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こっち向いて、運命。ー半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話ー

理知的な男ほど箍が外れるとえらいことになる話(挿絵有)

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 Twitterで、フォロワーさんの誕生日に捧げた小話
 アロンダート×サジ




こんなにカッコつけてますが本編でアロンダートが大暴走しています。せっかくなので捧げた絵も載せてみた。
全画面はTwitterにて、フォロワーさんに捧げてます(挿絵とかいたくせにただの捧げ絵でした)

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 アロンダートという男の話を、少しだけ語りたいと思う。
 
 まず、彼の第一印象は落ち着いており、理知的で、そして物腰柔らか。褐色の肌もワイルドで見栄えがするし、美しい琥珀のような瞳の色も、実にミステリアスだ。
 鍛え上げられた体躯と、なかなかに珍しい刺青を腰から脇腹にかけて入れており、それもまた他のものと違ってかっこいい。豊かな黒髪も、甘く低い声色も、耳元で睦言を囁かれたいと、市井の婦女子からも、もっぱら評判であった。
 
 そう、アロンダートのことを知らないものたちは、まるで異国の王子様のように、美しく聡明な男。というのが、総じての評価だ。
 
「違うぞ。」
 
 そして、その話になると毎回待ったをかけるのはサジであった。
 
「アロンダート、王子様、違うのう?」
「そこはあっている。だが市井の評価を聞くたびに噴飯するわ。サジの前のこやつなんて、もうだらしないのなんのって。」
 
 グビリ。
 赤ワインを嫋やかな手で傾ける美貌の男は、己のだらしなさを棚に上げて、そんなことを宣う。
 ナナシとエルマーのおうちで、サディンとミハエル、そしてウィルの帰省についてくる形で、レイガンとユミル。息子のリュートはウィルに連れられて市井へと繰り出してしまったので、ここにはいないのだが、さらにサジとアロンダートまでもが魔道具の納品の帰りに立ち寄ったものだから、エルマーの旅の仲間たちが雁首揃えて一同集まってくる。

「少なくともお前よかだらしねえってことはないだろうよ。」
「ナナシもそう思う。」
 
 ウンウンと頷くナナシの目の前で、サジはだらしなくシャツを着崩して、召喚したシンディの葉にもたれている。
 大人数が座れる椅子がないので、旧知が揃った時点でサディンが机を片付け、床の上で酒盛りだ。ミハエルはというと、サーシャに授乳をしに席を外していた。
 
「少なくとも、俺たちの中じゃ、アロンダートが一番まともだったと思うぞ。」
 
 グビリとエールを飲みながら、レイガンが言った。ユミルはというと、ニコニコとご機嫌に微笑んでいるアロンダートに抱かれたロズウェルを構うのに忙しい。
 
「何も変なことはしていないぞ。まあ、市井の声を気にしすぎて拗ねるサジも愛らしいとは思うが。」
「サジ、アロンダート好かれるのやだなんだよう。ナナシはそう思う。」
「あ?んだお前、アロンダートの魔道具が収入源なんだからよ、旦那の顔が売れることくらい許してやれや。」
「サジはまだ何も言っていないというに!!」
 
 ナナシの核心をつく発言の後、エルマーが面倒臭そうに宣う。どうやら、道中サジの中で腑に落ちないことがあったらしい。エルマーの家にきた時から拗ねていたのだ。痴話喧嘩は他所でやれとも思わなくもないが、どうやらぷんぷんと腹を立てているのはサジだけであるようだった。
 
「何イラついてんだこいつ。」
「可愛いだろう。ここに来るまでに僕が下ろしている家具屋の娘に恋文をもらってな。サジはそれでこうなっている。」
「ああ、それで…」
 
 ふにゃあと泣いたサーシャを、ミハエルがあやす。サディンは大きな掌でサーシャの頭を撫でてやりながら、不器用な手つきのまま、その柔らかな頬に滑る涙を拭う。
 
「アロンダートさんがロズウェルを抱いて納品にいけはいいんじゃないか?結婚してるってわかるだろうし、」
「サディン、赤ちゃんを抱きながら納品とか、危ないですよ。」
「いや、この人なら多腕だしいけるかなって。」
 
 サディンの口から出た、タワンの意味がはかり兼ねたらしい。ミハエルがキョトンと首を傾げる。サジは残りの赤ワインをグビリと飲み干すと、少々強めにそのグラスを置いた。
 
「それだあ!!なんで思い至らなかったのだ、サジとしたことが!!おいアロンダート!!お前次からはロズウェル背負っていけ!!納品書はもう二つの腕で手渡せ!!」
「アロンダートさん腕四本あるんですかあ!?」
「あ、ミハエル知らなかったのか…。」
 
 ようやくミハエルのキョトン顔の理由に合点がいったと言う具合に、サディンが反応をする一方。ミハエルとサジとのやりとりの横で、ナナシがエルマーによって食べかすのついた口元を拭われている。パタパタと尾を揺らすものだから、先程から隣に座っていたユミルの腰がくすぐったくて仕方がない。ユミルはがしりとナナシの尾を手で止めると、からかい混じりの目でサジを見た。
 
「てかそんなんで機嫌悪くなっちゃうとか、完全に嫉妬じゃあん。サジ、意外と可愛いとこあるねえ。」
「…自分のこと棚に上げておいてよく言う。」
「レイガン。なんか言った?」
「ナニモイッテマセン。」
 
 誤魔化すようにレイガンが取り繕う。むすっとしたサジが、そんなんじゃないわと文句の一つでも言ってやろうとした時、それに被せるように口を開いたのはアロンダートの方であった。
 
「そんなんじゃ、」
「そうなんだ。サジは実に愛らしい。」
「なぃゎ…」
   
 満面の笑みとは、まさしくこのことである。アロンダートの飾り気のない輝く笑顔は、まるで水を向けられるのを待っていましたと言わんばかりに光り輝く。その表情をまともに食らったサジと本人を除く六人は、眩しそうに顔を歪めるものや、手で庇を作るものなど様々であった。半魔のくせに笑顔だけは光属性である。エルマーはゴシゴシと目を擦りながら、文句の一つでも言ってやろうとした時であった。
 
「おま、」
「まず、今朝はサジが僕のために朝ごはんを作ってくれたんだ。珍しいこともある。そのおかげで実に素晴らしい朝のスタートを迎えることができた。」
「お、おう。」
「おま、はあぁ~~~!?!?」
 
 何言ってんだお前という具合に、サジが顔を真っ赤にして口を挟む。ナナシはパタパタと尾を振りながら、サジえらいねえなどとのんびりとした声で宣う。
 
「うちの朝ごはんは、基本は父さんが担当してる。」
「ウッソエルマー自炊すんの。超意外なんですけど。」
「てめ、ユミル。変な偏見持つんじゃねえっての。」
「悪いが話の続きをしても構わないだろうか。」
「…どうぞ。」
 
 よほど話したかったのか…、とレイガンが手で続きを促す。サジはワタワタとアロンダートの口元を塞ごうとしたのだが、ミハエルの先程の反応を思い出したらしい。わさりともう二対の腕を生やすと、しっかりとサジが邪魔しないように抑え込む。
 
「うわあ!!レントゲン撮りたいです!!」
「ミハエル、ちょっと落ち着こう、な。」
「それでサジが、」
「気にせず話し始めるじゃん。」
 
 ついユミルが突っ込んでしまうくらいには、面白かったらしい。アロンダートはどうやら惚気を言う機会がなかなかなかったらしく、サジを膝の上に拘束したまま、器用にロズウェルまであやしながら、フルスロットルであった。
 
「昨日なんてロズウェルがサジの髪を口に入れたんだが、お前が味わうにはまだ早いとか言って嗜めていてな。なかなかに頭の悪いあやし方が愛おしくて、僕は不整脈を起こすかと思った。」
「ふせいみゃくってなあに?」
「なんらかの不調が原因で脈のリズムが一定ではなくなることを言うんです。緊急度や重症度によって症例は変わるので、自覚症状があるのなら一度医師の指示を、」
「ほわぁ…」
「ミハエル、ナナシにはもうちっと噛み砕いて言ってくれえ。」
「話を戻しても構わないだろうか。」
「……。」
 
 なんだこれ。レイガンはそんなことを思っていたが、パチリとサディンと目が合うと、どうやらエルマー家唯一の理性であるサディンまでもが同じことを思っていたらしい。無言でコクリと頷かれた。ここに仲間がいたらしい。若干ではあるが心強いことこの上ない。
 
「それで、サジがな。」
 
 ニコニコと微笑みながら、顔を妙な色合いにしたサジを己の膝に縫い付けたまま、アロンダートは実に饒舌に語る。
 
 やれ、サジの作るポトフは宮廷料理なんて目じゃないほど美味いだとか、髪を切ったから華奢な姿が強調されて、守らなくてはと思うことが多くなったことやら、ロズウェルと共に三人で湯船に入った時なんて、乳首に吸いつかれて悲鳴をあげていて愛らしかっただの、相変わらず閨での粗相は、
 
「わああうるさい黙れええ二人の秘密をそうあけすけに言うなとあれほど言っておるだろうに~~~!!!!!」
「ほら、見てみろエルマー。まるで淡く色づく花のように、サジは照れるとこうも愛らしく綻ぶんだ。」
「唐突に王族ムーブを語彙に出してくんじゃねえ。」
 
 なんだその詩的な惚気は。エルマーの横で、ナナシはむーぶって何い?と首を傾げる。ミハエルはどうやら何かの性癖に刺さったらしく、まるで乙女のようなうっとりとした様子で、なんて素敵な一文なんでしょう。と自分の世界に入り込む。
 
「おい、俺だってこのくらいは言えるぞ。ミハエル、こっちを向きなさい。こら。」
「サディン、そんなこと言って全然本読まないじゃないですか。せんじゅ、戰じゅちゅ、…なんか、そういうのしか読まないじゃないですかっ」
「父さん俺のミハエルがバカっぽくて可愛い。」
「おうおうよかったなあ。」
「この話にはまだ続きがあるんだが、語らせてもらっても構わないだろうか。」
「構うわぁあもう黙れと言っておろうが!!」
「ねえ、むーぶって何い!」
「ちょっ…」
 
 ちょっと待てお前ら。と声をかけてとりなしたいのに、勢いが強すぎて口が挟めない。レイガンはこう言う状況がカオスというのだろうなと思いながら、頭が痛そうに眉間を揉む。そのうちやかましかったのか、ロズウェルまでもがぐずる始末。ついに痺れを切らしたサジが、シンディによってアロンダートの腕の拘束から助け出されると、ぐずるロズウェルを抱き上げて仁王立ちした。
 
「お前らうるさいぞ!!人の家なんだから燥ぐでないわァ!!」
 
 いや、それ俺が一番言いたかったやつ…!!と、レイガンが表情のみで静かに衝撃を受けている。隣にいたユミルは、今日も己の旦那の苦労性に哀れみの目線を向けると、ぽん、と肩に手を置いて慰めた。
 
「サジ、まともなこと言ってる。具合悪い、へーき?」
「ナナシ、その質問は今じゃねえ。」
 
 なかなかに、なかなかなことを言う。そんな嫁のナナシの頭をワシワシと撫でると、エルマーは、笑いを堪えながらサジを見上げる。
 
「いいじゃねえか、お前が話題の中心で。注目されんの好きだろう。」
「だからってそれは今じゃ、」
「ああ、失念していた。僕としたことが。」
「んだよ、用事かあ?」
 
 急に立ち上がったアロンダートが、プンスコとロズウェル片手にむくれるサジの肩を抱き、覗き込むようにして顔を傾けた。

「アロンダート、お前もお前である。一体どれだけサジを辱めれ、」
 
 長い黒髪が視界に重なり、影がさす。サジはそのまま大きな掌に引き寄せられるかのようにして上を向かされると、公衆の面前でアロンダートによって唇を奪われた。
 
「わぁ……。」

 声のない悲鳴をあげるサジの耳に、誰かの気の抜けた反応が耳に入ってきた。絶句したままぶるぶると震えていれば、薄い唇を割り開くかのようにして、熱い滑りが口内に侵入を果たしてきた。みまごうことなきディープキス。アロンダートの黒髪によって隠されてはいるが、もはや何をしているかなんて、その濡れた音で一目瞭然であった。
 
  
「っん、ん、っんんんん…っ、ふんんーーーーーっ!!!!!!!」 
「ぅぶっ、」
「ダァぁあああバカじゃないのか!!!バカじゃないのかああ常識がないのかああ貴様ああ!!!!」
「うーーわ、いたそ。」
 
 ブハァ!と口を離した勢いで、フルスイングで放っ叩く。さすがのサジでもこんな公衆の面前でキスはしないぞと声高らかに抗議をしたが、外野からは衆人環境で股ぐらから種を産んだくせに何言ってんだと野次がとぶ。エルマー、お前後で覚えておけよと睨みを効かすが、叩かれたアロンダートはキョトンとした顔で不思議そうにしていた。
 
「なんでだ、今朝の口付けをしなかったから拗ねていると思い至ったのだが。違っただろうか。」
「ラブレターもらったとかじゃなかったっけ?」
「そうかと思っていたんだが、よくよく考えてみたら今朝から拗ねていたからな。」
「ホァあーーーー!!!」
「痛い。」
 
 スパァン!と音を立ててアロンダートの後頭部を叩いた。どうやら図星だったらしい。ユミルは呆れた目をして見ていたが、ミハエルは直近での大人のキスに動揺したらしい。真っ赤な顔を隠しつつ、両手の指の隙間からしっかりと見つめている。
 そんな強かなミハエルの横で、サディンは結局なんの話をしていたんだっけとレイガンに目線を向ければ、なんとも疲労感を感じさせる声色で言った。
 
「アロンダートの、人柄の話だ…。」
「…ああ、そういえば。」
「だらしなくはねえだろうけど、まあ…あいつも男の子だからなあ。」 
「父さん、それは一体何目線なの。」
 
 結局、サジの機嫌は一日治らなかったし、アロンダートは二回も叩かれた。しかし、そうはいっても温厚で、大きすぎる愛でサジを包み込むアロンダートが、サジの拗ねた原因を理解することもなく、なんとものんびりとした口調で、サジのために物理耐性もあげなくてはいけないなあと宣ったので、エルマーはちょっとだけサジを可哀想だと思ったのである。
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