている。振り袖の袂には、大きな鳥の絵柄が刺繍されており、その満月を追い駆けるかのように、猛禽が翼を広げている様子であった。
「俺らは鳥目だが、月が照らしてくれりゃあある程度見えるんだ。」
「え、うん。」
その見事な着物を広げて、琥珀がそんなことを宣う。帯に選んだのは、華美過ぎぬ白い帯だ。光沢が美しいそれに、中に合わせる着物は薄灰の上品なものである。それらをごそりと取り出した琥珀は、呆気にとられたままの睡蓮の前にそれらを置くと、あれよあれよと言う間に着せ付けていく。琥珀がそんなことをできるだなんてと感心しているうちに着せ付けられた睡蓮は、最後に琥珀が取りだした櫛で髪の毛を整えられ、牡丹を模した白い造花の飾りをつけられた。
「よし。」
「いや、よしじゃなくて、」
ほしいのは説明である。睡蓮は、満足そうに頷く琥珀に思わず突っ込むと、戸惑いながら己が身に纏う着物を見やる。着たことない、上等な着物だ。己に似合っているか不安にさえなる。そんな睡蓮の小さな顔を引き寄せるように顎を捉えると、琥珀は着物の合わせ目から紅の入った二枚貝を取り出した。
「よし、これでいい。」
「んむ、」
睡蓮の形のいい唇に滑らせるように、紅を塗る。肌が白いので、その赤が映えて色っぽい。満足そうに笑った琥珀とは正反対に、睡蓮は眉を下げて困ったような顔をする。
「…こは、僕が雌だったらよかったのかな…」
「ああ!?」
「だ、だって…これ、女物でしょ…」
弱々しい声で、そんなことを宣う睡蓮に、琥珀は仰天した。似合うと思って、我慢ならずに着せ付けた。だって、睡蓮は琥珀の雌だから飾りたいと思ったのだ。でも、睡蓮は違ったらしい。じんわりと目元を潤ませて落ち込む姿に、琥珀ははたと気がついた。
これ、もしかして察しろという男になっちまってたのでは。と、
「あー…」
「ごめん、でも…着物すごい綺麗だね、」
睡蓮が、必死で落ち込みかけた心を誤魔化そうと弁解する。琥珀は早速恐れていた己の悪癖に気が付くと、頭が痛そうに額を抑える。そんな様子に、睡蓮は長いお耳をへたらせて、しょんもりとした顔で俯いた。ちろりとその顔を見る。化粧を施した睡蓮は、そこらじゃ見ないほどの美人になった。紅を指しただけでこれなのだ、琥珀は、やはり己の見立てたもので着飾った雌ほど男心を擽るものはないなと噛みしめる。
「睡蓮。」
「ん、なに…」
きょと、と睡蓮が顔を上げる。幼い印象の睡蓮が、召し物の色味と対となって危うげな色気を放つ。ああ、目元にも紅を指したらたいそう美人になるだろう。そう思って、琥珀は優しく睡蓮を抱き寄せた。
「…琥珀?」
「別に、女の格好をさせてえわけじゃねえ。」
「うん?」
大きな手のひらが優しく睡蓮の頭を撫でる。とくとくと鼓動が響く。腕の中の小さき体温が愛しくて、抱きしめる腕の力を強めた。
「飾りてえじゃん、やっぱ。好きなやつに俺がやった服とかさ。」
睡蓮の長いお耳が、ボソリと呟かれた琥珀の言葉にピクリと反応した。じんわりと頬が熱くなる。そろそろと顔をあげると、不遜な顔のまま顔に紅葉を散らす琥珀がいた。
「ぅ、うん…」
「やっぱ、見せびらかしてえけど見せたくねえやな。」
「わ、」
複雑な顔で、琥珀がそんなことを宣う。胸元から己の羽根を一片取り出すと、それを睡蓮の花飾りと共に差した。大きなそれは、睡蓮が大切に取っている琥珀の抜け落ちた羽根と同じものである。大きな手のひらが睡蓮の頬を包んで、そっと額が重なる。ふるりと睫毛を震わした睡蓮は、とろりとした光を滲ませる赤い瞳で琥珀を見つめ返した。
「察しろなんて言わねえよ、ちゃんと俺は、言葉で言う。」
鼻先が触れ合って、琥珀のかすかな吐息が唇に触れる。睡蓮の、唯一体温を感じる右手がそっと大きな手のひらに重なる。
「契ってくれ、」
「こは、」
喉の奥が熱くなって、一呼吸がこんなにも苦しい。琥珀は天狗装束のまま、睡蓮だけを己の為に着飾らせたのだ。睡蓮は、感情がこみ上げてくると、こんなにも胸が火傷しそうになるのだと思った。吐息が震えて、言葉よりも嗚咽が先にでて、目に溜まった涙は琥珀の親指がそっと受け止めた。
「ぼ、」
「ぼ?」
「ぼくに、お、おくりもの…し、してたのって、っ」
習性、あのときの琥珀はそういったのだ。睡蓮は、たくさんの贈り物に戸惑いながらも、それに見合うようになりたいと思っていた。琥珀の習性という言葉を、わからぬままに己なりに自分を磨いだ。花は束にして乾燥させて香り袋をつくったり、簪や髪飾りを贈られれば、髪を切らずに伸ばすようにしたし、香油も使って身だしなみも調えた。琥珀がくれるもので、己が染まるのが嬉しかったのだ。衣服は、いま始めて琥珀に着せてもらったけれど。
「天狗が、気に入りの雌にものを贈るのは、自分のもんだって主張する意味がある。雌がそれを受け取っても、意にそぐわなきゃ振られることだってあるんだ。」
琥珀の大きな手のひらは、睡蓮の項を覆うように触れる。情けない顔を写した夜に輝く金色の瞳。睡蓮にはそれが、どんな夜をも照らす月よりも綺麗に見えた。
「それを、お前は付けもしねえで、自分磨きから始めたろう。」
「だ、だって、」
琥珀の贈り物に、見合うようになりたかった。そんな睡蓮の気持ちがわかっているかのように、琥珀はその目元を緩めると、小さくつぶやいた。
「ああ、だから。俺はお前を好きになったのかも知れねえ。」
白檀の香りがして、少しだけかさついた唇が柔らかく睡蓮の唇を啄む。貪るような口付けではない、気持ちのこもった柔らかなそれがもっと欲しくて、右腕で琥珀の頭を引き寄せて、押し付けるように口付けた。
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