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食らいつく齒 *

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 すんすんと鼻を引くつかせて、いい香りのする方へと身を寄せる。なんだか体が温かくて気持ちいいけれど、腰のあたりが重だるい。

 天嘉は膨らんだ腹をひと無ですると、微睡みの中に身を預けたまま甘い吐息を漏らした。

 なんだか腹の奥がくちくなって、後ろが疼く。
下肢が熱い、久しぶりに熱が溜まるというか、そこが張っている気がした。
 もぞりと膝をすり合わせる。太腿の間におさまったそれが僅かに反応している。

「ふ、んん…?」

 ふわりといい香りがする熱源に鼻先を触れさせた。ここだ。ここがいい。天嘉は収まりがいい位置に顔を埋めると、その白い手を自らの下肢にそっと這わす。
 ふにりと手で刺激する。やはり張っているようで、人差し指と中指でやわやわと挟むようにして刺激をすると、しっかりと芯をもってぴょこりと立ち上がった。
 そのまま滑らせるようにして手のうちで先端を包み込むと、ぬるりとした先走りが手助けしてくれる。

 天嘉のあえかな吐息が濡れた唇から一息漏れる。微睡みながらの下手くそな番いの自慰を、蘇芳はその身を抱きしめなから静かに見つめた。

「天嘉、」
「ぅ、んん…」

 なんだ、この据え膳は。蘇芳はその小さな頭を撫でながら、頬を赤ら、ぬちぬちと自身を慰める姿を見やる。
 きっと眠たいけれど、気持ちがいいこともしたいのだろう。蘇芳が手助けをすると寝るどころではなくなってしまう。天嘉の体の、我儘な二つの欲求を満たす為には、こうして手探りで下手くそに自慰をするしかないのだろう。

 蘇芳はその額に小さく口付けると、もぞもぞと一人遊びをする天嘉のその身を引き寄せてやった。
 蘇芳の胸板に頬を寄せながら、時折ひくんと腰を震わせる。手は先走りでベタベタに汚れており、悩ましげに眉を寄せながら呼気を震わしている。どうやら決め手にかけるようで、そのぱつんと張った瑞々しい先端は赤らんで震えていた。

「お前は雄なのに、一人遊びが下手だなあ。」
「う、…」

 ぺしょりと蘇芳の胸板を薄い舌が舐めた。おや?という顔で天嘉をみると、どうやらうまくできなくてぐずっているようである。
 蘇芳は小さく笑うと、大きな手のひらをそっと撫でるようにして尻まで這わせ、着物の裾を捲りあげた。野暮な薄布の中にその手を侵入させ、中指で擽るように尻の縁を撫でる。
 ひくんと震える健気なそこに気分を良くすると、天嘉の足を抱えて己の腰に膝を乗せた。こうでもしないと後をいじりにくかったのだ。

「んん、す、すお…」
「なんだ、こちらにいるぞ」
「ぅ、あ、」

 ぬるりとした天嘉の性器を摩擦するように、蘇芳の腕が天嘉の股ぐらに差し込まれる。大きな手のひらで包むようにして袋をやわく揉み、その長い指を天嘉の尻へと含ませる。
 つぷりと容易く指が含まれるほど熟れた腹だ。熱く吸い付くような内壁が嬉しそうに蘇芳を出迎えた。その僅かな刺激に、天嘉は腰を振るわし、きゅう、と蘇芳の指を甘く締め付けた。
 素直な体を褒めるように、睫を濡らして震える天嘉の、その熱い吐息を飲み込むようにそっと唇を重ねた。

「ほら、口を開け。出来るだろう。」
「んぅ、う…あ、」

 唇を擽るように親指で撫でた。薄く開いた唇に舌を滑り込ませると、その柔らかな肉感を味わうように吸い付いて唇で挟み込む、
 ちゅ、くち、という粘着質な音が耳の奥に響いたのだろう、いつのまにか指を二本飲み込んだ素直な腹は、その内側の刺激を追いかけるようにゆらゆらと腰を揺らめかせる。

 指先からとろみが伝う。手首で袋を擦るようにして押し付けてやれば、か細い悲鳴を漏らして腰を震わした。

「ぅあ、っん、…んえ?」

 脳みそが溶けるのではないかと思うくらいの射精感に、天嘉の寝ぼけた思考はゆっくりと追いついてくる。琥珀色の瞳が蘇芳の黄昏色を捉えると、数度瞬きをした。

「ひぅ、っ!あ、あっ!?」
「なんだ、起きたのか。」
「ぁ、な、やぁ、めっ、」  
「つれぬな。そう邪険にしないでくれ。」

 その身を引き寄せぐちぐちと尻をほぐす。天嘉の震える手は蘇芳の襟元を掴み、胸板を熱い吐息が撫でた。
 何だ、なんでこんなことになったのだ。天嘉の思考いっぱいに侵食した性感は、へこりと腰を跳ねさせて、これが現実だということを教えてくる。
 胸板に縋るような形で額を押しつけ、自身の手の汚れに気がつくと、ようやく己が一人遊びをしたのだと理解した。

「ゆ、ゅびやだ…っ、ぬ、ぬい、て」
「俺の横で慰めていたくせにか?」
「ゃ、やだってば、ぅあ、あっ」

 蘇芳の体が、まるで天嘉を隠すようにして覆いかぶさる。身を震わしながら見上げたその顔は、少しだけ苛立ちを含ませたような顔色で、天嘉はひどく戸惑った。

「おこ、ってる…」
「怒っていない。」
「うそだ、怒ってる!」
「怒っていないといっている。」

 その片足を担いだまま、天嘉の体を仰向けにした。慌てて腹を隠すように手を伸ばすのを振り払うと、蘇芳はその手首を布団に縫い付けた。

「い、いやだ!みるなばかやろー!」
「随分な口だ。何が不満だ、言わねばわからぬだろう。」
「ヤりたくねえってば!」
「子が育たなくていいと言うのか。」

 蘇芳の言葉に、天嘉の顔色が青褪めた。そうだ、腹の子は口付けだけではたりないのだ。大食いなのか根こそぎ妖力を吸い取ってしまう。天嘉は確かに抱いてもらわねば持たぬ体だということを、ようやく思い出したようだった。しかし、しかしだ。それをよしとしても、この体を晒すのは嫌だった。一人なら愛でられる腹も、いざ抱かれる側となってみると恥ずかしいものに感じる。
 親として、子に対して申し訳なく思う気持ちと、雌としてのくだらぬ矜持が相まって、天嘉の中でややこしくこんがらがっているのだ。

「や、や…だ…」
「泣くな…」

 唇を戦慄かせ、ひっく、と喉を震わし返事をした。育たないのも嫌だ、やらしいこともしてほしい。でも、この体を見られたくない。だから一人でシてたのに。
 くしゃりと子供のように顔を歪め、胸板に顔を埋めるように嗚咽を漏らす。そんな嫁の言葉と姿に、蘇芳は眉を寄せながら堪えるように吐息を吐き出した。

「腹でてんと…、ちんこたたねえだろ…」
「はああ…」
「た、溜め息…っ、ホラぁあ…」

 がくりと頭を下げ、大きな溜めを零した蘇芳の様子に天嘉の涙は再び溢れる。腹の子が好いた男のものだとしても、でかい腹を抱えた天嘉を抱くにはあまりに見栄えが悪いだろう。そんなことを思っていたのがありありとわかる言葉を受けて、何でそんなことになったのだと、蘇芳が呆れ混じりについた溜息は、嫁に一人の男として意識されているという喜びも絡まり、複雑な心境での一息となってしまったのだ。

「ああ、違う。くそ、ああもう、面倒臭い。」
「う、ぅっ」
「ほら、」

 苛立ち混じりの乱暴な言葉遣いをし、ガシガシと頭を掻いた蘇芳は、天嘉の足の間に挟まった己の腰を、天嘉の足の間に押し進める。
 ズルリと天嘉の頭が枕から落ちると、面倒臭いと言われたことが余程ショックだったのだろう、はらはらと涙をこぼす泣き顔のまま、天嘉はその手で蘇芳との間に手をついて牽制しようとした。

「これでも勃たぬと言うのかお前は。」
「あっ、」

 ごりり、と判りやすく尻のあわいに押し付けられた蘇芳の性器は、たしかに硬く張り詰めていた。尻の合間に腰を押し付けられたのだ。
 下履きを纏った布越しからでもわかるその猛りに、天嘉の喉は小さく動く。疑いようもないその興奮の証を柔らかな尻に感じると、その頤に手を添えた蘇芳が天嘉の顔を見下ろした。

「好いた雌の腹に己の子がいても関係はない。己の雌の淫らな振る舞いに煽られぬほど年を食ってもないつもりだ。」
「あ、ちょっ、やめ」
「それなのにお前は勝手に決めつけて…、俺に禁欲を強いる理由がそんな阿呆な事ならば、俺は遠慮はせぬが。」
「押し付け、ないで…」

 先程解されたそこに、布越しの蘇芳の性器が押し付けられる。天嘉の慎ましいそこは既にその先の期待に縁を濡らし、あさましく縦に割れてしまったこなれた穴が待ちわびるように性器に媚びる。
端なく濡れそぼったそこと、布越しの性器が透明なとろみでつ繋がった。
 獣の様に物騒な興奮の色を顔に貼り付けた蘇芳が、グルルと喉を鳴らす。
 膨らんだ腹を抱えるように小さく蹲る天嘉の片足を肩に掛けて開かせると、その顔の横に肘をついて距離を縮める。

「おあずけは嫌いだ。犬ではないのでな。」
「蘇芳、」
「文句を言うな、全て終えたら言葉が見つから無くなるまで嫌ってほど文句は聞いてやる。」
「っ、」

 開かされた足が恥ずかしくて、着物の裾を伸ばして隠す。
 蘇芳は大きな手のひらで天嘉の顔を固定すると、まるで捕食するかのようにがぶりとその唇に噛み付いた。
 理性が千切れそうな鋭い目で見下され、尻を濡らした時点でもう手遅れなのだ。
 天嘉は肉厚な舌に己の咥内を荒らされながら、その先をあさましく期待する自身の体を持て余すかのように、ただ小さくなりながら必至で答えるほかはなかった。



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