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初詣デートは慌ただしい

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もくりと差し出されたチョコバナナに齧り付き、口の中に絶妙に広がる屋台ならではの味に舌鼓を打つ。

「ふわぁ、これだよこれ。これこそ僕の求めていた味!!」
「お前がそんなにチョコバナナ好きだとは思わなかったなぁ。」
「祭りになると食べたくならない?このカラースプレーとかみるだけでテンションあがるぅ。」

俊くんの手ずから食べさせてもらったというのもあるのだろう、僕たちは神社の参道に連なるようにして続く屋台のそばで、雪洞の明かりの下待ち合わせをしていた。
そう、初詣だ。先程忽那さんからメッセージが飛んできて、着物は免れたと捗るオジサンスタンプで喜びを表現していた。どうやら二人ももうついたらしく、チョコバナナの屋台の脇にいることだけ教えると、今行くという返事が帰ってきた。

「吉崎たちは?」
「もうついたってメッセージきたけど、吉崎が迷子になったって。」
「小学生か…」

なんと学が人混みに流されてので末永くんは確保でき次第合流するらしい。ひとまず益子達が来たら僕らも探そうがという話をしていたら、丁度学から電話が来た。

「チョコバナナ屋ありすぎてわかんねえ!どこ!」
「あー!末永くんが学が迷子になったって連絡きたよ!学こそいまどこ!」
「むしろあいつが迷子なんだけど!?」

学いわく、トイレに行くと一言添えたはずなのに、戻ってきたら末永が消えていたらしい。慌てて連絡をとるも話し中だったらしく、仕方がないので先に合流することにしたとのこと。学ぶに駐車場側の入り口付近のチョコバナナ屋だということを告げると、数分後に益子たちと揃って3人で現れた。

「俺が見た限りじゃチョコバナナ屋台5つあったぜ。」
「次はどこの屋台かきちんと言うね!」

人混みに揉まれてきたらしい三人が疲れ果てた顔で現れたのに若干の罪悪感。だってねぇ?まさか5つあるだなんて思わないじゃん。食べ差しのチョコバナナを近寄ってきた学に齧られたけど、末永くんはいいのか。

「いいなぁ、チョコバナナ。俺も食べようかな。」
「僕ももう一本買お。てかもっかい末永くんに電話かけてみ?」
「ええ、んとに、どーこいったんだあい、つ…」

忽那さんが隣でマイペースにチョコバナナを3本注文していると、神社のスピーカーから木琴の音と共に呼び出し案内が流れる。
こういうときってちょっと静かに聞いちゃうよねぇ。学もスピーカーを見上げて会話を止めた瞬間。

ー白のスニーカー、ジーンズに黄色のダウンをお召の17歳の吉崎学くんを、お連れ様が探しております。お見かけになった方がいらっしゃいましたら、お近くの係員までお伝え下さい。ー

そう、木琴の音と共に締め括られると、その場にいた全員の視線が学に向いた。ああ、末永くん、迷子放送かけちゃったのかぁ…、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げた学が、怒りにブルブルと震えている。これは特大地雷だな。電話してくればいいのにと呆れ顔になっていると、屋台のおじさんからチョコバナナを受け取った忽那さんが僕と学を見ながら言う。

「案内所すぐそこらしいし、どうせならみんなで末永くん迎えに行こ?」
「絶対にゆるさん…くそ…」
「ま、まあ…ほら、居場所わかったんだし行こうよ…」

益子と俊くんが相当ウケたのか口元を抑えてこらえているけどぜんぜんバレてるからね!学に蹴られたくなければキリキリ歩け!

俊くんと益子が前に、僕ら三人が後ろに続く。でかい男を壁にすると道が割れるので非常に歩きやすい。僕と忽那さんでぎゅうぎゅうに学を挟みながら歩いていると、目的の案内所が見えてきた。どうやら人混みに紛れてしまい、迷子になってしまった子は多いようである。ママー!と泣いている子をあやしている係の人は大変そうだ。

「む。」
「むじゃねえ!なんでフラフラしてんだまったく!」

なんと、末永くんでした。腕の中にはえぐえぐなく小さい子、もはやパパにしかみえない。どうやら迷子になった理由がこの子を案内所まで連れてきてたかららしい。学がもどってくるまでには間に合うはずが、大泣きのまま離してくれず、途方に暮れていたというのが真祖だ。

「あらぁ、ちっさい。君は誰とお祭りきたのかな?」
「おにいちゃぁ…!!うわぁぁん!」
「おっと、よしよし、男の子だろー?もう泣かないよぉ、お兄ちゃんたちが探してあげるからね。」

にこにこ顔で忽那さんが幼児の頭をなでた途端、末永くんはお役御免だと言わんばかりに全力で忽那さんの方に両手を伸ばしたその子は、代わりに抱き上げた忽那さんの首に抱きつくとえぐえぐと愚図る。
ぽんぽんとやさしく背中を叩いてあやす姿は様になっていて、親子にみえてくる。
益子がなんとも言えない顔をしているけど、これ多分項に近い位置に甘えてるから悶々としてるだけっぽい。

「よぉし!その人は兄ちゃんの番だから俺んとここい!おら、だっこしてやっから!」
「や!」
「おやぁ。拒否られてやぁんの、だっせ。」
「醜い嫉妬はやめろよ益子ぉ。」
「きぃいいおれのおっぱいを揉むんじゃねぇ!」
「俺におっぱいはありません。」

見事に切り捨てられた益子の言葉に、僕と俊くんがニヤニヤしながらからかう。よっぽど悔しかったのか奇声を上げていたが、対する忽那さんの表情は呆れた眼差しだ。そらそうよな、幼児相手に嫉妬すんなというのは僕も同じ気持ちである。
胸元の服を握っているとはいえ、年齢は4~5歳くらいだろうか。むすくれた顔で忽那さんの胸元を握っている。

「とにかくこの子のお兄ちゃん?を探すのが先決かぁ。お名前は?」
「よこみぞゆきお…」
「ゆきおくんかぁ。お兄ちゃんとどこではぐれちゃったのかな?」
「わたがしのおみせ…」

なるほど、お兄ちゃんと二人で来てたなら綿菓子屋の付近にいくか。放送したのかもきいてみたけど、どうやらゆきおくんがお名前を言えなかったので服の特徴しか言えなかったらしい。僕がもう一度お願いしようとすると、ゆきおくんがいやいやと首を振る。なにか訳ありそうで、その小さい頭を撫でると小声で理由を話し始めた。

「お兄ちゃんにおこられちゃぅう…」
「はぐれたこと?それなら僕たちからも言ってあげるよ。怒んないでくださいって。」
「ほんとぉ…?」

ぐすぐす泣く小さい子に僕と忽那さんはめろめろである。ふくふくとしたほっぺが柔らかくてつついて慰めると、ほっぺを真っ赤にしながら忽那さんの胸元に顔をうずめて照れる。はぁあかわいい!

「これが、母性…」
「はぁあかわいいいい」
「いやお前ら他人の子だからな!?」

なんだか考えていた学が、何かを思い出したようにはっとする。スマホを取り出してポチポチ操作したかと思うと、誰かに連絡を取り始めた。

「あぁ、僕もこんな可愛い弟がいたらなぁ…」
「ゆきおくん、チョコバナナたべるかな?俺のでよければお食べ。」
「あ、やっぱりか!!今案内所だから、そ。末永もいっしょ。」
「うん?」

末永君も益子もキョトンとした顔だ。俊くんはというと、くありとあくびをしながらマイペースに案内所で配られていた甘酒を飲んでいた。ゴーイングマイウェイだな!!
はぐはぐと口の周りをチョコまみれにしながらまくまくとチョコバナナを食べるゆきおくんのひとくちがめちゃくちゃちいさい。口の周りの汚れをもっていたティッシュで拭ってあげると、にぱっとお花が飛ぶように笑ってくれた。はぁあ尊い…忽那さんごと思わず抱きつくと、きゃーと高い声で楽しそうに笑う。

「あー、甘い。ちっさい子の甘い香りがするぅ…」
「ゆきおくん早くお兄ちゃん見つかるといいねぇ…」
「僕もっとお兄ちゃんたちといたぁい!」

僕たちに挟まれながら楽しそうにしているゆきおくんを、益子と俊くんが物凄い顔で見つめている。なんだその顔、やめなさい教育に悪いから!

「ゆきお!!!」

なんだかきいたことのある声で、焦ったような声色が名前を呼ぶ。その声に反応したゆきおくんが、キラキラした顔で振り向いた先、なんとそこには髪の毛を乱しながら駆け寄ってきた生徒会会計の横溝くんがいた。


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