なんだか泣きたくなってきた

だいきち

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王様の采配

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 「部活の予算についてだが、基本各部所属部員の人数✕800円、前年の実績や備品管理状況に応じて変動する。詳しくは配布したレジュメに記載されている。」
「各部意見がある場合は会場出口に設置したボックスにレジュメに添付されている紙に所属と意見内容を書いて入れてくれ。精査した上で検討の余地あれば後日書面で配布する。あくまで俺たちはデータ上で最適と思われる金額を出した。下っている部に関しては前年の予算の余剰分を補填して前年と同じ金額になっているから基本は問題ないだろう。」

委員会は特にどよめきも出ずに終わり、部活動の予算についての話が始まる。前年と本年の比較や実績に対する考慮した部分や、逆に下がった理由などもわかりやすくまとめられていた。学たちは補足の部分を述べつつ、決まられた時間内に収まるように報告をしていく。
与えられた時間内で収められるかで生徒会の有能さが問われる。選挙と同様見せ場の総会で、役員生徒はまさしく選ばれた学生という風格をしっかりと見せ付けていた。
これは、憧れる生徒はいるだろう。だってうちの学校の大人よりかっこいい。生徒の自主性を重んじすぎて生徒会に指示されるまま動く教師たちは、その様子を大人の顔で見守っているようなかんじだが、その実信頼はあまりされていない。

「すみません!」

学の説明を遮るかのように、群衆の中から手を上げた猛者がいた。漫画研究部の三枝くんだ。意見がある場合は総会後に意見ボックスに入れる決まりのはずだけど、よほど腹に据えかねる内容があったのか、その横顔を不服そうだった。

そんな三枝くんを冷たい眼差しで見つめたのは他ならない学だ。
普段僕らの前で見せるような無邪気な顔とは違い、まるですべてを見透かすような目だ。
決められたことを守らずに、むしろ意図的に反発したかのような行動に壁際に控えていた風紀も目を向けている。なんだか物々しい雰囲気に、すこしだけ僕も緊張した。

「手短に頼む。」
 
末永くんが発言の許可を出すと、まるで勝ち誇ったかのような顔で居住まいを正した。でも違う、末永くんがルールを無視した輩に融通を聞かせるときは、後から時間を割くよりもこちらのほうがすぐに終わるから、という打算が働いているときだと学が言っていた。

生徒会の会計から、漫画研究部についての書類を受け取った学を見て、これは予測された展開なのだ思われた。

「今回のこのレジュメになぜ漫画研究部の予算が載っていないのですか?これはプリントミスでしょうか。」
「プリントミスか、それはちがう。正しくはルールに反したからだ。柿畠、漫画研究部の前年度本年の備品管理表をよこせ。」
「こちらです。」

中央委員会の一年、柿畠くんは急に学に声をかけられて酷くうろたえながら、管理された書類を手渡した。学はそれにお礼を言うと、会計の横溝くんに収支報告を重ねて受け渡す。

「横溝、なんでか理由を話してやれ。俺でもいいけどお前のほうがえぐらないだろ。」
「まぁ、そうだな…俺の方が適任か。」

酷く面倒くさそうに立ち上がる横溝くんは王子様フェイスヤンキーだ。こちらはすでに年上の恋人がいるらしく、指輪のはまった手で報告書に視線を数度滑らせると、三枝くんを見つめた。

「前年度棚卸しされた冊数と本年の冊数。予算で買われた参考資料として称された複数の娯楽本だけど、全部足し引きしても数が合わない。棚卸しして不用品扱いにしたならその報告書も別途作成するべきだし、なぜか単価の高い本ばかりがなくなってる。なんで?」
「それは、たまたま貸し出してるだけですよ。そのまま報告書に書き忘れただけで、実在します。」
「それと、収支報告の金額も杜撰だ。古書で買ってる割になんで表記が定価なんだ?それに部のパソコンから落札された本はすべて中古だろ。これは中央委員会で確認済み。」
「領収書を貰うのをわすれたので、価格を調べて書いたまでで…」

漫画研究部の三枝くんの顔色が面白いほど悪くなってくる。これはあれだ。予算で安く買った本を転売して稼いでた口だな。全校生徒の目の前で、嬉々として生徒会の表記ミスを囃し立てようとした結果、裏目に出て首が閉まってしまったパターン。
僕は斜め向かいの三枝くんを見ながら、横溝くんに募られて口籠る姿をまじまじと見た。

「横溝。もういい、こいつが何をしたのかは自分自身がよくわかってんだろ。今季漫画研究部の予算は出さない。部としての義務すらきちんと果たせないなら、廃部するしかないな。」

学の鋭い一言に三枝くんが真っ青になった。自分の杜撰な管理と、甘い蜜を吸った事実をばれないと思って続けてきた結果だ。三枝くんの前の部長まではきちんとできていた分、落差が激しすぎたようだった。

「三枝、お前の口からきちんと後輩に説明しろ。逃げることは許さない。」

いままでちまちまくすねた分の予算は微々たるものだから廃部で手打ちになるのだろう。末永くんが最後に三枝くんに言った言葉の重みに耐えきれず、へろへろと座席に項垂れてしまった。

金額の問題じゃないが、他の部長や委員長も目の前で行われた公開処刑に肝が冷えたに違いない。
僕は帰宅部だから報告書もなにもないのだが、全体の緊張感が移るように息を詰めて成り行きを見守っていた。

結局、今年の生徒総会では備品管理や収支報告などの管理の甘い部活、委員会に関してはお灸をすえられる結果になった。顔だけの集まりだと思っている一部の生徒からは、改めて生徒会が顔が良いだけの集団ではないことを思い知らされたのだ。

いや普通にかっこいいよねぇ、末永くんとか王様みたいだし、学も敏腕秘書みたいな感じである。僕は群衆の中から閉会の言葉を述べた末永くんを見ながら、理想の会長とは多分こうなんだろうなぁと思っていた。

こうして、すこしだけざわついた生徒総会はなんとかすべてのタイムテーブルが終わり、末永くん率いる生徒会、中央委員会それぞれが列をなして退席した後に、クラスごとに帰ることとなった。

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