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2章

ご来店感謝セール

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「なあ、トイレってどうしてんの?」
「座ってしてる。」

きいちのお腹が張ってるので、今日は休んでいることを学に告げると、つまんなそうな顔をした後、そう言えばと聞いてきた。

「ていうか、なんでそんなの知ってんだ。むしろキモい。」
「あん?トイレしてるなら倒れてないか確認しに行くだろ。」
「ああ、そういえば妊娠初期のとき倒れて運ばれたんだっけ。なら、仕方ないのか?」
「いや仕方なくねーだろ。騙されんな。」

末永はなんとなく納得仕掛けたが、すかさず学が突っ込む。このチワワみたいな小柄な男はきいちのことが大好きすぎて、俺を見てもおはようすら言わない。挨拶の前に、きいちは?だ。

「そういえばさっきトイレ長くなかったか?うんこ?」
「ちげえ。テレビ電話してた。」
「きいちと?ずっる。俺もしたかったわ!」
「また今度な。」

スマホを弄りながら先程仕返しに撮った写真を送ると、既読のあとにしばらく連絡が来なかった。仕返しが聞いたようで、おそらく画面の向こうではのた打ち回っていることだろう。

「ふぁ、あー‥」
「眠そうだな。」
「ん、ああ。昨日もしごかれたからな。」

くありと欠伸をしながらボリボリと腹を掻く。昨日会社の道場で徹底的に扱かれたお陰で、今の俺の腹筋は一番いい状態だった。
しびれるような引き連れはあるものの、仕上がってたので送ったのだ。あいつが毎回うらやましがるので鍛えているが、最近は追い剥ぎのようにシャツを捲ってくるので困る。何が困るって、番の手が直に腹にさわるんだぞ。わかるだろ、言わせるな。

ポコンと返事が来て、膨れた腹に手を添えるきいちが、今日も元気に蹴っていたことを写真とともに語る連絡が来る。

「はあ、今日もきいちがかわいい。」
「真顔こっわ。みせて、うわ、部屋着えろ。」
「やめろみるな減る。いいのかこれ以上縮んでも。」
「身長の話!?」

ケッと不貞腐れる学と、それを宥める末永を見ながら蒸し暑くなってきた気温に辟易する。きいちはただでさえ体温が高くなってるので、この季節はきっと辛いだろう。

スマホのスケジュールで次の検診を確認する。7ヶ月検診もあるし、腹もぱんぱんだ。そろそろ出産準備でもしておこうか。といっても親父から譲り受けたベビー服などを洗って干し直すくらいしかしないが。

「なあなあ、きいちとえっちしてんのか?流石に妊婦だからしてねえ?」
「おい、またお前はそうやってあけすけに…」

末永が呆れた顔で止めに入ろうとするが、別に隠すことでもなしと答えると、学が顔を赤らめながら目を輝かせる。そんな童貞臭い反応するなと思ったが、こいつは童貞だった。

「まっじかよ!!やっぱすんの!?鬼だなお前!」
「新庄先生が良いって言ったからな。きいちも付き合ってくれた。」
「おい、桑原…腹の子はいいのか。」
「ゴムつけてりゃいいらしい。まあ、一回だけだけどな。」

思えば、あれは最高だった。心残りなのは明るいところですればよかった位だが。流石にもうできないだろう、いいと言われたとしてもいつ生まれてもおかしくなさそうだし、腹で胃が圧迫されていると唸ってたきいちを思うと、付き合わせるのも申し訳ない。

「もうしねえんだ?」
「まーな。まあ、いい経験ができた。あとは産後まで太腿さえかしてくれりゃあ、」
「おまえも意外とそういう話をするよな。」
「末永は言わねえな?」
「学の前だと、流石にな…」

ちらりと学をみる末永に、ならお前の嫁は番の目の前での猥談をしてるけどそれはいいのかと思ったが口にしないことにした。

「帰る。スーパー寄ってかねぇと、きいちの食ってるプルーンが無くなりそうだったんだ。」
「なんか、所帯じみてきたな。」
「なにがだ、やべ。早く行かねーと、プルーンが買えねえ。」

じゃあな、と慌ただしく鞄を片手に教室から出る。
きいちが産後のことを考えて倹約!というので安いスーパーのチラシは一応とっておいたのだ。ちなみに今日は数量限定で干し果物が安いらしい。ありがたいことである。

クラスに残された末永と学は、きいちがいなくても親しみやすくなってきたと微妙な顔をしていたが。
いいだろう別に。ギャップだのなんだの騒ぐ方が煩い。





その日の放課後、涼し気な顔でチラシ片手にスーパーによった俊くんによって、急遽開催されたタイムセール。
たまたま居合わせた御婦人方は、かごに入れられたプルーンやバナナ、たんぽぽ茶などの妊婦用の食料品を選ぶ俊くんの後ろ姿を暖かく見ながら、同時に店側は閑散とした午後の店内が賑わう約束をされたことで感謝したという。

唯一残念なのは、ポイントカードはけして作ろうとしないこと。と、いうよりも俊くんを目の前にしてポイントカードを進める程顔面に気を取られることのないスタッフがいないことだ。進めれば作ってくれるのに、それを言われないので俊くんも気にしたことはないのだ。

初老の店長はため息を吐いた。ココ最近、バイトやパートの募集を見たと言ってくる若い子が後をたたないのだ。人では足りてリわけではないので、それはそれで有り難いのだが、如何せんお目当てがいつ来るかわからない俊くんなので、こちらも迂闊に採用して出会いのきっかけを提供する事になるのじゃ困るのだ。
だってこなくなっちゃったら売上が下がる。チェーン店のスーパーの中、俊くんが来る前と後じゃ売上の差が歴然だった。本社にはなんの施策でそこまで売上げをのばしたのかとお褒めの言葉とともにせっつかれ、地域のアイドルが御用達なんで。とは流石に言えなかった。不定期開催のセールが功を奏したとうそぶく他なかったのだ。

本日の売上も、今の時点で日予算間近だ。滞在時間にもよるが、これからも家に来てくれるといいなとお祈りをしつつ、本日も出荷希望商品としてたんぽぽ茶とプルーンの予約をするのであった。

店側の願いを知ってか知らずか、俊くんはここのスーパーはやけにたんぽぽ茶がバリエーション豊かだなと感心し、忽那さんにも紹介するか思っていたところだった。

来月から、さらに客足が増えそうな予感がする。今日もスーパーのアイドルは番のために用意されたたんぽぽ茶を買っていくのだった。

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