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2章

じょりじょりはいや

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「あー!」
「はいはい、」
「うぅ、ゅ…」
「凪くんちーーーーっとばかし静かにねぇ…」

いやあ、凪くんとの実家暮らしはまじで大変だった。ほんとに、一人で全部やってたら僕は多分ぶっ倒れてたとおもう。
ズボラな僕がまめになったのがいい証拠だ。やる事とか今までリストアップしたことなかったのに、僕のスマホにはリマインドした毎日のやる事や、母子手帳には夜泣きした回数、授乳の時間やらおむつは何回交換しただの、初めての検診を前に何が正解だが全くわからなくて、とにかくメモしまくっていた。

夜泣きは特にすごかった。吉信は次の日も仕事があるし、オカンもおじさん家に行ったりパートがあったりするので、凪から愚図れば大声で泣き出さないように抱っこしてはあやしを繰り替えした。

ちなみに今もである。正の字でカウントしているが、昨日よりも夜泣きの回数は減っている気がする。
多分眠りのサイクルが出来上がってないからだろう。オカンのときもそうだったらしく、泣きたいときは泣かせてやんなスタンスだ。

「ふぁ、あー‥ぁ、は…」

もうあくびがとまりません。早めに寝るかと凪が寝たのを確認してベッドに横になったのが、夜の8時。

それから22時に一回ぐしぐしと愚図りだして授乳して、目が冴えちゃったのか一時間くらい相手をして、0時に寝てくれたのでベッドに入ってからまた2時間後に飛び起きて授乳。

そんでまた2時間、まあ、2時間おきに授乳はしているのだが僕はお陰様で笑えるくらい体重が減った。産後の体重なんてどこいったのレベルでの減量だ。

凪を抱きかかえながら壁に寄りかかって授乳しながらうたた寝とかざらである。飲み終わる気配がしたら目を冷ますという具合で、なんと今は朝の四時だ。
新聞屋さんの配達の音がする。凪がうとうとしはじめたので、そのまま抱っこしては寝入るまでガン見である。寝息立て始めたらまじで音をたてないようにしながらそっとベッドへ寝かせる。

そうしてほっとしていたところまでは覚えてたんだけど、目が覚めたら凪のベッドに頬杖ついたまま座って寝ていたらしい。

「こ、腰…あだだだだ…」
「ふええええ、あーーーーん!!」
「おおお、はいはいはい!」

わたわたしながら抱き上げると、ポンポンと背中をあやすように撫でながら軽く揺れる。こうすると楽しいのかすぐに泣き止んでくれるのだ。
はたと何かを思い出し、慌ててカレンダーを見上げる。そういえば今日は凪の一ヶ月検診で、なんの準備もしていない。
あわててスマホで必要なものを調べるあたり、現代っ子な僕である。でもこれが一番間違いないんだよなぁ。と、そんな場合ではない。

「あわわ、授乳、オムツ…あー!母子手帳と着替えだ!!と、凪の医療証と、診察券と、」
「ふわあーーん!!!!」
「先にオムツ!!!!ごめんねぇー!」

寝起き十分で戦場だ。新庄先生が気を使って午後からにしてくれて良かった。ぱぱっとオムツを変えると、いまだみゃーみゃーと泣き止まない。わかってます、わかるってますとも!!
着ていたスウェットを脱いで適当なカットソーを着ると、凪を服の中にいれる。ちゅむちゅむと大人しく飲んでいる間に高杉くんに送り迎えのお願いの連絡をする。
二つ返事で了解ときた。仕事とはいえ有り難いことである。凪の授乳が終わったら僕もご飯を食べて、寝てる間にさっさとシャワーも浴びてしまおう。

飲み終えた凪にげっぷをさせると、片手に抱きながらトートバックに必要なものを片っ端から詰めていく。まてよ、身体測定もするなら先に沐浴も済ませるべきか。大きな布の輪っかのような抱っこ紐を体にひっかけてから凪を抱くと、階段をパタパタ降りて浴室に向かう。
空気を入れるだけで出来上がるベビーバスをセットしてからリビングに向かうと、朝から忙しそうだねと吉信が新聞を読んでいた。

「朝ごはん、トーストでいいかな。」
「超有り難い!!」
「うん、凪預かろう。きいちは早く食べちゃいなさい。」

おかんはまだ寝ているようで、まあそのうちおとんが起こしにいくだろう。
たんぽぽ茶とトーストで簡単な朝食をおわらせる。食べ終わったら沐浴すませて服はカズちゃんから貰ったのでいいか、とか考えているとインターホンがなった。

「はっ、俊くんだ!!!」

平日は学校行くまでに寄ってくれるのだ。学校に提出する課題は玄関に置いてあるので渡すだけでいい。慌てて玄関を開けると目を丸くした俊くんがいた。

「おはよう!この間借りた化学のノートも返すね。」
「あ、ああ。てか、また妙なTシャツ来てるな。」
「Tシャツ…、あー!!!これ悪ノリでオカンが買ってきたやつ!!くそ、寝間着のままのが良かった…」

適当に着たものかまさかのスタメンとかかれたもので、オカンが忍さんに影響されて買ってきた謎のカットソーだった。
ちなみに吉信は背中に暫定大黒柱と筆文字で背中に書いてあるのを着ている。ちなみにオカンはゴッドファザーだ。

「寝癖、」
「おゎ…、」

僕の飛び跳ねていた髪を手櫛で整えてくれると、持っていたカバンの中に僕の提出物を入れる。俊くんとの触れ合いがぐんと減ったので、こういう小さな触れ合いでも照れてしまう。なんてことないといった顔の俊くんにバレるのが悔しいので、ポリポリと首の後ろをかいて誤魔化す。

「きい、」
「ふにゃぁあー!!」
「きいちー!!!」
「ふおお!!!俊くんちょっとまってて!!」

凪が泣いたー!!と情けない吉信の声が聞こえた。俊くんがなにか言いかけていたのに、なんちゅータイミングだ。慌てて凪のところにいくと、よいしょと抱き上げて再び玄関に戻る。
きゅるんとした目からポロポロ涙をこぼしながら、顔を赤くして不機嫌ににゃあにゃあ泣いている凪をみた俊くんが、もにょ、と口元を動かす。これは可愛いと思っているときの仕草だ。

「凪くんぱぴーに抱っこしてもらいなさい。」
「パピー言うな。凪は男泣きがうまいなぁ。」
「男泣きかぁあははは。」

またわけのわからないことを言い出す!!
くすんくすんと泣いていた声も落ち着いてきて、じっと俊くんを見上げる。小さい手をぐっぱと握っては開くと、ぺちんと俊くんの顎に触れた。

「…髭は剃った。」
「この間頬擦りして泣かれてたもんねぇ。」
「だ。」
「凪の髭チェックは合格だってよ。」

ちいさく良かろうと言うように声を漏らした様子が面白い。最近吉信がふざけて顎を寄せようとした瞬間に今までにないくらいの悲痛な声でギャン泣きしたくらい髭にはきびしい。吉信はうちひしがれてたけども。

「今日一ヶ月検診だろ、一緒にいこうか?」
「高杉くん病院まで送ってくれるってさ、だから帰り待ち合わせて帰ろうよ。」
「了解、始まる前に連絡してくれ。」
「ほいさー。」

んっ、と凪を受け取ろうとして手を差し出すと、凪を片腕に乗せて空いてる手でハグされた。ち、ちゃうねーーーん!!!!俊くん学校に行く流れだったじゃん今!!不意打ちに、はわ…となってると凪が戻ってきた。

「また後でな。」
「う、ウッス。」

僕の照れた様子に満足そうにすると、凪の額を擽るように撫でてから学校に向かった。
くっ、なにからなにまでこなれてやがるぜ…と照れ混じりの悪態でもつきたかったが、むにゅむにゅ言い出した凪に気を取られて言えずに大人しく見送った。

「朝からラブラブだねぇ。」
「うっさい!」

階段の上から暖かく見守ってたらしい寝起きのオカンにからかわれた!!くそが!!

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