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吉崎学

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吉崎学は、実に素直な人間である。
幼い頃は、竹を割ったかのようなさっぱりとした性格で、誰にでも分け隔てなく接していた。
小学生になると、親から離れる時間が更に増えて顔も知らなかった子どもたちも多く集まる。
幼稚園の頃の親しかった友人も少なくなり、小学校という教育機関で、今までとは違うストレスに晒されることとなる。

吉崎学は、実に素直だった。
女顔!とガキ大将がいう。自分がなぜそう言われてるのかわからなく、またその児童の語気に嫌なものを感じたので反論したことがあった。

「男だよ?」
「じゃあ、女男だ!」
「なにいってるの?」

クラスに一人はいるであろう、他者の上に立つことで優越を感じるものが。
その児童は純粋に人との接し方が上手くなく、自分が話しかけてやっている。というていで吉崎に絡んだのだ。
クラスの皆は、ガキ大将が上げた声色に興味を示し、吉崎は女顔。という耳に新しい言葉が残った。
たとえ吉崎がその意味を理解してもしなくても、新しい言葉を覚えたら使いたくなる年頃だ。

「吉崎くんは、男の子なのに女の子なの?」
「ちがうよ?僕は男の子だよ?」
「でもみんな違うっていうよ」
「え?」

クラスの人気者の女子が、みんなが吉崎くんは男の子じゃない。違うといった。

ガキ大将と、人気者二人が吉崎を否定した。男の子なのに、女顔。だけど女の子じゃない。吉崎は半端もの、そういう立ち位置にみんながした。

小学校の頃の悪ふざけから始まった言葉の暴力は、次第に吉崎の真っ直ぐで、素直な性格を歪めていった。6年という月日は、言葉の語気や表情に敏感にには十分な期間だった。

そして中学生になると、男子特有の二次性徴が更に苦しめた。

男子のみ現れる、アルファ、ベータ、オメガという性。
アルファは特別遺伝子が優れたものがなり、成功者や歴史上の偉人などが当てはまることが多い。

ベータはその他一般。努力次第でアルファのように優秀なものになれるし、大多数がベータなので意識的にまとまりやすい傾向にある。

オメガは、男でも妊娠ができる。そして、他の2つにはない発情期というものがあり、そのタイミングで性交を交えて番契約をすることで妊娠する。

番契約とは、アルファとオメガの双方の気持ちがリンクしたときに行われるものだ。

吉崎は、男子のみが集められた保険の授業でそのことを学んだときに、自分はベータだろうと思っていた。だから関係ない、これ以上悪くなることはないと。

オメガの身体的特徴に自身が当てはまるなど考えていなかった。それに、検査だってまだだった。

ただ、多感な時期に学んだ新しい性は、アルファの気質を持つ生徒にとって新たな言い訳になった。
そして大多数を締めるベータによって、アルファがいうならそうなのだろう。そういう状況に転じる。

集団生活の中、そんな理不尽な状況に一人を置くことで自分を保つ。その選ばれた一人になった吉崎が自我を保つには、プライドを高く持つことだけだったのだ。























中学生時代は散々だった。3年間の周りからの情操教育の賜物で、僕から俺にかわった。
自分の性について、表立って公表することはまずない。そういうふうな世の中になっているし、知っているのは親や学校の教師だけ。それを口にする事はデリカシーが無いとされるのだ。女にパンツの色何色?って聞くようなもん。

ただそれはオメガに限る。

アルファはむしろ、強みだ。大多数から憧れる。就職にも有利だし、ベータは言わなくてもわかる。なんとなく見ていれば、ああそうだろうなって。

オメガはだめだ。女と同じ扱い。体付きだって筋肉が付きづらいし、身長だってそこまで高くならない。
見た目もどんなに努力したって変わらないのだ。
小学生はまだよかったけど、中学生になって体つきに差が出てくると、言わなくてもバレる。

そして思春期真っ只中に、そんなやつが一人でも投げ込まれてみろ。あとは分かるだろ。

高校は、他の同級生が志願しない場所を教師に拝み倒して教えてもらった。
俺の状況をしっていた上で、見てみぬふりをしていた担任がその時だけは優しかった。

吉崎がそこまで言うなら、と付箋を貼ってくれた辺鄙な場所にある高校に受験することにした。
後ろめたさがあったのだろう。
そこに関しては少しだけ感謝した。

俺を知る人のいない高校に入学して、まず始めたことはキャラ作りだ。
お陰様でネジ曲がった性格はそのままに、明るくしてピアスも開けた。身長が伸び悩んだ分、なめられないように口もさらに悪くなった。
クラスの人気者のイメージは、テンプレートのような不良だった。
まわりに取り巻きを作っていた、吉崎の知る不良の見た目を真似した。

「吉崎は高嶺の花だから」

そうクラスの誰かが言ったとき、俺はまた間違えたのだと思った。

高校生になると、思春期のように性を絡めたからかいは一気に少なくなった。それは俺のこの性格もあったかもしれないが、今度は近寄りがたい存在として確立された。

クラスで、違う意味で浮いた存在。自分から離した距離を縮める為に入った生徒会で、クラスメイトとの距離は少しだけ好転したが、今度は生徒会の吉崎、という形でお願いをされる側に転じた。

生徒会がクラスにいるからお願いしやすい。
だけど吉崎は高嶺の花だから近づき過ぎると周りから何を言われるかわからない。だから必要なとき以外はそっとしておこう。

「なんだよ、それ」

役員だから、頼まれたら断れない。だからだまし討のように突然参加することになったミスコンに、俺の怒りは爆発した。

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