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番外編

後日譚 二人の足並み 2 *

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駿平がしてほしいことをしてやる。

そう言われてから、青木に対する高杉の対応は実にロマンチストというか、きっと自分が華奢なオメガや女の子なら絵になっていたに違いないであろうエスコートを、本当に普通の顔をして行う。

指を絡めて館内を見回り、人とぶつかりそうになれば肩を抱き寄せられ、イルカショーの席取りをしていれば、軽食を買ってきた高杉が青木の口に食べ物を運び、自分で食べようとすれば横からバクリと食べられる。
挙げ句お揃いで買ったクラゲ柄のマグカップと一緒に、買うか迷っていたコースターもサプライズでプレゼントしてくれたのだ。
今日が自分の命日か。そう思うくらいに恋人のような甘やかな一時に、先に参ってしまったのは青木の方だった。

「れ、蓮さん…」
「なに?」

そんな蕩けそうな優しい目で見られると、ちょっと堪りません。声を出してそう訴えたい。何故なら高杉は、階段の段差を利用して足の間に青木を座らせながらぼけっと夕日が反射する海を眺めていた。

浜辺へと続く階段の、高杉よりも二段下に腰を下ろした青木は、まるで自分の後頭部をずっと見つめられているような気がして、思わず振り向いた。そしたらこれである。

「あ、フナムシ。」
「ぎぇっ、…と、う、うそつき!!!」
「ぐはっ、お前…虫駄目なの?くくっ、ぎぇってまじで言うやつ始めてみた。」

青木のなにか言いたげだった表情を、冗談一つで切り替えた高杉は、まさかの虫が嫌いという青木の反応がツボにはまり、肩を揺らしてクツクツと笑う。

いじめっこのような声色がすごく似合う。以外にサディストの気もあるのだと頬を染めて睨みつけると、楽しそうににやにやと笑いながら見下される。

「虫が嫌いじゃないやつなんていますか?」
「俺は平気だな。こないだなんて運転中に蝉が入ってきたけど手で捕まえて逃したし。」
「げ、地獄…蟬触った手で絶対に俺にさわんないでくださいね。」
「さっき迄駿平が握ってた手の方で捕まえたのに?」
「…べつに、それはいいですよ。」

それはいいんだ。そう言うとさらにツボにはまったのかケラケラと笑う。高校時代の影のある雰囲気から打って変わってよく笑うようになった。
その無邪気に笑う様子がなんだか可愛いくて、思わず青木も小さく笑った。

「ふ、っ…」
「俺見て笑った?駿平は生意気だな。」
「ちょ、やめろってば…あははっ!」

クスクス笑いながら、高杉の男らしい手が青木の柔らかい猫毛をかき混ぜる。
今日のためにしっかり決めてきたのに、とムスくれてやろうとも思ったが、その力加減が次第に頭を撫でるような優しい手付きになった事で、青木の抵抗も自然と弱まった。

「…も、なんすか…ちょ、やだって…」

かきあげるように、高杉の手が青木の毛を耳に流す。擽ったい。まるで頬を両手で包み込まれているような、そんな感じだ。
耳もとをくすぐるように弄るかさついた親指が、ゆっくり頬を滑りながらその薄い唇に触れた。

「デートなら、こういうこともしていいんだよな。」

青木の手が、言葉の意味を期待するかのように高杉のボトムを握りしめる。緊張を孕んだ声色と揺らいだ視線がそっと絡まる。
シトラスの香りがふわりと薫った瞬きの間。青木の一呼吸を塞ぐかのように、そっと優しい唇が己のそれと重なった。

「ん、…っ…」

ひくりと青木の身が小さく跳ねる。震える手が、青木の頬を包むように触れてくる高杉の手と重なった。宥めるかのように、青木の震える手のひらに指を絡ませ握りしめると、ちゅ、と、粘膜同士が触れ合い音が立つ。

薄くて、少しだけ冷たくて、カサついた青木の唇を、啄むように角度を変えては、甘やかすように時折吸い付く。

「っ、れ、ん…さぁ、んぅ…っ、」
「無粋な奴だな。こういう時くらい、目を閉じろよ…」
「ーーーっ、ふ、…っ、」

緊張で、唇が震える。青木の体内を駆け巡る強い痺れと掠れた声色に毒され、甘えたな声が漏れそうになる。やがてそっと唇が離れると、慰めるように耳朶を擽られた。

「すきだ。」
「…ず、りぃ…。」

なんで、今言うんだ。

「好きだよ駿平。」
「う、ぐっ…」

ずび、と鼻を啜る。そうでもしないと、目の奥から思いが溢れそうになるから。
     
「誤魔化してて、悪かった。」
「う、ぅ、っ…ふ…」
「なあ、泣くなって…、それとも泣くほど嫌だったか?」
「な、いでねえ…っ、し…」

青木の頬を包む手の平をじんわりと濡らす。悔しくて、狡くて、嗚咽が止まらない。青木の青春を奪っていった意地悪で優しい先輩は、強がるその様子に泣きそうな顔で笑う。

「お、俺より情けない顔で…笑うな、よぉ…」

俺が泣いてるのに、泣きそうになるなんてずるい。

「ごめん。」

その一言で許されようなんて、ずるい。

「ひ、独りよがり…じゃ、なかっ…」
「じゃない。振り回して悪い。」
「う、そじゃ…っ、」
「嘘じゃない。駿平のことが好きだ。」

ぼたぼたと、二人の間の地面を水滴が濡らしては染み込んでいく。ひっく、と引きつるような嗚咽を漏らして泣き出す青木の頭を引き寄せて胸に抱く。
ずっとこいつを、こうしてやりたかった。

「ひ、ぐっ…う、ぅ~‥っ‥」

胸元を、熱い吐息が湿らせていく。泣かせるつもりはなかったのに、こんなに正直に感情を曝け出すその姿がひどく愛おしい。
なんだか自分も泣きそうだ。高杉は青木の頭を抱き込んだまま、鼻先をそっとつむじに擦り寄せる。
高杉にすがりつくようにして服を握りしめたその力の分だけ、ずっと青木を待たせてしまったのだろう。

「ごめん、好きだ。ごめん…」
「う、ぁ、あ…っ…」

青木は、声を出して泣いた。高杉のごめんの意味を、汲み取ってしまった。
自分で自分を追い詰める。可哀想で不器用で、意地が悪くて優しいこの人が、自分を好きだと言ってくれる事が嬉しくて、嬉しくて。

「駿平、キスして。お前から俺に、」
「っ、…」

お願い、そうポツリと消え入りそうな高杉の声を奪うかのように、ぶつかるような下手くそなキスで高杉の唇を奪った。
その勢いに微かに目を見開いた高杉は、その瞳をそっと細めると、まるで口付けを教えるかのように角度を変えて舌を差し入れた。







「れ、れんさ、ん…!」

がたん、と音がして、ベッドサイドのテーブルからバサバサと積み上げられた雑誌が崩れる。

あのあと舌を絡める深い口付けに完全に腰が抜けた青木を抱き上げて車に乗せた。これからどうする?と聞くまでもなく、蕩けた青木の首筋に唇を走らせると、せめて家のベッドでと止められた。

だから高杉は、いい子で我慢をして、安全運転でここまで来た。

「俺が、これ以上待てを出来るとでもおもった…?」

組み伏せたベッドの上。押さえつける高杉を止めるかのように添えられた手のひらに指を絡ませ口付ける。獰猛な雄の瞳を間近で見つめた青木は、その膝に当たる高杉の熱源に身を震わす。

この人、こんな俺でも勃つのか。

深く舌を絡めるようないやらしいキスに翻弄されながら、どこか傍観をするような意識がリアルを教えてくれる。
押し倒した衝撃で捲れ上がった青木の薄い腹筋を手で覆うように触れながら、熱い手のひらが侵入する。
くち、と互いの唾液が絡まる音がして、その舌のザラつきも、温度も、生生しく青木に教えこむ。

蓮さんのキスは、麻薬だ。

だってこんなにキスだけだ気持ちいいだなんて、俺は知らない。
飲みきれない唾液が枕にシミをつける。口付けの合間にする呼吸に、甘い声がかすかに交じる。

鼻にかかったような情けない声を、自分が出せるなんて知らなかった。

「はぁ、駿平…っ、…ごめん、な…」
「あ、っ…あんた、さっきから…謝ってばっか…ァっ、」
「余裕なくて悪い。後で殴っていいから…抱かせて。」
「ぁ、ぁ、…っ、ン、んー‥‥っ…」

胸の突起を摘まれて、膝が跳ねる。泣きそうな顔をして自分を求める姿が可愛いくてずるい。
くにくにと指先で挟み込むように弄るもどかしい刺激に、自然と青木の胸は反らされた。

親指の腹で押し潰される様にして胸を弄られながら、逃さないとでも言うように喉仏に歯を建てられる。じゅわりと滲んだ先走りでボクサーが気持ち悪い。
自分がオンナにされる瞬間を、体が期待してしまっているようだった。
それが悔しくて、はち切れそうなくらい膨らんだ高杉のそこに手を這わすと、もたつく手付きで前を寛げた。

「煽ってんな、よ…」
「やられっぱなしは、やだ…!」

胸の突起はすっかりと愛撫で立ち上がっていた。目元をいやらしく染め上げ、白い胸元を晒した青木が高杉の太く逞しい性器を取り出すと、そっと握りしめる。
ぴくんと眉を跳ねさせた高杉が、赤い舌を見せつけるかのようにして慎ましく立ち上がった乳首を舐めあげる。

「う、ぁ、だ、だめ…だって…」
「なんで、興奮する?」
「ん、っ…」

大好きな先輩が、自分のつまらない胸に吸い付く様子が滑稽でいやらしい。興奮するなと言う方が無理だと小さく頷くと、じゅる、と端ない音を立てながら強く吸い付く。やめてっていっているのに、やめてくれない。
悔しくて、手のひらに滑らせるようにして高杉の性器をにゅくりと刺激する。
ぐ、と眉間にシワを寄せて堪える顔が色っぽくて、青木は自身が責められているにも関わらず、ぞくりと征服欲を膨らませた。

「ふ、お前も…アルファのくせにな、」
「れ、んさんの…せい、でしょ…」

あんたが俺を、こんなふうにしたくせに。

気づけば青木の下肢も寛げられ、ふるりと性器が腹を打つ。こんなに勃起したのは久しぶりすぎて、なんだか恥ずかしい。
まるで重ね合わせるかなように乗せられたずしりと重みのある高杉の性器は、同じアルファでも確実に相手を支配すると言わんばかりの男らしいもので、まじまじと見つめた青木の様子にくすくす笑う。

「こ、んなん…格がちがいすぎでしょ…」
「ゴムのサイズ、なかなかねえしな。」
「こんなとこまでかっこいいとか、ずる…」
「これで今からお前を抱くけど、いいか?」

のしかかられ、耳を甘噛みしながらそっと囁く。同じアルファだ。うまく濡れるかだってわからない。きっと痛いに違いないのに、この人なら全て委ねられると言う安心感が、青木を素直にさせる。

「初めてだから、一思いにやってください。」
「そこは優しくしてくださいじゃないか?」
「…できるんですか?ほんとに?その兇器で?」
「フィストするわけじゃないから、びびんなって。」

されてたまるか。苦笑いする高杉の背に腕を回すと、かぷりと肩に噛み付く。痛くしたら、痛くするぞという青木のなけなしの矜持がそうさせた。

高杉は自分の指に唾液を絡ませると、青木の尻のあわいをそっとなぞった。

「ひ…、」
「いててて、まだなんもしてねぇから…」
「うう…」

思わずどきりとして顎に力が入ってしまった。高杉に背中を撫でられ、そっと力を抜く。
そっと唇が重なって、ぬるりと舌が侵入してくる。

これは、頭が馬鹿になるキスだ。

青木は、耳の後ろからじわじわと侵食するように思考を鈍らせるこのキスに答えるように、恐る恐るぺしょりと舐め返す。

「っ、ん、んん…ふ、…」
「ん、」

れる、と舌の側面やら上顎やら、ねっとりとやらしく舐められなが角度を変えて甘やかされる。
にゅく、と唾液が滑る音が恥ずかしい。ふわふわする思考
のなか、少しだけ腹の奥がくちくなってきゅうと無意識に締めける。全て閉じるのを許さないかの様な微かな異物感は、優しく中を探るように徐々に侵入をしていく。

「ふ、ぅ…ァっ…」
「ん…まいった。声、もっとききたいのに…キスもしたい。」
「き、きかな、…っ…く、くち、ふさげ、ってぇ…」
「はいはい、ほら、こっち向け。」
「ん、むー‥!」

信じられない声が、かさねた唇の合間からホロホロと矜持が溶けるごとに漏れていく。
にゅるりと中を撫でる指も、心做しか探る動きから悪戯に刺激するような動きに代わっている気がする。
青木がふわふわとしているうちに増やされた指は、2本目がスムーズに出し入れされていく。

うまく濡れるかわならないのにと心配してい癖に、青木の体はとても素直に解けていった。

「ぅ、う?ぁ、あ、あ、っ…ンぃ、…っ」
「とろとろだな…いい?」
「ぃ、い?」

いい?ってなんだろう。青木は涙と唾液に塗れただらしない顔を赤くしながら、わけのわからないまま足を抱え上げられる。
はふ、と吐息を漏らすだけでもきもちがいい。お尻の穴がこんなに気持ちがいいとはしらなかった。

「息はいて、そう、ゆっくり…」
「ふ…っ、ぁ、え?」
「わけわかんねーって顔、悪くないね。」
「なにい、っ…あ?」

ぐ、と押し開くようにして熱い塊が縁に当たる。そのままそこを立てに引っぱられたかと思うと、押し開くようにしてそれが腹の内側に侵入する。

「ぃ、あ、あ、ま、まっ、」
「止めんな、ほら…」
「ま、って、まてっ、れ、れんさぁ、あっ」

ぎり、と背中に回した手に力が入る。茹だるような思考の中、まじまじと入ってくる様子を見せつけるようにして開かれたそこを、はくはくと吐息を震わせながら見入ってしまう。

信じられないくらいの大きさのそれを、ゆっくりと飲み込む自分の平べったい腹が、ひくんと痙攣しては内側の気持ちのいいところがしびれる様にして全身の神経を走る。

濁流のように押し寄せる神経への甘やかな刺激が、青木の足りない頭を焼き切るかのようにしてぶわりと涙となって目から溢れる。
知らない、こんなに気持ちのいいことは知らなかった。だらしなく開いた口からだらだらと唾液が溢れる。こんなみっともない顔を見られたくなくて背中に回した手のひらで顔を覆おうとしたとき、その手のひらを押し広げるようにして高杉の指が絡まった。
顔を隠したいのに、そうじゃないのに。
とにかく見られたくなくて顔を背けようとしたら、べろりと耳を舐められた。
ああ、逃げ場がない。高杉の下生えが青木の尻をくすぐる。すべて腹に収める頃には、もう自分の体の主導権が自分にはないことを理解した。

かき揚げられるようにして、青木の前髪が額を晒すようにして流される。全身を弛緩させて身を投げだした青木は、もう目の前に弾けては消えるちかちかとした光の明滅を視覚で捉えることしかできなくなっていた。

「駿平、おい、大丈夫か?」
「う、…あ?…きら、きら…して、る…」
「駄目っぽいな…」

苦笑いする高杉の声を縁に、ぺたりと胸板に触れる。自分の胸板よりも厚みがあるそこが、手のひらからじんわりと伝わってとくとくと早い鼓動を青木に伝えた。それが手からゆっくりと思考に伝わって、なぜだか泣きたくないのにぽろりと涙が出た。
青木は自分に情緒があるとはおもってはいが、これはきっと、幸せなときの涙だろうなと思った。
高杉の唇がその一粒を追いかけるように吸い付いて、きつく抱きしめられる。

ふわりと香る匂いが全身に染みわたり、このまま全部食われてしまいたいなと思った。

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