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ヤンキー、お山の総大将に拾われる2-お騒がせ若天狗は白兎にご執心-
琥珀の心配、睡蓮の矜持 3
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「もういいだろう。これ以上絡むんじゃあねえよ。」
低く、粗野な声がその場の剣呑な空気を震わせる。どすんと音を立てて酒壺が置かれ、獣の腕がごしりと口端からこぼれた酒を拭う。達磨のような厳しい顔をした山賊のような身なりのその大狸は、蘇芳と天嘉の旧知であった。
「若いもんが混じろうとするとすぐこうだ。だから俺たちの間の風通しが良くならねえんだ。大体、雌を侍らせるのは問題はないはずだと、義澄。お前が一等最初に宣ったはずだなあ。ああ?」
「しかし、格というものが。」
「格だあ?総大将はどれも変わらぬ力量だ。だから均衡を保っていられる。その番を害して力関係が崩れたら、一体だれが責任を取る。最初に口に出しやがった寧々浪、てめえか。」
「…ふん、」
義骸の牽制に、笏で口元を隠すようにして寧々浪が引き下がる。琥珀も波旬も面倒くさいという顔をしていたが、どうやらこうなることはわかっていたらしい。出雲と睡蓮は出方を伺うように大人しくしていれば、平兵衛が眉間に皺を寄せて胡座に肘をついた。
「やめだやめ、興が削げたわ。ふん、不老長寿になるわけでもあるまいに、妊み兎なんぞ喰ろうても食いでがないわ。」
「おや平兵衛、あんたが言い出したんだろう。肝っ玉を見定めようと。」
寧々浪が言い訳がましく宣う。まるで嫌なものを見るような目付きで琥珀の顔色を伺うと、バツが悪そうに目線をそらす。
「何をつまらんことを。折角の宴を汚してまですることか。」
呆れた声の波旬が、責任の所在を持て余している様子に、辟易とした顔をする。要するに、嫁を連れてきた二人の姿にちょっかいをかけたかっただけらしい。琥珀は頭が痛そうに溜息を吐くと、その瞳を寧々浪に向けた。
「お前、そんなんだから番に逃げられんだよ。」
「なんじゃと!?私を愚弄する気か木っ端天狗!」
身を乗り出した寧々浪をなだめるかのように、義澄がその単衣の袖を掴む。黄金色の目に喧しい体に大僧正のような格好をし、その横長の瞳に険しさを宿す。しかし、不遜な態度で宣う琥珀を嗜めるよりも早く、口を挟んだのは睡蓮であった。
「木っ端とは違います。」
「なんだと兎、会話に口を挟みおって!」
「もし総大将を務める琥珀が木っ端天狗などと呼ばれるのであれば、同じ力量である寧々浪様は尻子玉に拘るただの河童扱いせねばなりません。ちがいますか。」
「んなっ、」
これには、琥珀も波旬も驚いた。出雲に至っては口元に手を添えて静かに瞠目している。睡蓮だけがふつふつとした怒りを覚えて前に出る。その勇ましさと言い包められた寧々浪が、少しだけ物怖じしたときだった。
「あっはっはっは!!!こりゃあいい!!お前を一介の河童扱いをする妖かしなんぞついぞ現れんと思ってたが、ここにいたとは!!」
「義骸、貴様!」
「辞めとけよ、お前が言い返したところで敵うわけもないさ。こいつは狭い視野の俺たちよりも視野が広いようだ。」
草食なものですから。そう言って微笑む睡蓮に、出雲はくすりと笑う。そうなのだ。肉食と違って、兎は文字通り目の付け所が違うのだ。おどおどしているとばかり思っていた睡蓮が、番の為に格上を言いくるめるなど滑稽が過ぎて面白い。
「寧々浪、もう姑のような振る舞いは辞めよ。」
「平兵衛貴様、自分だけ蚊帳の外のような面をしおって。」
「これ以上やってみろ、お前の水術と琥珀の雷術は相性が悪いぞ。」
聡明と自身で評価しているのなら、引き時を見極めろ。そう言われて、ようやく思い至ったらしい。どうやら寧々浪は先読みが苦手なようだ。以前も同じことで、父親の蘇芳から灸をすえられたのを思い出したようである。
「兎、お前の姑は天嘉だからか。」
「え?」
「ぶふっ…!」
悔しそうな顔をして宣った寧々浪は、どこからか現れた真っ青な顔の側仕えの持ってきた座布団の端を握りしめ、そんなことを宣う。側仕えは鯰顔を申し訳無さそうに歪めながら顔をあげると、まるで滑るようにして寧々浪の前に飛び出して、それは見事な土下座をした。
「申し訳ありやせんっ!私めが厠に行っている間に寧々浪様が意地悪をしてしまいましたァ!ー」
「石丸貴様、ここでは私をたてろと申したであろう!!」
「羨ましさが振り切って意地悪を申す主を庇う器量なんぞ私めにはございやせん!!」
寧々浪の手に持つ座布団をあっという間にぶん取ると、石丸と名乗った鯰顔の側仕えが慌てて睡蓮と出雲の分の座布団を配る。
「寧々浪様は、前総大将である蘇芳様に恋心を寄せられておりましてな、」
「石丸貴様ァ!!」
「にべもなく断られ、どんな雌かとちょっかいをかけに参った際に強かに返り討ちにあいまして、そしてなおも諦めきれずに番にも愛想を尽かされるという!!!」
「あ、母さんが蹴り出した河童ってお前のことか?」
「やかましァ!!!」
頭の皿の上から湯気を立ち昇らせた寧々浪が、笏片手に立ち上がる。持て余している腹の内の甘い恋心を、ペラペラとを語られることに耐えかねたらしい。先程とは違う様子の寧々浪の慌てっぷりに、平兵衛は口元を歪ませ笑いを堪えていた。
「そうだぞ。俺を言いくるめた天嘉の義理息子だ。お前もたかが玉兎と莫迦にして、痛い目を見たばかりだろうが。」
厳しい顔つきを歪めて義骸が宣う。天嘉の旧知でもあるこの妖かしは、睡蓮の肝っ玉の座った言動が大層気に入ったらしい。その鋭い爪のついた掌で促すように座布団をすすめる。
睡蓮と出雲が顔を見合わせた。足元では今にも死にそうな顔つきで石丸が平伏している。己の傅く総大将を放って置いているあたり、前総大将から寧々浪の教育係を仰せつかっているようである。
「名はなんと言う。」
「睡蓮です。平兵衛様。」
「お前の番いの若天狗の奇想天外っぷりには辟易しておる。しかと手綱を握るのじゃぞ。」
「老いぼれ狐、何を。」
「ジジイなりの歩み寄りだろう。そう敵意を剥き出しにするでない。」
溜め息にも似た笑いを零した波旬に宥められ、琥珀が小さく舌打ちをする。睡蓮は、そんな様子に苦笑いを浮かべながらも、こくりとひとつ頷いた。
「本日は勉強させていただきます。この場を汚すことをお許しください。」
「文に書いてあった通りだ。お前さんが臆することなどない。」
単純に、今まで番いを連れてくるものが居なかったから、暗黙の了解で遠慮をしろと言っているような雰囲気になっていただけである。波旬も、今回の出雲の同伴は琥珀が睡蓮を連れていくと読んだから連れてきたのだ。総大将会議と睡蓮との予定が重なっていることを教えてやった張本人は、にやりと意地悪に笑うと、どかりと座布団に座り込んで、その膝に出雲を侍らせた。
「どうだ、羨ましいだろう。ワハハ。」
「お前は少しばかし遠慮というものを学ぶが良い。お前の嫁の方が余程聡明と見える。」
遠慮のない振る舞いの波旬を呆れた声で嗜める義澄のその目は、僅かに羨望混じりであった。出雲は最初からそうなるであろうとわかっていたらしい。膝には乗ってもしなだれかかるような事はせず、波旬の席の前に置かれた猪口に酒を注いで給餌に徹するようであった。
睡蓮を横に侍らせた琥珀はというと、未だ納得しかねると言った顔つきではあったが、思いのほか睡蓮のその気概が平兵衛には刺さったらしい。己が老いぼれ狐と呼んでいるいけすかぬ妖かしの侍従から、先程は主人が失礼をいたしましたと謝罪を受けるのを黙って見ていた。
「奈津よ、詫びの一つに先見を使うてやれ。」
「先見?」
石丸とは違い、奈津と呼ばれた侍従狐は実に忠義深いらしい。ペコリとお辞儀をして了承をすると、その二股の尾を揺らしながら、睡蓮の前で二本足で立ち上がった。
「まだ睡蓮殿のように化けるのが得意ではありませんが、私、占いの真似事は得意でございまして。」
「今回の集まりも、奈津殿に来る冬の災禍の先読みをしてもらうべく集まった次第でございやす。」
石丸が鯰髭をゆらしながら微笑む。奈津は己の豊かな尾の合間から巾着を取り出すと、その中から平たい石をいくつか取り出した。
「石占いですよ。まあ余興だと思っていただければ。」
器用に獣の掌と使って己の目の前にいくつかの石をばら撒いた。羅針盤のようになっている板の上で、文字の書かれたそれらがコロコロと転がる。奈津に促されるようにして、睡蓮が三つの石を選ぶと、触れた石以外を端に避けた。
「ははあ、これはまたお忙しくなりそうですなあ。」
「と、言いますと。」
奈津の言葉に睡蓮が身を乗り出す。出雲も気になるらしい。波旬の膝の上から様子を伺うように耳を傾けると、睡蓮を侍らせる琥珀の顔を見上げて、にんまりと笑った。
「双子の父親になるとお告げが。お気張りくださいまし。」
「ふたご…?」
一瞬、何を告げられたのか頭が追いつかなかった。波旬はおやまあと、なんとも呑気な簡単の声を漏らすと、じわじわとその言葉が二人の身のうちに染み込む。
「へええええええええ!?」
間抜けな顔をした琥珀と、お耳をピンと立てた睡蓮の驚愕の声が、会場の火の玉をプルリと震わせるのであった
低く、粗野な声がその場の剣呑な空気を震わせる。どすんと音を立てて酒壺が置かれ、獣の腕がごしりと口端からこぼれた酒を拭う。達磨のような厳しい顔をした山賊のような身なりのその大狸は、蘇芳と天嘉の旧知であった。
「若いもんが混じろうとするとすぐこうだ。だから俺たちの間の風通しが良くならねえんだ。大体、雌を侍らせるのは問題はないはずだと、義澄。お前が一等最初に宣ったはずだなあ。ああ?」
「しかし、格というものが。」
「格だあ?総大将はどれも変わらぬ力量だ。だから均衡を保っていられる。その番を害して力関係が崩れたら、一体だれが責任を取る。最初に口に出しやがった寧々浪、てめえか。」
「…ふん、」
義骸の牽制に、笏で口元を隠すようにして寧々浪が引き下がる。琥珀も波旬も面倒くさいという顔をしていたが、どうやらこうなることはわかっていたらしい。出雲と睡蓮は出方を伺うように大人しくしていれば、平兵衛が眉間に皺を寄せて胡座に肘をついた。
「やめだやめ、興が削げたわ。ふん、不老長寿になるわけでもあるまいに、妊み兎なんぞ喰ろうても食いでがないわ。」
「おや平兵衛、あんたが言い出したんだろう。肝っ玉を見定めようと。」
寧々浪が言い訳がましく宣う。まるで嫌なものを見るような目付きで琥珀の顔色を伺うと、バツが悪そうに目線をそらす。
「何をつまらんことを。折角の宴を汚してまですることか。」
呆れた声の波旬が、責任の所在を持て余している様子に、辟易とした顔をする。要するに、嫁を連れてきた二人の姿にちょっかいをかけたかっただけらしい。琥珀は頭が痛そうに溜息を吐くと、その瞳を寧々浪に向けた。
「お前、そんなんだから番に逃げられんだよ。」
「なんじゃと!?私を愚弄する気か木っ端天狗!」
身を乗り出した寧々浪をなだめるかのように、義澄がその単衣の袖を掴む。黄金色の目に喧しい体に大僧正のような格好をし、その横長の瞳に険しさを宿す。しかし、不遜な態度で宣う琥珀を嗜めるよりも早く、口を挟んだのは睡蓮であった。
「木っ端とは違います。」
「なんだと兎、会話に口を挟みおって!」
「もし総大将を務める琥珀が木っ端天狗などと呼ばれるのであれば、同じ力量である寧々浪様は尻子玉に拘るただの河童扱いせねばなりません。ちがいますか。」
「んなっ、」
これには、琥珀も波旬も驚いた。出雲に至っては口元に手を添えて静かに瞠目している。睡蓮だけがふつふつとした怒りを覚えて前に出る。その勇ましさと言い包められた寧々浪が、少しだけ物怖じしたときだった。
「あっはっはっは!!!こりゃあいい!!お前を一介の河童扱いをする妖かしなんぞついぞ現れんと思ってたが、ここにいたとは!!」
「義骸、貴様!」
「辞めとけよ、お前が言い返したところで敵うわけもないさ。こいつは狭い視野の俺たちよりも視野が広いようだ。」
草食なものですから。そう言って微笑む睡蓮に、出雲はくすりと笑う。そうなのだ。肉食と違って、兎は文字通り目の付け所が違うのだ。おどおどしているとばかり思っていた睡蓮が、番の為に格上を言いくるめるなど滑稽が過ぎて面白い。
「寧々浪、もう姑のような振る舞いは辞めよ。」
「平兵衛貴様、自分だけ蚊帳の外のような面をしおって。」
「これ以上やってみろ、お前の水術と琥珀の雷術は相性が悪いぞ。」
聡明と自身で評価しているのなら、引き時を見極めろ。そう言われて、ようやく思い至ったらしい。どうやら寧々浪は先読みが苦手なようだ。以前も同じことで、父親の蘇芳から灸をすえられたのを思い出したようである。
「兎、お前の姑は天嘉だからか。」
「え?」
「ぶふっ…!」
悔しそうな顔をして宣った寧々浪は、どこからか現れた真っ青な顔の側仕えの持ってきた座布団の端を握りしめ、そんなことを宣う。側仕えは鯰顔を申し訳無さそうに歪めながら顔をあげると、まるで滑るようにして寧々浪の前に飛び出して、それは見事な土下座をした。
「申し訳ありやせんっ!私めが厠に行っている間に寧々浪様が意地悪をしてしまいましたァ!ー」
「石丸貴様、ここでは私をたてろと申したであろう!!」
「羨ましさが振り切って意地悪を申す主を庇う器量なんぞ私めにはございやせん!!」
寧々浪の手に持つ座布団をあっという間にぶん取ると、石丸と名乗った鯰顔の側仕えが慌てて睡蓮と出雲の分の座布団を配る。
「寧々浪様は、前総大将である蘇芳様に恋心を寄せられておりましてな、」
「石丸貴様ァ!!」
「にべもなく断られ、どんな雌かとちょっかいをかけに参った際に強かに返り討ちにあいまして、そしてなおも諦めきれずに番にも愛想を尽かされるという!!!」
「あ、母さんが蹴り出した河童ってお前のことか?」
「やかましァ!!!」
頭の皿の上から湯気を立ち昇らせた寧々浪が、笏片手に立ち上がる。持て余している腹の内の甘い恋心を、ペラペラとを語られることに耐えかねたらしい。先程とは違う様子の寧々浪の慌てっぷりに、平兵衛は口元を歪ませ笑いを堪えていた。
「そうだぞ。俺を言いくるめた天嘉の義理息子だ。お前もたかが玉兎と莫迦にして、痛い目を見たばかりだろうが。」
厳しい顔つきを歪めて義骸が宣う。天嘉の旧知でもあるこの妖かしは、睡蓮の肝っ玉の座った言動が大層気に入ったらしい。その鋭い爪のついた掌で促すように座布団をすすめる。
睡蓮と出雲が顔を見合わせた。足元では今にも死にそうな顔つきで石丸が平伏している。己の傅く総大将を放って置いているあたり、前総大将から寧々浪の教育係を仰せつかっているようである。
「名はなんと言う。」
「睡蓮です。平兵衛様。」
「お前の番いの若天狗の奇想天外っぷりには辟易しておる。しかと手綱を握るのじゃぞ。」
「老いぼれ狐、何を。」
「ジジイなりの歩み寄りだろう。そう敵意を剥き出しにするでない。」
溜め息にも似た笑いを零した波旬に宥められ、琥珀が小さく舌打ちをする。睡蓮は、そんな様子に苦笑いを浮かべながらも、こくりとひとつ頷いた。
「本日は勉強させていただきます。この場を汚すことをお許しください。」
「文に書いてあった通りだ。お前さんが臆することなどない。」
単純に、今まで番いを連れてくるものが居なかったから、暗黙の了解で遠慮をしろと言っているような雰囲気になっていただけである。波旬も、今回の出雲の同伴は琥珀が睡蓮を連れていくと読んだから連れてきたのだ。総大将会議と睡蓮との予定が重なっていることを教えてやった張本人は、にやりと意地悪に笑うと、どかりと座布団に座り込んで、その膝に出雲を侍らせた。
「どうだ、羨ましいだろう。ワハハ。」
「お前は少しばかし遠慮というものを学ぶが良い。お前の嫁の方が余程聡明と見える。」
遠慮のない振る舞いの波旬を呆れた声で嗜める義澄のその目は、僅かに羨望混じりであった。出雲は最初からそうなるであろうとわかっていたらしい。膝には乗ってもしなだれかかるような事はせず、波旬の席の前に置かれた猪口に酒を注いで給餌に徹するようであった。
睡蓮を横に侍らせた琥珀はというと、未だ納得しかねると言った顔つきではあったが、思いのほか睡蓮のその気概が平兵衛には刺さったらしい。己が老いぼれ狐と呼んでいるいけすかぬ妖かしの侍従から、先程は主人が失礼をいたしましたと謝罪を受けるのを黙って見ていた。
「奈津よ、詫びの一つに先見を使うてやれ。」
「先見?」
石丸とは違い、奈津と呼ばれた侍従狐は実に忠義深いらしい。ペコリとお辞儀をして了承をすると、その二股の尾を揺らしながら、睡蓮の前で二本足で立ち上がった。
「まだ睡蓮殿のように化けるのが得意ではありませんが、私、占いの真似事は得意でございまして。」
「今回の集まりも、奈津殿に来る冬の災禍の先読みをしてもらうべく集まった次第でございやす。」
石丸が鯰髭をゆらしながら微笑む。奈津は己の豊かな尾の合間から巾着を取り出すと、その中から平たい石をいくつか取り出した。
「石占いですよ。まあ余興だと思っていただければ。」
器用に獣の掌と使って己の目の前にいくつかの石をばら撒いた。羅針盤のようになっている板の上で、文字の書かれたそれらがコロコロと転がる。奈津に促されるようにして、睡蓮が三つの石を選ぶと、触れた石以外を端に避けた。
「ははあ、これはまたお忙しくなりそうですなあ。」
「と、言いますと。」
奈津の言葉に睡蓮が身を乗り出す。出雲も気になるらしい。波旬の膝の上から様子を伺うように耳を傾けると、睡蓮を侍らせる琥珀の顔を見上げて、にんまりと笑った。
「双子の父親になるとお告げが。お気張りくださいまし。」
「ふたご…?」
一瞬、何を告げられたのか頭が追いつかなかった。波旬はおやまあと、なんとも呑気な簡単の声を漏らすと、じわじわとその言葉が二人の身のうちに染み込む。
「へええええええええ!?」
間抜けな顔をした琥珀と、お耳をピンと立てた睡蓮の驚愕の声が、会場の火の玉をプルリと震わせるのであった
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