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僕は帰ってもいいですか
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なんというか、それはもう大活躍だった。
学は遅れを取った走者に恥をかかせない為に、バトンを受け取った瞬間からスイッチが切り替わったかのようにそれはもう見事なフォームで最下位から先頭争いまでに事を運んだ。
土煙を上げて追い上げてくる学の鬼気迫る表情がよほど恐ろしかったのか、先頭を走っていた他クラスの高田ちんは泣きそうになりながらレーンを駆け抜ける。
顔だけは可愛いかの柔道部の姫である。ヒィィィイという甲高い声で恐怖に叫びながら真顔の学がずいずいと背後に迫ってくる光景に、バトンを持つ手が手汗で滑り、ゴールテープの二メートル前ですっぽ抜けるという凡ミスをしたのだが、前方に飛び退ったバトンよりも早くゴールテープを切った学は、完全に人間を辞めていた。
「え、ちょ、…っきゃんっ!!!!」
もはやスピードが凄すぎて止まれなかったのか、カメラを構えてた写真係を横切り見事にボケっと座っている僕に勢いのまま突っ込んできた。僕的にはまるで猪が突如飛び込んできたかのような衝撃に、学を受け止めきれないまま二人して地面にずっこけた。
「うごぉ…っ…あだだだだだ…っ」
「ハァッハァッ…はっ!!きいち!!」
「うううっ…なんで僕空見上げてんのぉ…」
「おぉ、悪くない眺め。」
ごほごほと噎せながら受け止めようとした体制のまま、背に腕を回しながら学を足の間に挟むようにしてコケていた。僕の上に覆いかぶさったままの学はものすごい勢いで走ってきた末永くんによって引き剥がされ、一位のペナントを握らされたまま引きずられるように連れてかれていた。生徒会長もなんだか忙しいようだ。
「うう、まじで僕可哀想すぎる…増田ちん起こしてくれてありがとう…」
「こちらこそオカズをありがとうございます。」
「え?のぼせた?鼻血やばいから保健室行く?」
「保健室でしっぽりプ」
「はーいお前はこっちねー!はよ次の競技の撮影準備するぞエロ乞食。」
増田ちんの鼻血は止まらないまま突如現れた益子によって回収されていった。なんだかよくわからないが、年頃の女の子を扱うなら引きずって運ぶのはNGなのでは…。益子のいったエロ乞食はよくわかんなかったけど、そろそろ障害物借り物競技にでる選手が集まり始めているので僕もそろそろ行ったほうがいいだろう。
ポンポンと尻の汚れを払ってから、僕が逃げないように捕まえに来た坂本くんに連れられて待機地点に向かった。
「淡路くんは軽音楽ででんの?」
「俺?俺はでないけど代わりに後輩がでるよ。」
「ユニフォームないよね?ジャージ?」
「ジャージにドラムのバチもって走る!」
「邪魔くさそー!!」
坂本くんから淡路くんへと引き渡された僕は、がっちりと逃げないように肩を捕まれながら第5レーンに連れてかれていた。
ちょうど隣では水泳部の先輩が競パンにゴーグル、スニーカーと防御力ゼロの恰好で準備運動をしていて寒そうだ。そういや毎回第4レーンは水泳部だなぁなんてとりとめもないことを思いながら、第3レーンを見ると、科学部の田所くんがまさかの白衣に瓶底眼鏡という悪ノリをした出で立ちでフラスコに入れた炭酸飲料をストローで飲んでいた。自由すきるだろ科学部!!
僕なんかさらに酷い、白いゼッケンにマッキーでデカデカと、晒し者のように帰宅部と書かれている。
なんだこの罰ゲーム。泣いていいかな。
開始まで別の競技を挟むのでまだまだ時間がある。僕は隣の水泳部の先輩と一緒にしゃがみながら草を毟って時間を潰していた。
「片平、今年の障害物は最初にコスプレするらしいぞ。」
「え、ユニフォームの意味なくないっすか?」
「どうしよう俺ナースさんだったら。編みくぐりの時とかぱんつ丸見え。」
「競パンですよね!あー、でもたしかに絵面がエロい。」
「ノリノリで競パン脱いだらゴメンな。」
「それは普通に事故になるのでやめてください!!」
雑談まじりにキャイキャイと話しつつ、絡んできた田所くんとフラスコの炭酸飲料を回し飲みしながらリラックスをしていたら、ついに順番が回ってきた。
競技が終わり、運び込まれた障害物やボックス、そして移動式の試着室は演劇部からの借り物らしい。あの中のどれかをより分けるならまだいいが、レーンごとに運ばれた試着室は、誰が何を着るように仕向けるかという体育祭実行委員の策略がありありとわかる。
うちのクラスの実行委員は坂本くんに淡路くんだ。きっと彼らは嫌がる僕のことを知ってるから変なものは置いてないはず…全身タイツとかなら笑い取れるからいいな、なんて楽天的に考えていたら隣の先輩が爆弾を落としてきた。
「今年のコスプレは安田が出場選手みて独断と偏見で決めたらしいぞ。」
「え。」
「俺は笑いの方にいくっぽいけど、片平はどうだろうな?他の選手見る限り女装すっかもね。」
「ええ!?」
なにを隠そう、安田先輩とは前回裸にエプロン事件を起こした水泳部の先輩だ。今回は参加しないのかぁとか思ってた僕のばか!こっち方面で参加してたとかまさかすぎるやろがい!
そんな恐ろしいことを聞いた僕は、途端に眼の前の試着室が禍々しいものに見えてきた。
ルートは単純で、試着室でどれだけ早く着替えるかが勝敗の決め手だ。
試着室からの網くぐり、パン食い競走、三輪車レースからの借り物競争だ。三輪車レースとか必然的にパンツ丸出しになるやんけ!!どうすんだ自主規制が飛び出したら。周りは楽しいかもしれないけど、写真係にひょっこりと顔を出したジュニアさんを撮られたらえらいことになるよね。トランクスならまじでやばいぞ。僕はボクサー派だけどな!!
内心大荒れ状態で打ち震えていたら、いよいよレーンのみんなが位置についてのポーズを取る。
ええいやけくそだ!もうこれが終わればわ体育祭も終わるのだ。さっさとやることやって俊くんと一緒に帰る!!これに限る!!
ぐ、と前かがみになって走る準備をする。空砲の音が響いた瞬間、弾かれるように大地を蹴った。
学は遅れを取った走者に恥をかかせない為に、バトンを受け取った瞬間からスイッチが切り替わったかのようにそれはもう見事なフォームで最下位から先頭争いまでに事を運んだ。
土煙を上げて追い上げてくる学の鬼気迫る表情がよほど恐ろしかったのか、先頭を走っていた他クラスの高田ちんは泣きそうになりながらレーンを駆け抜ける。
顔だけは可愛いかの柔道部の姫である。ヒィィィイという甲高い声で恐怖に叫びながら真顔の学がずいずいと背後に迫ってくる光景に、バトンを持つ手が手汗で滑り、ゴールテープの二メートル前ですっぽ抜けるという凡ミスをしたのだが、前方に飛び退ったバトンよりも早くゴールテープを切った学は、完全に人間を辞めていた。
「え、ちょ、…っきゃんっ!!!!」
もはやスピードが凄すぎて止まれなかったのか、カメラを構えてた写真係を横切り見事にボケっと座っている僕に勢いのまま突っ込んできた。僕的にはまるで猪が突如飛び込んできたかのような衝撃に、学を受け止めきれないまま二人して地面にずっこけた。
「うごぉ…っ…あだだだだだ…っ」
「ハァッハァッ…はっ!!きいち!!」
「うううっ…なんで僕空見上げてんのぉ…」
「おぉ、悪くない眺め。」
ごほごほと噎せながら受け止めようとした体制のまま、背に腕を回しながら学を足の間に挟むようにしてコケていた。僕の上に覆いかぶさったままの学はものすごい勢いで走ってきた末永くんによって引き剥がされ、一位のペナントを握らされたまま引きずられるように連れてかれていた。生徒会長もなんだか忙しいようだ。
「うう、まじで僕可哀想すぎる…増田ちん起こしてくれてありがとう…」
「こちらこそオカズをありがとうございます。」
「え?のぼせた?鼻血やばいから保健室行く?」
「保健室でしっぽりプ」
「はーいお前はこっちねー!はよ次の競技の撮影準備するぞエロ乞食。」
増田ちんの鼻血は止まらないまま突如現れた益子によって回収されていった。なんだかよくわからないが、年頃の女の子を扱うなら引きずって運ぶのはNGなのでは…。益子のいったエロ乞食はよくわかんなかったけど、そろそろ障害物借り物競技にでる選手が集まり始めているので僕もそろそろ行ったほうがいいだろう。
ポンポンと尻の汚れを払ってから、僕が逃げないように捕まえに来た坂本くんに連れられて待機地点に向かった。
「淡路くんは軽音楽ででんの?」
「俺?俺はでないけど代わりに後輩がでるよ。」
「ユニフォームないよね?ジャージ?」
「ジャージにドラムのバチもって走る!」
「邪魔くさそー!!」
坂本くんから淡路くんへと引き渡された僕は、がっちりと逃げないように肩を捕まれながら第5レーンに連れてかれていた。
ちょうど隣では水泳部の先輩が競パンにゴーグル、スニーカーと防御力ゼロの恰好で準備運動をしていて寒そうだ。そういや毎回第4レーンは水泳部だなぁなんてとりとめもないことを思いながら、第3レーンを見ると、科学部の田所くんがまさかの白衣に瓶底眼鏡という悪ノリをした出で立ちでフラスコに入れた炭酸飲料をストローで飲んでいた。自由すきるだろ科学部!!
僕なんかさらに酷い、白いゼッケンにマッキーでデカデカと、晒し者のように帰宅部と書かれている。
なんだこの罰ゲーム。泣いていいかな。
開始まで別の競技を挟むのでまだまだ時間がある。僕は隣の水泳部の先輩と一緒にしゃがみながら草を毟って時間を潰していた。
「片平、今年の障害物は最初にコスプレするらしいぞ。」
「え、ユニフォームの意味なくないっすか?」
「どうしよう俺ナースさんだったら。編みくぐりの時とかぱんつ丸見え。」
「競パンですよね!あー、でもたしかに絵面がエロい。」
「ノリノリで競パン脱いだらゴメンな。」
「それは普通に事故になるのでやめてください!!」
雑談まじりにキャイキャイと話しつつ、絡んできた田所くんとフラスコの炭酸飲料を回し飲みしながらリラックスをしていたら、ついに順番が回ってきた。
競技が終わり、運び込まれた障害物やボックス、そして移動式の試着室は演劇部からの借り物らしい。あの中のどれかをより分けるならまだいいが、レーンごとに運ばれた試着室は、誰が何を着るように仕向けるかという体育祭実行委員の策略がありありとわかる。
うちのクラスの実行委員は坂本くんに淡路くんだ。きっと彼らは嫌がる僕のことを知ってるから変なものは置いてないはず…全身タイツとかなら笑い取れるからいいな、なんて楽天的に考えていたら隣の先輩が爆弾を落としてきた。
「今年のコスプレは安田が出場選手みて独断と偏見で決めたらしいぞ。」
「え。」
「俺は笑いの方にいくっぽいけど、片平はどうだろうな?他の選手見る限り女装すっかもね。」
「ええ!?」
なにを隠そう、安田先輩とは前回裸にエプロン事件を起こした水泳部の先輩だ。今回は参加しないのかぁとか思ってた僕のばか!こっち方面で参加してたとかまさかすぎるやろがい!
そんな恐ろしいことを聞いた僕は、途端に眼の前の試着室が禍々しいものに見えてきた。
ルートは単純で、試着室でどれだけ早く着替えるかが勝敗の決め手だ。
試着室からの網くぐり、パン食い競走、三輪車レースからの借り物競争だ。三輪車レースとか必然的にパンツ丸出しになるやんけ!!どうすんだ自主規制が飛び出したら。周りは楽しいかもしれないけど、写真係にひょっこりと顔を出したジュニアさんを撮られたらえらいことになるよね。トランクスならまじでやばいぞ。僕はボクサー派だけどな!!
内心大荒れ状態で打ち震えていたら、いよいよレーンのみんなが位置についてのポーズを取る。
ええいやけくそだ!もうこれが終わればわ体育祭も終わるのだ。さっさとやることやって俊くんと一緒に帰る!!これに限る!!
ぐ、と前かがみになって走る準備をする。空砲の音が響いた瞬間、弾かれるように大地を蹴った。
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