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年上のプライド

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悠也に招待されて向った体育祭はなんだかとっても青春の香りがして心が踊った。一緒に見てくれたきいちくんと家族やその番の俊くん、悠也を入れた6人の大所帯で撮った写真は、俺の部屋の棚に飾ってある。

増田マキちゃんという元気いっぱいの子は、オメガとアルファのカップルに並々ならぬ昂りを覚えるらしく、俺と悠也のツーショットもあらゆる角度で撮ってくれた。

普段撮影する側過ぎて、撮られる経験はあまりなかったけど、マキちゃんの興奮が度を越しすぎていてゲラゲラ笑ってしまった。

自然体であんなふうに笑いを引き出すことのできることも、才能の一つかもしれない。
きいちくんもノリノリだったけど俊くんがドン引いていて面白かったな。

「葵またその写真みてんの?」
「ん、て…髪乾かしてくればよかったのに。」

砂まみれになったからシャワー浴びさせて!と言って悠也は帰らずに俺んちに着いてきた。
途中立ち寄ったコンビニで自分たちの分だけ写真を現像して、のこりは振替休日がおわってから配布用で何枚かまた焼くらしい。
俺の館で焼くことも提案したけど、休みの日に仕事のことを考えてほしくないとのこと。何だそれ、年下らしくないわがままに少しだけほだされた。


悠也は髪を乾かされるのが好きらしく濡れたまま出てくるのだけは困る。ポタポタと素直な毛先から水滴をたらしながら来るので、風邪を引いたらどうすんの。と俺がたしなめるところまでが毎回のセットだ。

悠也の肩にかけられた大判のタオルを手に持ち広げてやると、ごきげんな様子で少しだけ頭をかがまして素直に拭かれる。大型犬のようなその様子に呆れつつも、甘え上手なところは流石年下といったところだ。

「髪、乾かすからこっち。」
「なんだかんだ毎回やってくれるよな。」
「どっかのだれかが言う事聞かないもんでね。」

ソファーにすわった俺の足の間に収まるように体育座りをする悠也の髪を、わしゃわしゃとかき混ぜるようにしながらドライヤーを当てていく。
最近パーマを当てたようで、短いながらゆるく当てられたそれは、ヘアワックスで整えるととてもワイルドな色気が出る。俺はそれを密かに気に入っているけど、悔しいから言わない。

ある程度乾いた所で、後頭部に軽く口付ける。終わりだよと言う意味のそれは、一度やったら定着化してしまい、やらなければやらないでぶすくれられる。こんなことくらいでご機嫌になってくれるならいいかと何回もしてるうちに慣れてきたけど、俺も大概この番に甘いよなと自覚してしまい、いい年して…と無駄に照れることになる。

「ん、さんきゅ。」
「はいどーいたしまして。泊まってく?」
「明日休みだからな。なぁ、どっか行こーぜ明日!」
「ほんと元気だな…体育祭後なんだからゆっくりすればいいのに。」

となりに座ってきた悠也が、定位置のように膝に頭を載せて寝転がる。乾いてふわふわになった頭をなでながら、この元気は一体どこから出てくるのかと不思議に思った。
髪を梳くように撫でてやると、気持ちよさそうに手に額を押し付けてくる。こんなに甘え上手なのに、男らしいとかずるいだろ。

「どうしてもっていうなら、悠也の行きたいとこに行こうよ。車出すし。」
「あー、俺も早く免許とりてーな。そんで、葵を隣に乗せて海とかいきてー。」
「今はまだ俺にまかせて、海行く?」
「んー、海もいいけど。」

撫でていた手を絡め取られて、指先に甘く口付けをされる。普通ならキザだと思われるような行動も、悠也は何故か嫌味なくこなしてしまう。欲目だろうか。だとしたら余裕が無い俺は少しダサい。

「な、ラブホ行ってみたいんだけど。」
「ラブ…ほ!?」
「葵と、二人で。駄目?」
「こ、高校生だろうが!そんなもん、だめに決まって」
「俺ガタイ良いから大丈夫。な、一回だけ。どんなとこが見るだけ。お願い。」
「見るだけ、ったって…」

そんなの、俺だって行ったことないよ…。なんとなく、25にもなってそんなこと言うのが恥ずかしくてじわじわと顔に熱が集まる。悠也はそういったことを言うのに抵抗が無い。高校生だし下ネタとかも日常茶飯事だろうけど、それが俺には余裕に見えて少し悔しい。
俺のが大人なのに、なぜか同い年のような器量を持つ眼の前の年下の男に少しだけむくれて、俺だって…という情けない見栄を張ってしまったのがいけなかった。

「…わかった。そこまで言うなら…」
「マジ?じゃあも一個お願い、聞いてくれる?」
「仕方ないな…いいよ。」

じゃあ…とぐっと体を起こして起き上がった悠也に、反動を利用されて俺のほうがソファーに倒される形になった。座っていた体制から横向きに、覆いかぶさってきた悠也は、そのまま俺の顔の横に手をついて耳元で甘く囁いた。

「せっかくだから、俺のしたいことしてもいい…?」

脇腹を押さえなぞるようにスルスルと服の中に手を入れられる。まだ体を重ねたことは2、3回しかない。その行為が俺の体に期待を持たせるには充分で、情けないくらいビクリと体を震わせてしまう。
そんな反応をしてしまうから、この若い雄に絞り尽くされてしまうのに。

「っ、したいこと…?」
「大人だから、俺のお願い聞いてくれるでしょ?」
「おま、え…それずるい…」

背筋をなぞるように触れられ唇に吐息が触れる。少し顎を上げれば唇が触れ合う距離だ。こくりと飲み込んだ欲を暴くかのように甘く唇を啄まれると、縋ってしまいそうになる。ゆるく持ち上げた手を背に回しそうになって、やめた。
がっついているように思われたくなかったのだ。

「ん、当日に言う。今は約束だけして。」
「…変なことなら怒る。」
「ふふ、怒られるかな?」
「おい。」

結局甘やかしてしまう。良いよと言って、こつんと額を重ねると嬉しそうに笑う。隣の部屋に大きなベッドがあるのにも関わらず、二人で狭いソファで重なり合って戯れている。
広い背中を優しくなでながら、ずっと甘えてくれたらいいと思った。
不器用な俺が素直になれる居場所だ、悠也にとって、俺もそう有りたい。

「ゆっくり大人になれよ。」
「あと3年だな。」
「意外と短いな。」
「俺にとっては、くそなげー。」

成人が待ち遠しいけど、少し寂しい。
いつまでも子供だと思っていてはいけないのに、過去に取り残されたように思うときがある。
少しの期待と小さな欲望は、大きく何かが変わることを望んでいた。
腹の奥の、本能の部分は正直だ。それがバレたくなくて、回した腕の力を静かに強めた。

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