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2章

これが噂のダブルデート

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「バカバカ!!悠也の猪!!機関車男!!ばぁあか!!」
「葵はいいこすぎて悪口の語彙が少ないかわいい。」
「あ、葵さんおちついて…」

なんで葵さんが冒頭から怒っているかというと、話は少し前に遡る。

春休み初日に、街でばったり出くわしたのは益子と忽那さんだった。俊くんが反対側のジェラート屋さんのベンチに座っている姿を見つけなければ、まったくきづかなかったであろう。

「よっ!」
「うわっ、なに?すげぇ偶然。二人もデート?」
「そんな感じ、何くってんの?」
「ジェラート食いてぇって葵が言っててさ。」
「男一人だとなんとなく行きづらくてね…たべる?」

パッションフルーツ味だよ、とオレンジ色のジェラートを差し出してくる忽那さんの今日の格好は、生成り色のシンプルなチュニックに細いデニムを合わせたシンプルなものだ。益子のものだろうカーキ色のブルゾンを肩にかけているのは、たぶん牽制だろう。

「えっ、食べるぅ!」
「どうぞどう、ぞ…」

パクンとオレンジ色のそれを食べると、普段選ばないその味は爽やかで僕の好みだった。体が冷えるからアイスとかはなるべく食べないようにしているんだけど、忽那さんが食べたかったというその味が気になったのだ。お料理上手な忽那さんのお墨付きのそれは、たしかにお口の中がハッピーになるお味だった。

もごもごと味わっていると、驚いたような、口元だけゆるく笑っているような不思議な表情で顔を上げた忽那さんが、震える指先で指した方向は俊くんが持つ僕のバックだった。

「そ、それ…あ、あのあ、あのもも、もしっ」
「おー!学校の鞄についてんのとちげぇやつだ。なにこれかわい。」

ブルーのリボンが結ばれたマタニティーマークをもにもにと揉む益子の顔を、バッと見た忽那さんが大きな声で言った。

「俺何も聞いてない!!!!」
「あ、言うの忘れてたわ。」

そしてその結果が冒頭である。

益子の報連相は全てにおいて事後報告らしく、常々頭の痛い思いをしていたという。忽那さんが益子に可愛らしい語彙力で散々罵ったあと、益子を追い出して僕をベンチに座らせると、ギュッと抱きついてお祝いしてくれた。

「あぁ、っおめでとうきいちくん!はぁあ…体が大切にしてね?お腹触ってもいい?」
「わはは、僕のお腹大人気だなぁ、どーぞどーぞ。」
「…嫁が可愛い。」
「俊くん最近変じゃね?」

仏のような顔で見つめてくる俊くんはほっておいて、僕の下腹を触る忽那さんの綺麗な顔を見る。益子の番の忽那さんはまじで美人である。そういえば寄った勢いとはいえ、ちゅうをした仲だ。それ以来の久しぶりで、不意打ちで思い出すとちょっとだけ照れた。

「え、どしたのきいちくん、」
「そういえばちゅうした以来だなって」
「あー‥え、う、うん…」

お互い分かりやすく照れながらその節はどうも…なんて頭悪い挨拶をした。

「予定日は?」
「8月の後半かなぁ、9月になるかも。」

多分間違ってなければ1月あたりにはもうできてた可能性がたかいのだ。もしかするとクリスマスでしっぽりしてしまったときのベイビーな気がしないでもない。そんなことを思いながら、忽那さんに耳打ちをした。

「多分あのときの可能性がたかいんですよねぇ」
「あのときって…クリスマスの?」
「もしそうなら予定日は9月頭か8月後半…」

忽那さんは妊娠の兆候とかないんですか?と聞くと、悪阻も何もなく太った感じもしないらしい。番になってもすぐに妊娠するかは人それぞれなのかな。

「妊娠してからすぐ悪阻きたの?」
「悪阻ってか、貧血で吐き気もあったから、いまいちわかんないんだよねぇ…」

思えば体調が悪い日もあったのだ。もはやどこのタイミングで妊娠したのかはいまいち覚えていない。
なるほどなぁ、と忽那さんと二人でまったりしていると、そわそわした益子が会話に入ってきた。

「お前らこのあとなにすんの?」
「きいちの服買いに行く買って話してた。」
「そー!メンズマタニティーてきな」

ユニセックスでもオッケー、と言うと、二人も服を見に行くのだという。なら目的同じなら一緒にいくかとまさかのダブルデートに発展、よいせと立ち上がった忽那さんが着ている服が気になって見ていると、同じブランドに連れてってくれるということになった。

「僕もそういうの似合う男になりたい。」
「チュニック?なんか悠也からは遊牧民みたいだねって褒めてんのかわなんないこと言われたけど。俺は好きなんだよねぇ。」
「遊牧民!!せめてシンプルなエスニックと言え!」
「確かに、そっちのがまだ受け入れやすいな。」

俊くんと益子、僕と忽那さんでくっついて歩きながら、近くのモールにつく。並木道沿いにしゃれた石畳が広がるそこは、デートスポットにはもってこい。大きな敷地には休憩用のベンチやスイーツのワゴン、時間が来ると吹き上げる噴水なんかもある。

浜辺以外に生えているヤシの木に衝撃を受けたこともあるくらい、緑に囲まれた海沿いのリゾート地をイメージしたような敷地内には、高級ブティックから安価なショップまで区画が別れて広がっている。

「マタニティーショップでもいく?」
「んー、除くだけ覗いてみようかなぁ…」
「ん、ならこっちだな。」
「先読みすげぇな俊くん‥」

俊くんが事前に調べておいたらしい、ショップのある区画へと向かう。僕と忽那さんは互いの腕にくっつきながら、番そっちのけで寄り道をはさみつつお店へつくと、女性用のマタニティーウェアの他に、男性用だと思われるブースがあった。
腹巻きと一体型のボクサー形の下着や、授乳しやすいように作られたスリット入りのパジャマ、細身のスキニーは、ウエストが楽なようにゴムになっていたりと実に多様的だ。

何故か益子も俊くんも、スリット入りのパジャマのまえで止まっているが、まだ僕にそれは早い気がする。忽那さんは呆れたように二人をみながら、邪な事考えてる匂いがする。と言っていた。

「あ。これ生地気持ちぃ。」

僕が手にとったのは生成りの大きめのシャツで、普通にカジュアルでもきれそうなやつだった。忽那さんがリブ編みの裾にスリットの入ったレギンスパンツを持ってきてくれて、それに合わせるとなかなかにおしゃれである。お値段的にもだいぶ手頃なので、これはキープということにしよう。

「そのレギンスパンツかわいいな、俺もおそろいにしていい?」
「僕は黒にする!忽那さんカーキ可愛いよ、オソロの色違い!」
「カーキ、あっ、いい。着てみよ。」
「ならシャツもオソロする?」
「んー、なら俺はストライプの方にしよ。」

鏡に合わせながら欲しい物を決めると、ウキウキしながら試着質に入る忽那さんを見送る。僕も忽那さん戻ってきたら試着しようかなと思っていると、店員さんが椅子を持ってきてくれた。

「あわわ…ありがとうございます…」

実にスマートで恐縮する。ニコッと微笑むと、ささっと忍びのように引っ込んだ。接客されなれてないのもあるけど空気の読み方がすごい。思わず関心していると、俊くんがさっきのパジャマ片手に戻ってきた。

「え、それかうの?まだ授乳しないのに?」
「念の為な。洗替用に。」
「2枚も?いらないと思うけどなぁ。」

試着室から出てきた忽那さんが、俊くんの手に持っているパジャマをみてスンッとした顔をした気がする。益子も何故かホクホクしながら紙袋を持っていた。え?まさか益子も買ったの?気が早くね?

「ああ、嫌な予感しかしない…」
「ん?」

渋顔をして益子の紙袋を見る忽那さんの試着した服は、やっぱり似合っていた。
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