上 下
65 / 273

せめてワンクッション

しおりを挟む
「おきろ、きいち。」
「んぇ、…」

ポンポンと背中をあやすように叩かれ、もしょもしょする目を擦りながら何とか覚醒する。体の節々が驚くくらい痛いし、なんなら声すら掠れてる。僕は知らない間に俊くんの学ランに包まれていて、リラックスできたのはこのせいかと思った。

「学校側の事情は益子と学が話してる。きいちは警察と話すことになるけど、いけるか?」
「今月入ってから2回目…」
「…その一回目は知らないから後できく。」

おっと墓穴だった。一先ず高杉は縫うだけで済んだらしい。カッターが途中で折れずに綺麗に刺さってくれたのが良かったようだ。

「きいちも治療、先生呼ぶからな。」
「ふぁ、…ねむ…」

どうやら大事をとって一室用意されたらしい。これから問診と簡単な治療。それが終わったら被害に遭った内容の確認の為に警察の人に話すことになるとのことで、面倒くさいことこのうえないなぁと少しだけブスくれた。親にも俊くんが連絡してくれたようで、別の部屋で大人だけの話し合いをしているとかいないとか。
ガラガラと引き戸を開けて入ってきたのは桑年の男性医師だった。目尻のシワが優しい。男性医師は新庄先生で、僕が産まれるときに取り上げてくれた先生だった。

「やぁ、なんだか大変な目にあったみたいだね。早速だけど見させてもらおうと思ってるんだけど…彼は同席する?」
「俊くん終わるまで廊下でまってて。」
「…わかった。」

同席する気満々だったのか、不服そうなオーラをビンビンに出している。すまないが僕の尊厳を主張させてもらうぜここは。
新庄先生は何が面白いのかクスクスと笑いながらすぐに済むからと見送った。

「彼は君の番かな?僕にまで牽制してくるから少し面白くなっちゃったや。」
「先生オメガだから大丈夫って言っとけばよかったなぁ…」
「後で誤解をといておいてね、さて…少しだけ体を見せてね。」

肩に掛けられてた学ランを横に置くと、節々の痛みに呻きそうになりながらズボンも脱ぐ。知らなかったけど背中にも擦りむけたあとが合ったようだ。やだなぁ、絶対にお風呂でしみるやつ。
冷たい聴診器をペタペタとあて、そして触診の後に簡単に手当をしてもらった。外傷は目立つところにはないし、脇腹や背中の痣の部分に湿布を貼ってもらう位だ。そして本題である。

「お尻も見ておこうか。腫れてるだろうし、塗り薬と念のために座薬も入れとこうか。粘膜摂取のほうが治るの早いし、ね?」
「やっぱしなきゃだめ…?僕こんなにも元気なんですけどね…」
「うん。君は医者じゃないし、医者として見過ごすことはできない案件だしね?さ、すぐに済むから。」

にこやかな笑顔でゴム手袋をはめ始める。先生はたまに容赦ないのだ。子どもの頃の予防接種も1.2.3で刺すよーとかいって1で刺した位だ。新庄先生にはおかんも頭が上がらない。ある意味知り合いの中で最強かもしれない。

「ううっ、親にも見られたことないのに…」
「むしろ君の親のもみたことあるから安心して。」
「なるほどなぁ、っく…ぅっ」

しぶしぶ先生にお尻を向けるように移動する。なんの安心ができるんですかねぇ?と続けようとした瞬間に尻を両サイドに割り開かれて目で確認される。やめてめちゃくちゃすーすーする!カチャカチャと金属の擦れ合う音にこれから器具を使ってあれやそれをされるであろうことを想像してガチガチに固まる。先生は緊張しないで力抜いてーとか言ってるからそろそろなのだろウッ。

「~っ…!!」
「あー、やっぱり内側が切れてるね、座薬奥まで入れておこうか。」
「か!!でいれっ…ぅう…っひぃ…」

容赦なく器具で開かれて中を見られた後に、話しながらずぶりと奥まで薬を入れられた。僕は診察台に上がるペットが体温を測るのに暴れる理由を体感した。金属の冷たさは怖い。若干涙目になるも、終わりだよとぺしりと尻を叩かれた。合図なのだろうけど情けなさマックスである。オカンもやられたのだろう、慣れろと言われても無理だけど。
最後に切れた表面を消毒綿でペタペタされたけど、何だったらそれが一番恥ずかしいかもしれない。え、これ診断書に切れ痔とか書かれるのだろうか。誠によしていただきたい。

「うん、やっぱり親子は似るんだねぇ。」
「どこの形の話ですか!?やめて聞きたくない!」
「暴行による肛門裂傷って書いとくね。ストレスで痔になる人もいるからなるべくストレスなく生活してね。」
「産後でもないのに切れ痔はいやだぁ!」

あははは!と楽しそうに笑う新庄先生は相変わらずマイペースだ。これから重々しい事情聴取があるらしいので、気が抜けたのはいいかもしれないけど、一緒にいてくれないかなぁまじで。

「それよりも救急車を呼んだのは偉かったね。呼ばなかったら事件性がないと判断されていたかもしれないよ?」
「学が呼んだんですよ。なんか先生がめちゃくちゃ怒ってたけど…」
「ああ、学校側は大事にしたくなかったんだろうねぇ、まあ無理だろうけど。」

でしょうね。高杉は刺されたけど軽症、僕も打撲と裂傷くらいだし、一番重いのはある意味清水さんかもしれない。オメガというだけで偏った考えと拗れた嫉妬が暴走して起こってしまったことなので、誰が悪いとか責任の押し付け合いでどうにかなる話じゃないというのはなんとなくわかった。

「彼女はそのまま精神科にいくよ。高杉くんも通うことになるだろうね、あの二人の偏った考えは親からきているし、こればっかりはね。」
「そんなの僕に言っていいんですか?」
「きいちくんも通ってもらいたいくらいなんだけど、絶対に嫌っていうでしょ?」

まさかのとばっちり受診のフラグが立っていたようである。僕は無言で頷くと、何故か頭を撫でられた。

「君には俊くんがいるからね。彼らにも寄り添ってくれる人がいたなら、結果は違ったかもしれないねぇ。」

先生がボールペンの背をカルテに押し付けてペン先をしまう。自身もオメガだからいろいろあったのだろう。僕はくそがきなので先生が憂うように話す横で、ふぅんと気のない返事をして誤魔化した。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...