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2章

そういうことは早く言え!

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あれから諸々買い足して、忽那さんとおそろいの紙袋を下げながら、俊くんも靴がほしいとのことで皆で移動中だ。
男心をくすぐるアウトドアブランドや、老舗メーカーの時計を取り扱うセレクトショップに入ると、周りは大学生や社会人など、僕らよりも大人な人が多くて少しだけ物怖じした。

忽那さんと僕で店内の敷居の高そうな雰囲気にカチンとかたまっていると、益子も俊くんも慣れた様子で店内を見て回る。というか、あの二人馴染んでるな。高校生なのにそんなふうにみえないぞ!?

僕の足を優しく包むカーペットの感触を感じながら、なんとなく気になったアウトドア系のアイテムが陳列されているブースに向かう。
忽那さんも置いてかないでと言わんばかりについてくると、僕の腕に縋るように腕を絡めながらくっついてくる。

「いいなぁ、キャンプ。このファイヤーピットとか2万超えてる。たけぇー‥」
「焚き火台に2万…薪とレンガでよくない?」
「わかるぅ…」

ぽしょぽしょとしゃべりながら物珍しいアイテムを見ていると、キャンプ飯とかかれたレシピ本が置いてあった。ミックススパイスや缶詰を使った料理や、飯盒で米を炊く秘訣など、楽しそうな内容が写真付きで紹介されていた。
隣にはキャンプやグランピングの紹介ページが幅を利かせる雑誌が広げられ、ガーラントが飾られたポップな色合いのサーカステントのようなものが設営された写真には、キャンプ好きな人たちが行った結婚式が紹介されていた。

「あれ。」

パラパラとページを捲っていると、アウトドアブランドと老舗ブランドのコラボ時計をつけたモデルのページで手が止まる。
忽那さんが首を傾げながらその時計のページの端に書いてある金額を見て、素っ頓狂な声を上げて驚いた。

「よ、よよ、よんじゅっ…」
「うわ高ぁ!こんな時計とか誰がするんだろ…」
「ゆ、ゆうや」
「ん?」

わなわなしながら、忽那さんが突然益子の名前を呼ぶ。益子なら俊くんと一緒にいたはずと目線で探そうとしたときだった。

「こ、これ…悠也がしてる…」
「…えっ!?」

この40万を!?慌てて雑誌のページをまじまじと見て、値段を確認する。たしかに4万ではなく40万で間違いないようだった。そして何よりも僕が更に驚いたのが、Photoと書かれた横に益子の名前がローマ字で書かれていたことだった。

「いつのまに!?」
「ああ、スタジオいってるから…でもまさかこの雑誌の撮影まで任されるとは…」

そういえば早く卒業してクレジットカードがほしいとか言っていた。それってもしや現金持ち歩くのがめんどくさいからだろうか。なんだか知らないうちに同級生がえらいことになっている。

「きいち、」
「しゅ、しししししゅんく…」
「ああ、それな。」

まるで知らなかったのかといった具合に片眉を上げると、俊くんの指が次のページをめくった。
そこにも、見事な腹筋を晒した男性モデルが防水性をアピールするかのように片手にサンダルを持って濡れた髪をかきあげながら湖沿いを歩くシーンが写されており、次のページには口元を手で隠して目元のみを見せながら、手首につけたその時計を見せつけるシーンが撮影されていた。
なんとも力を入れた商品のようで、4ページ分その商品のことが紹介されていた。

「そういえば突然山行ってくるとか言ってたわ…」
「地方でやったからな。」
「へぇ、こんなおっきな湖あるんだ…」
「藪蚊が凄かった。虫除してたけど、もうやりたくねぇ。」
「ふぅん…」

ん?と疑問を持つ。なんで俊くんがそんなことしってるんだ。ぽかんとして見上げると、首を傾げられる。かわいい。ちがうちがう、そうじゃない。

「なんで?俊くんも一緒にいったの?」
「ん?おう。用事あるっつって一緒に帰らなかった日に、日帰りで。」
「き、きいちくん。あれ。」

くんっ、と忽那さんが僕の手を引っ張って指差した先には、雑誌に乗っている時計の撮影のオフショットが流れていた。
なんだか見覚えのある声と背中が、デニムに上半品裸という姿で現れる。ポカーンとしてその映像を見ていると、カメラを首からさげた益子が肩を組んで撮影されていると合図を送った。
くるりとカメラの方向にモデルが振り向くと、益子と二人でのんきにピースをする俊くんが映っていた。

「なんでぇ!?!?」
「モデルが来れなくなって益子に頼まれて駆り出された。」
「言ってよ!?」
「言うタイミングなくてな。」

あっけらかんとした顔でどうどうとのたまわれる。慌てて周りを見ると、二人だと気づいた店員さんがキラキラした目で見つめてくる。流石に注目を浴びるような行動を起こすことはしていないけど、周りが俊くんと益子に気づくのも時間の問題な気がする。
なんとなくマタニティーマークを握って隠そうとすると、ムスッとした顔の俊くんが手を絡めてきてそれを止めた。

「別に周りの目なんてどうだっていいだろ。」
「で、ですよねぇ…」

益子もひょこひょこと忽那さんに近づくと、腰を抱いてどこかへ連れて行った。買おうとしている靴を選んでもらう為らしい。
俊くんはもう選び終えたらしく、赤いスニーカーにしたとのこと。値段は怖いので聞いてはいない。

益子が忽那さんに選んでもらったスニーカー片手にレジに向かうと、忽那さんに現金を渡して忽那さんがカードで決済をしていた。なんだか少し照れくさそうにしていた。二人分のポイントをためて、家具でも買おうかとか言っていたので、いつ貯まるんだよとからかってたけど冗談じゃないかもしれん。

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