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なりたい自分
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「御嶽山の若大将にうまく取り入ったものよなあ。睡蓮。どれ、無駄な争いはやめようではないか。私と話をしよう。」
びくりと琥珀の懐の小さな体がはねる。饒河は真っ直ぐに睡蓮を見つめると、その身の回りに狐火を侍らせる。
「話し合いに応じないと言うなら、この屋敷を燃やすが構わぬか。」
「だ、だめえ!」
「睡蓮、」
饒河の唆しに乗るように、睡蓮が血相を変えて顔を出す。琥珀の懐から顔を出した白兎姿を見ると、その美しい顔をにやりと歪ませた。
「前にでよ、睡蓮。この饒河を唆し、神気を奪った罪は償ってもらわぬと。」
「神気を、奪った?」
木の上の饒河を見上げるように、琥珀が反応する。猿彦は恐る恐るその身を琥珀の前に滑らせると、まるで汚いものを見るかのような瞳で睡蓮を見る。
「こいつが、饒河様の神格を剥奪したんだ!沼御前に取り入って、嘘八百吹き込みやがって!」
「ぼ、僕そんなことしてない!!」
「なら、なんで私の前から逃げた。後ろめたいことがあったから逃げたのだろう、裏切り者の睡蓮。」
じんわりと赤い眼を潤ませながら、フルフルと首を振る。琥珀は、二人の間に何があったのか知らない。故に下手に口を挟むわけもいかず、それはツルバミも同じであった。
「ふん、まあ私も慈悲はある。弁明があるのなら聞いてやろう。」
饒河の灰の眼が怪しく光る。まただ。睡蓮はその灰の瞳が怖かった。己の意のままに操る饒河の瞳。その瞳に映されたものは、無垢なものほど容易に操れる。
睡蓮が、ぎゅうっと瞳をつむった。こうしておけば、瞳を捉えられ、思考を操られることもない。饒河の力の源は、深層心理の怯えそのものだ。後ろめたい何かがあれば、意図も容易く操ってしまう。
「私の前から逃げた時点で、お前の負けなんだよ睡蓮。目を瞑っていたって、なんの意味もない。」
饒河はゆっくりと手を差し出すと、くい、と指を折り曲げた。すると、兎の姿をとっていたはずの睡蓮の体が、情けない音を立てて人の形に戻る。左側を崩すような形で床に転がった睡蓮を見て、饒河はその灰色の瞳を大きく見開いた。
「ヒィ…っ!!」
「あ?」
「じ、饒河様…?」
先程の余裕ぶりとは異なる、怯えたように上擦った声を上げた饒河は、その顔を両手で隠すように視界を遮って、戸惑った顔でこちらを見上げる睡蓮に視線を向けた。
「う、美しくない…!!な、なんだその醜い腕は…!!」
「うわっ、た、爛れてやがる…!!きったねえ!!」
睡蓮の左腕を見た二人は、心底気持ちの悪いものを見たと言わんばかりに顔を歪めた。饒河は美しいものを好む。故に、片腕を患った睡蓮など、己の美意識に反するものだったらしい。鋭い棘のような言葉に、苛立った琥珀が文句を言おうと立ち上がった時だった。
「汚くなんか、ないです。」
「ああ?」
己の言葉を否定され、目に剣呑な光を宿した饒河が睡蓮を見やる。己のそばにいた頃よりも、随分と生意気な目をするようになった。そう思いながら目を細めると、怯えながらも真直ぐに見つめてくる睡蓮を見下す。
「お前、」
「あ、あなた様はかわいそうなお方です!」
「…なんだって?お前、もう一度言ってみろ。」
ぎろりと鋭い視線を睡蓮に向ける、それでも、もう怯むことはなかった。薄い体で、琥珀の前に立つ。顎を上げて、饒河を見上げた睡蓮は、再び口を開いた。
「僕は、神使でした。あなた様も、神気をお持ちでした。あの時のあなた様は、紛れもなく神にお近い存在だったことは間違いありません。」
睡蓮は、ずっと饒河に侍っていたので、きちんとわかっていた。なぜ、饒河が神格を剥奪されたのかを。饒河の周りには、数匹の玉兎が侍り、身の回りのお世話をしていた。しかし、饒河は、その力の上にあぐらをかき、私利私欲のためにその力を使おうとしたのだ。そこから、少しずつおかしくなっていった。
「僕たち玉兎は、妖かしながら、身のうちに神気を宿します。僕は、これ以上沼御前様に不義理をなさるお姿を見ていたくなかった。饒河様が神格を剥奪されたのは、僕のせいではなく、あなた様の身の振る舞いからくるものです。それを、忘れてはなりません!」
「貴様が他の玉兎を唆し、私の元から距離を置かせたのであろう!」
「違う、僕達にだって、意志はあります!」
悲鳴じみた声であった。まさか睡蓮がそんな声を張り上げるとは思わなかったらしいも、その場にいた他の者達も、ポカンとした顔で声を失った。肩で息を切らし、ゆっくりと顔を上げる。胸元の生地を握りしめ、その細い足で一歩踏み出した。
「ぼ、僕たち玉兎だって、心があります。こうして、貴方に口答えだってできる。」
「己の職務を真っ当すらできぬような出来底ないに、何ができると言うのだ!!」
「できません、できないから、できるようになりたかった…!!」
「お前、何を言ってるのだ!」
声を震わしながら、睡蓮は目に涙を溜める。饒河は狼狽えた。取るに足らぬ相手だと馬鹿にしていた睡蓮が、こんなにも己に圧を加えるようにして存在を主張してくる、その事実に、ただ苛立った。
「睡蓮、貴様また痛い目に会いたいか!」
「殴りたければ殴ればいい!僕は、もう一人じゃないもの!!」
そう叫んだ睡蓮の姿に、琥珀が小さく息を飲んだ。守らなくてはと思ってきたか弱い妖かしが、己の意志で言い返したのだ。その様子を見つめていたツルバミもニンマリと笑うと、足元に顕現していた毒沼を消し、ゆっくりと地べたに降り立った。
「貴方は、ただの化け狐の饒河です。失ったものは戻らない、だから、いい加減に前を向いてください!」
揺るぎない瞳は、真っ直ぐにジョウガを射抜く。自分が己よりも格下相手に情緒を乱されるのが許しがたく、つい頭に血が登ってしまった。
「うるさい、うるさいんだよくそ兎!!あれが全てだった!!他にやり方なんて知らなかった!!お前らが導かなかったのが悪いのだろう!!何が神使だ、笑わせるな!!私の力を認めぬやつなんぞ死んで終えばいい!お前も死ね睡蓮!!」
「ひぅ…っ!」
饒河の妖力がグワリと噴き上がった。陽炎のように揺らいだ高温の放射熱は、猿彦の炎を纏う体すらも脅かす。
慌てたツルバミが吐き出した水が、上気に変わる中、真っ先に飛び出したのは、琥珀であった。
「っ、」
睡蓮の体を包み込むようにして、琥珀の腕がその身を引き寄せた。機転を効かせたツルバミが、その手のひらを地べたに置いて土壁を顕現させると、熱風はそれに遮られるかのようにして霧散した。
「こ、こは、琥珀、っ!」
「くそ、あっちいな…。」
睡蓮が、己を庇うように抱きしめた琥珀の背に触れて、悲鳴をあげる。まともに食らったらしい背中を火傷させながらも、まるで痛みなど感じていないかのように、ゆっくりと立ち上がる。
「背中が、っ」
「だから、守るって言ったろう。大人しくしてな。」
髪をかき上げ、金眼を光らせながら饒河を睨みつける。ツルバミは琥珀の視界を遮らぬように土壁の術を解くと、すぐに睡蓮の前に立ち、守るかのように構えた。
「男の見せ所を、邪魔しないでくださいまし。」
「でも、」
「大丈夫ですよ、睡蓮殿の前ですから。」
横長の瞳をにんまりと歪めて笑う、ツルバミの言葉の意図は計りかねた。
それでも、琥珀は指先を一つ弾くと、饒河の乗っている木の枝を細い雷で焼き切るかのようにして切断した。
「ぎゃっ!」
体勢を崩し、庭先に落ちた饒河が、慌てて猿彦の方を向く、輪入道の体を横たえて、目を回して気絶をしている姿を見ると、チィ、と舌打ちを一つした。
起き上がり、その身を翻して去ろうとした。が、それは叶わなかった。
「人の敷地で大暴れして、ごめんなさいも言えねえのかてめえは。」
「グゥエッ!」
饒河の体を縫い付けるように、腰の辺りを踏みつけられる。汚い声を漏らして地べたに再び口づけを送ると、饒河は動揺した顔つきで慌てて顔を上げる。
「な、な、な…!!」
「化け狐。お前本当に懲りないね。また傷口に塩でも塗り込まれてえのか。」
「母さん、いつの間に…」
「ついさっき。」
がしりと胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせた天嘉が、ポカンとする琥珀達を見てニカリと笑う。ホームセンターから帰ってきたらしい、その背後に積み上げられた日良品やら雑貨の袋が幅を利かせる中、天嘉の腕を振り払おうとした饒河は、悲鳴を上げた。
「ひい!!」
「おや、霜焼けになっても許してくれよかわい子ちゃん。」
カキンと澄んだ音を立てて、饒河の腕を氷漬けにした宵丸が、ジャージ姿で顔を出す。チルド要員として随行していたらしい、琥珀と睡蓮の姿を見ると、呑気に手を振って挨拶をしてくる。
「さて、この有様の落とし前は、お前がつけてくれるのだろう、饒河よ。」
「くそ、くそが!」
背後を蘇芳に取られ、饒河は完全に四面楚歌となった。ならば道連れにと目配せをした猿彦は、早々に逃げ出したらしい。その場にはおらず、いよいよ分が悪い。グルルと威嚇をしたが、そんなものも通用はしない。こうして乗り込んできたはいいものの、形勢が逆転した饒河は、心底悔しそうに顔を歪めながら俯いたのであった。
びくりと琥珀の懐の小さな体がはねる。饒河は真っ直ぐに睡蓮を見つめると、その身の回りに狐火を侍らせる。
「話し合いに応じないと言うなら、この屋敷を燃やすが構わぬか。」
「だ、だめえ!」
「睡蓮、」
饒河の唆しに乗るように、睡蓮が血相を変えて顔を出す。琥珀の懐から顔を出した白兎姿を見ると、その美しい顔をにやりと歪ませた。
「前にでよ、睡蓮。この饒河を唆し、神気を奪った罪は償ってもらわぬと。」
「神気を、奪った?」
木の上の饒河を見上げるように、琥珀が反応する。猿彦は恐る恐るその身を琥珀の前に滑らせると、まるで汚いものを見るかのような瞳で睡蓮を見る。
「こいつが、饒河様の神格を剥奪したんだ!沼御前に取り入って、嘘八百吹き込みやがって!」
「ぼ、僕そんなことしてない!!」
「なら、なんで私の前から逃げた。後ろめたいことがあったから逃げたのだろう、裏切り者の睡蓮。」
じんわりと赤い眼を潤ませながら、フルフルと首を振る。琥珀は、二人の間に何があったのか知らない。故に下手に口を挟むわけもいかず、それはツルバミも同じであった。
「ふん、まあ私も慈悲はある。弁明があるのなら聞いてやろう。」
饒河の灰の眼が怪しく光る。まただ。睡蓮はその灰の瞳が怖かった。己の意のままに操る饒河の瞳。その瞳に映されたものは、無垢なものほど容易に操れる。
睡蓮が、ぎゅうっと瞳をつむった。こうしておけば、瞳を捉えられ、思考を操られることもない。饒河の力の源は、深層心理の怯えそのものだ。後ろめたい何かがあれば、意図も容易く操ってしまう。
「私の前から逃げた時点で、お前の負けなんだよ睡蓮。目を瞑っていたって、なんの意味もない。」
饒河はゆっくりと手を差し出すと、くい、と指を折り曲げた。すると、兎の姿をとっていたはずの睡蓮の体が、情けない音を立てて人の形に戻る。左側を崩すような形で床に転がった睡蓮を見て、饒河はその灰色の瞳を大きく見開いた。
「ヒィ…っ!!」
「あ?」
「じ、饒河様…?」
先程の余裕ぶりとは異なる、怯えたように上擦った声を上げた饒河は、その顔を両手で隠すように視界を遮って、戸惑った顔でこちらを見上げる睡蓮に視線を向けた。
「う、美しくない…!!な、なんだその醜い腕は…!!」
「うわっ、た、爛れてやがる…!!きったねえ!!」
睡蓮の左腕を見た二人は、心底気持ちの悪いものを見たと言わんばかりに顔を歪めた。饒河は美しいものを好む。故に、片腕を患った睡蓮など、己の美意識に反するものだったらしい。鋭い棘のような言葉に、苛立った琥珀が文句を言おうと立ち上がった時だった。
「汚くなんか、ないです。」
「ああ?」
己の言葉を否定され、目に剣呑な光を宿した饒河が睡蓮を見やる。己のそばにいた頃よりも、随分と生意気な目をするようになった。そう思いながら目を細めると、怯えながらも真直ぐに見つめてくる睡蓮を見下す。
「お前、」
「あ、あなた様はかわいそうなお方です!」
「…なんだって?お前、もう一度言ってみろ。」
ぎろりと鋭い視線を睡蓮に向ける、それでも、もう怯むことはなかった。薄い体で、琥珀の前に立つ。顎を上げて、饒河を見上げた睡蓮は、再び口を開いた。
「僕は、神使でした。あなた様も、神気をお持ちでした。あの時のあなた様は、紛れもなく神にお近い存在だったことは間違いありません。」
睡蓮は、ずっと饒河に侍っていたので、きちんとわかっていた。なぜ、饒河が神格を剥奪されたのかを。饒河の周りには、数匹の玉兎が侍り、身の回りのお世話をしていた。しかし、饒河は、その力の上にあぐらをかき、私利私欲のためにその力を使おうとしたのだ。そこから、少しずつおかしくなっていった。
「僕たち玉兎は、妖かしながら、身のうちに神気を宿します。僕は、これ以上沼御前様に不義理をなさるお姿を見ていたくなかった。饒河様が神格を剥奪されたのは、僕のせいではなく、あなた様の身の振る舞いからくるものです。それを、忘れてはなりません!」
「貴様が他の玉兎を唆し、私の元から距離を置かせたのであろう!」
「違う、僕達にだって、意志はあります!」
悲鳴じみた声であった。まさか睡蓮がそんな声を張り上げるとは思わなかったらしいも、その場にいた他の者達も、ポカンとした顔で声を失った。肩で息を切らし、ゆっくりと顔を上げる。胸元の生地を握りしめ、その細い足で一歩踏み出した。
「ぼ、僕たち玉兎だって、心があります。こうして、貴方に口答えだってできる。」
「己の職務を真っ当すらできぬような出来底ないに、何ができると言うのだ!!」
「できません、できないから、できるようになりたかった…!!」
「お前、何を言ってるのだ!」
声を震わしながら、睡蓮は目に涙を溜める。饒河は狼狽えた。取るに足らぬ相手だと馬鹿にしていた睡蓮が、こんなにも己に圧を加えるようにして存在を主張してくる、その事実に、ただ苛立った。
「睡蓮、貴様また痛い目に会いたいか!」
「殴りたければ殴ればいい!僕は、もう一人じゃないもの!!」
そう叫んだ睡蓮の姿に、琥珀が小さく息を飲んだ。守らなくてはと思ってきたか弱い妖かしが、己の意志で言い返したのだ。その様子を見つめていたツルバミもニンマリと笑うと、足元に顕現していた毒沼を消し、ゆっくりと地べたに降り立った。
「貴方は、ただの化け狐の饒河です。失ったものは戻らない、だから、いい加減に前を向いてください!」
揺るぎない瞳は、真っ直ぐにジョウガを射抜く。自分が己よりも格下相手に情緒を乱されるのが許しがたく、つい頭に血が登ってしまった。
「うるさい、うるさいんだよくそ兎!!あれが全てだった!!他にやり方なんて知らなかった!!お前らが導かなかったのが悪いのだろう!!何が神使だ、笑わせるな!!私の力を認めぬやつなんぞ死んで終えばいい!お前も死ね睡蓮!!」
「ひぅ…っ!」
饒河の妖力がグワリと噴き上がった。陽炎のように揺らいだ高温の放射熱は、猿彦の炎を纏う体すらも脅かす。
慌てたツルバミが吐き出した水が、上気に変わる中、真っ先に飛び出したのは、琥珀であった。
「っ、」
睡蓮の体を包み込むようにして、琥珀の腕がその身を引き寄せた。機転を効かせたツルバミが、その手のひらを地べたに置いて土壁を顕現させると、熱風はそれに遮られるかのようにして霧散した。
「こ、こは、琥珀、っ!」
「くそ、あっちいな…。」
睡蓮が、己を庇うように抱きしめた琥珀の背に触れて、悲鳴をあげる。まともに食らったらしい背中を火傷させながらも、まるで痛みなど感じていないかのように、ゆっくりと立ち上がる。
「背中が、っ」
「だから、守るって言ったろう。大人しくしてな。」
髪をかき上げ、金眼を光らせながら饒河を睨みつける。ツルバミは琥珀の視界を遮らぬように土壁の術を解くと、すぐに睡蓮の前に立ち、守るかのように構えた。
「男の見せ所を、邪魔しないでくださいまし。」
「でも、」
「大丈夫ですよ、睡蓮殿の前ですから。」
横長の瞳をにんまりと歪めて笑う、ツルバミの言葉の意図は計りかねた。
それでも、琥珀は指先を一つ弾くと、饒河の乗っている木の枝を細い雷で焼き切るかのようにして切断した。
「ぎゃっ!」
体勢を崩し、庭先に落ちた饒河が、慌てて猿彦の方を向く、輪入道の体を横たえて、目を回して気絶をしている姿を見ると、チィ、と舌打ちを一つした。
起き上がり、その身を翻して去ろうとした。が、それは叶わなかった。
「人の敷地で大暴れして、ごめんなさいも言えねえのかてめえは。」
「グゥエッ!」
饒河の体を縫い付けるように、腰の辺りを踏みつけられる。汚い声を漏らして地べたに再び口づけを送ると、饒河は動揺した顔つきで慌てて顔を上げる。
「な、な、な…!!」
「化け狐。お前本当に懲りないね。また傷口に塩でも塗り込まれてえのか。」
「母さん、いつの間に…」
「ついさっき。」
がしりと胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせた天嘉が、ポカンとする琥珀達を見てニカリと笑う。ホームセンターから帰ってきたらしい、その背後に積み上げられた日良品やら雑貨の袋が幅を利かせる中、天嘉の腕を振り払おうとした饒河は、悲鳴を上げた。
「ひい!!」
「おや、霜焼けになっても許してくれよかわい子ちゃん。」
カキンと澄んだ音を立てて、饒河の腕を氷漬けにした宵丸が、ジャージ姿で顔を出す。チルド要員として随行していたらしい、琥珀と睡蓮の姿を見ると、呑気に手を振って挨拶をしてくる。
「さて、この有様の落とし前は、お前がつけてくれるのだろう、饒河よ。」
「くそ、くそが!」
背後を蘇芳に取られ、饒河は完全に四面楚歌となった。ならば道連れにと目配せをした猿彦は、早々に逃げ出したらしい。その場にはおらず、いよいよ分が悪い。グルルと威嚇をしたが、そんなものも通用はしない。こうして乗り込んできたはいいものの、形勢が逆転した饒河は、心底悔しそうに顔を歪めながら俯いたのであった。
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