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2章

今日の勝敗

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「う゛ぅ…」
「いやぁ、わかるわ。おれんときもそんなんだったもん。」

7月に入り、気温が高くなるに連れてどんどん僕の体はおかしくなっていった。
つわりは止まったはずなのに、お腹が膨らんでいるから胃が圧迫されていてものも口にしたくない。
しかもお腹に触れる布もなんだか嫌で、でもお腹は冷やせない、だけど暑い。ってな感じでわがままボディになってしまった。情けないことに平日の昼間っからでかいタンクトップ一枚にボクサーパンツでベッドの上でぐったりである。
俊くんが迎えに来てくれたのだが、僕がグロッキーな状態を確認すると、ゆっくり休めと言われておいていかれた。
その時はきちんとパジャマも着ていたし腹巻きもしてたのだが、見送った途端に全部脱いだ。すまんの、まじでもう全裸がいいくらいなのだ。

「きもちわるい…あつい…これが夏バテ…」
「いや、夏バテよりも臨月特有のアレだな。俺も服着たくなかったもんな。」

ぱたぱたとうちわで仰がれながら、だらしない格好で自室のベッドで無事死んでいる。お腹をぽこりと蹴られる度に、ウッとなる。元気で何よりだけど、ちょっと今はおとなしくしててええ。

「氷枕いる?あんま体冷やすの良くねーけど、ちょっとくらいならいいべ。」
「むしろ氷水に飛び込みたいくらい暑い…」
「そりゃあ新陳代謝が良くて何より。若い証拠だな。」

よいせっと立ち上がったオカンは、僕の顔にうちわを置いていくと、とんとんとんと軽快な足取りで階段を下っていく。羨ましい。僕もあんな身軽だったはずなのに、今は階段降りるの怖いものな。お腹が邪魔して見えないのだ。
そのまま仰向けでぼけっと天井を見上げる。駄目だ、仰向けだと更に具合悪くなるな…自分でやっといてあれだが僕は馬鹿なのか。
仕方なく仰臥位になると、茹だるような暑さにタンクトップをはためかせながら窓から入ってくる風に目を細める。
ちょっと涼しい。カランと飲みかけの麦茶の氷が音を立て、結露した水滴が表面を滑るように落ちていく。なんとなく指先でそれを受け止めていると、氷枕をもったオカンがスイカとともに登場した。

「ほらよ、配給。」
「スイカー!!!!」
「これなら水分多いし食べられるだろ。切り分けたから一口づつ食いな。」

僕の反応に笑うと、起き上がろうとして失敗する姿に更に笑った。亀かよと失礼なことを言われながらなんとか転がるようにして起き上がると、わくわくしながらフォークを指した。
シャクリと涼し気な音を立てたスイカは、じゅわりと果汁を滴らせる。赤い繊維質なそれは食べ頃だよとアピールをしていて、一口口に含むだけでそのみずみずしさが口の中に広がる。
爽やかな甘さに自然と頬がほころんだ。

「んまぁ、夏はやっぱりこれだよねぇ…」
「おまえ熱出るたびにスイカせがんできてたもんなあ。」
「んー、やっぱ食べやすいからじゃない?」
「まあ、なんだっていいけど。いつまでもタンクトップで寝てないで、ちゃんと暖かくしておけよ。」
「あいあい。」

もきゅもきゅと食べてるうちに、オカンは勇んとこ行ってくるといって出かけていった。まじでやることがない。体調悪かったのは本当だが、こんなことなら学校に行けばよかったなと思う。

スマホが振動して、俊くんが連絡をくれた。
体調は?ときたので、暑くてタンクトップのみだと返信をすると、間髪開けずに腹を温めろ、のまえに写メ。ときた。

「ほほん、これはあれか。えっちなやつの要求か?俊くんも男の子だねぇ。」

にまにまし、悪ノリした僕は床に脱ぎ捨てたショートパンツを写真にとって送ると、もう一声とくる。
ならばと脱いだ下着も横に置くと、今夜はお楽しみですか?ときた。

「ぶはっ!!!!」

思わずその珍回答に笑うと、チンして温めますか?とタンクトップの裾を伸ばして股を隠して写真を送る。すると耐えきれなかったのか俊くんからの着信が来た。どうやらテレビ電話らしく、そのまま通話を押すと、スマホの画面に真顔の俊くんがパッと映った。

「チンして温めますかはやばい。」
「第一声がそれかよ。」
「お前どこでそんなセリフ覚えてきたんだ。俺は教えてねえ。」
「コンビニだよ!エッチに聞こえるのは、俊が思春期だからじゃないの?」

クスクス笑いながら画面越しに俊くんの顔に触れる。むっとした口元の俊くんが、寝転んだ僕をまじまじと見る。その視線がすこしだけやらしく感じたのは、多分気のせいじゃない。

「お前、そのタンクトップで寝てんのか?」
「んえ、うん。なんで?」
「や、横になってると胸元が見えててエロいなって思っただけだ。」
「ふは、なにいってんのまったく。」
「好きなやつがエロいかっこしてたら、みるだろ」

俊くんが真面目な顔して見つめてくる。こんなかっこいいのに頭が残念なのか面白い。ふざけてちろりとタンクトップの袖から乳首を見せると、ぐぅ…と変な声を出して眉間にシワを寄せた。今日も元気そうで何よりだ。

「やめろ、勃つだろう。」
「てかいまどこにいんの。」
「トイレ。」
「ぶは!!!わざわざ!!もう僕寝るから俊も戻れよぉ。」

むっとした顔で俊くんか時計を見る。そろそろだったのだろう、小さくため息を吐くとブツリと通話が切れた後、すかさずまた連絡が入る。

お前、ベッドの中で仕返ししてやるからな。

そんな物騒な連絡に思わず笑うと、僕も楽しみにしていると返事をした。
音沙汰のなくなったスマホをぺいっとベッドの上に置く。なんとなく自分の性器に触れるとかすかに反応していた。
俊くんのあの反応に少なからず僕も兆したらしい。
腹が出てるので思うように慰める事もできない。
僕は僕でお預けをくらったようなもんである。

「うぅ、自爆した…」

なんとなくやり取りが楽しくてふざけ過ぎた、あとから思えばなんの有料配信だと思う。
ピロンとメッセージが飛んできて、もそもそとスマホを確認すると、仕返しとメッセージが来たあと、見事な俊くんの腹筋が添付されていた。

「もおおお!!おかずもらってもいじれないんだってぇえ!」

もだもだとのた打ち回って悶々とする感覚に悪態をついてるうちに思い至る。
まさかさっきの俊くんと同じ状態にさせるべくこんなことをしたのだろうか。
ありえるな、さすが俊くんである。

仕返しにまた何か写メろうかと思ったのだが、このやり取りの行き着く先は終わりがなさそうだったのです辞めた。変わりに今日も元気にお腹蹴ってたよと、お腹の写真を送って今度こそ寝た。

一方俊くんは、きいちからのそのメッセージを受け取った後に、改めて自分のメッセージを見返して大人にならなくてはと改めて自覚したという。
番の情緒を容赦なく無意識に振り回すきいちに、俊くんが勝てる日は来るのだろうか。


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