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2章

遅れてきたヒーロー

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冬休みも残すところ今日で終わりである。明日からまた学校が始まる為、流石に俊くん家にずっと泊まっているわけもいかず、諸々の準備で帰宅。あー、もう萎えである。僕の心は改めて始まる新学期が嫌すぎて駄々こねっぱなしでござる。

「おーおー、またぶすくれてよぉー、毎度のことなんだからもう諦めりゃーいいのに。」
「やだ。俊くんいない学校なんかになんの価値があるんだいっ。ああ、目眩くバラ色の日々が終わってしまうだなんて…うぅ、会いたいよぉ…」
「目眩く肉欲の日々の間違いでは?」
「おいやめろぉ!!」

オカンが洗濯物を干すのを手伝いながらブスくれる僕を馬鹿にするのもいつもの流れだ。あっという間の2週間である。俊くんとほとんど毎日くっついたりセックスしたりと確かに爛れた日常は過ごしていたのだが、番と離れたくないオメガにとっては至って普通のことだと新庄先生もいっていた。
むしろ僕がいなかったからオカンだって楽しんだに違いないのに。人のこと棚に上げるのはダメ絶対。

「首にキスマついてんぞ晃。」
「っ、」
「うそだっぴょん!」
「こンのくそがき!」
「ぎゃぁあっあだだだだっ!!」

ちょっとからかっただけなのに、すぐに拳で語るじゃん!というかやっぱやってたんか!!オカンの照れとともに耳を引っ張る力が比例して強くなるなんて反則だろぉ!!ひいい!

「はいはいそこまで。晃も許してあげなさい。首に付いてるのはないけど、背中になら沢山つけたよ。」
「見えないところにいっぱいかぁ。」
「そ、んなの言うなって毎回いってんだろうが!!」
「っだァァバカバカピアスとれちゃぅうう!!」

吉信のアホみたいなフォローのせいで本日も、オカンフルスロットルである。吉信に矛先が向いたのに被害を受けたのは僕の耳。解せぬ。

じんじんする耳を擦りながら、三学期つっても期末と進路相談とかですぐ2月だ。期末にむけてのテスト勉強の期間もタイトなので、しっかり授業で押さえとかないとちぬ。むしろまた勉強見てもらえべきかもしれん。

やだなぁ、そういえば三学期に転校生来るとか言ってたなぁ。どんな子なのだろうか。別に誰でもいいのだけど、仲良くできたらいいなぁ。初対面の印象に自信がない僕は、明日迎える三学期と、新たな仲間に少しだけどきどきしつつ、ベッドに入ったのであった。






久しぶりに入ったクラスでは、いつもどおりの面子が固まってがやがやしていた。朝から元気な野球部三人に、おはよーと返すと元気よくオァース!!と帰ってきて面白い。

「いや監督かよ!」
「益子もおはー。」
「ついでみたいに言う…」

三人組はなんだか少しだけ髪の毛が伸びていて、明日までにはまた剃るというのでレアな髪型を拝むことにする。なんだか髪の毛映えるだけで印象違いすぎて面白い。

「さ、さわってみるか。ほら」
「えっ、さわりたい。」

三浦くんが少しだけかがんでくれて、その5ミリほど伸びた髪の毛にそっと触る。こ、これは癖になる…!僕が無言で両手で頭を撫でくりまわしていると、吹田くんと木戸くんが三浦くんの横に並んでいた。

「これ流れに沿ってじょりじょりできるやつ…」
「おいもうちょっと、きいちが撫でやすいように頭の高さそろえろよ。」
「こんくらい?」
「木戸はもうちょい」

3人ともバラバラの背なので、一番高い三浦くんが膝に両手をついて高さを揃える。旗から見たらぼくが偉そうに見える。それでも3つ並んだ頭を流れるようにじょりじょりできるやつはなかなか体験出来ないので、抗えずにやるんだけど。
今度は反対側の木戸くんの頭に触ると、やっぱり毛質が違う。ふおお!!なんだこれたのしい!!

「あっ、すご…木戸くんの硬い。」
「お、おぅっ、ふ…」
「吹田くんの、すご、なにこれぇ…」
「あ、あざぁす!!」
「三浦くん…これすきぃ…」
「あっちょ、おほほほほ」

な、なんという気持ちよさ。思わずテンション高く撫でくりまわしていると、益子に頭をぶっ叩かれた。

「嫌らしい!!!純粋な思春期ジャリボーイを翫ぶな!!」
「あいてっ、毛質の話ししてただけなのに!?!?」

三者三様手触りが全然違うのだ。益子にも勧めてみたけど、なぜかお触りキャンペーンは終了したらしく、三人ともスンッとした真面目くさった顔をしていた。
なんだぁ、とすこし残念だったけど、今日のうちなら好きなだけ触っていいぞと言ってくれたので、また存分に堪能しようと思う。

先生が入室するギリギリに学が駆け込んできて、何か言いたげに僕の方を見たけど、結局席につけーという先生の声に押されるようにして自分の席についていた。ただ目線だけはしきりに僕の方に向けてくるので、なんだろうと首を傾げて見つめ返す。

「転校生、どんなやつだろ。」
「んー、可愛い子ならいーなぁ。」

益子が僕の席に寄りかかるようにして話しかけてくる。僕の後ろの席は開いてるので、座るとしたらここだろう。初めてで緊張するだろうし、優しくしてあげたい。

「またオメガだったらどうする?」
「自己管理できるやつならいいだろべつに。」

クスクスと添田と奈良が明らかに僕に聞こえるように言ってくる。それを聞いて何も思わないわけじゃないけど、忽那さんが言っていた、自分に自信を持つという言葉を思い出して無視をする。無意識に項を触れる癖はあるけど、ここに俊くんもいるのだ。大丈夫。

そう思えたら、なんだか俊くんの香りも感じ取れてきた。なんだっけこういうの。オキシトシン?かなんかだっけ。幸せ効果的な…

項に触れて、すこしだけ高まる胸に気づかない振りした。ガラリと引き戸が開く音と共に、先生に引き連れられて入室してきた生徒。
ふわりとした見に覚えのある香りを纏わせて、誘われるように顔をあげる、と、そこに、は

「え、」

まるで時間が止まったかのように、僕の口から落ちた母音がぽろりと机に溶ける。呆気にとられたのは僕だけではないようで、益子も見開いた目をそこにいるはずが無い生徒にむけていた。

スラリとした均整の取れた肢体に僕らと同じ制服を身に纏う。おろしたてのブレザーが似合ってなくて笑うところなんだろうけど、そんな余裕もなかった。

先生が何かを言って、大好きな声で端的に自己紹介される。

「桑原俊。よろしく。」
「ひ、ぅ…」

甘く溶けるような目で見つめられ、思わす甘い声が微かに漏れてしまう。小さく震えた僕にくすりと笑った俊くんが、僕のクラスに転校生としてやってきた。


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