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2章

浮かれるのも程々に

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「うん、わかる?このちっさいやつ。これが男性器、おちんちんだねぇ。」
「おぉ…ちっさい…」

お腹にエコーを当ててもらいながら、俊くんが画面を覗き込む。どうやら僕らの赤ちゃんは男の子らしい。男の子、男の子かぁ。俊くんに似たらさぞやイケメンになるのだろう。

「息子か…、名前どんなのにしようかな。」
「ねー、名付けしたことないからどうしよう。」
「本でも買うか。」
「晃くんのときは、名前が降ってきたって言ってたよ。」

新庄先生は検診を終えると簡単に僕のお腹を拭ってくれた。よいせ、と起き上がる僕の背中を支えながら、そういえば。と俊くんが口を開いた。

「名前の由来とか全然気にしたことなかったな。」
「ぼくも。降ってきたってことはないんじゃね?僕の子も産まれたら湧いてくるのかなぁ。」

よしよしと腹を撫でながら立ち上がる。
器具をかたした先生が、思い出したように振り向くと、満面の笑みで補足してくれた。

「オメガの妊娠六ヶ月は、女性でいうと8ヶ月くらいだからね、そろそろかもねぇ。」
「そろそろ?」

体重も順調に増えていた。適正体重になるまでまだ4キロ程足りないが、二月あるから多分大丈夫だろう。もしかしてまた体重のことを言われるのかと構えていたら、全然想像もしてなかった方向で衝撃発言をさらりと言われた。

「えぇ、きいちくん妊夫なんだからわかってないと!乳腺が発達してきて母乳出てくるかもしれないから、夏前にタンクトップ買っといたほうがいいよ。」
「ひぇ。」
「ぶふぉっ!」

僕よりも隣りにいた俊くんのほうが動揺して盛大に吹いた。先生はキョトンとした顔で見つめてくるけど、思春期男子の目の前で母乳発言はナシの方向で頼みますがな!!
ああー、母乳、母乳ね!!そういえば最近ずっとむずむずはしていたわ!!
僕と俊くんがなんとも不自然でぎこちない感じで話を流そうとすると、更に先生は追い打ちをかけてきた。

「ちなみにセックスもゴムつけてたらしてもいいからね。だけどするなら胸は刺激したらだめね。子宮収縮につながるから、オーケー?」
「ばっっっ、」
「せせせせ、せんせいなにをきゅうに」

俊くんがもはや動揺振り切りすぎて真顔になっている!!先生絶対遊んでるでしょ、ほらぁあ、口元がによによしてるよ!!しどろもどろな俊くんがレアすぎて二度見してしまったのは許してほしい。

「まあ、普通に妊夫がしてくる相談をきいちくんがしてこないからさ。一応頭に入れておいてね?」
「うう、あい…」

みんなアクティブすぎやしませんか!?普通に男女関係なく妊娠中の行為についての相談はままあるらしい。だけどなんとなく絵面がやばそうである。俊くんには申し訳ないけどもうすこしソロプレイをしてもらいたい。

「ていうかひとまず母乳対策か。なんか、乳あてみたいなの売ってんすか?」
「ちちあて!!!!!ぶっふぉ!!!!!やばいねきいちくん、俊くんって実はめちゃくちゃ面白い子でしょう!!」
「いつもだいたいこんな感じですよ。」
「…とりあえず、タンクトップのやつ買いに行こう。」

だははと笑う新庄先生を気恥ずかしそうに見たあと、さっそくスマホで検索しだすあたり仕事が早い。先生がデザインは少ないが売店でも売ってるよと言ってきたので、今日はそこによって帰ることにした。

「俊くんがえらんでよ、ちちあて。」
「お前ちょっとだまれ、…グレーとかいいんじゃないか。染みたらエロそう。」
「俊くんこそ黙ろうか!?」

なんだか俊くんがうかれていて面白い。先生からもらったエコーの立体的な写真では、僕らの赤ちゃんが体育座りをするようなポーズで眠っていた。肌色で、目も口も鼻も形がわかる。胎児の写真を時折見てはトレーナーの胸ポケットに締まっている。まだその写真は僕の手元には帰ってこなさそうである。別にいいけどすでに親ばかの片鱗を感じるぞ…。
結局白とグレーのシンプルなものを購入することにした。
乳首が少しだけ膨らんでしまったので、カットソーを素肌で着るとわかってしまうのだ。なので俊くんに隠れて絆創膏で貼っていたのだが、今後はその心配もなさそうで何より。

「帰り飯食ってくか?」
「んー、ならテイクアウトしてお家で食べよ。久しぶりにうまか屋のお弁当食べたい。」
「おっけ、俺鶏南蛮にしよ。」
「僕かに玉にしよーっと。」

ということで今からファミレスによるよりもいいだろうと、晩ごはんは俊くんが引っ越したときに正親さんから差し入れられたお弁当屋さんで買ってかえることにした。
車載せてもらったし、中島さんの分も買っておこう。何が好きかわかんないけど、唐揚げ弁当は嫌いな人いないだろうからそれにする。

駐車場につくと、何故かまだ中島さんがいた。もしかしないでもずっと待っていたのだろうか。
僕たちに気づくと、にこにこしながら手をふってきたので、ペコリと頭を下げる。

「ごめんなさい!まさか待っててもらってるなんて!」
「いいんですよ!ところで、どちらでしたか?」
「息子だ。見ろ中島、やばい。」
「坊ちゃん語彙力どこにやったんです?」
「あははは…」

俊くんがドヤ顔でエコー写真を見せてくるのを、ぽかんとした顔で見つめた中島さんは、ハッと我に返ってそっと写真を受け取る。わかるよぉ、急にアホになったもんねぇ。

「これが目で、鼻、口。可愛いだろ。」
「ウンウン、お顔立ちがはっきりされてらっしゃる。俺の猿みたいな脳味噌でも、言われなくてもわかる写真ですわ。」
「ああ、やばい。うちの子は可愛い。」
「し、俊くんがやべえ。」

今更ながらにオカンの言っていた言葉を思い出す。子供ができてたらアルファはさらにアホになると。
吉信だけだろうと思っていたのに、まさかこんな具合に仕上がるとは。侮れんアルファの血筋…正親さんもこんな感じだったんだろうか。

写真を持ってる俊くんは、語尾に可愛いがつくデバフがつくということがわかったので、ぺいっと取り上げて手帳にしまう。発行してもらった母子手帳には、今までの成長がわかるように写真が挟んであるのだ。

「俺もそれほしいな。」
「妊娠しなきゃもらえませーん。」
「え、まじで坊っちゃんどうしたんすか。」
「こじらせちゃっただけだから気にしないでください。」

その後そわそわする俊くんに母子手帳を渡すと、にっこり笑って中島さんの車の後部座席で大人しくなった。別にいいのだが、こんな満面の笑みを見たことがなかったのだろう、中島さんの衝撃は強かったようで、坊っちゃんの笑顔とか、俺今日しぬのかなとか言っていたので、頼むから安全運転をお願いしたい。

途中寄ったうまか屋で目的のものを買っているときでも、顔馴染みとなった店主に見せては喜んでいる俊くんのおかげで、おまけとしてコロッケまでもらった。 
すごい、店主のお婆ちゃんも嬉しそうな顔の俊くんにめろめろである。おまけにだし巻き卵までもが付きそうになって、あわてて余分な金額を支払って購入する。

中島さんと僕達の分のお弁当を受け取ると、食べやすいようにコロッケは個別包装してくれた。赤ちゃん産まれたら見せに来てねぇ、という言葉に照れながら頷くと、これもくださいとご機嫌で追加のメンチカツを買っていた。

「なんていうか、随分珍しいもんを見られた気がします。」
「あ、あははは…」
「とんかつも買おうかきいち。」
「そんな食べられないでしょうがっ!」

嬉しいのはわかるけれどほどほどにねぇ!
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