なんだか泣きたくなってきた

だいきち

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2章

確かめるように *

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後ろから抱えるようにして手を回した腹は、本当に凪が入っていたのかと思うくらい薄い。下腹部が微かに膨らんではいるが、ふにりとやわらかいそこは、きっと素肌に触れたら吸い付くようにきもちがいいのだろう。

「し、しゅん…く、ん…」

昼間、タオルに隠されていた滑らかな肢体が腕の中におずおずと身を寄せてきた時、腰に添わせた手に伝わった吸い付くような柔らかさと、かすかに震えていたきいちの姿にひどく興奮した。あのときのような、うぶな様子で身を硬くし、声を震わせた腕の中の番。
あの時は凪を抱いていたから、触れられなかった。

「何か、言って…俊くん…」

今は、良いだろうか。

「きいち…」
「っ、だ…だめ…や、やだ…」
「好き、好きだ…俺の、きいち…」

茹だる様な思考で、身を硬くするきいちの耳元を唇でなぞる。口元を指で触れると、熱い吐息と口端に滲む唾液に気がつく。いいの、だろうか。
番の高まりが指先から伝わる。期待や興奮をすると唾液が溢れる。そんなきいちの可愛い癖の一つを知っているのは、俺だけでいい。

「や、やあ…は、恥ずかし…から…」
「少しだけ、触りたい。だめか?」

震える手に指を絡ませ口付ける。きいちの目元にも口付けをすると、凪と同じ下がり眉の整った顔が一気に赤く染まる。

「きいち、まだ腹…いたいか?」
「っ、…うう、ん…」

そっと頬に手を添えて目を合わせる。濡れた虹彩は涙が溜まると不思議な色合いの瑪瑙のようにきらきらと輝く。ふるり、と否定を意味する声色で答えると、痩せた肩を隠すように細い手がそっとそこを覆った。

「なんか、骨ばってるから…みられるのやだ…」
「恥ずかしいとおもってんのか?」
「…ちょっと、だけ。」

産後の育児に忙殺されて寝られていないことは目の下の隈からわかっていた。確かに前よりもさらに細くなったが、授乳してるためにかすかに膨れた胸元や肉付きの良くなった腰周りは、更にきいちの中性的な魅力を引き立たせていると思っている。

薄い腹に触れると、裾を握る指に力が入る。無理強いはしたくないが、自分の事を卑下する番に分からせるためには必要なことだってあるだろう。

「好きだよ、きいち。伝わってる?」
「う、うん…ぼく、も…」
「俺がお前に、貧相っていったか?」
「言ってない…」

額を重ねて鼻先を擦り寄せる。ずっと前からしている俺達の挨拶、お互い愛してるとは気恥ずかしくてあまり口にしていないが、口だけじゃない確認の仕方の一つ、きいちが安心する行動のひとつだ。

「なんで、そうおもった?」
「だ、だって…前みたいに、自分に気を使えないよ…」
「それは、お前がきちんとママをしてるからだろ。」

前よりもささくれの増えた指先に口づける。凪の口元を拭うときに、口に入らないようにと塗らなくなったハンドクリーム。
寝不足で少し荒れた肌も、伸びた髪も、全部、全部きいちが頑張っている証だった。 

「お腹だって、…痕が…っ、」
「ここも、嫌だって言ったか?」
「言って、ない…」

そっとパジャマ代わりにしている授乳服の裾から手を差し込む。頑なだった指先の力は抜けてすんなりと触れることのできた素肌は、ひどく熱い。
そっとなであげるように服をまくると、キツく瞼を閉じたきいちが顔を背ける。

形の良い臍にむかって薄く走る稲妻のような痕も、この薄い腹で凪を守ってきた証だ。半年経てば目立たなくなるというが、よほど見られたくなかったのか服を握る手に力が入っていた。

「お前が欲しがってる腹筋なんかより、ずっといいものだろうが。」
「ひ、う…っ、」

べろりとそこを舐めあげる。びくんと震えた薄い腹が可愛いくて、ちゅ、とリップ音を立てて口付けると、少しだけ濡れた瞳で見つめられる。
久しぶりの、きいちの期待するような瞳だ。ゾクリと背筋を走る。番のかすかな期待を感じ取り、生唾を飲む音が聞こえた。
本当に、きいちは綺麗になった。

体をそっときいちを跨ぐようにして覆い被さる。少しカサついた唇をなぞる様に親指で触れると、震えた吐息を漏らす。

「キス、してもいいか。」
「あ、え…っ…」

緊張を孕んだ声色で、じわりときいちの目元が濡れる。そっと腹に触れていた手を撫で上げるようにして胸元の方まで触れると、その身を震わすような鼓動が伝わってきた。

「っ、うぅ…」

きゅ、と目を瞑り構えるきいちの行動にくすりと笑う。いいよ、と捉えてしまおうか。頬をひと無でしてからそっと唇を重ねた。ふにりとした柔らかくて優しい感触だ。数度啄むと緊張が解けたのか、甘い吐息が唇に触れた。

「ん、ん…っ、ふ…」
「は…可愛い、」
「俊…く、んぅ…っ、む…」
「ふ、…」

なんの他愛もないただのバードキスから、少しだけ粘膜に触れる。差し入れた舌にビクリと跳ねたきいちの腰を、宥めるようにして撫でる。さり、と舌で舐めあげるようにきいちの薄い舌を絡ませると、きゅ、っと俺の服を握り締めた。

「ふ、ぁ…し、しゅん…あっ、」
「なあ、怒ってくれ…、今の俺は少し、…止まれねえかもしれん…。」

れる、とひと舐めし唇を離す。そのままキツく抱きしめると、ぐるりとマグマのような興奮が腹から全身に巡る。抱き込んだ体はやっぱり細く儚い。不意にあの日のきいちを思い出し、腕に力がこもる。
腕の中にいる存在が、こんなにも大切で愛おしい。
頭を撫でながら、首筋に鼻先を埋めて香りを確かめる。俺のもの、俺だけのきいち。

「絶対に、離さねえから…覚悟して。」
「うん、…うん、…」
「嫌なら殴っていい。だから、少しだけ…触れてもいいか。」
「や、さしく…して…」
「何よりも、優しくする。」

頬を合わせるように擦り寄り甘えて来るきいちが可愛い。そのまま服の中に手を差し入れて、素肌の背中を撫でる。唇を啄むように口付ければ、答えるようにきいちもかえす。

「や、ま、まって…ひ、ひさしぶりすぎて…っ、」 
「ん…何も、痛いことはしねえから。」
「ひ、あっ、…!」

そっと胸に触れると指の間にふくりとした乳首を挟む。そのままそっと舌で舐めあげると、微かに甘い味がした。
きいちの白い指先がそっと俺の前髪を耳にかける。
潤ませた瞳で見つめられて、ああ、この顔にさせられるのは俺だけなのだと思うと、獣じみた本能が伺うように脳裏にちらつく。

全部腹に収められたらどれだけいいだろうか。
はふりと吐息を漏らす濡れた唇をべろりと舐めあげて、下唇を甘く喰む。指の隙間からにじむそれが母乳だと理解して、泣きそうに顔を歪めたきいちに征服欲が満たされた。

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