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番外編

後日譚 俺んちの最強

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「おい凪、あんまハメ外すんじゃねえぞ。」
「わかってるようるせえなー。」
「母さんの前ではいい子ぶってるくせにいっつもこうだ。父さんに言いつけるぞ。」
「おま、それはなしだろうが!」

弟の千颯は親父に似てマジでデカい。高1の癖してよくわかんねえけどどっかの海外の大学に行きてえとか言って勉強して英語喋れるし、俺より頭が良くて生意気。
母さんは男オメガだけど、まじで今もすげえ若い。ちょっと天然入ってんのが玉に瑕だけど、帰りの遅い親父を文句の一つも言わないで待ってるできた嫁だ。俺も母さんみたいなやつと結婚したいけど、できるかわかんねえ。運命を信じてるわけじゃねーけど、俺は親父の会社を千颯と二人で継ぐことになってっからまじでトレーニングとかで忙しくて恋だとか今は考えられねー。
悲しいことに千颯が運営、俺が教育。さながら軍隊もかくやと言わんばかりの親父の会社の屈強な社員たちに囲まれてると、自然と強くなるわけだ。


「母さん見たら泣くぞ、そんなとこに怪我してたら。」
「仕方ねえだろ。あっちが勝手に絡んできたんだぜ?高校生相手によくやるぜ全く。」
「凪がだせえことしてっからだろうが。」
「千颯だって人のこと言えんのかよ!人の喧嘩にしゃしゃり出てきやがって。」

学校帰りに、桑原だな?とか言って絡んできた冗談みてえにダセェ金髪の男が、あんまでかい面してると家燃やすぞとか絡んできたから返り討ちにしただけだ。千颯も千颯で、高層マンション燃やせるもんなら燃やしてみろやとかいって即座に足が出ていた。俺は手癖が悪いけど、こいつは足癖が悪い。

結局大暴れしまくったおかげでへりくだる形になった知らねえ年上共は、千颯の命令で今は公園の美化に努めている。笑えるくらい寝返るのが早い。

「あ、母さん。」
「え、うそどこ。やべっ」

慌てて付けていたタバコをもみ消すと、千颯が指さした方向に母さんが葵さんと歩いていた。千颯と二人でアホどもに解散を告げると、そのまま走って二人で母さんのところに行く。駅前のこんなところまで母さんが来ているのは珍しい。なんかあったっけかと思ったけど、ひとまず取り繕おうと走りながらワイシャツのボタンやら裾やらを慌てて治す。千颯は相変わらず飄々としたクズなので、そんなことしなくても最初からきちんとしていた。

「あ、凪とちーちゃん!学校遅くまで頑張って偉いねぇ。」
「母さん、もう15だから、ちーちゃんはちょっと…」
「葵さんこんばんは!荷物もつの手伝いましょうか。」
「あはは、ありがと。凪くんも千颯くんも、もう俺らより高いんだ。」
「ねー、二人してでかいから、僕の首疲れちゃう。」

ほわほわとした可愛い俺らの癒やしである母さんと葵さんは、親だというのに全然歳を取らない。葵さんは結の下にできた弟の柾を迎えに行く途中だったらしく、その結はというと柾と二人で学校帰りに待ち合わせてショッピングモールにいってるらしい。柾を荷物持ちにさせてるのだろう。ありありと目に浮かぶ。

「あ、やべ。そろそろ俊くんも帰ってくる頃だわ。晩御飯つくんないと!」
「親父につくらせればいいんでは?」
「母さんがおねだりしたら牛だって買いに行くぜあの人。」
「うっわやりかねねぇー、でも疲れて帰ってくるからこれくらいは僕がしないと。葵さんまたね!」
「俺も結たち迎えに行かないと、またね。」

ばいばいと手を振り合う二人を見て千颯が悶ていた。わかるぜ、クソかわいいよな。俺も千颯も父さんににて生粋のアルファだから母さんみたいなのぽやぽやしたオメガをみるとつい庇護欲を掻き立てられる。

「あ、凪またピアス増えてる!もおおせっかく格好良く産んだのにー!」
「自分の魅せ方をわかってるだけだぜ母さん。」
「耳千切れちまえばいいのにな。」
「千颯聞こえてっぞこら。」
「君たちはいつもげんきだねぇ。」

俺たち二人で母さんの買い物袋を持ちながら車道側を歩く。小柄な母さんは、そうすると俊くんに似てきたねと照れたように笑うのだ。
俺らは自他共にマザコンだ。認めよう。

「そういえば、先日の模試の結果良かったんです。褒めてくれますか?」
「ちーちゃんまじかよ。僕なんて全然馬鹿だから尊敬するわ。ちぃはえらいねぇ。」
「ずっる。母さん俺もなんか褒めて!」
「ええ!なんかってなに!?き、今日もかっこよくて偉いね…?」
「莫迦め。俺よりチビのくせに。」
「ああ!?俺よりマザコンのくせに!!」
「あーあーうるさいうるさい!ふたりとも僕の宝物ですぅ!!」

全くいつの間にこんなになったんだか。苦笑いしながら俺らの間に挟まれた母さんは、少しだけ嬉しそうだ。なんかあったのか聞くと、末永さんとこの学さんが花屋をオープンさせたらしい。

末永家に嫁いでなにかできることはないかと花の勉強をし、花屋を経てフリーランスのフローリストになったらしい。
生花も末永さんのもとで嗜んできたが、自分のやりたいことをみつけ、華道家の末永さんとフローリストの学さんが互いに競い合って生ける花は、分野は違えど需要も高く、末永さんは有名老舗旅館やら文化庁のイベント、美術館での展示。学さんは新進気鋭のアーティストとのコラボでPVにつかうセットやら写真家との共同制作やらでテレビで紹介されたりと、二人で慌ただしい毎日を過ごしているという。

そういや和葉さんのコレクションのランウェイも担当してたなと思い返し、つくづく母さんの周りは地味にすごい人ばかりだと感心した。

「ただいまぁー!」

家族揃って仲良く帰宅の挨拶をする。千颯と二人で手分けして母さんの買ってきた食材でもしまうかとエコバッグを持ってリビングに行こうとしたときだった。

「凪くんはこっちぃ。」
「げっ。」

にこにこした母さんの手によってリビングに連れてかれる。ソファーに座らされると、救急箱片手に戻ってきた母さんが俺の隣りに座った。

「あのねぇ、別に男の子だから喧嘩すんなとは言わないよ?でも僕だって心配するんだからね。おわかりぃ?」
「お、おう。目がマジだって…大丈夫だよこんくら、いってぇ!」
「痛くしてるんですぅ!もー、子供の頃から凪はまじで腕白なんだから…」

消毒液をつけた脱脂綿で口端と手の甲の擦り傷を消毒される。千颯は母さんの後ろでクチパクでザマァとか言いやがる。てめえ後で覚えとけよまじで。

「凪くんには罰としてくまちゃんの刑に処す!!」
「は、くまちゃん?」
「ふは、いいじゃん凪。すげえにあってる。」

ぺたりと口端と手の甲に付けられた絆創膏は、それはそれはメルヘンなピンクのクマ柄だった。結が可愛いからきーちくんにあげるねとかいって渡した用途に困るそれを、まさか俺の顔に貼るなんて!

「ふふ、かぁいいねぇ凪くん。」
「うぐ…っ」

俺の口端を撫でながらふにゃりと笑う。母さんはいつでもいい匂いがするし、魅力的だ。千颯が後ろでムッとしたかと思うと、俺から引剥がすようにして母さんに後ろから抱きつく。千颯お得意の甘えた眼差しだ。さっきまでその長い脚でガラの悪い輩を蹴散らしていたとは思えない情けない面でじっと母さんを見つめた。

「はあ!?ずりいなんだそれ!!」
「母さん、僕お腹すきました。」
「僕ぅ!?!?」
「おっと、そーじゃんご飯作んなきゃ!ちぃたちお風呂入っておいでよ。」

甘えてきた千颯の頭をよしよしと撫でると、母さんは救急箱を片手に俺たちを浴室へ追いやる。俺らはまじで料理手伝うと邪魔しかしないので、しぶしぶ千颯も離れる。

「おい凪。お前先入れよ。兄貴に譲る。」
「千颯、お前母さんと入るって魂胆じゃねえだろうな?」
「俺まだガキだもんでね。」
「ちぃはもう高校生だから一人で入んなさい!」
「ええええ。」

結局二人で浴室へ押し込まれ、タオルと着替えを渡された。まさかこいつと二人で入る羽目になるとはとげんなりしたけど、さっさと入ればいいかと諦める。千颯は早く風呂入って母さんの手伝いするんだとか言って豪快に服を脱いでいた。

「あっ!?てめぇ俺のピアスのこと言えねえだろうが!」
「あん?別にいいだろ。母さんだってなんも言わねえし。」
「言わせねえくせに何いってんだ!」

どこで彫ってきたのかしらねえけど、千颯の左胸にはあらたに燕が彫られていた。元々の右の胸元にはそれはもう見事なメキシカンスカルが彫られているのだが、更に増えている。
最初に母さんが筋彫りを発見したときは、ちーちゃんがぐれた!!!!とか悲鳴を上げていたが、これは主君に身を捧げるという意味があるんですよとかなんとかうまいこと抜かしていた。いわく、会社を継ぐ兄を支える為の意思表示だとかなんとか。親父は悪いことしなきゃ何でもいいとか言ってたけど、これで母さんが泣いてたら千颯はぶっ飛ばされてただろう。
兄を支えるとか抜かしてるくせに敬いもしないとこが苛つく。

「そういう兄貴だって舌に開いてるの知ってんだぞ。」
「へーへー、ほらさっさとはいんぞ。」

千颯と二人で入れるくらい我が家の浴室は広い。大方親父が母さんと一緒に入れるようにおおきくしたんだろうが、まじで金の無駄遣いである。前に住んでたマンションだと俺らがでかくなって狭っ苦しいからと言って購入したこの高層マンションの最上階。一括で買うほど溜め込んでるくせに小遣いはくれないのでバイトでやりくりをしている。

「あー、今日晩飯なにかなぁ。」
「母さんひき肉買ってたから多分ハンバーグ。」
「まじ?親父帰ってくんなら煮込みだな。」
「ヤるかな。」
「ヤるだろ。3日も母さんと離れててヤらねーとかないだろ。」
「だよなあ。」

親父は高杉さんとこのグループ会社に視察に行ってて3日も帰ってこなかった。貿易船の警備だかなんだか、よくわかんねえけど海外とのやり取りもあるらしく、高杉さんも新婚だというのに親父に連れ回されてまじで憐れだ。

「思春期の息子がいることわかってねえだろきっと。」
「今日母さんと3人で寝よう。どうせ連休だろうし、一日くらいいいだろう。」
「いいね、母さん寝たら部屋行くか。喜ぶぜきっと。」

くすくすと二人で親父の邪魔をする算段をつける。見た目が悪くても絶対親に恥じることはしないと二人で決めた。やりたいことや、興味があることを伸ばしてくれて、ありのままを受け入れてくれた母さんだ。親父もピアスやタトゥーはいい顔はしないが、一人で買い物に行って絡まれた母さんを、ガラの悪い俺らが輩を牽制するのに使えるとわかってからは何も言わなくなった。
警備関連の会社だ。人相悪くてなんぼである。大体親父も組長みたいな顔だ。俺らは成長するごとに親父に似ていった。種強すぎだろ。

二人で風呂から上がって、母さんに二人で抱きつきながら晩飯くって、オヤジが帰ってくるまで一緒に寝ようと言ったら照れながらオーケーしてくれた。

結局親父は帰りが遅くなることが決定したらしく、寂しそうな顔した母さんをほっとけなかったってのがでかい。まあマザコンこじらせてんからアレだけど。

「んー、せっまい!!」
「母さんもっと僕のほうに来てください、寒いんです。」
「ちーちゃんおふとん足す?」
「母さんがだきしめ、」
「千颯てめえ弟出すのはずるいだろうが!」
「凪くんもほら腕枕してあげるから。」
「いや腕枕は俺がする。」

キングサイズのでかい主寝室で、母さんは俺に腕枕をされながら千颯を腕枕するという寝方に落ち着いたらしい。今日の腕の中の特権は千颯に軍配があがった。次回は俺がもらう。ドヤ顔すんなやくそムカつくなあ。

普段親父と母さんが一緒に寝ているベッドで、息子二人を甘やかしながら寝かしつけてくれる。昔は俺らも小さかったから二人で母さんの両脇に挟まって寝ていた。千颯がおねしょをして、母さんが笑いながらシーツを変えていたのを思い出した。

「ガキの頃さ、千颯が母さんの横でしょんべん漏らしたよな。」
「あー!あったあった。かわいかったなぁ、ままぁーって!」
「凪だってあのあと漏らしたろ。母さんに構ってもらいたくてわざと。」
「ええっあれそうだったの!?」
「千颯ばっか構われっからつい。」
「ええ!いまはやめてね二人とも」
「流石にない!!」

千颯と二人で声を揃えて言うと、楽しそうにケラケラ笑う。二人で母さんのお腹に手をおいて手を繋ぐと、母さんは愛しそうにきれいに微笑んで俺らの頭にキスをくれた。

数時間後、帰ってきた親父によって母さんだけ回収されていたことにきづかないまま眠りこけていた俺たちは、翌朝リビングのソファーで噛み跡だらけの母さんを介抱するご機嫌な親父にでくわした。
千颯と二人で横取りされたことにブチ切れて抗議した挙げ句、母さんにやかましい!と怒られた俺たちは、親父と千颯と俺の三人でわたわたとご機嫌とりをする羽目になった。

あの怖い親父もへりくだる。やっぱり桑原家で最強につえーのは母さんに違いない。
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