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吉信ときいち

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駅前のロータリー近く、吉信は何時ものブリーフケースと小さめの紙袋片手に立っていた。
こうして見ると、我が父ながらロマンスグレーのイケオジである。アラフィフだけど、白髪染めだるいとかで銀混じりに染めている。
周りの奥様方に羨望の眼差しで見られてるけどうちに帰ると一気にダメおやじになるのがおもしろすぎるだろ。

「吉信ー!」
「お。きたきた。」

グレーのスリーピーススーツにボルドーのタイが今日も決まっている。おとんのワガママで、毎朝オカンがスーツを選ぶ。最近は差し色にボルドーをいれるのがきてるらしい。オカンの中でな!

「今日ドットなんだ。かわゆー。」
「晃が最近買ってきてくれたやつなんだ。いいだろ?」
「いい。さすがオカン。似合うって?」
「あいつはツンデレだからなぁ。まあいいんじゃん?でおわり。」

オトンに傘を渡すと、たまには一緒に入って帰ろうなどと言われてまさかの親との相合い傘になりました。僕もう高校生なんですけどね!?

身長は俊くんと同じくらいか、心底羨ましい。
オカンと並ぶと体格がちがいすぎて、あの骨盤でよく僕を支えていたなとたまに心配になる。

「そういえば最近俊くんとはどうなんだ?仲良くやってんのか?」
「やってるやってる。同じアルファのオトンよりしっかりしてる。」
「晃にもおなじ事言われたな。嫁と息子を一気に取られたみたいで癪だ。」
「同じステージにたってないよ!大丈夫!」

真面目な顔してアホなこと言う。オトンはオトンで俊くんは俊くんなのだ。でも僕が濡れないように傘を傾けてくれるところは似てるかもしれん。

「お前が俊くんと番って言われたときは、やっぱりなぁと思ったんだ。」
「え?なにそれ。」
「親の勘かもしれん。まあ、アルファは自分のものにすると決めたら抗えない本能みたいなものがあるからな。」
「ふぅん…本能か。」

うちのオトンはオカンである晃と番ったのは、オカンが20歳の頃だったらしい。オカンと10歳差だ。年の差で言うとオカンが小4だったときオトンは成人したてである。淫行結婚だー!!と、当時の身内らからは大バッシングを受けて大変だったとか。

でも見初めちゃったもんはしかたなし。おとんもオカンが成人するまではノータッチで手を繋ぐとかくらいしかしなかったんだと。小4ショタにちんこ立たせるとか気が狂っていると思って悩んだ時期もあったらしい。だけどさすがアルファである。性欲を仕事に打ち込むことで散らしながら着実に実績を重ねて、お許しが出たのがオカン17歳の時。奇しくも僕と同じ年齢だった。
苦節7年、オカンと結婚の許しが出たときには最初の発情期がきてしまい、オトンが一人で住んでいたマンションに連れ込まれたオカンは、ヒートが終わってからも離してもらえず、脱水症状で救急車を呼ぶ羽目になってしまったらしい。

「オトン…」
「あれは流石にやばかったな。うん。勇にぶち殺されるかとおもった。」
「おじさんだってそりゃおこるでしょ、車椅子じゃ無かったら確実にやられてたでしょ…」
「まあ、オカンが窘めてくれなければ俺はお前のパパにはなれなかっただろう。」

オカンが言ったらしい。最初のヒートを乗り切れたのもこいつのおかげだと。オメガのヒートは、相手がいないとそれは辛く、期間も長引いてしまうのだ。

アルファのおじさんは兄であるオカンを乱暴に扱ったのではとオトンを糾弾したらしいが、落ち込みようは凄まじいもので、何故かベッドの住人であるはずのオカンが慰めて慰めて慰めまくってやっと浮上させたらしい。

勇おじさんの兄を大切に思う気持ちと、オトンの愛情の板挟みになったオカンは、供給過多で大層照れた挙げ句、俺と結婚するなら勇とも結婚するということでいいんだっけ?とトンデモ発言をして二人を焦らせた。
誰がこんなゴツい男と!と声を揃えた二人を見て、割とうまくやっていけそうだと判断したらしい。うちのオカンは昔から言動の様子が可笑しかったけど、勇さんとオカンのダブル新婦はちょっと絵面がやばくて笑う。オトンの灰色の顔色もかんたんに思い浮かぶわぁ。


「まあ、おまえも良かったな。無事ヒート乗り越えられて。」
「おとんに心配されんのクソ恥ずかしいからやめてほしいわぁ…デリカシーないよなオトンって。」
「何を恥ずかしがる。大人の証拠だろ?それに俺も晃の腕を噛み跡だらけにしたからな。治るまで痛いぞ、それは。」
「あー、オカンの腕の痕はそれかぁ…僕も夏でも長袖手放せなくなりそうな気がする…」
「まあ、アルファに対する牽制になるから悪いことばかりじゃないがな。」

オカンも同じ理由で噛み跡だらけになった腕。奇しくもおソロである。オメガの噛み跡はアルファの愛情表現らしく、その痕が項以外にある場合はマーキングと同じ意味を持つらしい。

「オメガは初めてのヒート以降匂いが変わるし、体つきも少しずつかわる、変なアルファにちょっかいかけられたら、その腕の傷を見せてやれ。」
「なるほど…てか体つきかわんの?」
「変わる。具体的にいうと腰回りの肉づきが良くなって柔らかくなる。抱かれたオメガだけだけどな。ちんこも勃起し辛くなるぞ」
「へえ…てか外でそんなこと言うなってば。」

体が少しずつ子供を産めるように変化するらしい。人体の神秘である。
オカンも忍さんも、男にしては腰回りの曲線が柔らかいなぁと思っていた。細いけど、あの尻から僕が生まれてきたことを考えるとちょっと、物理的に破裂しないだろうか。パーンって。

オトンからのまさかの性教育と心得を聞きながら、もしかしてオカンから話せと言われたのだろうかとオトンの顔を盗み見る。
相変わらずシブい。黙ってるといいのになぁ。

「ただいま!」
「おけーり。吉信もおつー。」
「ただいま。」

ガチャリとドアを開けると、オカンがリビングからひょこっと顔を出した。家の中はいい香りがしていて、正直な僕のお腹はくぅんとなった。

「きいちさっさと手ぇあらってこーい。吉信も飯食う支度してこい。」
「そのまえに、ちょっと。」

オトンがオカンの腰を撫でて何かを囁くのを横目に洗面所にいく。僕がいると堂々といちゃつけないもんねぇ、オカンツンデレだしな。

痛い!!といい声でリビングからオトンの声が聞こえた。どうやらなにかの交渉は成立したらしい。
オトンが腹を擦りながら着替えに階段を上がるのを見送ると、耳を赤らめたオカンが眉間にシワを寄せながらハンバーグを皿に乗せていた。

「僕耳栓して寝ようか?」
「いや、…防音だから。」
「…頑張れ。朝飯は作っとくね。」

オトンの部屋は防音だということを、僕は17年間知らなかった。
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