上 下
31 / 84

おねがいだからばかにして **

しおりを挟む
 ぬるりとしたものが口の中に入ってくる。ぬめりをまとったそれは仄かに甘く、熱い。 
 頬を撫でる体温が気持ちよくて、互いの唾液がぷちんと弾けるようにして濡れた音を響かせる。舌の上を何度も滑るような甘やかや刺激が、天嘉の神経を伝って全身に響いていく。

 はむりと下唇を甘噛みされた。厚みのある唇で挟まれ、吸われ、舌を舌で押されながら甘い液体を飲まされる。
 んく、と小さな喉仏が上下して、褒めるように唇を啄まれた。

「……、」

 涙でぼやけた視界が、見慣れたシルエットを捉えた。布団に伏していた天嘉の体を仰向けにし、何度も己の唾液を与えてくるのは蘇芳だった。

「天嘉、」
「…す、ぉ…」

 整った顔に、心配気な色を滲ませる。つい、名前を呼ぶ声が震えてしまった。
 ようやく視界が定かになったのに、目の奥が急に熱くなって、また蘇芳の姿を揺らめかす。細い腕がゆるりと持ち上がり、縋るようにして蘇芳の首の後ろに回るのを、蘇芳は覆い被さることで距離を縮めて答える。

 きつく抱きしめた。肩口に天嘉の熱い呼気があたる。濡れた頬を首筋に押し付け、深呼吸をしながらポロポロと涙を零した。

ああ、弱っている。

 蘇芳のややこは、どうやら力があるらしい。天嘉へと与えた妖力をすべからく成長にあてがっているせいで、この惟一の雌が弱っているのだ。

 器を満たしてから孕ませればよかった。これは完全に蘇芳の落ち度である。何度も宥めるように背を撫で、ゆっくりと起き上がる。ぐすぐすと泣いている天嘉は、妖力を吸われすぎて意識を失ったことが余程怖かったらしい。

「天嘉、天嘉。すまぬな、怖い思いをさせた。お前は何も悪くない、俺のややこは力が強いらしい。お前の栄養に当てる分まで食らいついてしまったから、お前が倒れた。これは満たす前に孕ませてしまった俺の落ち度だ。」
「すお、う…ちげ…ちげえよ…ごめ、ん、ごめんなさ…」
「なんだ、どうして泣く。また俺はお前を悩ませているのか。」
「う、ぅ…や、やだっ…あ、ぁー‥」

 ぎゅう、と抱きつきながら、ついには声を上げて泣き始めた。蘇芳はその背を撫でながら、不安定になっている己の雌を慰めるかのように優しく抱き締める。
 ぐすぐすと泣きながら、蘇芳の頬に手を添える。天嘉の唇が蘇芳のそれと重なって、漸くいつもの天嘉とは違うことに気がついた。

「てん、」

 言葉を阻むように押しつけられたのは、下手くそな口付けだ。もぞりと天嘉が身動ぎ、蘇芳は訳がわからないまま天嘉によって組み敷かれた。
 己の雌にぺしょぺしょと唇を舐められている、薄く眼を開いた天嘉が、顔を赤らめながら蘇芳に口付けるのだ。
 柔らかな尻が蘇芳の腰に乗り上げると、そこで性器を刺激するようにして尻を落ち着けた。これは、何というとんでもない据え膳か。

 天嘉の唾液で口の周りをべたべたにさせたまま、蘇芳はゆっくりと着物の裾から手を侵入させる。天嘉の柔い太ももを握るようにして撫であげれば、その細い体はふるりと震えた。

「どうした天嘉。お前が俺を求めるのは喜ばしいが、青藍からも言われたろう。無理をするなと。」
「やだ、だいてよ…も、あたまぐちゃぐちゃにして…なんも考えらんねーようにして…」

 泣きながら、拙くそんなことを言われてしまえば蘇芳だって断る理由もない。とんでも無く可愛らしい誘い文句は蘇芳の雄の部分にダイレクトに響くのだ。ゆるく腰を突き上げてやれば、硬く猛り勃起した蘇芳のそこを布越しに感じ、ホッとしたような顔を見せる。なんだその反応は。
 獣の部分が、眼の前の獲物を逃してなるものかと唸り声をあげる。
 天嘉の手が蘇芳の胸元を晒し、ぺたりと頬をくっつける。大きな手で頭を撫でてやれば、睫毛を震わせ喜ぶ。たおやかな手が着物の合わせ目から侵入し、下穿きからそっと大きな性器をとりだした。
 蘇芳はごくりと喉を鳴らした。天嘉は幼児の腕ほどの大きなそれに指を絡めると、体をずらして性器に頬擦りをした。

「体調は、もういいのか…」
「っ、ん…これ、ほしくて…あたま、おかしくなりそ…」
「その言葉、忘れるなよ…、」

 天嘉の空の器が、蘇芳の妖力を求めている。渇く体を満たした、ほんの少量の唾液が呼び水となり天嘉の中の雌を呼び覚ます。

 今は何も考えたくない、どろどろにして、頭を馬鹿にしてくんなきゃ嫌だった。
 赤い舌が太い幹に這わされる。浮かぶ血管を愛でるように舐めなぞると、傘の張った部分も丁寧に口に含む。奉仕の仕方は蘇芳によって仕込まれた。頬張りきれない部分は唾液で濡らし、にゅくにゅくと両手を使って刺激する。

「ん、んぅ、ぶ…っ…」

 端ない音と、育てられた腔内の性感帯に刺激されて、天嘉の胸の尖りはぴくりと反応し、四つん這いの天嘉の着物の合わせ目からは布を押し上げるようにしてこぶりな性器が主張をしていた。

 ちゅ、ぢゅぷ。唾液を絡め、啜りながら、にゅちりと手の平で扱く。生理的なもので滲んだ涙が睫を束にし、苦しそうな呼吸が天嘉の顔を額まで赤らめる。

 健気な奉仕の様子は蘇芳にしっかりと見つめられ、長い髪をかきあげ晒された整った顔を、耐えるように歪ませる。
 気持ちがいい。ぎゅるりと血流が流れ、蘇芳は性器を膨らませる。その度に小さくえずく天嘉が可愛そうで可愛い。

「お前、っ…また雌を教え込まれたいのか…。あの三日間が、忘れられぬと?」
「ふ、ぅぁ…、っ…」

 赤らんで、涙で瞳を溶かした天嘉の腰が震える。蘇芳の節張った手の平が胸元をなで上げた瞬間に遂情したのだ。
 蘇芳の獰猛な雄の瞳が天嘉を映す。その視線が天嘉を安心させてしまった。
 内腿をなぞるかのように水流を辿らせ、布団にじわじわとシミを広げる。ピタリとした下着を熱い液体で濡らした天嘉は、まるで犬が喜ぶかのようにして粗相を広げる。

 気持ちいい、気持ちいい。これからこの雄に犯されるのだ、そして全部馬鹿みたいな快楽に塗り替わって、何で悩んでいたのかもきっと忘れてしまうのだ。
しょろろと漏らしていることすら気づかないまま、じゅぽ、と奥深くまで咥え込む天嘉の頭を褒めるかのように蘇芳が撫でる。
 まったくどこまで俺を喜ばせるのだ、この雌は。

 蘇芳はふるりと身を震わし、ゆっくりと起き上がった。小さな天嘉の頭をがしりと掴むと、腰を進ませながらゆっくりと喉の奥まで咥え込ませる。
 天嘉の目が見開かれ、腰に押されるようにしてぺたんと布団に尻をつくと、びくびくと背筋を痙攣させながらぎゅぽりと妙な音を喉から出して、鼻先を下生えに埋めた。

 嘔吐感と快感がないまぜになって、まるで麻薬のような酩酊が天嘉の思考を奪う。じょわ、と残りの残滓も漏らしてしまうと、その暖かな水溜りで尻を濡らしながら、飲み込むようにして吐き出された精液を嚥下する。

「っ、お゛ぇ、…ぐ、っ…んぶ、っ…」
「愛らしい、鼻から精液が漏れておるぞ天嘉。しっかり飲み込め、お前のためだ。」
「んん、ぶ…っ…んく、っ…ぇ、っ…かふ、っ…」

 ふるりと腰を震わした蘇芳が、ゆっくりと性器を弾き抜く。ぬちゃりとした唾液と精液が混ざりあった分泌液が性器と天嘉の舌を繋げると、げほごほと咽る小さな顎を掴んで口を開けさせた。

「これで終わりだとは教えていないな、出来た嫁はどうするのだ。」
「ん、んくっ…は、ぁ…」

 はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら、涙目で蘇芳を見上げる。自分は今、この雄のものなのだ。雌なのだとわからせるような、人を従わせることに慣れた声が、天嘉の背筋を痺れさせる。唇と震える舌が、犬のように座り込んだまま汚れた性器を舐めて綺麗にする。
 幹に吸い付き、じゅるりと音を立てて舐め取るのは、蘇芳が教えた。垂れたそれを袋ごと丁寧に舐め上げながら奉仕を終えると、犬を褒めるかのように頭を撫でられる。

「ああ、天嘉。できた嫁だ、お前は俺の唯一だ。愛おしい、食ってやりたいよ。骨まで残さずにな。」
「蘇芳、っ…が、んばった…から、はや、く…」
「ああ、お前を雌にしてやる。愛おしい、愛おしいなあ天嘉。本当に、俺の嫁は健気で困る。」

 鼻先を擦り合わせ、甘い睦言で天嘉を褒める。自己肯定感を高めてくれる蘇芳とのセックスに、天嘉の体は満たされる。この雄は俺のものなのだ。誰にも渡すものかという執着と、半端者としての不安。ときおり顔を出すそれが嫌で、とにかく快楽に溺れたかった。

「抱いて、抱いて蘇芳。きもちくして、雌にして…はやく、」

 何も考えたくない、怖いのは嫌だ、ここに居ていいと証明してほしい。天嘉の手が誘導する様にして蘇芳の手をそこに添える。ゴクリと唾液を飲み込む音がして、小さく吐息を漏らす。蘇芳によって割り開かれた尻は、ゆっくりとその指をずぷりと飲み込んでいく。
 この指で、蟠ってる不安や恐れも掻き出してほしかった。何度も口を押し付けるように口付けを繰り返しながら、插入された指に擦り付けるかのようにして腰を揺らめかせる。
 好きだ、守ってほしい、怖いことから全部遠ざけて、抱きしめて、甘やかしてほしい。

「す、ぉ…っ、あ、あ、あ、」
「とろけている…こんなところまで素直で…本当に、どうしてくれようか…」
「ひぅ、あ、っ…ンん、ふぁ、だぇ…、ぁ、あ…アッ!」

 嗚咽を漏らし、首に縋り付き、声を震わしながら腰を揺らめかせる。健気でいやらしく乱れる天嘉の痴態に当てられながら、獣のように喉を鳴らして肩口に噛みつく。
 びくんと痛みに身を震わし、足の間に挟んだ蘇芳の腕に精を撒き散らせば、もう焦らす方がいけないと理性を切った蘇芳によって、天嘉は荒々しく布団に組み敷かれた。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...