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刻まれた証 *

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「なんだ、やっとできたのか。そうならそうだと言ってくれれば良かったものを。」
 
 あっはっは。蘇芳が呑気にそんなことを言う。
 天嘉は、嫌だ、風呂に行くんだと言い張ったのに、蘇芳によって足の間に無理矢理座らされ、後ろから抱えられるようにして拘束されている。なんだこれは、羞恥心で泣きそうな、いや泣いたのだが。そんな天嘉を見て憐れむような眼差しを送ってきたのは、朝早くから夫婦の部屋に侵入してきた小豆洗いの小太郎だった。
 
「いや、だってよ。お前が上質な小豆で嫁に枕を作るんだって意気込んでたから持ってきたんだよ。というか、今日来るって言っただろう。そしてその可哀想な狐を風呂に入れてやれ蘇芳。」

 まったく、旦那の嫉妬ほど醜いものはない。小太郎は寝起きの蘇芳によって一度部屋を放り出されていた。後ろに拵えたたんこぶが痛い。

「やだ、お風呂行きたい。なんで離してくんねえの…。」
 
 もぞ、と天嘉が膝を擦り合わせる、涙目で鼻を啜る姿は憐れであった。
 小太郎は、そんな天嘉の姿にを見て、目のやり場に困ると言った具合に顔をそらした。朝からこれは流石に目に毒だ。
 着物の合わせ目から、ぬらぬらとぬめりを帯びた太ももを惜しげもなく晒している。股間は隠しているが、背後に蘇芳がいなければ据え膳以外の何物でもない。
 
「嫁の粗相を処理するのは旦那の役目だからなあ。小太郎、後でお前の店まで取りに行こう。お前は早く帰ってくれ。それとも、見ていきたいのか。」
「ひ、…っ…」
 
 ぐい、そ蘇芳の手が天嘉の股座に侵入すると。天嘉はびくりと膝を震わし、引き攣った声を出した。
 可哀想に、天嘉のあられもない姿を見られたことで、蘇芳が嫉妬したに違いない。眼の前の、泣く子も黙る大天狗の大人気ない様子を見つめた小太郎は、渋い顔をした。面倒事は御免である。
 
「わかった、わかった帰るよ。ったく、可哀想に。あんまり虐めてやるな蘇芳よ。小豆はお前ら二人で取りに来い。いいな?」
「あいわかった。そうだなあ、思えば里を紹介していなかったしな。今日は逢瀬を楽しむとしよう。」
「逢瀬…?」
 
 天嘉は、また意味のわからない言葉を使うじゃん…と胡乱げに蘇芳を見上げると、小太郎は触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、さっさと帰り支度をした。
 
「じゃあな嫁ちゃん、今日は悪かった、後であんこご馳走してやっからな、それで手打ちにしてくれよっと。」
「嫁じゃね、って…もういねえし。」
 
 小太郎は、天嘉の文句も聞き終わらぬうちにさっさと身を翻して帰っていった。どうやら里で甘味処を営んでいるようで、朝の仕込みの合間にきたようだ。
 蘇芳はよしと一言納得をしたかのように頷くと、さも当たり前かのように天嘉の体を布団に押し倒した。

「さて天嘉、お前の腹に種をつけてやってから、栄養を与えていない。お前の粗相もそのせいだ。大人しくしてくれよ。」
「え、あっ…や、やだ、あ、あ、ッち、ちんこさわんなぁ、や、っ…」
 
 華奢な体を後ろから抱きしめる。着物のはだけた合わせ目から小ぶりな性器を握ると、手にはぬとりとした天嘉の先走りを感じた。
 嫁の体が、もう蘇芳を待つようして仕上がっている。それに満足そうに頷くと、蘇芳は天嘉の性器に先走りを塗り込みながら、ちゅ、と項に口付けた。
 本当は昨晩、腹に栄養を与えてやりたかったのだが、湯中りをしてしまったので、結局触れず仕舞いであった。熱でヘタレた天嘉の体に無体を強いるのはいけないと、蘇芳なりに嫁のことを慮って自制したのである。
 
「ま、待って…やだ、怖い…触んないで…っ、」
「端なく体を開いておいて何を言う。お前のここに、孕み女の証があるだろう。」
「ふぁ、ッ…や、しらね、ンんっ…」
 
 後ろから抱き込まれ、ぐっと下腹部を押される。それだけで雌の喜びを知った天嘉の体は従順に綻び、力の抜けた体は尻だけ上げたような、はしたない体位になってしまった。
 蘇芳の目には、きちんと写っている。天嘉の細い腰には、上気したせいで浮かび上がった蘇芳の印が刻まれていた。
 妖の子を孕むと、証としてそれが浮かぶのだ。蘇芳は愛おしそうにその印をそっと撫でると、ぐっと尻を割開いた。散々受け入れた天嘉のそこは、蘇芳の親指を難なく飲み込んだ。ひくつく赤い媚肉は、ぬかるんで誘うように収縮する。天嘉は細い首筋を赤く染め上がると、まるで隠すようにしてその穴を手で覆った。
 
「やだ、ッ…蘇芳、まじで嫌だ、ゆ、許しっ…」
「これはこれで、なかなかに興奮する。いいだろう。どれ、手伝ってみせよ。」
「あ、あっばかあ…ッ!」
 
 にゅぷ、と天嘉の指ごと、蘇芳の指が挿入される。本来ならば濡れはしないそこが、知らぬ間に雌のように濡れる体へと作り替えられていたことに、天嘉の頭は真っ白になった。
 
「あ、や…っな、なんで濡れて…っ、はあ、あ、気、もち…あ、や、やだ、こぁ、い…」
 
 にゅくにゅくと蠕動する内壁が、指で擦られるだけでたまらなく気持ちがいい。
 だめなのに、感じちゃいけないのに。天嘉の体は、自分の意思とは関係なく、蘇芳の手によって作り変えられていく。
 本当に、雌になっちまったみたいだ。天嘉は覆い被さる熱い体温に、腹の奥が甘く鳴いたのに気がついていた。教え込まれた体は、心とは裏腹に酷く従順で、蘇芳が指を抜き差しして甘やかすたびに、尻からとろとろと蜜をこぼす。
 
 足が勝手に開いて、腰が持ち上がる。だらしなく開いた口に突っ込まれた指のせいで、天嘉は甘えた声が漏れてしまう。
 
「愛い、愛いなあ。なに、一回で終わらせてやるさ。お前の腹のくちくなった部分は、この蘇芳がどうにかしてやろう。」
「あ、あ、あ、ぅそ、やあ、入っちゃ、いや、ら…ぁん、うっ…」
 
 じゅぷ、とはしたない音を立てながら、難なく蘇芳の性器が薄い腹の中に飲み込まれていく。腰の、尻の割れ目に近い部分が、かっと熱を持つ。蘇芳のものだという印が、上等な雄の妖力を吸収しているのだ。
 なんだこれは、たまらなく気持ちがいい。こんなの、馬鹿になってしまう。天嘉は蕩けた顔で、僅かに開いた襖から外の景色を見た。

 ああ、俺、朝っぱらから腹にちんこ突っ込まれてよがっちまってる。現代社会にいたときですらセフレなんて作らなかったのに、なんでここに来て、こんなに爛れた生活をしてんだろう。

 ゆさ、と揺さぶられ、蘇芳の性器が腹の奥深くまで届く。こつりと当てられたそこは、天嘉が馬鹿になってしまうお部屋だ。そこを押し開くように傘の貼った部分が無遠慮に入り込み、その鋭利な刺激が天嘉の背筋を震わせる。腹が苦しい、見開かれた天嘉の瞳から、ボロボロと涙が溢れる。
 
「ぁ、へ、変…ッ!そ、そこやだっ…な、なんか、ちが、っ…」
「ここにいる。ややこがここに居ておるよ。気持ちいなあ天嘉、どれ、しっかり吸収しなさい。」
「あっ、んん、っやあ、ぁめ、へ…こんこん、しな、ぃで…ッツ、吸っちゃ、やぁ…!!」
 
 腹の奥の見知らぬ部屋が、まるで待ちかねたと言わんばかりに蘇芳の性器を受け入れる。ちうちうと吸うように蠕動する内壁が、これが欲しかったのだと天嘉を無視して雌にする。
 気をやってしまいそうな快楽の奔流の中、天嘉の震える手のひらが、そっと下腹部に触れた。
 腹が熱い。自分の体なのに、自分のものじゃないみたいだ。は、と甘やかな吐息を漏らしながら、蘇芳の大きな手が腹にまわり、天嘉の手のひらと重なる様に指が絡められたのを見て、胸の奥がきゅうんと締め付けられた。

 今は、朝だ。夜じゃない、だからきっと起きていられるはずだ。
 蘇芳は、今日はどこにも行かない。この間のように、抱いた天嘉をほったらかしにして、どこにも行くことはないだろう。
 ぐす、と鼻を鳴らした。蘇芳の手に縋るように頬を寄せ、苦しそうな吐息に混じって甘やかな嬌声を上げる天嘉は、紛れもなく蘇芳の上等な雌であった。
 感じ入る、そんな姿に喉を鳴らすと、蘇芳はそっと小さな顎を掬い上げて、唇を重ねた。
 舌を絡ませ、唾液を通して蘇芳の暖かな何かが体に染み渡る。乾いた土が水を吸い上げるように、天嘉はこくんと喉を鳴らして唾液を飲み込んだ。
 泣きそうだ。もっと、キツく抱き込まれたい。そう思ってしまうのは、思考まで雌にされているからかもしれない。最初に抱かれた時とは違う、天嘉の体を労るような優しい腰使いに、内股を震わしながら喜ぶ。
 胸を撫でられ、腹に手を添えらえる。ちゅくちゅくと舌で咥内を舐られながら、飲み込みきれなかった唾液を親指で拭われる。なんだかそれが勿体無くて、ペショ、と舐めると、蘇芳はそれは嬉しそうに微笑んで、甘やかすように頭を撫でて、抱きしめてくれる。
 
「天嘉、おまえは本当に、どうしてくれようか。」
「あ、ああ、や、蘇芳…気、気持ちい…やだ、し、んじゃ…ひぃ、あ、…」
「よしよし、可愛い俺のお嫁よ。種をつけてやろうな。どれ、しっかり食らいなさい。」
「ふぁ、あー…、あ、ぁん…い、い…っ…」
 
 とぷり、と情けない勢いの射精をする。鶸萌黄色の畳の上に、パタパタと散らした白濁が、畳の色を濃くする。
 蘇芳の手によって絞り取られるようにちゅこちゅこと性器を擦られ、精液を全て出し切る頃には、もう布団に身を預けるほかはないほどに消耗していた。
 天嘉が、腹の奥で蘇芳の精を受け止める。腹の内側で脈を打つそれが、天嘉の薄い腹を膨らませる。
 ああ、飲み込んでいる。腹の中にいる何かが、ごくごくと精を飲み込んでいるのだ。
 天嘉は人間だ。それなのに、蘇芳によって、体を作り替えられてしまった。腰のあたりがジンジンと熱い。執拗に蘇芳が撫でるそこに、きっと人でなくなった証が刻まれているのかもしれない。
 天嘉は後ろから抱きこんでくる蘇芳の手にそっと触れながら、はらはらと静かに泣いた。
 この涙の意味を知る頃には、何かが変わっているのだろうか。そんなことを思いながら。
 
 
 
 
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