だいきちの拙作ごった煮短編集

だいきち

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守り人は化け物の腕の中

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「ひ、っくゃ、やああ、あーー……っ‼︎」
「ヤンレイ泣くな、ちょっと九魄と話してくるだけだから……!」
「ぃい、っちゃ、い、ぃや、だ……っ、に、にちゃ、っ……うぅ、うーー……っ」

 幼児退行してるとはいえ、成人男性の腕の力で引き留められるとびくともしない。九魄が守城専用の医務室に姿を現してすぐ。タイランが話をしようと立ち上がったらこれである。
 ドウメキの機嫌は、わかりやすく悪くなっている。無下にも扱えないまま、さてどうするかと途方に暮れたタイランの元へと、九魄が何事もなかったかのように平然と歩み寄ってきた。
 その姿は、白雪との力比べで痛めつけられたのだろう。ところどころ包帯を巻いていた。

「ヤンレイ」
「ひ、っく……く、九魄……」
「え?」

 あれだけ情緒が乱れていたヤンレイが、九魄を前にして冷静さを取り戻すように大人しくなった。伸ばされた手を拒むわけもなく、濡れた頬で甘えるように手へと擦り寄る。
 あっけにとられるタイランを前に、イェンは頭が痛そうに宣った。

「……長期間妖魔の精を受け止め続けると、その匂いに依存します。守城として妖魔に操られるようなことはあってはいけない。対等でなければいけないからこそ、我々は交わることを御法度にした」
「妖魔とて婚姻を望むものがいる。それを人間の都合で取り上げられたなら、溜まったものではないな」
「……山主。今はあなたの意見は求めていませんが」
「気付は腹の精が全て排泄されてからだな。まあ、孕んだとしたら、どこかに九魄の印がでる」
「ま、待て、俺を置いて話を進めるな」

 この空間で、話題に追いついていないのはタイランばかりだ。どうしていいのかさっぱりわからない。ヤンレイは九魄がきた途端に、猫のように素直に甘えている。こんな姿を部下に見られたら発狂するだろうに、その記憶もなくなるというのだろうか。
 微かな水音が聞こえて、恐る恐る背後を振り向く。九魄の首に腕を絡ませるように給餌される姿を前に、タイランは逃げるようにドウメキの元へと駆け寄った。

「ど、どうすっ」
「どうもしない。言ったろう。あれは自然に排出される。九魄とて馬鹿ではない、腹に溜めて欲しいからと生きる糧を与えないなんて愚かは、あれを見れば一目瞭然だろう」
「そ、そうか」
「そうか、ではありません。ヤンレイがあれな以上、報告はあなた方から聞きますよ。さて、一席設けましょう。白雪、部屋の準備を」
「あいあい」

 面倒臭そうな顔をするドウメキとは正反対に、タイランは表情に焦りを貼り付けたまま九魄へと振り返る。その背から見事な赤い羽を表し、視線を奪うかのようにヤンレイを羽で隠す。
 獣の本能が剥き出しになっている状態で、放っておいてもいいのだろうか。踏みとどまるように部屋から出ないタイランに気がついたのか、九魄がヤンレイを侍らせたまま振り向いた。

「この具合だと直き戻る。束の間の優越くらい、静かに浸らせろ」
「お前、……お前がやったことは暴力と変わらぬぞ」
「俺を人間の考えでおしはかるな。俺は、雌が俺を求めればそれでいい。行け、この可愛いヤンレイを見せてやったんだ、もういいだろう」
「タイラン、行くぞ。妖魔の執着など、お前が身をもって体験したばかりだろう」
「っ、だけど、ま、まだ話は終わってな」

 ドウメキに肩を抱かれるようにして、部屋を出ていくタイランを見つめていた。九魄は小さくため息を吐くと、腕の中で甘えるヤンレイへと視線を落とした。
 矜持を砕くように抱き潰した。この退行がヤンレイの防衛本能からくるものだというのも理解している。長い髪を梳くように、白い首筋を晒す。散々噛み付いた場所は赤黒く、あざのように変化をしている。指先で触れた箇所に、妖力が馴染む感覚はない。もしこの体が孕めば、九魄は印をここに刻むつもりだったのだ。

「……そう簡単には行かぬな」
「な、にい……」
「何もない、良いようにしてやるから、眠ればいい」
「うう……」

 大きな羽に隠されるように、ヤンレイは厚みのある九魄の胸元へと擦り寄った。ふしばった指が隙間を許さぬといわんばかりにヤンレイの手指と絡められる。
 この大人は、守ってくれる大人だ。こうして隣に寝てくれて、甘えても文句ひとつ言わない。それが嬉しくて、ヤンレイは家族で得られなかった心の距離を埋めるように九魄を求める。
 肺一杯に吸い込む。白檀の香りの奥から、少しだけ焦げたような香りがする。頬を重ねるようにくっつけば、くるると可愛らしい声を漏らす。その甘え声がもっと聞きたくて、ヤンレイは九魄の頭を己の胸に抱き込んだ。

 
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