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2章
その心は
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「俺は葵の気持ちを優先してやりたいよ?でもさぁ、それが俺に隠れて我慢する前提とかなら話はちがくね?」
「あー‥」
益子はついに参考書の上に肘を付き、頬杖で頭を支えながら、少しだけ不服そうな顔をして言う。
「項噛む前は…俺の方が余裕なかったのに、今は葵の方がなんつーか、」
「甘えてくんないってこと?」
「んー‥、まあそうかな。」
ふむ、と考えた。僕は基本俊くんにベタぼれなので甘えまくっている。ということはこの案件は僕よりも適任がいるな、と考えた。まあ、何を隠そうおかんなのだが。
「ちょっちすまん。」
「お?おお…」
ととと、と部屋を出て数分、右手におかんの手を握りしめて戻ってくると、おかんにクッションを渡した。
「え?俺に勉強見ろって?無理だぞ。」
「ちっがう!益子の恋愛相談的な?」
「勉強は?」
益子もポカーンとしていたが、ようやく僕が何をしたいのか理解したようで、はっとしておかんの両手をガシリと掴んだ。
「ツンデレな嫁枠!!!!」
「はあ?」
まるで待ってましたと言わんばかりに目を輝かせている。ツンデレな嫁枠…まあたしかに。おかんも吉信に素直じゃないので、忽那さんの気持ちもわかるんじゃないかと思ったのだ。
べしりと益子の手を叩いてはずさせると、おかんに簡単な事情を話した。
「番ってから我慢させてるってことか?」
「と、思うんですよね。素直になってくれないってーか、本音を隠してるってーか。」
「年上だから気にしてんのかもね。むしろ僕はそこがお似合いだと思うけど。」
いつの間にかおかんも僕たちと一緒に小さいテーブルを囲んで淹れたお茶を飲んでいる。
机に置かれた主役だった筈の参考書達が恨めしそうにするなか、おかんはふと疑問に思ったことを口にする。
「そもそも、番制度はアルファ優位ってこと知ってんのか?」
「アルファ優位?」
何の話やと益子が首を傾げた。おいおいそこからか、オメガには常識でも、アルファは知らないやつが多い。多分意図的なものもあるんだろうけど、この話を聞いたら益子も忽那さんが遠慮する意味をわかると思うんだ。
「あのねぇ、僕らオメガは番契約したらそれに縛られるけど、アルファはちがうの。」
「え?つまり、どういうことだ?」
「アルファから一方的に解消出来るってこと。まあ、それをされると僕らオメガはかなり危険な状態になるわけだけど。」
益子がなんでそんな事するのか、という疑問に満ちた顔で見つめ返す。言ってる意味が理解できないのはやましいことがない証拠だ。
「アルファは選べる。番ったあとに、もし相手以上の存在ができたら?例えば女性。」
僕たちオメガは妊娠可能な男性体だ。だけど、本来それは女性の役目だった。
突然変異によって生まれた3つの性にはけして当てはまることはない女性という存在。アルファである高杉くんの父は女性と結婚した。
アルファはオメガか女性かを選べる。体も性も違うのに、同じ子宮を持つ。女性の役目を奪ったという目で見られることだってある。
男女でバランスが取れていた世の中に、突然割り込んできたのだ。今だってテレビやウエディングのCM、広告。人生の節目の隣に立つセオリーは女性だと植え付けるようなものが多い。
「こいつが俺のことをママって呼ばなくなったのは、そこだよ。」
おかんが目を細めると、隣りにいた僕の頭をワシワシと撫でる。そう、僕が小さい頃、きいちくんのママは男だからママじゃないと言われて大泣きしたのだ。産みの親はママ。その当たり前がオメガには許されなかったのだ。結局否定してきた子の親が叱ってくれたけど、僕の中でそれが小さな傷になった。
「僕はおかんがママって呼ばれるの好きだったの知ってるから、すげぇ悲しかった。」
「まあなぁ、同じく腹痛めて生んだのに、母親呼びは似つかわしくない、だもんな。」
「なんだそれ…、それってすげぇきついじゃん…」
「だからさ、忽那さんもそうなんじゃね?」
「え?」
きっと、別の選択肢があったはずの未来を潰したこと、アルファの普通が、僕たちにはわからない。
「…なんとなくわかった気がする。」
「現代文の読解力も伸びてたりしてな?」
「ふは、だといいけどな!」
僕と益子のあたまをがしがしと撫でると、おかんはおもむろに立ち上がった。
「益子くん昼飯食ってく?それとも忽那さんちに直行かな?」
「そっすね、ご相伴にあずかりたいとこなんすけど…。」
おかんは答えがわかってたと言わんばかりに小さくうなずくと、ポンポンと励ますように背中を叩く。
若いアルファが真剣に番のことで悩むのはいいことだと、口にこそ出さないが思っているにちがいない。益子の相談相手として、やっぱり間違いはなかった。
「ふふ、そうすっといい。オメガは寂しがりなくせに言わねーから。」
「なんだよ結局のろけてかえんの?僕叩き起こされただけじゃん。」
「へへ、すんません。きいち悪かったな!じゃあまた、学校で。」
「ほいほい、忽那さんによろしく!」
突然きて惚気のような相談をしたと思ったら、慌ただしく帰る。まるで突然くる台風のような奴だけど、憎めない。
番のことになると周りが見えなくなるのが欠点だけど、アルファなんてそんなもんだとおかんは笑っていた。
オメガもアルファも、互いが成長しあえる仲が大切だ。立ち止まったら、そこで休んでまた歩けばいい。足並みが揃ってきて、はじめて夫婦になる。時間が大切なのだと月見里さんも言っていた。
「忽那さんと益子くんなら大丈夫だろ。」
「僕もそう思う。というか、どっちかってっと益子のが忽那さんに必死ってかんじ。」
「お前も見る目あるな。」
「まーね!」
おかんはお昼でも作るかぁ、といってご機嫌で部屋をあとにした。
僕ももう少し頑張って勉強するかぁ、と珍しく真面目にテキストをてにとって気がついた。
「あいつ現代文のノート借りパクしていきやがった!!!!」
「あー‥」
益子はついに参考書の上に肘を付き、頬杖で頭を支えながら、少しだけ不服そうな顔をして言う。
「項噛む前は…俺の方が余裕なかったのに、今は葵の方がなんつーか、」
「甘えてくんないってこと?」
「んー‥、まあそうかな。」
ふむ、と考えた。僕は基本俊くんにベタぼれなので甘えまくっている。ということはこの案件は僕よりも適任がいるな、と考えた。まあ、何を隠そうおかんなのだが。
「ちょっちすまん。」
「お?おお…」
ととと、と部屋を出て数分、右手におかんの手を握りしめて戻ってくると、おかんにクッションを渡した。
「え?俺に勉強見ろって?無理だぞ。」
「ちっがう!益子の恋愛相談的な?」
「勉強は?」
益子もポカーンとしていたが、ようやく僕が何をしたいのか理解したようで、はっとしておかんの両手をガシリと掴んだ。
「ツンデレな嫁枠!!!!」
「はあ?」
まるで待ってましたと言わんばかりに目を輝かせている。ツンデレな嫁枠…まあたしかに。おかんも吉信に素直じゃないので、忽那さんの気持ちもわかるんじゃないかと思ったのだ。
べしりと益子の手を叩いてはずさせると、おかんに簡単な事情を話した。
「番ってから我慢させてるってことか?」
「と、思うんですよね。素直になってくれないってーか、本音を隠してるってーか。」
「年上だから気にしてんのかもね。むしろ僕はそこがお似合いだと思うけど。」
いつの間にかおかんも僕たちと一緒に小さいテーブルを囲んで淹れたお茶を飲んでいる。
机に置かれた主役だった筈の参考書達が恨めしそうにするなか、おかんはふと疑問に思ったことを口にする。
「そもそも、番制度はアルファ優位ってこと知ってんのか?」
「アルファ優位?」
何の話やと益子が首を傾げた。おいおいそこからか、オメガには常識でも、アルファは知らないやつが多い。多分意図的なものもあるんだろうけど、この話を聞いたら益子も忽那さんが遠慮する意味をわかると思うんだ。
「あのねぇ、僕らオメガは番契約したらそれに縛られるけど、アルファはちがうの。」
「え?つまり、どういうことだ?」
「アルファから一方的に解消出来るってこと。まあ、それをされると僕らオメガはかなり危険な状態になるわけだけど。」
益子がなんでそんな事するのか、という疑問に満ちた顔で見つめ返す。言ってる意味が理解できないのはやましいことがない証拠だ。
「アルファは選べる。番ったあとに、もし相手以上の存在ができたら?例えば女性。」
僕たちオメガは妊娠可能な男性体だ。だけど、本来それは女性の役目だった。
突然変異によって生まれた3つの性にはけして当てはまることはない女性という存在。アルファである高杉くんの父は女性と結婚した。
アルファはオメガか女性かを選べる。体も性も違うのに、同じ子宮を持つ。女性の役目を奪ったという目で見られることだってある。
男女でバランスが取れていた世の中に、突然割り込んできたのだ。今だってテレビやウエディングのCM、広告。人生の節目の隣に立つセオリーは女性だと植え付けるようなものが多い。
「こいつが俺のことをママって呼ばなくなったのは、そこだよ。」
おかんが目を細めると、隣りにいた僕の頭をワシワシと撫でる。そう、僕が小さい頃、きいちくんのママは男だからママじゃないと言われて大泣きしたのだ。産みの親はママ。その当たり前がオメガには許されなかったのだ。結局否定してきた子の親が叱ってくれたけど、僕の中でそれが小さな傷になった。
「僕はおかんがママって呼ばれるの好きだったの知ってるから、すげぇ悲しかった。」
「まあなぁ、同じく腹痛めて生んだのに、母親呼びは似つかわしくない、だもんな。」
「なんだそれ…、それってすげぇきついじゃん…」
「だからさ、忽那さんもそうなんじゃね?」
「え?」
きっと、別の選択肢があったはずの未来を潰したこと、アルファの普通が、僕たちにはわからない。
「…なんとなくわかった気がする。」
「現代文の読解力も伸びてたりしてな?」
「ふは、だといいけどな!」
僕と益子のあたまをがしがしと撫でると、おかんはおもむろに立ち上がった。
「益子くん昼飯食ってく?それとも忽那さんちに直行かな?」
「そっすね、ご相伴にあずかりたいとこなんすけど…。」
おかんは答えがわかってたと言わんばかりに小さくうなずくと、ポンポンと励ますように背中を叩く。
若いアルファが真剣に番のことで悩むのはいいことだと、口にこそ出さないが思っているにちがいない。益子の相談相手として、やっぱり間違いはなかった。
「ふふ、そうすっといい。オメガは寂しがりなくせに言わねーから。」
「なんだよ結局のろけてかえんの?僕叩き起こされただけじゃん。」
「へへ、すんません。きいち悪かったな!じゃあまた、学校で。」
「ほいほい、忽那さんによろしく!」
突然きて惚気のような相談をしたと思ったら、慌ただしく帰る。まるで突然くる台風のような奴だけど、憎めない。
番のことになると周りが見えなくなるのが欠点だけど、アルファなんてそんなもんだとおかんは笑っていた。
オメガもアルファも、互いが成長しあえる仲が大切だ。立ち止まったら、そこで休んでまた歩けばいい。足並みが揃ってきて、はじめて夫婦になる。時間が大切なのだと月見里さんも言っていた。
「忽那さんと益子くんなら大丈夫だろ。」
「僕もそう思う。というか、どっちかってっと益子のが忽那さんに必死ってかんじ。」
「お前も見る目あるな。」
「まーね!」
おかんはお昼でも作るかぁ、といってご機嫌で部屋をあとにした。
僕ももう少し頑張って勉強するかぁ、と珍しく真面目にテキストをてにとって気がついた。
「あいつ現代文のノート借りパクしていきやがった!!!!」
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