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名無しの龍は愛されたい

エルナーが恥ずかしい話 ※

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※攻め喘ぎ有り。苦手な方は自衛ください







「お前はバカなのか」
「グェ、っ」

 もふりと舞った埃が、陽光に反射してキラキラと光った。エルマーがサジによって、使われてない部屋の寝台へぶん投げられたためである。
 いつもなら、んだとこのクソビッチと威勢のいい文句の一つくらいは飛んできてもおかしくはないだろう。しかし、今日のエルマーはいつもと様子が違った。

「える、へいき……?」
「別に死にはせん。ただこいつがバカみたいに薬を被るからこうなったのだ」
「サジ、てめえな……」
「まあ落ち着け。ナナシが浴びなかっただけいいだろう。エルマー、この部屋は貸してやるから好きに使え。ナナシも……、まあ残るかどうかは任せるが……」

 アロンダートの琥珀の瞳が、寝台に突っ伏すエルマーへと向けられる。床に膝をつくようにして様子を伺うナナシの手のひらを握りしめているあたり、エルマーもまた葛藤をしているらしい。
 シャツの隙間から見えるうなじは発汗により赤毛が張り付き、荒い呼吸は口にした薬の効果を如実に表す。

「っ……お前も、あっち行ってろ……、な。明日にゃ……、げんきになるからよ……」
「や!」
「いや、じゃねえって、……っ、孕んでんだから、無理させたくねえんだって……っ」
「やだもん!」

 しっかりと握りしめられた手のひらを、離すまいとしているのはエルマーの方だというのに。ナナシには本音を見透かされるように拒絶をされる。
 まろい頬をぷくりと膨らませるその表情は、確固たる想いで動きませんと主張しているようにも見える。不機嫌に床を叩くナナシの尾っぽが、何よりの証拠であった。

「せいぜいナナシに泣きついて、雄の矜持を満たすといい。サジたちは付き合ってられんからな! ふん、やーいやーい! 情けない男代表やろうめばーかばーか!」
「ほら、あまりそういじめてやるな。エルマーもわかっていて薬を浴びたのだ。今回は自業自得だ」
「てめ、覚えてろよクソが……」

 寝台に顔を埋めている癖に、随分と不機嫌を滲ませるように威嚇をする。しっかりとサジが立てた中指は見えていないだろうに。
 アロンダートに背を押されるようにして出ていくサジを、ナナシは小さな手を振ることで見送った。金色のお目目は具合の悪そうなエルマーを映すと、泣きそうな顔で口を開く。

「だって、ナナシのむするだったでしょう……?」
「っンとに、いいって……わかれって……」
「えるつらいの、ナナシのせい、わかるもん……っ……」
「バカおめ……泣くなって……」

 ヒック、と細い声が震えた。
 ことの発端は、ナナシへ向けられた悪意であった。若い男がナナシへ向けて投げた小瓶の中身を、エルマーが庇って浴びたのだ。幸いそこがギルドの外で、他にもサジたちがいたこともあり男はすぐに制圧した。
 きていた白いシャツを薄桃色に染めたエルマーは、その薬の香りに気がつくなり井戸から汲んだ水を頭から被った。ギョッとするナナシが近づこうとするのも制して、エルマーは逃げるように顔を両手で隠したままアロンダートの後ろへ隠れたのだ。
 
「ホレ薬だなんてよお、悪趣味なもん作りやがって、っ……」
「える、こっちみるして」
「嫌だ、お前に惚れてんのは変わんねえ、けど……、くそ……粗悪品ぶっかけやがって……」

 エルマーの呼気が熱を帯びる。体の芯から、じわじわと性感が全身を苛んでいくのだ。これを、ナナシが浴びていなくてよかったと思う。あの時は咄嗟すぎて、ナナシが結界を張れることを失念していたのだ。
 
 キシリと寝台が軋んだ。衣擦れの音がして、ナナシが登って来たのだと理解する。エルマーは身じろぎをすると、再び両手で顔を隠した。少しの動きだけでも、随分と欲を煽られる。口の中で溢れる唾液を嚥下すると、うずくまるようにしてナナシから背を向けた。

「むう……」
「っ、やめ、お前……あんまさわ、んな」
「やだもん!」
「ちょ、おま……乗るな今は、っ」

 むくれるとナナシが話を聞かなくなるのは十分に理解している。小さな手がエルマーをひっくり返すように仰向けにする。いつものじゃれ合いとは違う力の強さに、エルマーは少しだけ驚いた。
 
「ンしょ……」
「あーーあーーあーーあーー……」
「だいじょぶだもん」
「俺のいうこと聞けって……」

 気だるげな、それでいて何かを諦めたかのようなエルマーの声が漏れる。
 ナナシは、しっかりと不服を表すように、エルマーの腰にまたがっていた。ナナシからしてみれば、お顔を見せてと言っているのに、頑なに見せようともしないことも嫌だった。ホレ薬がなんなのかも、そあくなんとかがどんなものかも知らないが、こんな状況に陥ってまで弱音を吐かないエルマーが嫌だったのだ。
 のしり、とナナシが体を重ねるように胸板に手をつく。両手で顔を隠すエルマーを覗き込めば、その手の甲をチョンチョンと指で突いた。

「これ、や!」
「嫌だ!」
「ちぅしないのう?」
「ちゅうはしてえ!」

 しっかりとエルマーの本能を刺激することはできたようだ。手をずらすように唇を晒したエルマーへと、鼻先を寄せる。形のいい唇に己の唇を重ねれば、ちぅ、と音を立てて甘く啄んだ。

「っ……」
「う……?」

 エルマーが息をつめたと同時に、ナナシのお尻が持ち上がる。みれば、張り詰めたエルマーの性器が反応を示すように頭をもたげていたのだ。小さな尻にしっかりとあたる熱源に、ナナシはようやくエルマーの状態を理解した。

「きもちいくなってるのう……?」
「媚薬入りだあ……、わかったら頼むから出てってくれ、いい加減抜きてえ」
「ナナシ、いいよう」
「いやお前妊婦ぅ!」

 嫁が強力的で大変に恐縮である。エルマーの必死の反対も、やる気を見せたナナシの前には無意味であった。
 日頃から、何かとお世話をされる側であるナナシにとって、エルマーの看病をするというのは待ち望んでいた機会でもあったのだ。小さなおててが、そっと無骨な指を摘んで顔から外す。
 眉間に皺が寄るほど目を閉じているエルマーの両頬に手を添えると、再び唇へ口付けた。

「ンぅ……」
「ふ……、んとに……」
「こっちみて」
「まじで、どうなっても知らねえ……」
「いいよう」

 汗で額に張り付いたエルマーの赤髪を指で避けてやる。そのまま、瞳を覗き込むように額を重ねれば、いつもより頼りのない光を宿した金色の瞳が、ゆっくりと見つめ返してきた。

 これは、可愛いかもしれない。
 ナナシは、今まで見たこともない、なんだか泣きそうなエルマーの瞳を見つめ返して、むずりとした。パタパタと尾っぽが勝手に揺れてしまう。尻の間に挟まった性器が摩擦されたのが答えたのか、エルマーは顔を逸らすようにして唇を震わせた。

「ふ、……っ……」
「える?」
「し、っぽ……で、しげきす、んな……っ」
「ぇう、っ」

 膝を立てることでナナシの小さな尻を持ち上げたエルマーが、薄い背中に腕を回すようにして体勢を入れ替える。いつもよりも少しだけ乱暴に押し倒されたナナシはというと、目を丸くして動きを固めていた。
 心臓が、ドキドキと忙しない。エルマーの顔がゆっくりとナナシの肩口に埋まって、あぐ、と甘く噛まれる。それだけで素直な体は簡単に開くのだ。

「きゅ……ぅ……」
「はぁ、あ……ち、きしょ……も、イく……」
「ふぇ、……ぁ、あつ、……」

 エルマーの手が雑に着衣を乱す。金具の音を立てながら性器を取り出すと、先端で服を押し上げるようにしてナナシの腹に精液を吐き出した。ぽこんと膨らんだナナシの形のいい臍に、白濁とした精液がたまる。
 男らしい首筋に汗をかき、赤髪を貼り付けたエルマーは、ナナシの肩口の生地を唾液で濡らしたまま荒い呼吸を繰り返した。

「でた、……へいき……?」
「む、り……」
「ん……と……」

 エルマーはいつも、ナナシに何をしてくれていたっけ。ムン、と唇をつぐみ、考える。微かに鼻を啜る音がして、泣いているのかもしれないと頬を重ねる。すりすりと甘えるように慰める。小さな手のひらがエルマーの髪を撫でると、束ねていた紐を外した。

「きもちい、つらいね」
「んと、に……てだれ、みてえ……」
「あつい、へいき……?」
「ぁ、も……ぃ、まさわ、んな……っ」

 広い背中に腕を回して、ナナシはゆっくりとエルマーを横向きにした。逞しい腕の中から、モゾモゾ動いて抜け出した。力が入らないくせに、ナナシを押し潰さないように気を遣っていたことは知っていた。押し倒されるのは好きだが、無理をさせるのは違うはずである。
 エルマーが弱ったせいか、いつもよりもしっかりしたナナシが、エルマーのシャツのボタンに手をかけた。

「何、して……」
「ぬぐする、えるあついのやだでしょう?」
「襲われて、んの……はは、マジかよ……」
「んぅ……、むつかし……」

 ヘタクソな手つきで、なんとか前をはだけさせることに成功した。今度はエルマーのボトムスに手をかけると、ふん、と引っ張って引き抜いた。こんなこと、未だかつてなかった。ナナシが積極的にエルマーをひん剥いている姿を眺めながら、とうの本人は静かに感動を噛み締める。

「夢、かあ……?」
「ゆめちがう、んしょ……、ふ、……」
「~~っぁ、ぐ……っ」
「ひゃ、っ」

 そり上がった性器に手を添えて、先端に唇で触れただけである。たったそれだけで、エルマーはびくりと膝を跳ねさせた。勃ち上がった性器とナナシの唇が、先走りの糸で繋がる。
 全力で走ったかのように、体は辛い。肺を酷使する呼吸を繰り返したエルマーの足が、ヘナヘナと再びベットに沈んだ。

「は、ぁ……わり、ちっと……ま、ってくれ……」
「なめてい?」
「やめ、」
「や!」

 ならなんで聞いたんだよ。と言わんばかりの、エルマーの声のない悲鳴が上がった。精液を一度吐き出した。白濁に塗れた性器を、ナナシの唇が厭わずに口に含む。パツンとはった果実のような先端を唇で喰むと、か細い声が漏れる。
 なんだろう、これ。ナナシは、まるでエルマーの熱が映ってしまったかのようだった。下半身に血液が巡ってムズムズする。多分、膨らんでしまった。ナナシは、己の性器が反応を示していることに気がついて、じわりと目元を赤らめた。
 今は、エルマーを気持ちよくしているはずなのに。ナナシも一緒に気持ちよくなっている。下着の中がぬるついて、恥ずかしい。エルマーに知られたくなくて、様子を伺うようにそっと顔を見つめれば、上気して溶けた表情を隠すように、手の甲を額に当てていた。
 
「ふ……、ぁす、げ……っ……」
「きゅ……ぅ……っ」
「んぁ、……な、なし……っ、あ、でる……で、るから、くち、っ」
「ん、ンーー……っ……」

 エルマーの指先が、拒むようにナナシの口に入る。それすら気にせずにぢぅ、と強く吸い付けば、震える指先は観念するかのように、ナナシの頬に添えられた。
 口の中で、エルマーの性器が脈打つ。根本が膨らんで、精液が先端へ移動して噴出するのだ。その生々しい感触を舌で受け止めれば、ナナシもまた腰を震わせた。
 
「ん、ふ……、っ……」

 白くて豊かな尾っぽをピンとたて、腰を震わせる。びちゃびちゃと下着の内側に精液を漏らしたことに気がつくと、じわりと金色の瞳を潤ませる。白い太腿が震え、下着の隙間から漏らしたものを伝わせる。後ろが疼いて、ひくつくたびに残滓が溢れてしまう。
 エルマーの精液で頬を膨らませているから、情けない声は漏れなかったのが幸いだった。

「な、なし……も、入れてえ……」
「んく、っ、……ふ、ぅ……ん」

 太くて、カサついた指先がナナシの顎をくすぐる。今下着の中に漏らしたばかりなのに、このままではエルマーにバレてしまう。ナナシは気恥ずかしそうに胸板に顔を埋めると、エルマーに気が付かれる前に下着を脱ごうとした。

「いじわる、すんなって、なあ……」
「ぁ、や……ま、まってぇ……っ」

 華奢な体を引き寄せるように、キツく抱きしめられる。エルマーの膝がナナシの小ぶりな性器を押し上げて、漏らしたことがバレた。
 エルマーは意地悪な笑みを向けると、ナナシの小さな喉仏を舐め上げるように舌を這わせた。

「ひゃ、う……っ」
「は、……すげ、やらしくて……、頭バカんなりそ……」
「ぅや、ぬ、ぬが、しへ……」
「むり」

 エルマーの大きな手のひらが、ナナシの下着をずらして蕾を晒す。布にまとわりつく精液を、会陰に塗り広げるように慎ましいそこへと運ぶと、ゆっくりと中指を侵入させた。

「ひゃ、んん……っ」
「ナナシ、……ナナシ、くそ、痛くしたら、ごめんな……」
「あ、あ、あぁ、あ、あ……っ」

 エルマーの指が深くまで埋まって、的確に弱いところを押し込んでくる。その度にナナシはびちゃびちゃと吹き、性器を下着の中で暴れさせる。染み込みきれなかった、恥ずかしい水流が太ももを伝って寝台に染みを作る。いつの間にかエルマーの指を三本も飲み込んだナナシは、エルマーによって蕾の内部を外気にさらされていた。

「ひろ、げひゃ……っ」
「俺の掴んで、お前が入れて。……できんだろ、なあ」
「ぅ、んん……も、ゃら……っ」

 今度は、ナナシがエルマーのはだけたシャツに唾液を溢す番だった。ナナシの手が、赤く張り詰めたエルマーの性器をゆるゆると掴む。皮膚に触れなくても、熱を放っているのがわかるほどだ。これを、中に招いてしまったらどうなってしまうのだろう。
 大きな手のひらが、ナナシの腰を温めるように触れる。それが、労りではなく挿入の催促だというのを知っている。いつもの余裕がないのだ。雄の本能的に、自分本位に抱かれる。それが、嫌ではないあたり始末が悪い。
 小ぶりな性器を摩擦して、ゆっくりと先端があてがわれる。エルマーによって広げられた蕾が吸い付くと、性感を堪えるようにエルマーの腹筋が絞られた。
 ナナシが、今。エルマーを感じさせているのだ。そのことに気がついて、なけなしの雄の部分が頭を擡げる。
 いつもなら、性急に中に招くのだ。それを、ナナシはゆっくりと性器を招くことにした。ず、ず、と、疼痛にも似た鋭い感覚が体を支配する。エルマーの性器で内壁が広がるたびに、じょ、じょ、と先端から漏らす。もうナナシの下着は、役割をなさない。ただの布切れになってしまった。

「な、なし……ナナシ、っ……は、やく……っ」
「ゃ、」
「っ、嫌だ、奥、まで入れてえ……っ、なあ、っ……ナナシ、っ」
「や、ら……」

 くう、とか細い声が漏れた。エルマーの、堪えきれない声だ。
 空気を震わせるように、吐息を漏らす。エルマーの大きな手のひらが頭に回ると、ナナシは引き寄せられるように唇を重ねた。

「んく、っ……ぅ、ぅん……ふ、……っ~~っぁあ!」
「ぁ、く……っ」

 もう片方のエルマーの手が、ナナシの腰を引き寄せた。ぶちゅ、とはしたない音を立てて、中へと性器が入り込む。
 やだって言ったのに、せっかく、ナナシが主導権を握れたと思ったのに。
 ナナシの気持ちいいところを根こそぎ摩擦するように、太い性器が奥深くまで穿つ。子宮の入り口に、ごちりと先端が当たった瞬間、重ねた唇のわずかな隙間から、唾液がこぼれた。

 脳が溶けるほど気持ちがいい。下手くそな呼吸を繰り返すナナシの舌に、エルマーの舌が絡む。薄い舌に甘く吸い付き、時折甘噛みする。それだけで腰が砕けるのに、内側の肉を摩擦するのだ。律動は、まるで深く味わうかのように重く、緩やかだ。エルマーの腹筋に押し潰されるように小ぶりな性器が刺激されると、ついかくん、と腰が揺れてしまった。

「あ、すげ……、は、ぁあ、あ……っ」
「ぇう、あ、っぁあ、あっく、ん、んう、うっ……」
「でる、も……、でる、あ、っは、……っな、なし……っ」

 長い腕に拘束されるように抱き込まれる。いつもよりも汗を滲ませるエルマーの、少しだけ泣きそうな声が可愛くて、細い腕でしっかりと抱きしめ返した。
 ナナシ自身、いつもよりも乱暴なセックスに翻弄されているというのにだ。汗と、唾液と、涙が混じったしょっぱい口付け。それが余計に思考を酩酊させる。
 エルマーの手のひらが小さな尻を抑えてなお、下から何度も腰を押し付ける。ナナシの髪に顔を押し付けるように鼻を啜り、情けない顔を見られたくないと言わんばかりだ。
 一層膨らんだ性器が、ナナシの子宮の入り口に強く押し付けられる。その瞬間、視界は光が弾け、声にならない悲鳴が細い喉から漏れた。

「ぅあ、あっ……」

 堪えきれなかったエルマーの声が、ナナシの耳に焼き付いた。慌てたように子宮から離れた性器は、先端から精液を溢れさせるように射精した。腹の中に、いつもより量の多いそれが流し込まれる。赤く腫れた結合部から滲むように泡だった精液が漏れ出ると、ナナシはヘナヘナとエルマーの上に倒れ込んだ。
 緩慢な動作で、抱きしめ返される。互いに呼吸を整えるせいで、言葉を交わすこともままならない。震える膝を立てたエルマーが、ナナシの体を引き上げるようにして、性器を引き抜いた。
 それに小さく反応を示すかの様に鳴いたナナシはというと、小ぶりな性器の先端からしょわしょわと暖かな水流を漏らした。

「ナナシ、……」
「う……」
「漏れ、てる……」
「ぅ、ゆ……っ……」

 互いに、汗だくだ。全身が溶け合って、一つになってしまったのかもしれない。もう指先一つ動かせる気力はないと言わんばかりに、ナナシはされるがままだ。
 華奢な体に足が絡まって、隙間を許さんとばかりに抱き締められる。大きな体に包まれながら、ナナシは泣き止んだ顔でエルマーを見上げた。

「も……へいき……?」

 同じ色の瞳が、見つめ返してくる。先程までの溶けそうな瞳ではなかったが、エルマーはじわりと顔を赤くした。
 整った眉がぐっとより、熱で左目の傷は赤みを帯びていた。
 多分、照れているのだと思う。珍しい反応を前に、ナナシは尾っぽをパタパタと揺らした。
 








 羞恥が天元突破すると大人しくなるらしい。あのあと黙りこくったままのエルマーは、ナナシの体からくっついて離れなくなったのだ。
 抱き込まれていたはずの華奢な体は、気がつけばナナシの方がエルマーを甘やかすように、頭を胸に抱いていた。
 長い髪を手遊びに三つ編みしても怒らない。しまいには事後の余韻をありのままに引きずって朝を迎えたエルマーは、サジによって早々にナナシと共に風呂場へぶち込まれたのだ。

「たのしかた、うんん……うん、くふん……」
「そうかよ……」

 まあえらくご機嫌だ。ナナシは小さな手で口元を覆いながら、ふくふくと笑う。
 みんなにも、あの可愛かった夜のエルマーを教えてあげたいなどと、ナナシがとんでもないことを思っているとは露知らず。エルマーはナナシの反応を前にぎこちなく顔を反らした。表情が迷子になったのだ。

「指さして笑ってもいいか」
「黙れ殺すぞ」

 一人買い出しで輪を外れていたレイガンが、すでに指をエルマーに向けたまま宣った。
 ナナシとともにエルマーがしけ込んだ後に戻ってきたレイガンは、今世紀最大のからかいの瞬間を逃したと知って、ひどく悔しがったのだ。
 長い髪をナナシに三つ編みにされているエルマーを前に、ひとまずの買い出しを済ませた三人は思い思いの気持ちを顔面にのせている。貸した部屋が隅々まで綺麗になっている時点で、行為の激しさを静かに示していた。

「まあ、ご機嫌のナナシを見れば何があったかはすぐに分かるがな」
「随分と愚図ったそうじゃないか。くふ、お前も愛いところがあるのだなあ」
「かわいいかった!」

 ああ、これが四面楚歌というのだろう。エルマーはわかりやすく悲鳴を上げると、ナナシを小脇に抱えるようにして部屋を飛び出した。
 わかりやすく遁走だ。もう耐えられなかったらしい。どこに怒りを向けていいのかもわからない、自己責任が重々しくのしかかる。結局今逃げても、元の部屋に戻ることは変わりないだろうに。
 そんな頭さえなくなるほどのエルマーの動揺をその背に感じ、愉快な仲間たちはいい弱みを握ったとずいぶんな悪い顔をしたのであった。
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