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他人の評価
しおりを挟む歪なパンダを模した絵が描かれているアスファルトの上で、信号待ちをする。
割れたアスファルトの隙間には、キラキラしたスパンコールやビーズが隠れるようにして挟まっており、僕は食べ終えたチョコレートの包み紙に見つけたそれらを恭しく包み、マジックアイテムをゲットした勇者の気分に浸るのが好きだった。
そんな僕のキラキラと輝く包装紙に包まれた秘密のマジックアイテムは、もうすでに4個目となっていた。
それは、道徳の授業の時に起こった。先生から、今日は特別授業ですと言われ、5人一組の班になる。
いつもと違うことをするというだけで、一気に騒がしくなった生徒たちを、担任の百合子先生が一言で静める。
たしか技名はツルノコエ?だった気がする。お母さんが言うには、権力のあるオトナが使えるトクシュノウリョク?というやつらしい。
「はーい!今日は皆さんに討論会をしてもらおうと思います。」
「俊君俊君、トーロンカイってなに」
「話し合いのこと、みんなで一つのことについて話すやつ」
「ほへえ…難しくないやつがいいなあ」
カツカツと黒板とチョークが音を立てて文字を作っていく。
百合子先生の右上がりな文字が、なんだかいつもよりとがって見えた。
「テーマは、僕、私について。班の人同士でお互いのことを紹介してください。」
配布されたプリントには、僕が友達の人柄や素敵なところについて紹介するようなことが記されてあった。
「僕俊君がいい!!」
「ちょっと!きいち君勝手に決めないでよ!」
キャン!と吠える様に待ったをかけたのは由香ちゃんだ。
「おれもきいちがいい」
「俊君もー?ほんと男子って勝手!」
由香ちゃんはパピヨンのようなツインテールを翻し、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「大体、男が女褒めるとか変な風になっちゃうじゃんか。」
「僕はまた女の子怒らせちゃいそうだから。」
腫れのひいた頬をさすりながら言うと、あんたはいつも一言多いのよ!と吠えられた。何故。
「まあまあ、女子は女子同士で紹介し合おうよ、私も男子に紹介されるのやだし」
「鏡花ちゃんのことめっちゃ褒めてあげるね!」
「なんか違う気がするけど、有り難う…」
目の前で女子同士の謎の結託を見せつけられつつ、ちらりと横目で俊君を見やる。なんだか今日はいつもより元気がないようで、ちょっと心配だった。
わいわいがやがやと、教室内は楽しそうに、時折悲鳴のようなものを上げながら授業は進行していく。
かくいう僕の班も、鏡花ちゃんのあたりさわりのない由香ちゃんへの評価に対して、由香ちゃんの上司のような振る舞いに空気が凍ったものの、特に問題なく時間は過ぎていった。
授業は残り十分を切り、互いの紹介カードを作成し、交換し合うことになった。俊君の責任感の強さや、大人っぽさ、そして運動神経がいいことなどを記入した紙を、僕が迷わず俊君に渡した時だった。
「ちがうよ、」
「え?」
何が違うの?という言葉は続かなかった。何故なら僕の描いた俊君の紹介カードは、ぎりぎりと音が立ちそうなくらい強く握りしめられていたのだ。
「俊君!ぐちゃぐちゃにしないで!」
「違う、違うんだよ!!」
「何が?僕が違うの?」
「うるさい!」
がたた、と大きな音がして、俊君が立ち上がった拍子に机が倒れる。その大きな音に飲み込まれるようにして静まった教室で、あ。と俊君の口から零れるように細い声が落ちた。力強い否定とは裏腹に、思わずと言って出た声がやけに耳に残る。まるで一人取り残されてしまったかのような心細い音だ。
「俊君?」
「机を戻しなさい。」
「う、」
硬質な声が、俊君の作り出した余韻を飲み込む。僕はなんだかそれが許せず、思わず先生のことをねめつけてしまったが、なんでそんな感情になったのかが説明がつかず、結局視線は定まらないまま、逃げる様に床を見つめてしまった。
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