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2章

似合いすぎててむかつく

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「ねぇ、マジ田辺ってだれ?僕知ってる?」
「知らねえんじゃね?多分2年でなら田辺より隣の青木のが有名だぞ。」
「サッカー部期待のエースだからなあ。」
「へぇ、青木くん頑張ってんだなぁ。」

ぞろぞろと下駄箱まで行くと、校門の方には既に見慣れない車が止まっていた。きいちはくるりと3人に向き直ると、お迎え来たからあれ乗って帰ると前方を指差す。3人も迎えが来ることを知っていたので、おうじゃあな!と仲良く揃ってばいばいした。

わざわざこの程度の距離で過保護ではとも思ったが、知り合いじゃない人から馴れ馴れしく絡まれるなら、お願いしてよかったかもしれない。
しかしあの三人組はやはり目立つ。1、2年から人気なのか。やはり男らしい体に羨望の眼差しを受けていた。
さすがだなぁと、自分のことを棚に上げて間の抜けた事を考えるのは安定である。

中島さんは、今日は普通の乗用車出来ていたらしい。スモークは掛かっているが、いやまて、普通ではないな。これも外車か。
きいちは引きつりそうになる笑みを堪えながら、コンコンと窓をノックした。

「こんちー‥えっ!」
「よっ、お迎えに上がりました。」
「高杉くん車の免許とったの!?!?」

スモークのかかった窓が下がり、顔を出したのは中島ではなかった。
まさかの高杉が登場するなどと思っておらず、素っ頓狂な声を上げてしまう。
なんで、どうしてと疑問が湧き出て混乱しているきいちをみて、高杉は衒いなく答える。

「そうそう、ちなみにバイトで運転手してる。」
「バイトで!?」

俊さんに運転手やれって言われてね。と楽しそうに笑う。絶対に裏切れないよねという言葉とともに、高杉の顔は指示を受けた日のことを思い出すように目を細めた。

きいちに乱暴をしたこともある高杉を、あえて運転手にしたのは目の届く範囲に置くためだ。話は収まっても、言外に許してはいないということがひしひしと伝わってくる番のやりように、少しだけ頭を痛める。乗り込んだ車は流石の外車でひどく座り心地が良く、高杉は相当運転の練習をしたのか、発進もスムーズでなれた手付きでハンドルをさばいていた。

「ごめんねぇ、断っても良かったのに‥」
「いや、寧ろ俺が聞き返した。ほんとにいいのかって。そしたらさ、」

ーきいちに返せないでかい借りがあるなら、絶対にお前は逆らえねぇだろ。

「だって言われてさ。時給いいし、それになにかあったら俊さんに任せるって言われてっから。」
「ほへぇ…なんか上司?」
「上司だね。赦すって、こういうことなんだなって改めて学んだ。」

赦す代わりに裏切るな、俊くんは赦す代わりに高杉の会社に太いパイプを繋ぎ、貿易を営む高杉の会社と提携し、国際的な運輸輸送業務への特殊警備や警備車両の手配、通関の手続きなどを行う専門の部署を作ることにしたという。どんどん手広くやっていくその手腕は、流石といったところだ。

「うちの会社もメリットでけぇよ。貿易船とかは海賊の警戒もしなきゃ行けないし、検問もある。警備の部分をプロに担ってもらえるのは正直ありがたいって親父ものりのりでさ。」
「じゃあ、高杉くんは運転手兼パイプ役?」
「おう、まだ勉強しなきゃいけないこと多いしな。やること多すぎて頭爆発しそうだけど、やりがいはあるよ。」

なんだかすごい世界だなと思う。俊くんも高杉くんも、益子も。きいちをおいてどんどん先に進んでいく。なんだかそれはとっても素敵なことなのに、少しだけ寂しい気もした。

「今は正親さんの秘書の千代さんについてまわって勉強してる。一通り終わったら一回親父の会社戻るけど、所属は俊さんとこになるのかな。」
「え、お父さんの会社継がなくていいの?」
「出来のいいやつは多いんだ。俺は俺にしかやれないことをしろって。後進は育てるから、好きなようにやってみろって言われた。」

嬉しそうにそう言うと、特に信号に捕まることもなくスーパーについた。こんな高級車でスーパーに向かわせるのは気が引けたが、高杉くんが笑って車の後ろを見せてくれた。

「俺なんか、高級車に若葉マークだぜ?こっちのが最高に面白いだろ。」

むしろ親しみ持ってもらおうぜ?といたずらっぽく笑う様子に、やっぱりこっちの高杉くんのほうがいいなと思った。
スーパーにつくと、スリーピーススーツに白手袋の高杉くんがかごを持ってくれる。なんだこのバトラー、贅沢すぎるだろうと思って固辞しようとしたのだが、意地悪に笑われて結局かごは持たせてくれなかった。

頼まれたりんごやらポカリやらをポイポイとかごに入れていく。俊くんが使っているプロテインもかごに入れると、レジに向かった。

執事のような姿のイケメンを連れて歩くきいちは、完全に浮いていた。
高杉や俊くんを連れて入店すると、途端に集客が増えるので、後にスーパー麗人タイムと言う名でタイムセールが行われるようになるのだが、それを知るのはもっと先のことである。

「益子熱出したんだ。バカは風邪引かないってのは嘘なんだな。」
「それ、バカは風邪引いても気づかないってことらしいよ。」
「へぇ、一つ勉強になったわ。」

会計を済ませてから、他愛のない話をして車に戻ると、これまた嫌味っぽくドアを開く高杉くんに、渋い顔をした。周りの注目を集めないうちに慌てて乗り込むと、面白そうに笑いを噛み殺す様子を見ていい性格してるわとぶすくれる。

「そういえば、青木くんとあの後どうしたの?」
「べ、つになんもどうってこともないっすね!」
「おっとなんだその動揺、地雷かぁ?」
「おい辞めろ不良妊婦、手元が狂ったらどうしてくれる!」
「安全運転おねがいします!!」

手元が狂うのは困るが、それほどの何かはあったんだと、今度はきいちがニヤつく番だった。
じわりと耳を赤らめた様子に、くふくふ笑う。
なんにせよ彼も幸せになるならそれでいいのだ。知らんけど、高杉くんは教えてくれなさそうなので今度青木くんのところに突撃しようと心に決めた。
人の恋路は大好きだ。

「ったく、ついた。帰るとき電話してくれ、駐車場にいるから。」
「はぁい。」

高杉をからかっているうちに、車はスムーズに駐車を終えた。車を降りた高杉がきいち側の扉を開く。降りるときに手を貸してやれば、そのまま荷物を持って葵が住むマンションのエントランスまで一緒に来た。

「ここでいいよ、何から何までありがと。」
「エレベーターつかえよ、階段はだめだぞ。」
「俊くんみたいな事言う!」
「俊さん怖いし、怒られたくないからな!」

本音はそっちかい、と思いつつも助かったことには変わりない。きいちはよいせと買った物を持つと、高杉に見送られながらたった2階までの距離にエレベーターを使う羽目になった。  

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