なんだか泣きたくなってきた

だいきち

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学の恋

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がやがやと先頭の方が騒がしい。カメラを片手に降りてきた益子と合流した僕は、大衆に伴ってクラスに戻るのがなんとなく嫌で、二人で後ろの方を歩いていた。

「この後どうせ後片付けするだろうし、学の手伝いでもしようかなぁ…」
「お、ならデータ増田に渡して俺ものーころ。」
「いてらぁ」

僕の提案に便乗する形で益子がそそくさと撤収作業をしている増田ちゃんに撮影したカメラごと渡しに行く。僕はというと、出口付近で落ちていたレジュメ片手に生徒会のはけていった体育祭横の通路に向かう。レジュメの左上に柿畠と名前が書いてあったので、おそらくあの一年のものだろう。
タイムテーブルの横にこと細やかに言う順番やイレギュラーが起きた場合のメモが書かれていて、真面目な子なんだなと思った。

「学、いるー?」

体育館横の通路は控室と繋がっており、役員や委員長などはそこで総会前の確認をしたりする。ちなみになんでそんなこと知ってるかと言うと、女装コンテストの控室でもあったからだ。
なんだかしんと静まり返っている。少しだけ空いたドアの隙間から中を除くと、学がソファーに背を預けているのが見えたので、遠慮なくドアを開けた。

「おっつー、ねぇ柿畠くんのレジュメ落ちて…学?」
「…ああ、悪い…そこ置いといて…」

ソファーに身を預けた学の顔色は真っ白で、明らかに体調が悪そうだ。そういえば最近まで慌ただしくて寝られてないとか言っていたのを思い出す。頑張りすぎたんだろう。学らしいといえばらしいけど、倒れてちゃ元も子もないのである。

「大丈夫?他のみんなは?」
「ん…休んでくから先もどれっていった…」
「末永くんは?」
「今生徒会顧問に呼び出されてる…」

隣に座ると、そっと前髪を避けて額に触れる。熱があるみたいで、少しだけ体温が高い。気だるそうに吐息を漏らす学の姿が辛そうで、そのまま額に手の平で覆うように当てた。

「つめて、…」
「僕で良ければ保健室つれてくけど…たてる?」
「今は無理…」

ですよねぇ。そのまま学の体を膝に頭を乗せる形で横にさせる。益子には末永くん見かけたら学が体調不良だから休ませてから戻らせることと、保健室に付き添うことを言うように連絡しておいた。
具合悪そうな学をあやすように頭を撫でながら、着ていたカーディガンをかけてやる。くんくんと香りを嗅いでるけど、臭くないと信じてる。

「なんか、まえとぎゃくだ…」
「まえ、…あー、あれかぁ。たしかにぃー」
「お前の匂い…すき…」

多分高杉くんとのことを言ってんだろう、あれから円満解決?したと僕の中で思ってるけど、そういえば二人には言ってなかったなと思い返す。臭くなくてよかったけど、ちょっと照れる言い方だ。
気恥ずかしくてぽり…と頬をかきつつ、なんて返したらいいかわかんなかったので曖昧にうなずいておいた。

「俺、お前のことすきだったんだぜ…」
「えっ、今は嫌いとか言わないでよ!?」
「ちげぇ…ちゅーとか、したいほうの…」
「おぁ、…おう、うふふ…」

なんということだ、弱りきった学からまさかの告白である。だった、ということは過去の話だろうけど、益子の予測はあたっていたようだ。そんなことないと思っていた分、めちゃくちゃ恥ずかしい。嬉しいけど、照れのほうが大きい。

「ありがと…てことは、いまは好きな人は別?」
「ん…、すえながとちゅうした…」
「ちょっとまっっって。」
「てもつないだ…」
「ひょえっ…」

ビッグカップルじゃん!!!!!
学は熱っぽさでほわほわした様子でお口が緩くなっている。後から照れて助走つけて殴られる気がしてならない。その時は益子を盾にしよう。ほっぺに湿布つけてるけどもう一個くらい増えてもいいだろう。僕が許す。

「つ、付き合ってんの?」
「わかんね…告白とか、してねぇし…」
「末永くんがするべきだとおもうけどなぁ!?」
「は…、むり…」

僕もあの末永くんが告白するイメージがまったくない。お硬い雰囲気だし、キスとかするのか…無表情で?ちょっと想像し辛いなぁ。でもなんか、学が幸せそうならいいのだ。よしよしと頭をなでていたら、息が荒いことに気がついた。

「え、大丈夫?」
「むり…む、り」
「ええええ、ちょ、保健室にいこう!」

熱で朦朧としている学がぽろりと涙を流したのに慌てた。泣くとか思わないじゃん!そんなに辛いならなんでもっと早く言わないのこの子は!おろおろしたところでどうしようもない。幸い学の事を担いだ実績のある僕は、そのまま背中と膝裏に手を回して抱き上げると、ぐったりと縋り付いてくる様子もない。落とさないように肩にもたれ掛かるように抱き直すと、そのまま速歩きで保健室に向かう。

流石に、人一人担いで走れる自信はないので全速力の速歩きだ。極力揺らさないようにしているけど、階段とかの揺れは許してもらおう。

尻ポケットに入れてるスマホがさっきからぶるぶるしている。多分益子か末永くんだろうけど、すまんの両手塞がっておりましてな!!
学の顔は僕の首筋に埋まってるので、おそらく覗き込まない限りは見えないだろう。階段を降り、廊下を歩き抜けると出会した生徒に二度見をされるが背に腹は変えられん。さっきからぐずる学のおかげで僕のワイシャツびちゃびちゃ。着替は後で考えよう。
ようやく着いた保健室を、たまたま居合わせた生徒にあけてもらい、保健の先生を呼んでくるように言うと、元気な返事とともに走り去っていった。柴犬みたいな雰囲気の子だった。

「うぅ、やだ…」
「あ、あわわ…」

ベッドに寝かせ、未だぐじゅぐじゅ泣く学の様子のおかしさにピンときた。スンと首筋に鼻を寄せると少しだけフェロモンが漏れているような香りがする。こりゃヒートだ。もしかして初めてなのだろうか?腰にかけていたカーディガンをぺらりと捲ると、可哀想にびしょびしょに濡れていた。言わずもがなである。ヒートの時に揺らしてしまったから擦れた刺激で漏らしてしまったんだろう、薄いけど精液の匂いがした。

「やばい。これはまずい、なにがって学の尊厳的な意味でまずい!!」

慌ててドアに向かって鍵をかける。こんな姿を見られたら、プライドの高い学のメンタルがバキボキである。そういえば最近までずっと忙しくて今日は特段と体調が悪そうだった。下手なアルファが来たらそれもよろしくない、となれば今僕にできること。

「よし、とりあえず着替えよう!!!」
「うぅ、う、ふぐ…っ…」
「学のズボン脱がすよ!とりあえず拭こう、ね!」
「やだ、やだぁ…く、なさけね…」
「何いってんの!オメガだったら誰だってなるっての!ほれほれ!」

容赦なく抵抗のない学の服を剥いていく。絞った温かいタオルで手早くぬめりをとると、下着とスラックスを畳んでカーディガンを巻きつけておく。
ドアがガタンと音がなったタイミングで、外から益子と保健の先生、そして慌てた様子の末永くんの声がした。

「ちょ、なんでドアに鍵がかかってるの!?」
「きいちいるんだろ!鞄持ってきた!あけろって!」
「あいあいちょっとまっててね!!末永くんと益子は鼻つまんで後ろ下がってて!」

僕の声に何を言わんとしたのかわかったのか、益子が末永くんと共に壁際に下がったと声を張り上げた。保健室のドアを開けて先生だけ入れると、締めかけた隙間から末永くんが真っ青な顔でうろたえていた。

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