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恋心と、カレー

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「れっつごーおーとぅーざきっちーん」
「座ってるやつがそれを歌うのか。」

コロッケの歌しかわかんないんだよねぇ。アレンジして英語にしてみたけどお気に召しませんでしたか。
現在俊くんはテキパキと肉だのじゃがいもだの人参だのをばこばこ切りながらキッチンに立っている。

制服じゃ汚れるってことで部屋着に着替えてるんだが、グレーのパーカーとスウェットがよくお似合いで、白のVネック!鎖骨!この出来上がった色気を背後から中継してます届いてますかみなさん。

腕まくりなんてするからもーThe雄♂みたいな腕の筋肉しゅご…すき。まじビックラブ。

「ふふ、若妻かぁ…」
「お前…」

蔑んだ目をしてるだろうと言うのもオーラでわかりますよ、ええ。俊くんビックラブの僕、きいちならね。
でもいいじゃんいいじゃん、まさか手料理食べられるかほんとに。前世どんだけ僕は徳を積んじゃったんですか?はぁー!いい匂いしゅる…ごくり。おっとやめておこう。怒られたくないからビークールに行こう。

「視線がうるせぇんだよなぁ…食わせないぞ?」
「大人しくしておりますかねぇ。」

やばい。テンション上がりすぎてイエローカード頂いちゃったので、退場食らう前におとなしくしてますねすんません。

くんくんと、漂う美味しそうな香りにお腹を鳴らしながら俊君の背中を見る。
いいなぁ、きっとオモテになるのだろう。僕にないものを持っている俊くん。
背も高いし、声だってもう大人みたいに低い。
均整のとれた男らしいしっかりした身体だ。僕の知ってるぽよぽよの子供ボディの俊くんじゃない。

好きだなぁ、俊くんと付き合える子はいい。きっと幸せだろうなぁ。

「いいなぁ。」
「あん?」
「俊くんの恋人。」
「…………ん?」

ん?

カチリ、と音を立ててコンロの火を止めた俊くんは、くるりと体ごと僕の方に向けるとジィっ…と見つめてくる。
腕を組みながら片手は思考するときの癖で口元に持っていっている。イケメン名探偵か俊くんにしか許されないポーズをさり気なくやっちゃう。まじきゅんなんですけど、すき。推しが本日も尊い合掌。

「なんで急に恋人?」
「いや、俊くんと付き合う子はいいなぁーって。」
「ほう?」
「ええ?」

にやり、と意地悪そうに笑うと八重歯がチラリと見えてかわいい。かっこいいのに可愛いとか情報がぶつかり合って頭がパーンってなるよね。というか家にお邪魔した時点でもう僕がバグることなんて分かりきったことなんですけどね、本当にすみませんね。

俊くんはなにやらご機嫌なようで、僕も嬉しくなる。
器によそられたカレーもお手製とあらばエリクサーも裸足で逃げ出すレベルで素晴しい効果があるにちがいない。グルメ漫画ばりにキラキラエフェクトかかって見えるよ僕には。

「食いたいか?」
「わん!!」
「よーしよしよし、まてだぞ、まて。」
「あううう。」

おっとぉ、目の前にご飯を前にしてまさかのステイである。マゾじゃないけどこういうシチュエーションは嫌いじゃない。俊くんからのマテだからな!
ご希望とあれば舌まで出しますとも。

椅子に座ったまま俊くんを見上げて両手をまるめて胸の位置で上げる。僕がイメージするワンちゃんのモノマネだ。ペロリと舌を見せながら見上げると、ものすごい目力で見つめられた。なになに圧がしゅごい…
眉間にしわを寄せながら黙って見つめられると、僕がいかに馬鹿な行為をしているのかを見とがめられている気がしてくるが、もう後のカーニバルだ。

「試されてる?」
「あう。」
「それってオーケー?」
「んん?」

なんだか食い違いがあるようだ。すまんね犬だからちっともわからん。と首を傾げるとクソデカ溜息を吐かれた。ごめんて!
カレーのいい匂いが鼻孔を擽る。腹の音はとっても素直ないい子なので、さっきから疑問系みたいな音ばかりなってしまう。

「まだだな、まだ。」
「あううう…うぐぅ。」
「や、すまん。カレーは食っていい。」
「わーい!!!」

一体何がまだなのかはさっぱりなのだが、俊くんが福神漬けを添えてくれたのでマテもおわりである。オッケー頂きましたからいただきまーす!と改めて手を合わせてからスプーンでカレーを掬って一口ぱくり。

「あふ、あむ、んぅふふふふ。」
「食うか笑うかどっちかにしろっての…」

むぐむぐと熱々のカレーを食べながら嬉しくてにこにこしてしまう。めっさうまい。星5つですがな。市販のルーだって言ってたけど、俊くんの手料理ともなるとまた格別ですねぇ。
俊くんは自分の分のカレーには手を付けずに、むぐむぐと食べている僕ばかりみてくる。なんぞ。

「んむ、んみゃ、んん、んまい!」
「ふふ、く、んふふふ。」
「んぐっ。」
「はいはい、ありがとな。」

噛みながらも僕の伝えたかった言葉は伝わったようですなによりでーす!
くすくす笑う俊くんを見ながら、なんだか急に気恥ずかしくなってしまう。なんかいいなあ、こういうの。

…僕いま好きな人の手料理食ってんだもんなぁ。
まじまじと俊くんを見つめていると、ちょっとだけ笑われた。

じわり、とカレーの熱さが顔に浸食してくる。辛いから火照ってると思いたいけど、スプーンを進めるたびになんだか食べ終わるのが勿体ない気がしてくる。
そうなると必然的に咀嚼もながくなってくるし…
むぐ、と一口分飲み込むけど、今度は気恥ずかしくて顔があげられない。
なんだか急に緊張してきて、ぱちぱちと瞬きを繰り返すエフェクトは俊くんの周りでキラキラと輝いている。眩しくて、ちらりと見たけど、やっぱりあまり直視はできそうにない。

「どうした?腹いっぱいか?」
「…たべおわるのもったいない。」
「きいち?」

本当に今更すぎるのだが、自分の体が急に変わっていくような甘い痺れの元が心臓から全身をめぐる感覚で、僕はこの時初めて、気軽に好き好き言ってた言葉が輪郭をもったものだと気がついたのだった。
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