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2章
悠也と!
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「はあ、もう死んだ。葵が可愛すぎて5回は死んだ。振り向くたびに心臓止まってる。大丈夫?俺今生きてる?」
「視神経は死んでるんじゃないかな…」
葵はぐったりとした様子で食堂の外に設置されていたテラス席で、益子が買ってくれたチョコバナナ片手につかれはてていた。
いやまあ、普通に喜んでくれたのをみたので満足した…というか報われたのだが、そもそも葵だって男なわけで、いい年してると自覚している分こんな格好は早く脱ぎ捨ててしまいたい。それを許してくれないのは目の前の番が、にっこにこと大層ご機嫌に葵を褒めてくれるからだ。
「はぁ、俺の嫁が俺のためにこんなにkawaii…」
「妙に流暢にしゃべるのやめて…プリティよりはいいけどさ…」
体を冷やさないようにと益子のブレザーを肩にかけられる。葵にはおおきなそれをずれないように両端を掴むと、手がちっちゃくて可愛い!!とまた変な方向で悶て叫んでいた。どうしろというのか。
「なんかさあ、いつもの葵もいいけど今の葵も可愛いよ。見慣れないかどきどきする。」
「悠也もする?皮膚呼吸できなくて死ぬかと思ったよ、今は慣れたけど。」
葵がうすピンクのリップが塗られた唇をきれいに緩めて微笑む。深窓のお嬢様が目の前にいるようで尻の座りが悪い。思わず背筋を伸ばすと、まだ薄い下腹部を撫でる姿に、ついでれっとした顔になる。
「てか、葵が俺の子孕んでるって考えただけでやばいわ。噛み締めちゃうよなぁ、幸せ。」
葵が嬉しそうにエコー写真を見せてくれるたび、ああ、今日もこんなに番が尊い。本日も俺に幸せをありがとうございます。と無神論者の癖にお祈りをしてしまうくらいには頭がお花畑の益子は、今日の文化祭でも盛大に葵は俺のものアピールに忙しい。
先程も葵のために飲み物を用意しようと席を外したら、見知らぬ男が益子の席に座っていたので圧をかけたばっかりだった。
「…ありがと。」
葵はというと、益子が牽制に余念がないことを知りつつも、妊娠を喜んでくれていることがわかるだけでも幸せなのに、ナンパしにきた見知らぬ男から助けてくれたことに胸がどきどきしっぱなしであった。
悠也はかっこいいのだ。根はアホだけど。
「ううっ、ヤベ、涙腺が…」
「情緒バグってんじゃないのまじで…」
まじで、妊娠してからは益子の情緒がこれである。
目元を押さえてずびりと鼻を啜る番の姿に、苦笑いしながらタオルを差し出す。
最初の方は感極まりすぎて泣く様子が愛しかったが、こうも連日、しかも所構わずだとさすがに慣れた。
周りの絵面としては、美人が優しくイケメンの涙を拭うという絵になるシーンだが、益子の顎は梅干しだし、出産前から愚図る子供のあやす練習をさせられているようですなかなかおもしろい。
口にすると拗ねるので言わないが、よしよしと頭を撫でてやるとスンッと泣き止む。
「ちょ、やめて…バブりそうだからまじで。」
「さっきまでおぎゃっといてよく言うよ。」
あんだけぐずっといて照れるんかい。葵は突然冷静になる益子も面白くて好きだった。
「っと、次どこ行きたい?疲れてない?」
「落ち着けって。んー、普段悠也たちがご飯食べてるとこは興味あるかなあ。」
いつもの校内とは違う、お祭り騒ぎのまわりのテンションに便乗して、葵もすこしだけ学生生活を思い出していた。けして楽しいものじゃなかったが、この校舎ですこしだけ昔の気分に浸りたい。葵は少しだけ勇気を出して益子の手を自分から握りしめると、そのままぎゅっと腕に腕を絡ませた。
「え、命日…?」
「何馬鹿なこと言ってんの…」
「はあああ、積極的な葵が今日もかわい…うっ、」
べしりと進まない益子を急かすように蹴ると、そのままだらしなく愛好を崩したまま校舎内に入る。普段飄々としている益子が酷くごきげんな様子できれいな女性をエスコートしている様子をみていた後輩は、まさか食えない笑いはみたことあるがそんな顔をするんですね!?といったばかりの周りの反応に、さすがの葵も苦笑いしかでなかった。
「悠也って、普段の学生生活どんな感じなの?」
「んあ?んー、普通じゃね?別に悪いこととかしねーもの。」
「そ、そうだよね。はは…」
校内はたこ焼きやフランクフルトなどを移動販売している生徒もおり、まるで本業化のように意気揚々と声掛けをしている。
廊下の先から同じように焼きそばをかかえた女の子が、益子を見てはっとしたかと思うと酷く慌てた様子で駆け寄ってきた。
「まま、ま、まし、益子先輩!!!!!な、な、なんですかその人は!!葵さんはどこに!?!?!?」
「あ、もしかしてマキちゃん?」
「ふぁーーーー!?!?!?」
「増田知ってたっけ?」
「うん、ほら体育祭で。」
増田マキは、益子の後輩にあたる。葵との出会いは体育祭での一コマだったが、あの時よりも少しだけスッキリして髪も伸びていた。体育祭では葵と益子のツーショットや、きいちや俊くんのツーショットなど積極的に撮影してくれていたので、葵の中では安心して話しかけられる数少ない人物だ。
「あーーーーあ、あ、あ、あお、おおうふ…」
「えっ、ちょ、大丈夫!?」
増田は葵の女装姿に目を見開き、重ねて益子のもつバックにつけられたマタニティマークに衝撃を受け、情けない叫び声をあげながら学理と膝から崩れ落ちた。葵はというと、細身の女の子が目の前で床に膝をついた事に大いに焦り、慌ててしゃがみ込む。
「す、すみません…ちょっと供給が多すぎて…ぐはっ
」
「ゆ、悠也保健室連れてってあげよ…マキちゃんの様子がなんか変だ…」
「大丈夫いつもの発作だから。」
「あっ、お構いなく。私は平気なので…」
でもなんか鼻血出てるけど、と葵は心配そうに増田を見つめると、ピュアッッッと奇声を上げて顔を覆った。やばい。いよいよおかしい。益子は頭の痛そうな顔をしていたが、葵の心配とは裏腹にようやく自分の仕事を思い出したのか、増田は焼きそばのトレイを抱えて立ち上がると、益子に言った。
「先輩、これ買ってください。」
「直球すぎかよ…」
「葵さんと二人でアーンってしてください、写真撮りますから。」
「や、それはちょっといやかな…」
「ガッデム!!!」
増田の欲望は葵によって一刀両断された。益子が嫌がったところで押せば行けると甘く見ているのだが、葵が嫌がると増田は強く出られなかった。なにせ理想の受け様だ。嫌われたくはない。
「そういえば、きいちくんにはあった?凪くん連れて来てるんだけど。」
「凪くん、ですか?」
キョトンとした顔で増田が首を傾げる。学年が違うとなかなか合わないもので、増田はきいちが出産したということを知らなかったらしい。葵が凪くんは俊くんときいちくんの赤ちゃんだよ。というと、増田は再び奇声をあげた。
「あ、仰げば尊死とはこのことかァーーー!!!!!!!まってろいまいく!!!!!!!」
「え、あ、」
「増田ぁー!!きいちは3年のクラスにいるぞー!!!」
ヒュッ、と息を詰めたかと思うと勢いよく謎の言葉を残してものすごい勢いで来た道を戻っていった。益子の呼びかけには遠くから御意ー!!!などと聞こえてきたが、一体どうしたというのだろう。葵はきょとんとしたまま暫く走り去った道を見ていたが、なんだか面白くて少しだけ吹き出した。
「んふ、ふ…なんか、相変わらずパワフルだね。」
「あいつにとって俺らはガソリンみたいなもんだからなぁ。」
「ふうん?」
益子はよくわかってなさそうな葵の頭をよしよしと撫でると、増田に押し付けられた焼きそばを見てはっとした。
「てかあいつ、金払ってねえのに走り去ってったわ。」
「あはは、三年生のクラスに行ったみたいだから、わたしにいこうか。」
ほかほかの塩焼きそばはなんだか美味しそうで、普通にお金払って買ってあげようよという葵の言葉で、二人は増田の後を追うようにその場をあとにした。
ちなみに塩焼きそばは増田からの情報料として無料でもらえることになったのだが、葵はなんの情報料だか全くわかっていなかったという。
塩焼きそばは、やっぱりおいしかった。
「視神経は死んでるんじゃないかな…」
葵はぐったりとした様子で食堂の外に設置されていたテラス席で、益子が買ってくれたチョコバナナ片手につかれはてていた。
いやまあ、普通に喜んでくれたのをみたので満足した…というか報われたのだが、そもそも葵だって男なわけで、いい年してると自覚している分こんな格好は早く脱ぎ捨ててしまいたい。それを許してくれないのは目の前の番が、にっこにこと大層ご機嫌に葵を褒めてくれるからだ。
「はぁ、俺の嫁が俺のためにこんなにkawaii…」
「妙に流暢にしゃべるのやめて…プリティよりはいいけどさ…」
体を冷やさないようにと益子のブレザーを肩にかけられる。葵にはおおきなそれをずれないように両端を掴むと、手がちっちゃくて可愛い!!とまた変な方向で悶て叫んでいた。どうしろというのか。
「なんかさあ、いつもの葵もいいけど今の葵も可愛いよ。見慣れないかどきどきする。」
「悠也もする?皮膚呼吸できなくて死ぬかと思ったよ、今は慣れたけど。」
葵がうすピンクのリップが塗られた唇をきれいに緩めて微笑む。深窓のお嬢様が目の前にいるようで尻の座りが悪い。思わず背筋を伸ばすと、まだ薄い下腹部を撫でる姿に、ついでれっとした顔になる。
「てか、葵が俺の子孕んでるって考えただけでやばいわ。噛み締めちゃうよなぁ、幸せ。」
葵が嬉しそうにエコー写真を見せてくれるたび、ああ、今日もこんなに番が尊い。本日も俺に幸せをありがとうございます。と無神論者の癖にお祈りをしてしまうくらいには頭がお花畑の益子は、今日の文化祭でも盛大に葵は俺のものアピールに忙しい。
先程も葵のために飲み物を用意しようと席を外したら、見知らぬ男が益子の席に座っていたので圧をかけたばっかりだった。
「…ありがと。」
葵はというと、益子が牽制に余念がないことを知りつつも、妊娠を喜んでくれていることがわかるだけでも幸せなのに、ナンパしにきた見知らぬ男から助けてくれたことに胸がどきどきしっぱなしであった。
悠也はかっこいいのだ。根はアホだけど。
「ううっ、ヤベ、涙腺が…」
「情緒バグってんじゃないのまじで…」
まじで、妊娠してからは益子の情緒がこれである。
目元を押さえてずびりと鼻を啜る番の姿に、苦笑いしながらタオルを差し出す。
最初の方は感極まりすぎて泣く様子が愛しかったが、こうも連日、しかも所構わずだとさすがに慣れた。
周りの絵面としては、美人が優しくイケメンの涙を拭うという絵になるシーンだが、益子の顎は梅干しだし、出産前から愚図る子供のあやす練習をさせられているようですなかなかおもしろい。
口にすると拗ねるので言わないが、よしよしと頭を撫でてやるとスンッと泣き止む。
「ちょ、やめて…バブりそうだからまじで。」
「さっきまでおぎゃっといてよく言うよ。」
あんだけぐずっといて照れるんかい。葵は突然冷静になる益子も面白くて好きだった。
「っと、次どこ行きたい?疲れてない?」
「落ち着けって。んー、普段悠也たちがご飯食べてるとこは興味あるかなあ。」
いつもの校内とは違う、お祭り騒ぎのまわりのテンションに便乗して、葵もすこしだけ学生生活を思い出していた。けして楽しいものじゃなかったが、この校舎ですこしだけ昔の気分に浸りたい。葵は少しだけ勇気を出して益子の手を自分から握りしめると、そのままぎゅっと腕に腕を絡ませた。
「え、命日…?」
「何馬鹿なこと言ってんの…」
「はあああ、積極的な葵が今日もかわい…うっ、」
べしりと進まない益子を急かすように蹴ると、そのままだらしなく愛好を崩したまま校舎内に入る。普段飄々としている益子が酷くごきげんな様子できれいな女性をエスコートしている様子をみていた後輩は、まさか食えない笑いはみたことあるがそんな顔をするんですね!?といったばかりの周りの反応に、さすがの葵も苦笑いしかでなかった。
「悠也って、普段の学生生活どんな感じなの?」
「んあ?んー、普通じゃね?別に悪いこととかしねーもの。」
「そ、そうだよね。はは…」
校内はたこ焼きやフランクフルトなどを移動販売している生徒もおり、まるで本業化のように意気揚々と声掛けをしている。
廊下の先から同じように焼きそばをかかえた女の子が、益子を見てはっとしたかと思うと酷く慌てた様子で駆け寄ってきた。
「まま、ま、まし、益子先輩!!!!!な、な、なんですかその人は!!葵さんはどこに!?!?!?」
「あ、もしかしてマキちゃん?」
「ふぁーーーー!?!?!?」
「増田知ってたっけ?」
「うん、ほら体育祭で。」
増田マキは、益子の後輩にあたる。葵との出会いは体育祭での一コマだったが、あの時よりも少しだけスッキリして髪も伸びていた。体育祭では葵と益子のツーショットや、きいちや俊くんのツーショットなど積極的に撮影してくれていたので、葵の中では安心して話しかけられる数少ない人物だ。
「あーーーーあ、あ、あ、あお、おおうふ…」
「えっ、ちょ、大丈夫!?」
増田は葵の女装姿に目を見開き、重ねて益子のもつバックにつけられたマタニティマークに衝撃を受け、情けない叫び声をあげながら学理と膝から崩れ落ちた。葵はというと、細身の女の子が目の前で床に膝をついた事に大いに焦り、慌ててしゃがみ込む。
「す、すみません…ちょっと供給が多すぎて…ぐはっ
」
「ゆ、悠也保健室連れてってあげよ…マキちゃんの様子がなんか変だ…」
「大丈夫いつもの発作だから。」
「あっ、お構いなく。私は平気なので…」
でもなんか鼻血出てるけど、と葵は心配そうに増田を見つめると、ピュアッッッと奇声を上げて顔を覆った。やばい。いよいよおかしい。益子は頭の痛そうな顔をしていたが、葵の心配とは裏腹にようやく自分の仕事を思い出したのか、増田は焼きそばのトレイを抱えて立ち上がると、益子に言った。
「先輩、これ買ってください。」
「直球すぎかよ…」
「葵さんと二人でアーンってしてください、写真撮りますから。」
「や、それはちょっといやかな…」
「ガッデム!!!」
増田の欲望は葵によって一刀両断された。益子が嫌がったところで押せば行けると甘く見ているのだが、葵が嫌がると増田は強く出られなかった。なにせ理想の受け様だ。嫌われたくはない。
「そういえば、きいちくんにはあった?凪くん連れて来てるんだけど。」
「凪くん、ですか?」
キョトンとした顔で増田が首を傾げる。学年が違うとなかなか合わないもので、増田はきいちが出産したということを知らなかったらしい。葵が凪くんは俊くんときいちくんの赤ちゃんだよ。というと、増田は再び奇声をあげた。
「あ、仰げば尊死とはこのことかァーーー!!!!!!!まってろいまいく!!!!!!!」
「え、あ、」
「増田ぁー!!きいちは3年のクラスにいるぞー!!!」
ヒュッ、と息を詰めたかと思うと勢いよく謎の言葉を残してものすごい勢いで来た道を戻っていった。益子の呼びかけには遠くから御意ー!!!などと聞こえてきたが、一体どうしたというのだろう。葵はきょとんとしたまま暫く走り去った道を見ていたが、なんだか面白くて少しだけ吹き出した。
「んふ、ふ…なんか、相変わらずパワフルだね。」
「あいつにとって俺らはガソリンみたいなもんだからなぁ。」
「ふうん?」
益子はよくわかってなさそうな葵の頭をよしよしと撫でると、増田に押し付けられた焼きそばを見てはっとした。
「てかあいつ、金払ってねえのに走り去ってったわ。」
「あはは、三年生のクラスに行ったみたいだから、わたしにいこうか。」
ほかほかの塩焼きそばはなんだか美味しそうで、普通にお金払って買ってあげようよという葵の言葉で、二人は増田の後を追うようにその場をあとにした。
ちなみに塩焼きそばは増田からの情報料として無料でもらえることになったのだが、葵はなんの情報料だか全くわかっていなかったという。
塩焼きそばは、やっぱりおいしかった。
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