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2章

ぞっこんラブ

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あれだけ怖かったスクリーニング検査では、お腹の子も全く問題なし。むしろ元気すぎるくらいとお墨付きを貰った。
ずっと胃の痛い思いをしてたのと、緊張からかお腹も張っていた僕はその言葉にひどく安心していた。
そしてもう一つ、

「うっわやば。顔やば。きったね。」
「ううう、うう、うるせえええ!!!」
「はいはいよかったね!!しっかりしろよパパ!!」

何故か秘密にしていたはずの葵さんの検査の日に、むすっとした顔の益子を俊くんが連れてきた。いわく、葵さんがずっとソワソワしていたのでおかしいと思ったとのこと。俊くんが検査についていく話をしていたから、もしかしてと思ったらしい。
こういう時だけやけに鋭いなと悪態の一つでもついてやろうとしたんだけと、葵さんの検査結果が見事に妊娠をしめしていたことを告げると、それはもう笑っちゃうくらいきたねー顔でボロ泣きである。
葵さんもまさかの益子の反応に面食らったようで、妊娠初期の大切な時期なのにあわあわと益子を慰めていた。

「うう、うっ、な、なあ。やめよ?暫く写真館お休みにして、お家でゆっくりしててくんね?おねがい、頼むまじで」
「え、あ、で、でもお客さんきたら、」
「張り紙はっときゃいいでしょうがあ!!それか近所のスピーカーおばさんに言えばすぐ広まるっての!!」
「え、えええ…」

益子の勢いが凄すぎて、妊娠した葵さん本人の感動を噛みしめる時間がなさそうである。
益子もマジで頭がお花畑になっているようで、なかなかにアホなことを抜かしていた。

「だって対してこねーじゃん!!くるの葵目当ての脂下がったじじいばっかじゃん!!」
「あ、お前それが本音か!そんなことないもん!高田さんも横山さんも孫の写真現像にくるし、月見里さんだってお茶しに来るし!」
「三人じゃん!!何なら俺が代わりのバイト探してくっからさあ!!」

検査室の前で益子が葵さんに抱きついたまま駄々をこねる。僕と俊くんはなかなか終わらなさそうだなと思ったので備え付けのベンチに腰掛けながら二人でエコーの写真を見ていた。

わぁ、僕の息子かわいいなぁ。と俊くんも口元がニヤついているので同じことを思っているらしい。相変わらず口元だけで笑うとちょっと怖い。
そんなことを思っているとガラリと扉が開かれて、笑顔の新庄先生が顔を出した。
その表情に俊くんがビクリと肩を揺らしてビビるという珍しい状態になった。

「葵くん仕事お休みにしないとだめね、ゆっくり休むこと。あと益子くんはちょーーーーーっと僕とお話しようか。」
「あぇぇえ、あ、アッハイいやぁあははは」
「うんうんおめでとう。改めて僕から心得をたっぷりお話してあげますからねぇ。」

アーッ!!と情けない声を上げながら葵さんから引き剥がされて無理やり部屋に引きずり込まれていった。忙しい新庄先生が次の予定を入れてないあたりマジである。こっわ。
葵さんは呆れたように笑いながら手を降って見放していた。強い。

「飲んでたたんぽぽ茶と葉酸の飴あげるね。」
「あ、うん…ありがと。…まだ実感ないな。」
「てか益子の種強すぎるな。検査、大変だろうけど頑張ってね。」
「うん?うん、…」

頬を赤らめながらそっとお腹に触れる葵さんが可愛くて、思わずギュッと抱きつく。なんだか学がよく抱きついてくるのわかる気がする。好きっていうよりも、このキュンキュンする気持ちを相手にわかってもらうのに一番だからだろう。思わず葵さんに頬擦りすると、べしりと俊くんに頭を叩かれた。嫉妬するなよぉ!いいだろぉべつにい!

「益子おいてかえろ!葵さんのお店がお休みする準備しなきゃ。」
「ん、そうだね…しばらくおやすみかな。」

葵さんも踏ん切りが付いたようで困ったように笑う。益子はしばらく時間がかかるだろうし、益子のSNSに葵さん連れて先帰ると連絡を送ると、俊くんがスマホで連絡をとる。

今日も例にも漏れず高杉くんである。3人で駐車場に出ると、黒塗りの高級車の横でまっていた高杉くんの正装に、葵さんはたじたじだ。
そういえばはじめましてだっけか。

「この人僕に返せない恩義がある高杉くんです!」
「やらかしたせいで首輪嵌められた高杉。」
「あ、や、まあ何も間違ってはないんだけど…もちっと普通の紹介してほしいなあ。」

もはや冗談まじりもさまになってきている。葵さんはなんとなく益子から聞いてたみたいだったけど、流石は大人だ。僕達の間に禍根がないことがわかると、よろしく。と握手をした。

「この人益子の番の葵さん!妊娠したから丁重にお送りして。」
「え、益子パパになったの?やば。おめでと。」
「その益子はおいて帰るけどな。」
「…?なんかよくわかんないけど、わかった。」

高杉くんが開けてくれた後部座席に葵さんと僕が乗り込むと、俊くんが助手席に座る。そのままいつも通り高杉くんのお上手な運転で車は写真館に向かって走り出す。葵さんに、こんなに運転上手いのに後ろに若葉マークついてるんだぜとこっそりというと、小さく吹き出して笑っていた。わかる。手練みたいだもんね。でも免許取って一年立ってないってことはそういうことである。

「悠也が帰ってきたら話すよ、なんか背中押されちゃったな。」

そう言ってお腹を撫でる葵さんが微笑む。いつになく柔らかい雰囲気を身に纏い、マジでこんな美人が益子の番とはもったいないのではとちょっとだけ思った。
いや、見た目的には益子も顔がいいしお似合いなんだけど、なにせ益子がばかなのだ。甘納豆乳首だし。

「大丈夫だよ、益子は葵さんにぞっこんらぶですから。」
「ぞっこんラブかぁ。」

僕達の会話を聞いて、助手席にいる俊くんが吹き出した。後で理由を聞いたら、僕の言葉が葵さんに感染ったのが面白かったらしい。
ぞっこんラブとかあんな顔して言うんだなと思ったらギャップがすごくてつい。と高杉くんまで言うもんだから、葵さんが照れていた。
そういや益子にいわれてた気がする。頼むから葵に変な言葉を教えるなと。

別に変な言葉を教えてるつもりは微塵もないので心外である。
後日益子から、葵の語彙がどんどん変になってくのはお前のせいかと割とまじで怒られた。解せぬ。


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