なんだか泣きたくなってきた

だいきち

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2章

出てる出てるぅ!

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「いい?産褥期は絶対に無理しちゃだめ、とくにきいちくんは弛緩出血したんだから貧血おこりやすいし、産後鬱になる人だっているんだから。」

帰宅が決まってから、新庄先生のところに行くのは一ヶ月後ということもあり、僕は笑顔の先生からしっかりと圧をかけられていた。
全部体が元通りになるのが2ヶ月。産前アクティブ過ぎた僕はまじで心配をかけまくっていたので、夏休みは絶対に安静、夏休み明けから体調をみて学校に行くのはいいが、授乳もあるのでおすすめはしないとのこと。ミルクに移行するまではお家で勉強しなさいと言われた。

「わかってるなきいち、」
「もち、まあ凪に寂しい思いはさせられないよねぇ。ねー?」

可愛い喃語でもちゃもちゃ何かを口にするが解読不可能なので都合よく同意してもらってると判断する。
これから忙しくなるので、実家がいいよと言われた。俊くんちは凪の外出許可が出てからだねというと、しょんもりとしていた。

新庄先生とお別れをして、凪を抱っこしながら駐車場にいくと高杉くんが手を振ってくれている。なんだか久しぶりなきがする。扉をスマートに開けると、高級車にベビーシートが設置されていた。

「手際良すぎかよぉ!」
「そりゃあね。俊さんのお子様だからしっかりしないと。」

もう高杉くんは慣れたもので、テキパキと荷物を運び入れるとベビーシートのベルトを外してくれたので、そっと凪を寝かせるとなんとも不服ですといった顔でむすっとしている。いや、見えるだけでしてるかどうかはわかんないんだけども、とにかくなんか不満そうな顔だ。

「凪ちゃんだっけ?眠そうな目元とかきいちに似てるな…」
「口元は俊くんだよね。なんかこう、むってかんじ。」
「おいこら。」

そんなやり取りをして凪の隣に腰掛けると、じわりじわりと目に涙をため始めた。まずいと思ったお気にはすでに遅く、ふにゃぁあー!!!と元気よく大泣きである。初めての乗り物にびっくりしたらしく、高杉くんはなんで!?といった顔であわてていた。

「あー!大丈夫大丈夫、抱っこすればきっと泣き止むから、おーしゃしゃしゃ、よちょちょちょちょ、」
「あ、そうなん…てかそのあやし方変じゃない?」
「俊くんよりはうまいよ?」

よいせと抱き上げると口をちゅむちゅむとさせているのでご所望らしい。俊くんが着ていたジャケットを僕に渡すと、それを引っ掛けて授乳の時間である。

「凪飲み終わるまで発進まっててぇ。」
「飲み終わる?」
「きいち授乳中だ。」
「お、おうふ…」

えーとさっき右だから次左か。なんだか授乳が偏ると一つだけ乳首がびろんびろんになりそうで嫌なので、凪を時間ごとに反転させている。いやあ、まさかスマホのドキュメントに時間と左右どっちかをメモすることになるとは。僕も大概真面目である。

もうええがなと満足したらしいので、肩にタオルをおいてトントンすると上手にけぷっとしてくれた。
この間俊くんがやって、凪が吐き戻したミルクで汚れたのには慌てた。飲みすぎたらしいけど、俊くんの落ち込みようが凄まじく、それ以来ビビってトントンは僕の任務になった。

「はいおわり、お疲れ様でしたぁー。」
「まるで業者みたいに言う…」
「出していいぞ。」
「あー、はいはい。」

なんだかいつも以上にハンドルにぎんの怖えんだけどと言いながらも、相変わらずスムーズだ。
そのまま三十分位で家に着くと、待ち構えていたオカンが扉を開けて出迎えてくれた。

うそだろ吉信までいるんだけど。楽しみすぎてお休みにしちゃったってテヘペロしているけどいいんか。すまんの部下の人、というか二人して玄関の入り口で座って待ってたらしい。コーヒーが2つ分置いてあった。自由すぎぃ!

「はい吉信アルコール消毒。」
「もちろん。」

玄関の棚に置かれたアルコールで消毒したあと、凪のほっぺをぷにりぷにりとさわってからオカンが抱き上げた。凪はさっき爆睡したので、今もスヤスヤと夢の中である。

「んー、かぁいー‥甘い匂いがする。」
「ベビーローションかなぁ。僕よりいいの使ってるのよ凪くん。」
「んや、母乳だな。母乳の匂いがする。」
「やめろかぐなぁ!」

オカンがすんすんしているのを慌てて止める。なんちゅーこというのだ。地味に嫌だろ、息子の母乳の匂いとか嗅がんでいいわ。まったく帰宅早々とんでもない母である。

「沐浴用の桶とかはかってあるよ。」
「桶。」
「ベビーバスのことな。」

てっきり木でできたアレをイメージしてしまった。やりかねんと思ったあたり、僕も大概吉信を信用していない。

「俺はヒノキがいいんじゃないかっていったんだけど、晃が幅とるから却下とか言うんだ。」
「オカン最高。」
「だろう?」
「えー?俊くんだってヒノキがよかったよねえ?」
「はは、ちょっと高級すぎますかね…」

ほらみろ義理息子困ってんじゃねーか!
そうかぁ、とかしょぼくれてる吉信にどうしていいか振り向いてくるので、無視でと口パクで伝えておく。吉信はすぐテンションが変な方向にいくから油断できない。
リビングに設置されていた赤ちゃん用のゆりかご型の椅子に凪を寝かせると、オカンがお茶を入れてくれた。

「そういえば名前が降りてくるって、マジだった。」
「だろ?」
「きいちのネーミングセンスをあまり信用してなかったんだが、安心した。」
「オイコラ。」

風呂に浮かべて遊ぶアヒルのネーミングで、ひどくご心労おかけしたらしい。すまんの渋くて。 
すよすよねている凪を、オカンがじいっと見つめてはもにもにと口元を緩める。でれっとした顔をしたいらしいが、俊くんがいる手前我慢しているらしい。

「きいちの赤ちゃんときに似てる…」
「ちんちんみますか。」
「えっ、みる。」
「だからなんでみんなちんちん見たがるんだよ!」

真顔で俊くんが言うには、赤ちゃんのときのちんちんほどレアなものはないとのことだ。なんでだよ、みんな初心に帰りたいのか。あーそうそう、じぶんもこんなんだったわぁーなつかしーとか振り返るんか。嘘だろ。

ウキウキしながら俊くんがおむつを変えるという名目で寝ている凪のちんちんを晒す。ぱぱっと手際よく処理をすると、ぷるんとした小さなそこをみてオカンが悶えた。

「かぁいいー!きいちとにてるぅー!」
「おいやめろぉ!今はマグナ厶だから!」
「ははっ、それはない。」
「何笑ってんだコラぁ!!」

僕のちんこがマグナ厶ではないと失礼なことを抜かす俊くんはもうほうっておこう。吉信がにこにこしながら、久しぶりにおむつをつけてもいいかな。といって取り出すと、ぱちりと凪が目を覚ました。

「わー!」

ぷるりと震えたと思うと見事な曲線を描いたそれが吉信の着ていたシャツを濡らしていく。
ほらあ!!もう早くつけかえないからぁ!!
オカンは大爆笑し、わたわたと僕が持っていたおむつで吸水して事なきを得たが、吉信は吉信で慣れてるから大丈夫と謎の発言をして、オカンに浴室へ蹴り入れられていた。

粗相をしたくせに、めちゃくちゃ満足げな面構えの凪は、もしかしたら将来大物になるかもしれん…


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