なんだか泣きたくなってきた

だいきち

文字の大きさ
上 下
74 / 273

育代

しおりを挟む

ペリリリ、と端っこをつまんだガムテープを平行に浮かせて剥がしていく。こう言うのが綺麗に剥がせるか剥がせないかで今日の運勢を占っちゃったりするよね、おかんも僕もこういう細かい作業を慎重にするのは嫌いじゃないので、ガムテープ一つ剥がすだけでも恭しくなってしまう。

ペチッと剥がれたテープを小さく畳んで床に置くと、観音開きの蓋をパカリとあけると小花柄の包装紙に包まれた箱が入っていた。

「めっちゃいいやつなんじゃね?」
「ふぅん…バスセットだったら今日から使おうぜ。」

オカンが期待するようにソワソワと箱を取り出すのを見ている。やっぱなんかでかい。試しに軽く揺らしてみると、瓶やボトルのような音はしない。

「もしかして足湯キットとか?なんかでかそう。」
「足湯!そういや吉信につま先冷えるとか言った気がする。」
「おー!でも化粧品じゃなくね?」
「たしかにな。まあ、あけてみ。」

もし吉信がオカンの冷え性の為に足湯キットもしくは冷え性関連のグッズを送ってきたのなら、吉信のダメ親父のレッテルは剥がされるだろう。
2、3回箱を回転させて剥がす場所を探すと、包装紙もまた丁寧に剥がしていった。この固めの紙が擦れ合う音というのは、なんだかわくわくするものだ。そして化粧品でも入ってそうな綺麗な箱が出てくると、オカンと二人でドキドキしながら蓋を開けた。










「オヤジ、そう言えばあのことどうなった?」
「ああ、きいちくんのやつ?オメガの子はみんな一度は入れてみたいもんかねぇ。」

桑原家のリビングでは、珍しく正親が家のリビングで寛いでいた。どうやら大きな契約を結ぶことができたので、今日を入れて三連休の有給休暇をもぎ取ったらしい。
そろそろ夫婦での時間も楽しみたいとか言っていたから、明日明後日あたりで夫婦二人は家をあけるだろう。

「とりあえず吉信に連絡して、二人で何を贈ろうかって話になってね。」
「は…?吉信さんも巻き込んだのか?」

俊くんは単純に同じような経験をしたアルファ二人から的確なアドバイスが欲しかっただけなのだが、まさか本人の預かり知らぬところで自分の父親にも知られているという事実を、きいちは知っているのだろうか。
正親が、まさか吉信を巻き込んでダメなアルファ二人が和気あいあいと決めて贈ると決めたもの。だめだ、想像するだけで嫌な予感しかない。

俊くんは嫌な予感を無視して、ワンチャンまともなものかもしれない、という期待を大きく持ちながら正親に聞いてみた。

「ああ、大したものじゃないよ。所謂据え置き型オナホだね。」










「えっ、」
「なんだこれ、」

細切れになった紙を敷き詰められた鳥の巣のような緩衝剤に守られて、まるで桃尻のようなフォルムをした謎素材のそれを恐る恐るとりだした。
おかんと二人で首を傾げながら色んな角度で見ていると、一緒に入っていたボトルと説明書のような紙を見つけた。

「すげぇ、これ膝に載せてるとお前が赤ちゃんのときを思い出す。」
「抱っこするやつ?でも何で下半身…ん?」

なんだか見覚えのあるボトルである。そして説明書に記載されている商品名をなんとなく読み上げた。

「ハメテンガ…桃尻育代…へんなの。」
「ハメ…あ。」

瞬間、先程まで膝に乗せて楽しんでいたはずのオカンが何を意味するのか理解したようで、持ち上げてテーブルに置いた。そこでええんか!?
そして思い切り尻のような部分を割り開いたと思ったら、なるほどと理解したように頷いた。

「これオナホ。」
「オナ、っ…」

まさに衝撃の一言である。僕の知ってるオナホとは明らかに形状がちがうし、なんでそんなでかいのか訳がわからない。据え置き型ってなに!?
僕が絶句していると、オカンが丁度入れる部分であろうそこを指差した。

「これで脱童貞しろってことだろ。」
「育代で!?てか名前古風すぎんだろ!情操教育ガバガバかよ!」
「未使用だから締りは良さそうだけど、」
「そっちのことは言ってないんですけどねぇ!?」

なんと、アナルセックスもできるらしい。すごすぎるだろ育代。保健の授業のおかげで何処に挿れるとかはわかるけど、こんなグロテスクなオナホに勃つ気がしない。というか、なんで吉信からオナホが届いたのかわからない。
そして全く分けがわからないまま育代の尻を指でつつく晃の横で頭を抱えた。

「はっ、ももも、もしかしてっ」

ふと頭によぎったのは、俊くんである。考えとくってもしかしてこれか!?と慌ててスマホで連絡を取る。数コールの後、聞き慣れた俊くんの声が繋がった。

「俊くん僕に育代送りつけたでしょ!?」
「育代?」
「桃尻育代だよ!!!!据え置き型のオナホ!!僕んちに届いたんだけど吉信にバラしたの!?!?」
「ぶふっ……」

電話越しで吹き出したのか、しばらくの間げほげほと噎せている俊くんの声が聞こえる。晃はぷにぷにとさっきから突きまくっている。やめなさいまじで。

「すまん、それ多分オヤジが発端だ。いや、おれか?ううん…」
「正親さん!?なんで!!」
「忍もおんなじ内容でごねてたことあったから、そんときどうしたかって先人の知恵を借りるつもりだったんだけどな。なんでこんなことに。」
「吉信と正親さんに僕の野望バレてんのクソ恥ずかしい!!オカン!育代ぷにぷにしないで!そっとしといてあげて!!」

電話越しでゲラゲラ笑う声が聞こえる。僕の周りはマイペース多すぎかよ!どうすんだこれ、ていうか、どうやってやり過ごしたか聞いた解答がこれってなんだそれ。これだからバカ共は!!僕と俊くんが求めてたのはプロセスであって物理的な答えではないんだよ!!!

「きいち、今度それ持って俺んち。」
「お断りしますぅ!!!」

たとえ使ったとしてもレビューだけは絶対に書かないからな!?
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...